マーケティング戦略

デジタル時代のDM活用戦略[後編]――紙にこそ必要なデータ活用

記事内容の要約

  • 印刷技術の進化により、個別の顧客に向けたパーソナライズDMの実施が容易になった
  • カタログやDMによるコミュニケーションは、デジタル施策と並んで顧客に対する有効なアプローチの1つ
  • DMなどの紙媒体は、データ活用によって費用対効果の高いマーケティング施策を実現できる
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この記事の前編を読む

昨今、1人ひとりに異なる内容のダイレクトメール(DM)を送付できるようになり、以前よりもDMやカタログなどの紙媒体がマーケティングに活用しやすくなった。一方で紙を使う施策は、デジタル施策に比べてコストがかかる面もあり、二の足を踏むマーケターも多い。DMやカタログ施策における成果は、どのように捉えるべきなのか。また、成果をあげるためのポイントとは何か。印刷技術とデジタルの融合を提唱する株式会社グーフ 代表取締役社長CEO 岡本幸憲氏に、成功事例をまじえながら、具体的な話を聞いていく。

デジタル印刷の登場で起きた変化

前編では、顧客1人ひとりに最適化した内容のダイレクトメール(以下、DM)を送る「パーソナライズDM」について紹介した。こうした取り組みが可能になったのは、印刷技術の革新によるところが大きい。

従来、内容が異なるDMを1枚1枚制作しようとすると多大なコストがかかった。しかし、「デジタル印刷」が登場したことで状況は一変した。デジタル印刷とは、印刷内容のデータを直接印刷機に送り込むことで版が不要となる印刷方式だ。つまり版代がかからないため、低コスト・小ロットでの印刷が可能になる。さらに、「バリアブル印刷」という、1枚1枚異なる内容を印刷できる技術と組み合わせることで、パーソナライズDM施策を行いやすくなったのだ。

「実は紙の印刷技術は、一般に考えられているよりずっと進化しています。従来の印刷方式ですと、版を制作し、インクの乾燥を待たなければならず、印刷物の完成に時間がかかりました。しかし、版を必要としないデジタル印刷では、発注してから24時間以内に、DMの印刷から配送まで完了できます」(岡本氏)

重要なタッチポイントとしての紙媒体

紙媒体を活用することへのハードルは低くなったものの、それでも、デジタル施策よりもコストがかかりやすいことに変わりはない。実際、紙媒体を活用した施策の事例には、LTV(Life Time Value)が高い保険商品や、獲得単価を高く設定できる自動車や不動産の販売などの高額商品が多い。ただ、岡本氏は「DM施策単体で効果を測るのではなく、マーケティング施策全体に対してどのような効果を生み出したのかを考えるべき」だと話す。

具体例として、通販大手のディノス・セシールの取り組みがある。同社が運営するECサイトでは、購入前のカート離脱への対策として、商品をカートに投入したまま放置している顧客に対して、「お買い忘れはありませんか?」という趣旨のメッセージを通知。そして通知する手段として、「メール配信のみ」と「メール配信+DM送付」をそれぞれ試し、その効果を比較するテストを実施した。すると、メールだけを受け取った層に比べ、DMも受け取った層の購入率は、約20%も向上したという。

ディノス・セシールでは、カート離脱者に対し。購買を促すための施策として、「メールのみ送付」と「メールとパーソナライズされたDMの2つを送付」するというテストを実施したところ、メールとDMを受け取った層の購入率はメールのみの場合より約20%向上したという。
ディノス・セシールのDM活用のテスト事例

「年々、メールの開封率が下がっていることに悩んでいた企業が、紙のDMを活用することで、マーケティング課題のひとつを解決できたのです。もちろんメール施策単体よりもコストはかかりますが、DMがマーケティング施策全体の成果向上に貢献した一例だといえます」(岡本氏)

別の事例として、海外のある化粧品ブランドの取り組みがある。このブランドは、ウェブ上でユーザーに、「髪や目、肌の色」といった20程度の質問に答えてもらい、コンテンツをパーソナライズしたカタログを送付するキャンペーンを展開。従来の店頭フライヤーなどに比べてROIが20倍向上したそうだが、成果はそれだけではない。このキャンペーンに参加したユーザーのうち実に75%が、日ごろは他ブランドを愛用するユーザーだったのだ。つまり、このカタログ施策は、ブランドスイッチを実現する絶好の機会となったのである。

「紙の施策は、デジタル施策に比べるとコストがかかるケースもあります。ただ、マーケティング施策全体を最適化する手法のひとつとして捉えれば、決して無駄ではありません。

最近のマーケターのなかには、メール配信やバナー広告の効率的な運用に終始しながら、マーケティング効果の限界を感じている方もいるはずです。そういう方には視野を広げてほしい。顧客にアプローチするためのシナリオを広く考えれば、紙媒体も重要なタッチポイントのひとつだとわかるはずです」(岡本氏)

最適なコミュニケーションの実現に欠かせないデータ活用

DMなどの紙媒体は古くからマーケティングに活用されているが、紙媒体の強みを生かして最適なコミュニケーションを行うには、デジタルマーケティングの知見が欠かせないという。

従来は、どんな顧客に対しても画一的な内容のDMを送付することが多かった。だが、デジタル印刷はMA(マーケティングオートメーション)ツールと連携すれば、データに基づいて、最適なタイミングで、最適な内容のDMを顧客に送付できる。岡本氏は「丁寧なコミュニケーションを行うためにはデータ活用が必要であり、それをもっとも理解しているのはデジタルマーケターのはずです」と話す。

自動車ディーラーを例に考えてみよう。ディーラーにとって顧客と接触する機会は、来店してもらった時だけではない。「車検を受けてもらう」ことも、顧客とコミュニケーションがとれる重要な機会だ。しかし、大手カー用品チェーンなどが車検を受け付けはじめたことで、車を購入した店舗で車検を申し込む顧客は年々減少している。

そこである自動車ディーラーでは、顧客1人ひとりに最適化した内容のDMを送付することにした。購入した自動車の年数や過去の車検履歴データをもとに最適なタイミングを設定し、「車の調子はいかがですか?」「そろそろ◯◯の交換時期です」といったメッセージをパーソナライズDMで伝えたのだ。またそれらは、「○○さまへのお知らせ」のような持ち主本人に対するアプローチではなく、「(車名を差し込んで)○○のオーナーである○○さまへ」のように、顧客と顧客の愛車によってパーソナライズされたDMの形をとった。このようなコミュニケーションを行った結果、一時は落ち込んでいた車検申し込みの割合が、3~4カ月間で46%から84%まで向上したという。

「最適なタイミングで、最適なメッセージや提案を正しく伝えることができれば、顧客の行動は変化します。そして、このタイミングや提案内容をしっかり把握、検討するために、データが必要なのです」(岡本氏)


株式会社グーフ 代表取締役社長CEO 岡本幸憲氏

経営改善に貢献する「紙×データ活用」

さらに、岡本氏は「紙媒体の施策にデータを活用することは、丁寧なコミュニケーションを実現するだけでなく、経営全体にもよい影響を与えます」と語る。

実際、画一的な内容のDMを平均85万件送っていたあるアパレル企業では、データを分析してDMを送付すべきタイミングを精査。さらにターゲット層を絞り込んで、送付先を約10%の8万件にまで減少させた。しかしそこまで送付数を減らしても、売り上げ全体は以前よりも向上したという。別の言い方をすれば、いままでいかにムダが多かったかということだ。

「この場合、売り上げを伸ばしただけでなく、約80万件分のDM制作・送付にかかっていたコストも削減できたことになります。データ分析をさらに繰り返せば、残りの約80万の顧客に対しても最適なコミュニケーションが行えることでしょう。印刷のコストはかかりますが、それに見合うだけの高い費用対効果が得られるのです」(岡本氏)

最近になって、デジタルに注力してきたマーケターからも「紙媒体を使って何かできないか」と相談を受けることが増えた、と岡本氏は話す。

「私は、『デジタルから紙にシフトしよう』と提唱しているのではありません。デジタルとアナログという形態の垣根を取り払い、それぞれをマーケティング施策におけるタッチポイントのひとつとして捉えることができれば、紙媒体は、いま以上の力を発揮できる。そう考えています」と語る岡本氏。デジタルマーケティングと同様に、DMやカタログなどの紙媒体の施策にもデータを活用すれば、高い費用対効果を実現できる。デジタルにはない紙の持つ特性を存分に生かすためには、従来型の「画一的なメッセージの発信」から一歩踏み出す必要があるのだ。

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プロフィール

株式会社グーフ 代表取締役社長CEO 岡本 幸憲氏

デジタルと紙の融合による高付加価値なコミュニケーションの実現を目指し、2012年「どんなテクノロジーやデータとも繋がる紙」をミッションにグーフを共同創設。デジタルと同等の運用でプリントメディアを活用したいブランドオーナーと、印刷工場を合理的に繋げる支援を行っている。

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