マーケティング戦略

デジタル時代のDM活用戦略[前編]――紙の特性をどう生かすか

記事内容の要約

  • 顧客中心主義のマーケティングを行うためには、デジタルとアナログを横断したコミュニケーションが望ましい
  • 紙媒体は、保存性や回覧性、内容の記憶定着率の高さの点でデジタル媒体よりも優位性がある
  • 紙とデジタルの融合によって、顧客1人ひとりに最適化した内容のDMを送付できる
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ターゲティング広告で見込み顧客にアプローチし、SNSやメールでコミュニケーションを取って購買や会員登録などへ促していく――。昨今、企業のマーケティング活動では、こうしたデジタル領域への投資が進んでいる。一方で、顧客へのアプローチについては、コミュニケーションの効果そのものよりも、施策の効率性や実績となる指標のわかりやすさを重んじてしまうケースも多いのではないだろうか。株式会社グーフ 代表取締役社長CEOの岡本幸憲氏が、こうした状況のマーケターにぜひ活用してほしいと語るのが、ダイレクトメールなどの紙媒体だ。では、紙ならではの価値とは何か。岡本氏に話を聞いた。

顧客へのアプローチは、デジタル施策だけでは不十分

2016年11月に日経BPコンサルティングが発表した調査(*1)によると、上場企業のマーケティング予算の配分は、平均すると「デジタル39%、アナログ33%、マスメディア29%」となっており、デジタル分野への投資はアナログとマスメディアを上回っている。

チラシやダイレクトメール(以下、DM)などのアナログ領域や、新聞やテレビなどのマスメディア領域と比べて、デジタル領域の施策はKPIを設定しやすく、効果検証も行いやすい。ROIなどの成果が見えやすいデジタルマーケティングは、多くのマーケターが重要視している。

一方で、「マーケターのなかには、実施する施策がデジタル領域に偏りすぎている方もいます」と指摘するのは、株式会社グーフの代表取締役社長CEOを務める岡本幸憲氏だ。同社は、紙媒体の利活用を促進するテクノロジーの研究開発や、企業への紙媒体の活用支援事業を行っている。


株式会社グーフ 代表取締役社長CEO 岡本幸憲氏

「マーケティング活動は本来、カスタマードリブン(顧客主義)であるべきです。そのために多くの企業では、顧客データや購買データを分析し、あるいは顧客へのアンケートを実施したり、店舗での行動分析を行ったりして、顧客を理解しようと努力しています。しかし、そうした努力を重ねても、最終的な顧客へのアプローチが、デジタルの世界だけに閉じていることが多い。特に若手のデジタルネイティブ世代のマーケターほど、そういった傾向が強いように思えますね」(岡本氏)

顧客中心主義のマーケティングを実現するためには、デジタルとアナログを横断して、あらゆるチャネルを組み合わせたマーケティングコミュニケーションを設計することが望ましい。しかし、実施した施策を客観的に評価しなければならない現場のマーケターにとっては、効果検証が行いづらいアナログな手法は敬遠しがちな面があるのだ。

それでも岡本氏は、DMを中心とした“紙”の活用をすすめる。

「DMなんてばらまき型の手法は古い、効果検証のためのデータが取れない、制作に時間がかかりPDCAが回しづらい、と考えるマーケターも多いと思います。ただ、いまやテクノロジーが進み、デジタルのよさを生かしつつ紙媒体の運用ができる時代になりました。そして、紙には紙ならではの強みがあり、デジタルとは異なる形で顧客へのアプローチが可能なのです」(岡本氏)

保存性や拡散性にすぐれている紙媒体

岡本氏が語る「紙ならではの強み」とはなんだろうか。

2017年5月にUnited States Postal Service(USPS:アメリカ合衆国郵便公社)が発表した"Still Relevant: A Look at how Millennials Respond to Direct Mail"(ミレニアル世代はDMにどう反応するか)(*2)によると、DMに注意を払うと回答したミレニアル世代(*3)は77%。また、DMは信頼性があると回答したミレニアル世代は90%にのぼる。そして、DMを受け取ってもよいとする割合は87%で、さらに、57%はDMを見て実際に商品を購入した経験があるという。

デジタルネイティブともいえるミレニアル世代に対して、紙であるDMがなぜ有効なのか。岡本氏はこう話す。「紙媒体は、保存性や拡散性にすぐれており、内容も記憶に残りやすい。そういった点は、実はメールなどのデジタル施策よりもすぐれているのです」(岡本氏)

紙とメールの特性の違い
紙とメールの特性の違い

DMの場合、紙という物理的な形で存在するため、メールと違って目につきやすく、また、廃棄するときには、保存しておくべきものはないか、念のために内容を確認する場合が多い。事実、前出のUSPSの調査でも、84%のミレニアル世代が「DMの内容を確認する」と回答している。またDMは、周囲の人へ回覧しやすいという特徴がある。

「どんなによい提案が書かれたメールでも、それをほかの人に転送することはあまりありません。しかしDMの場合、情報を知らせたい相手に現物のDMを渡すだけですむので、メールよりも拡散しやすいのです」(岡本氏)

加えて、スクロールして早読みしがちなメールに比べて、紙媒体はじっくり読む傾向が強く、一覧性も高いため、印象的なクリエイティブが施されていれば記憶に残りやすい。そして、岡本氏は次のような例をあげた。

「米国のあるアパレル企業では、男性向けに郵送するカタログをつくるとき、主力になるメンズ製品を前半に持ってきて、カタログの後半にはレディースやキッズ製品の紹介ページを用意しました。これによって、家に届いたカタログは家族全員が手に取るようになり、それぞれが自分に合ったページの商品に興味を持つようになったのです。こうしたカタログへの取り組みが、ショップへの来店や購入に貢献しているそうです。紙の特長を生かした施策の好例だといえます」(岡本氏)

顧客1人ひとりに最適化されたDMとは

岡本氏は、紙ならではの特長を生かすためにも、デジタルとの融合策を推奨している。

融合策としてわかりやすいのは、顧客1人ひとりに最適化した内容のDMを送る「パーソナライズDM」だ。ウェブ上の閲覧履歴データ、購買履歴データなどから顧客の嗜好(しこう)を分析し、顧客ごとに最適化した商品情報をDMで送ることができれば、埋もれがちなメールの補完媒体としての効果が期待できる。ただ、岡本氏は「安易に紙とデジタルをかけ合わせるだけでは効果は出ないばかりか、逆効果になることもあります」と指摘する。

ある自動車ディーラーは、ある顧客の家族全員に向けて、宛名だけをデータ抽出してDMに印字し、「○○さまだけの特別なオファー」と銘打って内容がまったく同じDMを送付した。すると「内容は変わらないのに、どこが『特別なオファー』なんだ」と、顧客を失望させてしまったという。

「デジタルマーケティングの世界では、いかに顧客1人ひとりを理解して、おのおのに最適なアプローチができるかが緻密に考えられています。一方で紙の世界は、従来のばらまき型のイメージがあるせいか、そこまで考えがおよばないことが多い。紙媒体でも、どのようにパーソナライズすべきかをきちんと考えなくてはなりません」(岡本氏)

後編では、成功事例なども交えて、データを活用した紙の活用法と、紙の施策が生み出す成果について岡本氏に話を聞いていく。

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