ビジネス創出

完璧なデータ基盤を求めるな――SOMPOホールディングスの戦略【後編】

記事内容の要約

  • 膨大なデータの活用基盤を開発するため、保有データの整理からスタート
  • まず仮説ありきでデータの棚卸しを行ってから、データの正規化に着手
  • 自社のデータだけではなく、外部と協力しながら新たなサービスを開拓
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この記事の前編を読む

日本を代表する保険事業者のSOMPOホールディングスグループは、中期経営計画の柱の1つにデジタル戦略を掲げ、大胆なデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいる。SOMPOホールディングスにデジタル戦略部門を設置し、トップダウンによる改革の体制も整った。

一方でデジタル戦略を成功に導くためには、いかにうまくデータを活用できるかが重要なポイントだ。しかし同社には、データを活用するにあたって、越えなくてはならないハードルが存在していた。一大改革を担う中心メンバーの1人であるSOMPOホールディングス チーフ・データサイエンティストの中林紀彦氏に聞いた。

データありきではなく「仮説ありき」で基盤を整備

SOMPOホールディングスグループは損害保険事業のほか、介護やヘルスケア領域、海外での事業も展開しており、保険関連だけでも、グループ全体では膨大なデータを保有している。しかし、データ活用を前提とせずにただ蓄積されていたそれらのデータは、簡単に利用できる状態ではなかった。中林氏は「倉庫にいろいろなお宝が眠っているが、どこに何があるかわからない状態」であったと表現する。

そこで、グループ企業のどこにどんなデータセットがあるのかを把握するため、2017年に入ってから、保有しているデータの棚卸しに取り掛かった。具体的には、クラウド上にメタデータの仮想データベースを構築し、社内にどのようなデータがあるのかを正確に把握できるようにした。たとえば、自動車保険関連データが必要なときは、そのデータセットの保管場所が検索できる。

ここでユニークなのが、データベースを構築した時点ではデータの正規化を行っていない点だ。データの正規化とは、分析したりできるレベルまでデータを整えることだ。正規化されていないデータとは、たとえるなら、項目の重複や名称のばらつきなどが整理されていないExcelシートのようなものであり、そのままでは分析素材としては扱いづらい。ただ、同社では、実証実験などを行う際に、データを分析しようという段階になってはじめて、該当データを引き出して正規化していくのだという。

この方法は、中林氏が前職で、「正規化だけで数年かかって、結果が出ない」というプロジェクトを散々経験したからこそ、生まれたものだ。

「使うかどうか分からないデータまで正規化して、仮説も立てずにデータ収集・整理することにこだわると、プロジェクトの動き出しが遅くなります。データの正規化は最低限にとどめて、必要なデータだけ切り出して使う。ダメだったら捨てる。うまくいったらオペレーションに乗せる。これは、データ活用における最近のセオリーです。データありきで使い道を考えるのではなく、まずは仮説を立てて、その検証に必要なデータを使うというアプローチで進めています」(中林氏)


SOMPOホールディングス株式会社 チーフ・データサイエンティスト 中林紀彦氏

企業のデータ活用が叫ばれるなか、データ分析や、多量のデータ=ビッグデータを保有することが目的化しているケースは少なくない。データサイエンティストを採用したものの、分析するデータがどこにあるのか把握していないという例も聞く。そのような現場を見てきた中林氏の「まずは仮説を立ててから」という言葉には重みがある。

少しずつ見え始めてきたデータの可能性

グループ内のデータ整理のめどがついてきたことで、具体的なデータ活用の道筋も見えはじめた。

「保険業界は、リスクを引き受けることをなりわいとしてきたので、リスクに関するデータは豊富です。たとえば追突事故は、免許を取りたての20代前半が非常に多く、年代が上がるに従って減っていきます。これは感覚では分かっていましたし、事故に関するデータも保有していました。ただ、今まではデータが体系化されていなかったため、情報が表に出てこなかったのです。データが整備できたことで、『20代前半向けの車には追突防止装置をもたせることによって、交通事故を減らせる可能性がある』という仮説を、論理的に導き出せるようになりました。

もちろん、私たちが保有するデータだけでは分析しきれないこともあります。事故が起きた状況のデータは保有していますが、事故時の天候データや車種データ等は当社にありません。そのため、業界の垣根を越えてデータの連携、提携をしていこうと考えています」

保険は、結婚や出産、家や車の購入といった、人生の節目に関わるものだ。SOMPOホールディングスでは、こうした節目に関わるデータはそろっており、それが事業のコンピタンスでもあるが、どうしても取得できないデータも数多くある。自力で取得できないデータは社外から集めてくる必要があり、積極的にオープンデータの活用や外部企業との協業を進めることで、仮説検証を前進させる構えだ。

大小にかかわらず外部とシナジーを生み出す

SOMPOホールディングスグループのデジタル戦略は、保険分野にとどまらず、新たに未知の領域に向かうことも視野にいれている。同社は、画像認識や音声認識、自然言語処理といったデータ分析にも取り組んでおり、顧客からの問い合わせに自動対応できるスマートフォンのチャットアプリも実験中だ。現サービスの改善など、足もとのデータ活用と並行してこれらの取り組みを進めることによって、いずれは既存の保険ビジネスを支援したり、まったく新しいビジネスを生み出したりする可能性はある。

デジタル戦略の2年目となる現在、中林氏はこれまでの1年を振り返りながら、今後の展望について語る。

「1年前は、水の中でもがいている状態でしたが、今は水面に足場ができたという感じです。2年目の現在は、データを軸にしていくつかのテーマで新しい事業やビジネスを作っていくことを目標にしており、グループの中を変えるのと同時に、外向けにも新しいサービスを展開しています。3年目には、これらの活動を大きく広げていくつもりです。外部との連携を強化しながら前進していきます」(中林氏)

プロフィール

SOMPOホールディングス株式会社 チーフ・データサイエンティスト 中林紀彦氏

日本アイ・ビー・エムでデータサイエンティストとして、データ分析の観点から顧客企業の課題解決に貢献。またビッグデータのビジネス活用に関するエバンジェリストとしても活動する。その後オプトホールディング データサイエンスラボ副所長を経て、2016年にSOMPOホールディングスに入社。筑波大学大学院の客員准教授としてデータサイエンスに関する人材育成にも従事。

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