マーケティング戦略

進化するJapanTaxi[後編]──サービスのデジタル化で変える乗車体験

記事内容の要約

  • タクシー内にデジタルサイネージを設置し、短い移動時間でも見られるウェブコンテンツや動画などを配信
  • サービスのデジタル化を推進するには、乗務員のITリテラシー向上も重要
  • 事前確定運賃の実証実験など、データを活用したデジタル施策に今後も取り組む
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この記事の前編を読む

タクシー事業を取り巻く環境変化に危機感をもち、デジタルによる変革を推し進めようとしている日本交通株式会社と、同社のIT化をけん引するJapanTaxi 株式会社。現在、360万ダウンロードを超える配車アプリ「全国タクシー」を軸に、新たなサービスの検討に取り組んでいる。よりよい乗車体験を提供するために、同社はどのような施策を進めているのだろうか。

タクシー車内でなぜ「デジタルサイネージ」なのか

タクシーの平均乗車時間は18分。この短い間に、どれだけ快適な乗車体験を提供できるかが、リピーター獲得に向けたタクシー会社の課題といえる。そこで、JapanTaxiがはじめた取り組みが、日本交通のタクシー内に10インチのタブレットを設置し、乗客に向けて、ウェブで展開されているビジネス記事やファッション記事、動画広告などによる情報を提供する、いわばタクシー内デジタルサイネージともいうべきものだ(*1)。

車内に設置されたタブレット

タクシーでの移動中は、読書をするには時間が短すぎるし、外をぼんやり眺めて時間をつぶす人も多い。そんなとき、短い時間で読めるウェブコンテンツや見ごたえのある動画を乗客に届ければ、乗車時の満足度向上につながる。また、従来のタクシー車内の広告といえば、薄毛治療や美容整形などの「コンプレックス系商材」が多かった。タクシーに乗ってほっと一息ついたタイミングで目に入る広告が、コンプレックス系商材ではなく洗練された動画であれば、広告嫌いな乗客でも受け入れやすい。

タクシー車内で動画広告を流すことになったきっかけについて、JapanTaxi株式会社 取締役CMO金高恩氏はこう語る。

「2016年1月に、日本交通では大塚製薬とのコラボレーションとして、都内を走るタクシーのうち、約60台にタブレットを設置してポカリスエットのCM動画を流し、動画の最後に表示される『1本飲む!』というボタンをお客さまが押すと500mlのポカリスエットがもらえるという期間限定のキャンペーンを実施しました。この施策はお客さまからの評判も上々で、日本交通の全車両で動画広告を流してはどうか、となりました」

動画広告のしくみについて、JapanTaxi株式会社マーケティング部マーケターの西本裕紀氏がこう説明する。

「お客さまが乗車すると、男性向け、女性向け、男女共通、という3パターンの広告を出し分けるようになっています。過去には特定のエリアをタクシーが走っているときだけに、ある限定された広告を流すという施策も試験的に行いました。いわゆるエリアターゲティングの動画広告ですが、これはタクシーならではの施策だと思います」


JapanTaxi株式会社マーケティング部マーケター 西本裕紀氏

では、実際に広告としての効果はあるのだろうか。

「広告主さまからの評判も上々です。ある企業が、アプリのダウンロードを促進する広告施策を行ったのですが、テレビを含む6媒体のうち、弊社の動画広告は2番目に効果があったという報告をいただきました」(西本氏)

さらなる広告効果の向上に向けて、今後は、配車アプリ「全国タクシー」から取得できるデータを利活用することも検討しているという。

「特に都心でタクシーをよく利用されるお客さまは、可処分所得が高く、繰り返しご乗車いただけるという特徴があることがわかっています。そして、アプリを利用してくださっているお客さまに限りますが、乗車頻度やよく乗車する場所などの、タクシー利用にまつわるさまざまなデータをわれわれは取得できています。それらのデータをかけ合わせれば、より効果的なターゲティングができると思っています」(金氏)


JapanTaxi株式会社取締役CMO 金高恩氏

デジタル化で変える、都心と地方のタクシー利用

日本交通がデジタル施策を推し進めるきっかけとなった、配車アプリ「全国タクシー」。同アプリをはじめとするサービスのデジタル化は、タクシーの利用の仕方などにどのような変化を与えたのか。

「タクシーに乗車するには、今までだと『流しているタクシーを拾う』『電話で呼ぶ』『乗り場で待つ』という3つの方法がありましたが、新しく加わった『アプリで呼ぶ』という方法を試すと、その手軽さをお客さまも実感されるようで、全国タクシーを通じたリピーターが着実に増えています。今では、都内における日本交通の配車のうち、半分以上が全国タクシー経由です」(金氏)

一方で、地方の場合は、流しているタクシーは少なく、配車依頼は電話で行うことがほとんどだ。実際、都内に比べて全国タクシーの利用者数は多くない。地方では、サービスのデジタル化は進まないのだろうか。この問いに対して、金氏はこう語る。

「地方の利用者に向けたデジタル施策があります。病院やスーパーマーケットなど、人が集まるところに、『タクシーを注文する』というボタンが表示されたタブレット端末を設置し、そのボタンを押すだけでタクシーを呼べるしくみを構築しています。電話をかけるという行為がボタンを押すという行為に替わっただけなので、複雑な手順はありません。このような施策を通じ、各地域にタクシーのデジタルサービスを浸透させたいと思っています」

デジタル推進に欠かせない、現場のITリテラシー向上

JapanTaxiが中心となって、タクシー事業のデジタル化を推進する日本交通だが、このような潮流の変化に現場は対応できているのか。タクシー乗務員の平均年齢は、平成26年時点で約59歳(*2)と他産業と比較すると高齢化が目立つ。デジタル化への移行はスムーズに進んだのだろうか。

「乗務員のなかにはQRコードのサービスを使ったことがない人も多く、QRコード決済を導入したときは大変でした。でも、そこは本人の『慣れ』です。私たちも乗務員に毎日のように懇切丁寧に説明し、理解を深めました。いまでは、QRコード決済を使ったことのないお客さまに、乗務員がしっかりとご案内できるようになっています」(金氏)

「デジタル化を進めるには、乗務員のITリテラシー向上も求められます。そのために、私たちも乗務員に伝わるように言葉を選んで説明し、あるいはタクシーに同乗して乗務員と同じ体験をして、現場から見つけた課題をサービス開発に生かすなど、乗務員とのコミュニケーションを大切にしています」(西本氏)

いくらテクノロジーが発達して、サービスのデジタル化が可能になっても、現場がついてこなければ実施することはできない。組織を支える現場に目を配り、着実に施策が実施できるしくみをつくることが必要だ。高度なデジタル活用の背後には、地道な作業の積み重ねがあるのだ。

タクシーのデータをさらに活用した今後の展開

スマホアプリを活用した配車サービスの推進、車内デジタルサイネージやQRコード決済の導入など、全社を挙げて、着実にデジタル化を進める日本交通とJapanTaxi。今後はどのような施策を打っていこうとしているのか。

「次は、当社の持つさまざまなデータを組み合わせた施策を本格的に進めようと思っています。たとえば、配車先の位置情報・時間帯のデータと、過去のタクシー料金に関するデータなどを組み合わせて分析すれば、いつどの場所に、どこに移動しようとしているお客さまがいるのか、予測することができます。そうすれば新人の乗務員でも乗車率を向上させるための策が講じられます。実は約2年前に当社独自で実証実験を行い、一定の効果が得られました。今は、今後の本格運用のために検証を進めている段階です」(金氏)

また、国土交通省と連携し、全国タクシーを活用した事前確定運賃の実証実験(*3)も行った。これは、全国タクシーを使って配車した際、乗車場所と降車場所を指定すれば、事前に運賃が確定するサービスだ。運賃は、降車地まで渋滞や迂回(うかい)がないという想定で決定するので、実際に渋滞などで通常より余計に時間がかかった場合でも、乗客は運賃が上がっていくタクシーメーターを気にしなくてすむ。

「今回の実証実験では過去の運行データなどを分析して、事前確定運賃を算出しています。実証実験で得られたデータを収集・分析し、本格運用に向けてより精度を高めていきたいと考えています」(金氏)

自動車に関して、所有価値より利用価値が重視されはじめているいま、移動手段としてのタクシーの存在感はより高まっていくことだろう。そのなかで、乗車体験の向上に向けてデジタル化とデータ活用を進める日本交通とJapanTaxiの次なる一手に注目していきたい。

注釈:
(*1)JapanTaxiプレスリリース「IoT型デジタルサイネージ事業を開始」(外部サイト)
(*2)国土交通省「タクシー事業の現状について」P10参照(外部サイト)
(*3)高度交通省「タクシーの事前確定運賃に関する実証実験について」(外部サイト)

プロフィール

JapanTaxi株式会社取締役 金 高恩氏

韓国生まれ。大学卒業後、ネットプライス、ヤフー、サイバーエージェントなどで新規事業や会社の立ち上げなどを担当。独立して多業種の企業の事業立ち上げに関わった後、ファウンダーとして会社を立ち上げ起業。2015年にJapanTaxi入社。プロモーション全般および新規事業の立ち上げを担当。

JapanTaxi株式会社マーケティング部マーケター 西本 裕紀氏

新卒でナビゲーションサービスを提供するIT企業に入社し、品質管理、プロジェクトマネジメント、アライアンス推進などを経験。その後グルメサイト運営企業での営業経験を経て2016年より現職。JapanTaxiでは決済事業とサイネージ事業の推進を担当。

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