マーケティング戦略

なぜ物流業界にロボット革命が必要なのか[後編]――ビジネスモデル変革への挑戦

記事内容の要約

  • オートストア導入の決め手となったのは、極寒のはずのノルウェーの倉庫で、従業員がTシャツ1枚で働いている環境を目の当たりにしたこと
  • 「キツい仕事で当たり前」という物流業界の常識を変えるために、顧客と社員の両方に目を向けた企業理念を制定
  • めざすのは、単に「モノを運んで納めるだけ」というビジネスモデルに変革を起こし、自社の強みを生かしたビジネスの構築
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この記事の前編を読む

安定した労働力の確保を目的に、ノルウェー生まれの自動倉庫システム「オートストア」を日本ではじめて導入した株式会社ホームロジスティクス。その根底にあったのは、日本の物流業界で常態化していた過酷な労働環境を改善することだった。同社は日本の物流業界が抱える課題をどう見ているのか、そして同社は今後何をめざしていくのか――。詳しい話を聞いた。

ノルウェーの倉庫視察で受けた衝撃

前編で紹介したように、株式会社ホームロジスティクスがオートストアの導入を決めた理由は、欧州視察の際にノルウェーの倉庫で、ロボットの機能性の高さを目の当たりにしたからだ。ただ、導入の決め手となった理由は、実はもうひとつあった。それは、倉庫で働く作業員の様子だ。

「彼らは、われわれの知っている倉庫作業員のイメージと大きくかけ離れていたのです」。同社代表取締役社長で株式会社ニトリホールディングスの上席執行役員も務める松浦学氏は振り返る。

「一般的に倉庫というのは、夏場は暑く、冬場は寒く、作業環境としては過酷です。ノルウェーの倉庫を視察したのは2月の雪が降る季節。どんなに厳しい環境かと思ったら、中で働く作業員たちはTシャツ1枚で、音楽を聴いたり、お菓子を食べたりしながら仕事をしていたのです。われわれがそれまで抱いていた、『作業員はいつも倉庫内を走り回っているもの』というイメージは完全に覆されました。同時に、われわれもオートストアを使って、こうした労働環境を実現したいと強く思ったのです」(松浦氏)

また、ワークライフバランスへの意識が高い北欧らしいといえるかもしれないが、オートストアは労働環境を強く意識した設計になっている。ホームロジスティクスでもこれを生かす形で導入しており、たとえば、オートストアで作業する際、作業員が腰をかがめなくてもよいように、作業台の高さを人の腰の高さに設計するなど倉庫内作業環境を改善。「人に優しい職場環境を実現」という観点から2016年度のグッドデザイン賞を受賞している。

意識改革は新たな企業理念から

いま日本では、「働き方改革」の実現に向けて、労働の現場でさまざまな変革が起こっている。労働環境改善の機運が高まれば、長時間労働に対する当局の目も厳しくなるし、働く側としても条件を選べるようになる。そして企業側は、これに応えていく必要がある。

松浦氏は、かつてはコンビニエンスストアチェーンでさまざまなプロジェクトやマーケティングの責任者を務めた経験をもつ。本人は「物流の素人」というが、それゆえこの業界を客観的に見ている。だからこそ、倉庫業務の現場を目の当たりにして、「きつくて当たり前」という日本の物流業界の常識を変えようと思ったのは自然なことだった。


株式会社ニトリホールディングス 上席執行役員
株式会社ホームロジスティクス 代表取締役社長 松浦学氏

「着任して最初に着手したのは、企業理念の制定でした。それはお客さまだけでなく、社員のことも考えたものでなくてはいけません。近い将来、人に残される仕事、人でなければならない仕事をイメージすると、コミュニケーションが重要になるというのを意識させたいという思いもありました。そして、半年ほどかけて社員と対話して、企業理念や行動理念を整え、それに基づいた経営改革を行うと決めました」(松浦氏)

ホームロジスティクスの企業理念や行動理念は、他の物流業者に比べ、優しい言葉による表現になっているのが特徴だ。
ホームロジスティクスの企業理念と行動理念

松浦氏の制定した企業理念は、“発展”、“挑戦”、“革新”のような物流会社でよく見られる言葉が使われておらず、“笑顔”や“思いやり”といった優しい言葉が見られる。これは、同社の顧客の7割が女性であることから、顧客に優しく寄りそおうという同社の姿勢の表れだ。また、すべての行動理念には「仲間の可能性を信じ、」という言葉があり、顧客だけでなく社員にもきちんと向き合おうという決意がうかがえる。もちろん、社員のことを考えた経営といっても、合理的な視点は持つようにしている。

「労働時間を減らしたり、待遇を改善したりするだけでは、企業としてはコストアップにしかなりません。そのため、全体のコスト構造を調整していきました。たとえば、トラックのタイヤの交換時期やガソリン価格、人件費など、細かいコストまで算出して見直しています」(松浦氏)

ラストワンマイルを武器にビジネスモデルを変更

ロボット倉庫の導入によって、業務効率化と労働環境改善に取り組むホームロジスティクスだが、松浦氏がめざしているのはもっと大きな物流業界全体の改革だ。松浦氏によれば、いま日本の物流業界の採算性は厳しく、どの物流会社もこの先、コストアップは避けられない状況にあるという。

「物流は、コストのほとんどが人件費という、労働集約産業です。人で成り立つ事業なのに人件費の削減だけに目を向けては、経営が立ち行かなくなります。物流業界に人が集まるようにするためにも、企業理念をつくり、それに基づいた労働環境を整えなければならない。その実現のための技術が、オートストアやバトラーだったわけです。ただ、ロボット倉庫の導入は、あくまでも労働環境改善に向けた策のひとつに過ぎません。当然のことながらサプライチェーンは、全体を根本的に見直しました。そのうえで、われわれは単なる自社製品の運び屋ではなく、『住まいの豊かさをサポートするサービス業』なのだと、ビジネスモデルを再定義したのです」(松浦氏)

同社の強みは、配達の際に家具を届けるだけでなく、顧客の家の中で作業することが許されている点だ。そして、顧客と向き合えるこの機会を生かして、「住居に関する総合提案」を行えるようなビジネスを考えているという。

「家具の組み立てや設置、梱包材の回収作業など、お客さまとの最終の接点を 『ラストワンマイル』と呼んでいます。このラストワンマイルのとき、お客さまが『レイアウトやカーテンの色を少し変えるだけでこんなに素敵になる、買い物してよかった』と認めてくれた瞬間に、新たに別の商品を購入してもらえる機会が生まれるのです。ただ荷物を納めているだけではもったいないですよね」(松浦氏)

実はホームロジスティクスは、ニトリグループ以外の配送業務も請け負っている。これは、松浦氏の話す「住居の総合提案」にとっても必要なことだ。

「ニトリは着実に業績を伸ばしていますが、現実的に考えて、家具やインテリアの部門で100%のシェアをとることは不可能です。単一ブランドでやれることが限られているなら、他社も巻き込んで『お客さま1人当たりの消費支出』を増やすことを考えたほうがいい。

われわれの配送の仕組みをプラットフォーム化して他社にも使ってもらい、『ラストワンマイル』のお客さまの自宅のなかで、他社の商品とニトリの商品をクロスセルできればと考えています。『笑顔をつなぎ、思いやりあふれる社会の実現に貢献する』という弊社の企業理念に沿って、他社と一緒になって、お客さまとつながれる機会を生かしていきます」(松浦氏)

配送先で、荷物の組み立て、設置、梱包材の回収を行うことがホームロジスティクスの「ラストワンマイル」であり、これは家具の配送を行っている同社ならではの優位点となっている。
ホームロジスティクスの考える「ラストワンマイル」

プラットフォーム化によるデータの蓄積と活用をめざす

松浦氏のいうプラットフォーム化が促進されれば、ホームロジスティクスの売り上げが上がると同時に、ニトリグループ以外の商品購買も含めた大量のデータ収集・分析も可能になる。「ラストワンマイル」でビジネスのチャンスをつかみ、そしてデータ分析を通じて、確実にクロスセルやアップセルにつなげたり、商品開発に生かしたりしていく構えだ。

松浦氏は最後に、昨今の「データ活用」の流れについて次のように語ってくれた。

「私は、コンビニ事業で経営やマーケティング部門の統括などを経験しましたので、データの重要性はよく理解しているつもりです。ただ、データを見て実施したマーケティングは、確かに最初はうまくいきますが、ずっと効果をもたらし続けるわけではありません。データ収集や分析はあくまでも手段であって、目的ではないのです。産業全体が変化しているときは、そもそものビジネスモデルが変わらなければ、マーケティングの効果はすぐに薄れてしまうと思います」(松浦氏)

物流業界に新しい価値を提供しようというホームロジスティクス。同社が、倉庫の効率化の先に描くのは、物流という枠を大きく広げた明るい未来だ。

プロフィール

株式会社ニトリホールディングス 上席執行役員 株式会社ホームロジスティクス 代表取締役社長 松浦 学氏

コンビニ本部にて店舗経営指導から商品開発、広告販促、全社業務改革、データ分析に基づくSCM改革、エンタメビジネス、海外現地法人の経営再建など手掛けてきた。2015年株式会社ホームロジスティクス代表取締役就任。旧態依然な状態を変えるべく、ITやロボット化など改革を続けている。

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