ビジネス創出

「保険」の概念が変わる? SOMPOがデジタル戦略に舵を切った理由【前編】

記事内容の要約

  • 保険の仕組みやサービスのあり方が変わりつつあることに経営陣が危機感をもち、デジタルを中核にした中期経営計画を発表
  • デジタルを活用した新しいビジネス開発に向け「SOMPO Digital Lab」を設立
  • データを活用したサービスの未来像として「デジタルヘルス2.0」を掲げる
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さまざまな産業分野において、デジタルテクノロジーによるイノベーションが起きている現在、長い歴史を持つ大企業も変革の必要性に迫られている。保険事業や介護・ヘルスケア事業を手掛けるSOMPOホールディングスグループも例外ではない。グループを統括するSOMPOホールディングスを中心に大胆なデジタル戦略を打ち出し、改革を始めている。この取り組みについて、同社チーフ・データサイエンティストの中林紀彦氏に聞いた。

経営層の危機感がデジタル戦略へと駆り立てた

SOMPOホールディングスグループの事業には、(1)損保ジャパン日本興亜を中心とした国内損害保険事業、(2)ひまわり生命による国内生命保険事業、(3)介護やヘルスケア事業、(4)企業の合併・買収(M&A)を中心とした海外事業という4つの柱がある。それらをまとめるSOMPOホールディングスでは、各事業分野での優位性を確立してさらなる成長を遂げるために、2016年からスタートした中期経営計画の主軸の1つとして「デジタル戦略」を位置付けた。

掲げたビジョンは、「来るべき『Digital Disruption(デジタルによる破壊)』の時代に対して、自らが積極的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を仕掛け、デジタル対応力をコアコンピタンスとした『真のサービス産業』のグループになることを目指す」というもの。

なぜ、国内有数の巨大企業グループであるSOMPOホールディングスは、デジタルシフトしたのか。同社のデジタル戦略推進の中心的人物であるチーフ・データサイエンティストの中林紀彦氏は、「海外の革新的な取り組みに対する焦り」が経営陣にあったからだとその理由と明かした。


SOMPOホールディングス株式会社 チーフ・データサイエンティスト 中林紀彦氏

「たとえばアフリカのケニアでの保険ビジネスが、実はとても先進的だということをご存じでしょうか。ケニアは通貨が十分に流通していないのですが、かわりにスマートフォンをベースにした決済システムが普及しており、保険においてもテクノロジーを活用したサービスが日本よりはるかに進んでいるのです」

農業保険を例にみてみる。ケニアでは、種や苗のパッケージにバーコードが付いており、それを読み込むと保険の案内が表示され、スマートフォンひとつで最後まで手続きを行える。さらに、保険会社が天候情報や保険加入者の耕作情報をモニタリングしており、耕作に関するアドバイスまで行うそうだ。また災害時には、現地調査を行わずに被害の度合いが自動判定され、すばやく保険金がモバイルマネーで支払われる。一度も対面することなく、スマートフォンだけでここまでのサービスが提供されるのだ。

「日本で、ここまでテクノロジーを活用したサービスを提供している保険会社はありません。もしケニアでの保険事業者のような存在が日本に乗り込んできたら、われわれは淘汰(とうた)されてしまうのではないか、という危機感を経営陣は覚えたわけです。もちろんケニアと日本では法律が違いますし、文化も違いますので、日本で同じような保険ビジネスがそのまま展開できるわけではありません。しかし、従来の保険ビジネスがいずれ通用しなくなることは明白です。保険のあり方を見直す必要にかられたことで、デジタル戦略を中期経営計画の主軸にするに至ったのです」(中林氏)


SOMPOホールディングスの中期経営計画概略

デジタル戦略の中核「SOMPO Digital Lab」の役割

SOMPOホールディングスは、デジタル戦略の具体的な一手として、シリコンバレーでの豊富な経験をもつ楢﨑浩一氏をグループCDO(チーフデジタルオフィサー)として招へい。そして、2016年4月に、CDO直下でデジタル戦略の中核をなす研究機関として、東京と米国シリコンバレーに「SOMPO Digital Lab」を設立した。同機関の役割は、海外の先進事例を把握しながら、ビジネスモデルの進化、業務効率化、顧客接点の変化への対応、デジタルネイティブ向けマーケティング(これまで接触できなかった層との接点をどのようにつくるか)の研究開発であり、中林氏もメンバーの一人だ。

「シリコンバレーでは、新しいサービスやビジネスモデルが次々に生まれているので、常にリサーチしておく必要があります。たとえば、自動車も所有するのではなく、カーシェアが主流になってくると、保険の在り方も変わってきます。新しいビジネスモデルを研究しながら、時代に合った保険の形を模索しています」(中林氏)

SOMPOホールディングスが描くサービスのビジョン「デジタルヘルス2.0」

プロ人材をCDOとして招き、研究機関も設立して、デジタル戦略を推進する体制を整えたSOMPOホールディングスだが、戦略を成功に導くためには、データをいかにうまく活用して、何を実現できるかが重要なポイントとなる。SOMPOホールディングスは、データを活用して何を実現するつもりなのか。

一般的にリスクマネジメントには、(1)リスクを許容する、(2)転嫁(リスクを移転)する、(3)軽減する、(4)回避するという4種類があり、保険ビジネスはそのなかの「転嫁」に該当する。しかし、十分なデータを保有し、分析できれば、リスクを前もって予測することが可能になる。つまり、リスクの「軽減」や「回避」までも図れるようになるのだ。そこでSOMPOホールディングスは、分析したデータにもとづいた新たなサービスの開発を、事業の柱でもあるヘルスケア領域から行っていこうとしている。

「たとえば、食生活が乱れている人に対して、生活習慣病のリスクを通知し、健康的な食卓メニューや運動メニューをスケジュールまで組んで案内するサービスがあれば、契約者はそもそも病気にならずに済みます。われわれはこのようなサービスの未来像を、『デジタルヘルス2.0』と呼んでいます。データやアナリティクスに立脚したものが保険の次のビジネスになると考えて、われわれも実証実験を進めています」(中林氏)

SOMPOホールディングスでは、子会社であるひまわり生命の社員3000人に、ウェアラブル活動量計を配布し、日々の生活における活動データや睡眠データなどを収集、分析している。それらのデータを健康診断結果と照らし合わせて、罹患との相関関係を証明し、疾病予防につなげるための実証実験を行っているという。

ブランドスローガンに「保険の先へ、挑む。」というメッセージを掲げているように、同社は、デジタルヘルス2.0の取り組みを成功させることで、既存ビジネスモデルからの脱却を目指している。いずれは「その街に住んでいれば、安全が保障される」ようなサービスを展開したいと中林氏は語り、現業を軸に新しいビジネスをどう生み出せるかを常に考えていくという。

2兆円企業が変革する意味

実は中林氏がSOMPOホールディングスに入社したのは、デジタル戦略が発表され、SOMPO Digital Labも設立された後の2016年10月だった。日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)という、データ分析分野では最先端ともいえる企業から転身した理由には、当事者として問題を解決したいという思いがあった。

「IBM在籍時代に、情報大爆発やビッグデータといったキーワードが出てきて、データが注目されるようになり、データを通じて多くの顧客企業と関わってきました。ただ、IBM時代は方法論を提供する立場であり、それを実践するのは顧客企業でした。ノウハウは蓄積していたので、『事業会社で、自らの手でデータ活用を進めて問題を解決したい』と、そう思って転職を決意しました」(中林氏)

SOMPOホールディングスに決めたのは、保険という伝統的な業界の代表的企業だったからという理由もある。歴史のある伝統的な業界や企業であるほど、デジタルトランスフォーメーションのような変化は容易ではない。売り上げ2兆円を超える規模の大企業がピボットできれば、それは単なる一企業の変化にとどまらないだろう。だからこそチャレンジしがいがある。

「われわれは、単なるデジタル化に取り組むだけではなく、新しいビジネスモデルも創出したいと考えています。採用面接のときに、楢﨑が『日本の保険屋なので泥臭いところもまだまだあるし、着手したばかりで大変だけど一緒にやろう』と言ってくれました。大きな改革は、トップダウンで行わないとなかなかうまくいきません。当社のデジタル戦略がトップダウンで進められており、自分の持っている力を存分に発揮できる環境だったことも大きいです」(中林氏)

SOMPO Digital Labなどのデジタル化の推進部門は、グループの事業会社も含めてホールディングスにのみ設置されており、CDOの楢﨑氏を中心にグループが行う4つの事業に関し、デジタルを通じて横串で一気通貫に支えるという構図になっている。


SOMPOホールディングスの事業ポートフォリオ

トップダウンによる戦略推進は、デジタルトランスフォーメーション実現に向けて、組織体制としては理想的ともいえる。しかし、当初のデータ活用の現場は「どこに何のデータがあるのか、まったく分からない」という状況で、決して円滑なスタートが切れたわけではないそうだ。後編では、データ活用の現場の実情について伺っていく。

この記事の後編を読む

プロフィール

SOMPOホールディングス株式会社 チーフ・データサイエンティスト 中林紀彦氏

日本アイ・ビー・エムでデータサイエンティストとして、データ分析の観点から顧客企業の課題解決に貢献。またビッグデータのビジネス活用に関するエバンジェリストとしても活動する。その後オプトホールディング データサイエンスラボ副所長を経て、2016年にSOMPOホールディングスに入社。筑波大学大学院の客員准教授としてデータサイエンスに関する人材育成にも従事。

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