組織づくり・人材育成

横浜市大データサイエンス学部の挑戦[前編]――実社会で生かせる統計学のために

記事内容の要約

  • 2018年4月、横浜市立大学に、データサイエンティストの育成を目的とした首都圏初のデータサイエンス学部が開設される
  • 横浜市や企業からも歓迎される新学部では、産官学の連携を強化していく方針
  • 横浜市立大学では、データサイエンティストに必要とされる能力のうち、主に「データサイエンス力」を伸ばすために統計学を重視していく
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現在、ビジネスの現場ではデータ活用の重要性が叫ばれているものの、データを有効に分析、利活用できる人材――データサイエンティストは圧倒的に不足している。そうした現状を受け、2018年4月、神奈川県横浜市にある横浜市立大学は、首都圏初のデータサイエンス学部を開設する。一般的に、データサイエンティストは実社会に出てから育成されるケースが多いように思われるが、横浜市立大学では、どのようにしてデータサイエンティストの育成に取り組もうとしているのか。横浜市立大学国際総合科学群教授であり、データサイエンス推進センター センター長を務める岩崎学氏に話を聞いた。

横浜市立大学にデータサイエンス学部ができた理由

―まず、なぜデータサイエンス学部を新設したのか、その理由をお聞かせください。

岩崎:横浜市立大学(*1)には、国際総合科学部と医学部の2学部があり、文理融合型教育の実績とデータサイエンスに必要とされる多様な応用分野を持つことが強みだと考えています。現在、国の成長戦略として「データを利活用できる人材を増やそう」というものがあり、社会全体としてデータサイエンティストの育成が求められている背景があります。データサイエンス人材を育成することは、本学がこれまで培ってきた教育の基盤を生かすことにもつながります。大都市である横浜市にある本学だからこそ、時代の要請に応えようとデータサイエンス学部の創設に至りました。

―昨今では、一部の例外を除いて東京23区内の私立大学と短大の定員増加を認めないことが正式に文科省から告示されたり、国立大学では運営費交付金が毎年削減されたりするなど、大学経営に向けられる視線は厳しいといえます。そんななか、新しい学部を設置することに対して、横浜市からの反対はなかったのでしょうか。

岩崎:それはなかったですね。横浜は日本有数の都市であり、企業も集積しています。つまり、ビッグデータが生まれる土壌があるわけです。そのような場所で、市立大学がデータサイエンティストを育成するのですから、大学として行政に貢献できることも多いはずです。反対どころか、むしろ産官学連携の筆頭となるのが、横浜市ではないかと思います。


横浜市立大学国際総合科学群教授 データサイエンス推進センター センター長 岩崎学氏

大学で学べる「データサイエンス」とは?

―「データサイエンス」の学部を設立するということは、理系の学生をもっと多く育てるという動きなのでしょうか。

岩崎:いえ、文理融合の学部だと考えています。「データサイエンス」とは、統計学と情報科学をミックスした学問なのですが、実は、統計学は歴史的にみれば、文系の学問なのです。もともとは社会の情勢を数値でひもとこうとしてはじまった学問であり、品質管理や医学といった理系の学問に寄与するようになったのは、日本では戦後以降です。私は日本統計学会の前会長も務めていましたが、学会設立当初のメンバーは経済学者が多かったくらいです。

―理系に限らず、文系の学生にも門戸を開いているということですね。

岩崎:そうです。日本ではじめてデータサイエンス学部を開設した滋賀大学は、入学時の比率は理系6割、文系4割と聞いていますから、当大学もそのくらい文系の学生が入学してくれればと思っています。

―横浜市立大学のデータサイエンス学部に入学する学生は、どのような勉強をすることになるのでしょうか。

岩崎:データサイエンティスト協会(*2)は、データサイエンティストに必要な3つのスキルとして「データサイエンス力」、「データエンジニアリング力」、「ビジネス力」をあげています。

データサイエンティスト協会では、データサイエンティストに求められるスキルとして、課題背景を理解し、ビジネス課題を整理して解決する「ビジネス力」、情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う「データサイエンス力」、データサイエンスを意味ある形に実装、運用する「データエンジニアリング力」を掲げている。
資料:データサイエンティスト協会プレスリリース(2014.12.10)(*3)

主にデータサイエンス力とデータエンジニアリング力を鍛える勉強をしてもらいます。特に、データサイエンス力――統計学を中心とする分野は、一度社会に出てしまうとなかなか学ぶ機会も環境もないので、この分野こそ大学で教える意義があると思っています。

―横浜市立大学では、統計学に力を入れて教えるということでしょうか。

岩崎:もちろん、データエンジニアリング力にあたるプログラミングなどの授業も行いますが、データサイエンスの分野では、情報科学の研究者に比べて統計学者の数が不足しています。そのため、他大学のデータサイエンス教育は情報科学がメインとなり、どうしても統計学に十分に手が回っていないことが多い。ですから、横浜市立大学としては、この分野に重きを置いた指導体制を組んでいこうと考えています。私をはじめ、統計学の専門家がそろっているのもそうした理由があるからです。

―統計学を専門的に教えていくうえで、どのような部分に重点を置かれるのでしょうか。

岩崎:学問の基礎を教えることはもちろんですが、ガチガチの数理統計だけを教えていては学生も退屈します。ですから、野球や医療、観光や環境など、さまざまな応用分野に精通している方に教鞭(きょうべん)をとってもらい、“学んでいることが、実社会でどのように生かせるのか”を学生がしっかりイメージできるようなカリキュラムにしようと考えています。また、そのような現実に即した演習や宿題を課し、知識がしっかり定着するようにしていくつもりです。さらに、国際色が豊かで、多くの企業があるという横浜の地の利を生かした、実のある教育を行っていきたいと思います。

横浜市立大学データサイエンス学部のカリキュラムは、「統計学」に力を入れている点が特徴。
横浜市立大学データサイエンス学部のカリキュラムは、統計学に力を入れている点が特徴である

―地の利を生かした教育を行ううえで、横浜市や市内に存在する企業との連携も予定されているのでしょうか。

岩崎:横浜市および市内の企業は、データサイエンス学部の設立に対しても好意的で、協力したいという声もすでに多くいただいています。そのため企業が保有するビッグデータを使わせていただいたり、共同研究を進めたりできればと考えています。そのほかにも、われわれ教員が企業に出向いてセミナーをしたり、企業からも人を招いて実務の話を学生にしてもらったり、あるいはインターンシップを受け入れてもらったりするなど、Win-Winの関係を目指します。データ分析の実践には、企業との連携が非常に重要だと思いますので、関係構築は現在進行中で進めている最中です。

また、横浜市も共同でシンポジウムを開催したり、当大学の教員が横浜市役所職員に向けてデータ分析の研修を行ったりするなど、官学連携の取り組みもはじめています。横浜が一丸となって、データ活用の機運を盛り上げていきたいですね。

見えない未来を生き抜く力

―データサイエンティストといえば、いまや最も注目を集める職業です。ビジネスの世界からはデータサイエンス学部に対する期待は大きいと思いますが、学生の反応はいかがですか。

岩崎:来春の開設に向け、8月にオープンキャンパスを実施しましたが、想像を超える多くの高校生に来場いただきました。特に印象的だったのが、学生の親御さんの反応です。学生よりも、むしろビジネスの現場にいる親のほうがデータサイエンス学部に興味があったようで、期待の高さを感じました。また、意外に女子学生からも人気で、“求む!DS女子”と銘打って、データサイエンスの世界で活躍する女性4名のトークセッションも開催したのですが、とても盛り上がりました。

2017年8月に実施されたオープンキャンパスでは岩崎教授も講義を行った。
2017年8月に実施されたオープンキャンパスの様子

―現在、ニーズの高さに反比例して、市場でのデータサイエンティスト不足が問題視されていますが、横浜市立大学では、どんな人材を輩出していきたいとお考えですか。

岩崎:これだけデータがあふれる世の中になった以上、ビジネスにデータを生かしていくのは当然の流れです。ただ、データを使った意思決定、定量的な評価をするというマインドが、日本全体として欠けている感があります。日本の高校では、数学の授業として統計を学ぶものの、現時点ではまだ満足な教育は行えているとは言い切れません。そのため、高校生には統計やデータサイエンスの重要性が十分には浸透していない。当大学でその重要性と意義をしっかり学び、基礎力を身につけてもらうことで、将来どのような職に就くことになっても活躍できる学生を輩出していきたいですね。

前編では、横浜市立大学のデータサイエンス学部の特色について紹介した。後編では、データサイエンティストにまつわる海外との教育事情も比較しながら、日本が目指すべきデータ立国への道について聞いていく。

前編を読む | 後編を読む

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