マーケティング戦略

シリコンバレーの成功の陰に「顧客データ」あり

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スコット・ギャロウェイ氏の新著『The Four: The Hidden DNA of Amazon, Apple, Facebook, and Google』(*1)は、4つの企業それぞれがどのようにユニークな形で成功を収めたかをうまく説明しています。しかし、それらの企業の成功の鍵は、たったひとつの競争優位性に集約されているのです。それが「顧客データ」です。

4大テック企業は、顧客の属性や趣味嗜好(しこう)を正確に把握することに力を注ぎ、前例のないインフラを構築しました。そのインフラを活用して、顧客の行動を追跡し、何に関心があるかを把握し、そして顧客に関わるあらゆるものをパーソナライズしています。4社は顧客データを異なるやり方で収益化し、ビジネスを展開していますが、いずれの場合も、そのデータ活用がそれぞれの業種において優位性を保つ理由になっています。

GoogleとFacebook: 広告市場の複占

「シリコンバレーでの成功した企業」といえば、FacebookとGoogleが思い浮かぶことでしょう。しかしその成功のストーリーは、顧客と資本市場、デジタルマーケターとパブリッシャーでは異なる捉え方をされています。

GoogleとFacebookのすばらしい株価、売り上げの上昇、そして順調に拡大するユーザー数は、ベンチャーキャピタルや投資家、金融機関にとっては喜ばしいものでした。しかし、広告業界にとっては全く違いました。なぜなら、インターネット広告の世界ではこの2社による複占状態となっているからです。

数字は正直です。モルガン・スタンレーのアナリスト、ブライアン・ノワック氏は、インターネット広告で1ドルが使われる度に、そのうち85セントがGoogleかFacebookのどちらかに流れていると見積もっています(*2)。また、パブリッシャーの事業者団体であるDigital Content Nextによる最新の調査によると、2016年上半期のデジタル広告市場における成長のほとんどの割合をFacebookとGoogleが占めており、この2社を除くと市場シェアは縮小していました(*3)。「複占(duopoly)」とはこの2社によるデジタル広告業界の支配的な構造を表しており、かつその状態を的確に表している言葉です。

FacebookとGoogleという2大企業は、どのようにオンライン出版社や広告企業、さらには他の一般的な媒体と異なる形で成功できたのでしょうか? その答えはとてもシンプルで「GoogleもFacebookも顧客をよく理解している」ということに尽きます。

この2大企業が登場する前は、広範なオーディエンスに向けたマーケティングといえば、おおざっぱな手法によるものでした。基本的にマスマーケティングとは、商品が何であるかに関わらず、市場にいる人にできるだけ多くリーチして、その中から実際に購入する可能性のある人を探すということを意味していました。そのため、コストに無駄が生じるのは当然でしたし、実際に購入してくれる可能性の高い特定の個人へリーチするための手法は、ダイレクトメールやテレマーケティング、そしてメールマーケティングに限られていました。

GoogleとFacebookは1 to 1マーケティングをマスマーケティングの規模で実現し、広告業界をすっかり変革してしまいました。両社はデバイスを超えて顧客を特定することのできるIDグラフ(個々の顧客IDに顧客属性を紐付け、マーケティング施策に利用可能な形で保持されているデータ群のこと)を保持することにより、顧客がどのような人で、どのように接触できるかを明確に理解しています。

両社共、元々の機能にとどまらず、顧客にとって必要とされるサービスを提供することで、この方法を確立したのです。そしてGoogle検索、Gmail、Google Docs、YouTube、Instagram、WhatsApp、Messengerといった自社のサービスでログインされた情報だけでなく、他サイトやサービスで活用されたデータも追跡しています。つまり、顧客が他のサイトやサービスでGoogleやFacebookのログイン機能を使えば使うほど、両社が保持するID グラフは強化されていくのです。

顧客が何者かがわかっているということは、デジタル上での顧客の行動は基点となるデータに紐付けられるということを意味します。それにより、顧客の興味関心を細部にまで把握することが可能になり、一人ひとりにどのようなメッセージを送れば効果があるのかまで分かるようになります。一般的なマーケティング担当者が顧客の行動自体に対してターゲティングした広告を配信する一方で、GoogleやFacebookは、特定の顧客その人自身に対して広告を配信することができるのです。

このPeople Based Marketing(PBM)と呼ばれるコンセプトは、大きく取りあげられることはありませんが、GoogleとFacebookのイノベーションの中核をなすものであり、収益を押し上げる要因です。両社はPBMを迅速かつシンプルに利用できるようにしたことで、売り上げや収益の数字を伸ばし続けています。

Amazon : 小売業界の絶対王者

さて、GoogleとFacebookの「複占」に割って入れるのはどの企業でしょうか? 投資家の多くは、業界の枠を越えたビジネスの先導者であるAmazonがまさにそうであると考えています(*4)。世界最大の広告代理店、WPPのCEOであるマーティン・ソレル氏が最も注目しているのは、Oath(Verison傘下のネット広告企業)でもなければ、SnapchatやTwitterでもなく、Amazonです(*5)。

世界最大の小売業者であるAmazonは、熟練したインターネット広告プラットフォームであるFacebookとGoogleにどのように立ち向かうのでしょうか? Amazonは世界で最も大規模で洗練されたID グラフを持っています。そのIDグラフにより、誰がどんなデバイスを使って、どのようにコンテンツを閲覧して、買い物をしているかという情報を相互に参照しています。これによりAmazonの広告事業は群を抜いているといえます。事実、eMarketerによるとAmazonの広告収入は1.65億ドルで、前年比48.2%も増加しています(*6)。これは他の主要なパブリッシャーをすべておさえた桁外れな成長です。米国におけるAmazonのデジタル広告による収益は、GoogleとFacebookには及ばないものの、TwitterやSnapchatをおさえて、5番目の規模です。

もちろんAmazonはコア事業を収益化するために広告を売る必要すらありません。すでに、Amazonでは顧客に商品をレコメンドしたり、アップセルを行ったり、また顧客の興味関心や購買履歴にぴったりのプロモーションが展開されています。

Amazonがそのプラットフォームを通じて扱う商品を増やし続ければ、顧客がそれぞれの商品群での全く異なる動きをしても、単一の顧客データに紐付きます。このように豊富な情報をもつ顧客データを維持することで、Amazonはあらゆる事業に参入し、すぐさま競争力を発揮することが可能なのです。

Apple : 眠れる獅子

そしてAppleです。一見したところでは、顧客データがAppleの収益にどのような影響を与えているかはわかりません。Appleが販売している商品は、細心の注意をはらい、厳密に均一化され、完成形を高めて作られています。そのためデザイン以外のことには重きを置かれず、パーソナライゼーションから逆行しているかのようにも見えます。

しかしながら、一度iPhoneまたはiPadを使い始めると、話は全く違ってきます。iPhoneの購入者は、まずこの端末を起動するためにiCloudにログインするところからはじめます。この必須となっているログインは、端末を“購入者のもの”にするのと同時に、パソコンやタブレットなどへの連携を可能にするのです。iCloudのプロフィールはiTunesでの購買情報や連絡先情報などにリンクされます。そして、重要なのは、iCloudにより、既存の連絡先情報やその他の情報を一切失うことなく、購入者を新しいiPhoneの所有者として引き継ぐことができるということなのです。

iPhoneの購入者の大半は以前もiPhoneを使っています。そのためiCloudによって識別された顧客データは、新しい商品を手にした顧客に引き続きAppleが提供するサービスや商品を利用していってもらえるよう、重要な役割を果たします。指紋認証やiPhone Xの顔認証、Siriの音声認識のために声を記録させるといったことをする前に、新しい端末が購入者のことを知っているのは、そのためです。

Appleの顧客データの活用が他の3社と決定的に違うところは、その顧客データが、ほとんどAppleの利益のためだけに設計されていることです。そして顧客データを活用することで、Apple製品はもちろん、iPhoneの新機種も販売促進が簡単にできるのです。

顧客を知ろうとする飽くなきパワーはビジネスの成功を物語っています。顧客は誰なのか、どんな層にしており、何に興味をもっているのかを知ることは、商品のパーソナライゼーションや広告のターゲティングを行う上で、重要な鍵といえます。市場を支配するか、市場から追いやられるかは、顧客データの活用にかかっているのです。

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