マーケティング戦略

なぜH.I.S.はInstagram運用で売り上げに貢献できたのか?

記事内容の要約

  • H.I.S.はユーザー参加型のInstagramアカウント「タビジョ」を開設。旅好きな女性からの画像投稿を募集しながらファンを獲得している
  • 「タビジョ」に対する社外からの好意的な声を効果的にフィードバックすることで、社内プレゼンスを向上させた
  • ファンと協力して開発した商品「タビジョツアー」によって、目に見える形で会社の売り上げに貢献している
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いまや、企業が顧客とのコミュニケーションを図るうえで、SNSの活用は不可欠だ。しかし、その運用方法や成果の捉え方に頭を悩ませている現場の担当者は少なくない。そのようななかにあって、Instagramを活用した施策で多くの女性ファンを獲得し、さらに会社の売り上げ向上まで実現したのが株式会社エイチ・アイ・エスだ。SNS活用を成功に導くステップについて、社外向け・社内向けという2つのアプローチに沿って話を聞いた。

「いいね!」だけでは社内で評価されない

株式会社エイチ・アイ・エス(以下、H.I.S.)(*1)が運用するInstagramのアカウント「タビジョ(@tabi_jyo)」(*2)が注目を集めている。「タビジョ」とは、その名の通り“旅する女子”のことで、女性たちが旅先で撮影した“インスタ映え”する写真に「#タビジョ」のハッシュタグをつけて、投稿してもらうというものだ。2016年3月のアカウント開設以来、「タビジョ」のフォロワー数は右肩上がりに増加し、今ではH.I.S.の公式Instagramアカウント(@ his_japan)(*3)の約3万7000人をしのぐ約5万人。ハッシュタグ「#タビジョ」での写真投稿は、約62万6000件(2018年2月時点)におよぶという。

タビジョのイメージ
「タビジョ(@tabi_jyo)」のTOP画面

タビジョを運営するのは、「お客さまが旅に出るきっかけをつくる」をミッションに、H.I.S.のSNS運用を一手に担うコーポレートコミュニケーションチームだ。同チームは早くからSNSを活用しており、2010年に運用を開始したH.I.S.の公式Facebookページ(*4)のファン数はいまや36万人以上、投稿のたびに毎回300~400の「いいね!」がつく。順調なSNS運用を行ってきたように思えるが、実は社内の評価は芳しくなかったという。同社の関東広告グループ コーポレートコミュニケーションチーム チームリーダーの丹下陽一郎氏は、こう語る。

「Facebookで『いいね!』をもらえるのは、秘境や絶景などの行きづらい場所の写真が多く、お客さまから得られる反響も『一生に一度は行ってみたい』というものばかりです。実際にFacebookがきっかけで『旅行に行ってもらえた』という直接の手ごたえは感じづらかったのです。本当にミッションに即した運用ができているのか正直わからず、社内で『“いいね!”は、どのような成果につながっているのか』と問われても、答えにつまっていました」(丹下氏)


株式会社エイチ・アイ・エス 関東広告グループ コーポレートコミュニケーションチーム チームリーダー 丹下陽一郎氏

顧客が旅にいきたくなるきっかけをつくるためには、顧客が旅の臨場感に触れ、現地ならではの情報を手に入れたくなるような場が必要なのではないか。そういった場をつくるためには、企業が一方的にメッセージを伝えるのではなく、顧客も一緒になって情報発信できる「コミュニティ」を目指すべきではないか――。そう考えた丹下氏が目をつけたのが、当時、流行の兆しを見せていたInstagramだった。

「Instagramのプロフィール欄に注目してみると、自分が行った国の国旗の絵文字を並べて旅好きであることをアピールされている女性たちが、数多くいたのです。当時リケジョやレキジョのような『〇〇ジョ』というくくりが流行していたことから、彼女たちを『タビジョ』と名づけ、『旅好き』という共通項を持つ人たちが集まるコミュニティにしようとアカウントを開設しました」(丹下氏)

従来の公式アカウントと「タビジョ」は何が違うのか

当時、Facebookの投稿を転用するだけの運用ではあったものの、すでにH.I.S.の公式Instagramアカウントは存在していた。タビジョのアカウントはそれと何が違うのか。その差がもっともわかりやすいのが、投稿される写真だ。

H.I.S.公式アカウントへの投稿は、まるでプロが撮影したような、アーティスティックな雰囲気の写真が多いのに対し、タビジョのアカウントでは、ごく普通の女性が自然に旅を楽しんでいる写真が投稿されている。

「『タビジョ』に投稿される写真は、私たち旅行業界の人間から見れば『そこを撮るの?』と思うような、ごく普通のストリートや壁の前の写真ばかりです。彼女たちにとって、旅の写真はセルフブランディングや自己表現の手段のひとつなのでしょう。そういったインスタ映えを意識した写真は、見る人に『私も行きたいな』と思わせる不思議な説得力があるのです」(丹下氏)


左側が「タビジョ」の投稿、右側が公式アカウントへの投稿

さらに同社は、「タビジョ」との関わり合いに積極的なユーザーを、「タビジョ公式インスタグラマー」に任命して、コミュニティ活性化のための協力を仰いでいる。彼女たちには「#タビジョ」のハッシュタグで画像を積極的に投稿してもらうだけでなく、公式レポーターとして、彼女たちが海外に赴いた際にInstagramのストーリー機能を使用して動画レポートを行ってもらったり、旅先で仕入れた情報を、H.I.S.が運営する旅の情報マガジン「Like the World」(L!W)に掲載するレポートとして提供してもらったりしている。

タビジョ公式インスタグラマーの活用イメージ図
投稿された画像のメディア連携

社内の理解を促進するために

日を追うごとにフォロワー数は伸び、「#タビジョ」のハッシュタグをつけた投稿も加速度的に増加した。しかし、社外での話題性の高さに比べ、社内での認知はいまひとつだった。

そこで丹下氏は、「自社の施策が世間でこんなに話題になっている」ということを、社外から声が届くように仕掛けた。ハッシュタグ「#タビジョ」での画像投稿が1万枚、5万枚、10万枚……と、キリのいい枚数を突破するタイミングで、ファン交流型イベントなどを実施し、広報部門と連携してプレスリリースを配信。それにより、メディアから取材依頼が入ったり、政府観光局から施策連携の話が舞い込んできたりといった反響があり、狙い通り社内からも好意的な意見が増えていった。

同時に、関東広告グループ マーケティングチーム 担当リーダーの高司奈奈氏は、全国各地にいるH.I.S.の店舗スタッフに向けて、Instagramを通じたタビジョの取り組みを知ってもらうための活動に奔走した。

「旅行商品を選ぶ際、店舗スタッフにアドバイスを求めて来店されるお客さまは多くいらっしゃいます。そうしたときに、#タビジョに寄せられるリアルな旅の情報は、お客さまに商品をおすすめする際の参考になります。スタッフにタビジョの存在を知ってもらい、そしてフォロワーになってもらうことで、接客の質が向上し、店舗の価値も高まります」(高司氏)

タビジョが、営業の材料として活用できることを店舗スタッフに知ってもらうことで、現場から上層部にも「タビジョが浸透してきている」という声が伝わっていく。そして、「タビジョを見た」といって来店する顧客がいることで、さらにタビジョに対する社内の印象は向上していった。

「タビジョツアー」で目に見える売り上げ貢献を

地道な取り組みによって社内の認知が進み、店舗スタッフの営業素材としてタビジョが活用されることで「旅のきっかけづくり」にも貢献できた。しかし、社内におけるタビジョの価値をもっと高めるためには、売り上げに貢献していることが目にわかる形で欲しい。そこで企画されたのが、「タビジョツアー」だ。

タビジョツアーは、タビジョに情報提供してくれるレポーターたちの意見を元に企画された、H.I.S.の人気ツアー商品だ。世界各国を旅行している彼女たちを、本社に招いて座談会を開催。そして、ツアーの企画担当者とともに意見を交わし合い、「タビジョがおすすめするツアー」をつくりあげた。販売開始から1年経ったが、すでに約20種類のツアーが生まれたという。

「タビジョの成果を社内に理解してもらうには、やはりツアー商品の販売が一番わかりやすいのではないかと考えたのです」(丹下氏)

ただ、タビジョの名前を前面に出したツアー商品の企画には、当初迷いもあった。

「純粋なコミュニティとしてタビジョを運営してきたわけですから、むやみに商用利用に結びつけると、ファンになってくれた方々の反感を買う結果にもなりかねません。そのため、実際にファンの方々とお会いして、タビジョらしい旅とはどういうものかを語ってもらい、ツアーのあり方を少しずつ探っていきました」(丹下氏)

慎重に慎重を重ねて、ツアーの発売開始までに1年もの時間を費やした。しかし、ファンに寄り添って進めてきたことで、タビジョツアーに対するネガティブな声はコミュニティ内でほとんど聞かれない。ファンたちもツアーの宣伝に協力的だという。

「タビジョツアーは、旅行の初心者や効率よくフォトジェニックな場所を回りたい方に向けて、タビジョたちが自らの経験を生かしてつくりあげた、思いのこもった内容になっています。それだけに愛着があるのか、自分たちの写真がパンフレットなどの宣伝素材に使われることに関しても非常に協力的です」(高司氏)


株式会社エイチ・アイ・エス 関東広告グループ マーケティングチーム 担当リーダー 高司奈奈氏

KPIは「売り上げ実績」と「ハッシュタグ数」の2軸で

このように、ファンの声を取り入れながらつくられたタビジョツアーの売り上げは上々だ。Instagramを活用した施策の数値目標にも、『#タビジョ』のハッシュタグ数に、タビジョツアーの売り上げが加わり、SNS運用が会社に貢献できることを証明しようとしている。

「まず重要なKPIは、やはりタビジョツアーの売り上げ実績ですね。具体的な数字を伸ばしていくことで社内の理解を一層深めたいと思います。そして、対ユーザーとの関係でいえば、特に重視したいKPIが、『#タビジョ』のハッシュタグ数です。この数がタビジョへの共感、支持の表れだと考えています」(丹下氏)

今後さらに「#タビジョ」を盛り上げていくために、ファンのニーズをしっかりとくみ取って、彼女たちの自己表現の場を強固にしていきたいと語る丹下氏と高司氏。Instagramの運用が、多くのファンを獲得しただけでなく、会社の売り上げ向上にまでつながった例は、まだ多くない。しかし、コミュニティを創出し、そこに潜在顧客層の参加を促進し、情報交換を活発化させ、魅力ある商品企画へとつなげるH.I.S.のInstagram活用法は、SNSの運用成果に悩む担当者に1つのヒントを提示してくれたのではないだろうか。

注釈:
(*1)株式会社エイチ・アイ・エス(外部サイト)
(*2)タビジョ(@tabi_jyo)(外部サイト)
(*3)H.I.S.公式Instagram(@ his_japan)(外部サイト)
(*4)H.I.S.公式Facebook(外部サイト)

プロフィール

株式会社エイチ・アイ・エス 関東広告グループ コーポレートコミュニケーションチーム チームリーダー 丹下 陽一郎氏

店舗・コールセンターでの営業、モバイルサイト運営などを経て、現在は、広告グループ コーポレートコミュニケーションチームに配属。SNSなどを通じ、消費者と円滑なコミュニケーションを図ることにより、旅行の需要喚起・新たなビジネスモデルの構築に邁進中。

株式会社エイチ・アイ・エス 関東広告グループ マーケティングチーム 担当リーダー 高司 奈奈氏

店舗での営業、営業支援業務、広報業務を経て、現在の広告グループ マーケティングチームに配属。顧客インサイトにより寄り添えるような商品・サービスの提供ができるよう活動を遂行している。

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