ビジネス創出

エブリセンスジャパンが実現する、世界初の「データ取引市場」とは(前編)

記事内容の要約

  • 個人・企業が自由にデータを売買できる取引市場「EverySense」が立ち上がった
  • 個人が自身に関するデータを自由に売買するツールとして、アプリ「EveryPost」とデバイス「EveryStamp」を展開
  • 個人がデータを提供しやすくなるためには、明確なメリットが必要
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2016年秋、エブリセンスジャパン株式会社は、世界初となるデータの取引市場「EverySense」を立ち上げた。官民データ活用推進基本法などの法整備が進み、情報銀行などのキーワードも話題になっている昨今、同市場は企業のデータ活用にどのような影響を与えるのか。そして、市場が活性化するためにはどのような仕組みが必要なのか。エブリセンスジャパン株式会社 代表 真野浩氏に話を聞いた。

世界初となる「データの取引市場」を実現

エブリセンスジャパン株式会社が開発・提供するサービス「EverySense」は、世界中のあらゆるデータの売買を仲介する“データの取引市場”だ。2015年に開設して以来、徐々に本格展開を進めている。

データの売買という行為自体は、昨今では珍しいことではないが、EverySenseのユニークな点は2つある。1つは、EverySenseで売買されるデータが、購買履歴など蓄積されたログデータだけではなく、IoT機器などのセンサーからリアルタイムに取得されるデータ(=ストリームデータ)も対象にしていること。もう1つは、データ提供者自身が、提供したいデータの粒度や価格、提供したい相手を決定できるところにある。データの粒度とは、たとえば29歳の男性が、「25歳以上の男性」まで判明するデータは売りたくないが、「20代」までの範囲ならデータを売ってもいい、といった具合だ。この2つの特徴をもったデータ取引を介する事業者は、EverySenseのほかにない。

IoTデータ流通マーケットプレイスEverySenseの全体イメージ
IoTデータ流通マーケットプレイスEverySenseの全体像

エブリセンスジャパン株式会社 代表取締役 最高技術責任者を務める真野浩氏は、EverySenseを次のように説明する。

「個人であれ企業であれ、データを持つ売り手と、それを必要とする買い手が集まり、自由に値付けをして取引を行います。当社は、仲介者として手数料をいただきます。まさに“データ版 証券取引所”のような存在であり、このようなサービスは世界的に見てもおそらくほかに例はないでしょう」(真野氏)

アプリとデバイスで個人からのデータ提供を促進

企業だけでなく、個人も参加できるデータの取引市場を実現するためには、単に場を用意するだけでなく、個人が簡単にデータを提供できる仕組みも必要となる。そのために展開しているツールが、スマートフォンアプリ「EveryPost」とIoTデバイス「EveryStamp」だ。

EveryPostは、iOSとAndroidに対応した無料アプリだ。このアプリを使えば、スマートフォンに内蔵されている各種センサーで取得した「歩数」や「位置情報」といったデータを、提供するデータの粒度や価格を決めたうえで買い手側に提供できる。

EveryPostのイメージ
EveryPostの画面(左がデータのオーダー一覧、右は自分が提供したいセンサーを設定する画面)

EveryStampは、温度や湿度、加速度、照度、位置といった環境データを取得できる、手のひらサイズの汎用(はんよう)型センサーデバイスだ。専用モニタリングアプリを使えばスマートフォンで取得データを確認できる。そして、取得したデータはEverySenseのサーバーを通じて買い手側に提供できるようになっている。

デバイス「EveryStamp」の画像
デバイス「EveryStamp」

エブリセンスジャパンでは、この2つのツールを展開することで、「個人がデータ流通の場へ参加しやすくなるように提案しています」(真野氏)という。

ところで、個人のデータ売買を可能にする仕組みとして「情報銀行」がある。一見するとデータ取引市場も同じようなものに思えるが、真野氏はその違いを次のように説明する。

「EverySenseは、あくまでもデータと対価のやりとりをする場を提供するだけで、売買はそれぞれの判断でEverySenseを通じ直接行います。先ほどもお話したとおり、われわれはデータ版の『証券取引所』のような存在です。これに対し情報銀行は、行動履歴や購買履歴などのデータを個人から預かって一元管理して運用し、必要に応じてマッチングするというビジネスです。つまり、情報銀行とは厳密にいうと、『信託銀行』に近いのです。言い換えると、情報銀行は包括合意に基づくもので、取引市場は個別合意に基づくところが大きな違いです」(真野氏)

今のIoTは真の「インターネット・オブ・シングス」ではない

そもそも、真野氏はなぜデータの取引市場をつくろうと考えたのだろうか。真野氏は、ワイヤレスIPルーターの開発に世界で初めて成功した経験をもつ、インターネット業界では有名な起業家で、技術者や経営者としての経験も豊富だ。そんな同氏が、4年前に新しいビジネスを考えていたときに感じたのが、昨今の「IoT」に対する疑問だった。


エブリセンスジャパン株式会社 代表取締役最高技術責任者 真野浩氏

「今の世の中には、IoTをうたうサービスやデバイスが山のようにあります。しかし、その多くは、『インターネット・オブ・シングス(IoTの正称)』ではなく、『イントラネット・オブ・シングス』に過ぎません。なぜなら、今のIoTのほとんどは、一企業が提供するサービスやデバイスと、ユーザーが持つ個々のスマートデバイスとでデータのやりとりが完結してしまっています。インターネットと呼ぶなら、1つの製品や企業を越えて、もっと広くデータを流通させるべきだと思うのです」(真野氏)

データをもっと自由に流通できる世界。真野氏がその実現を目指すのは、データの閉鎖性が、データ活用の妨げにもなっていると考えているからだ。

ここ数年、企業は「ビッグデータの活用」を合言葉に、データの収集や分析に熱心だった。大量のデータがあれば、そこに何か価値を見いだせるに違いなく、企業の競争力を高めるはず――多くの企業はそう考えていた。これは、決して間違いではない。しかし、真野氏は「データを大量に保持することも大事ですが、データの多様性がなければ真のデータの活用には至りません」という。

「自社で収集できるデータには限界があります。たとえば、自動車メーカーは顧客の車両走行データをもっているでしょうが、顧客の日々の体調に関するデータはもっていません。そのため、自動車メーカー側から『昨日飲みすぎたようなので、今日は長距離運転をひかえましょう』というアラートを出すことはできません。私は、新しいサービスや製品は、自社が持っていないデータも掛け合わせてこそ生まれると思っています。じゃあ、足りないデータを気軽に買える場所があればいいのではないか、と思いついて生まれたのがデータの取引市場であり、EverySenseです」(真野氏)

データ提供者に明確なメリットを示すことは必須

とはいえ、「データを気軽に買える場所」があれば、データの取引が活発になるかといえば、そう簡単ではない。そもそも現状では、個人の側に「自身のデータを提供する」という意識がほとんどないからだ。何らかのサービスを利用した際、利用規約に従って自分のデータを企業に提供したり、二次利用を許諾したりすることはあっても、自分のバイタルデータや、1日の歩数といった個人的なデータを企業に渡すことへの心理的なハードルは、依然として人々のあいだに存在している。

そこでEverySenseは、データ取引の場を提供すると同時に、データ取引という新しい経済が社会に受け入れられるよう、果たすべき役割があると考えている。その役割をひとことで表現するならば、「データ取引を円滑かつ公正な形で進められる基盤づくり」であり、データ取引に求められる基本概念の設計から、プラットフォームのユーザビリティーまで幅広い取り組みとなる。具体的には、以下のような役割だ。

  • データを提供した人は、データを活用して利益をあげた企業から、提供したデータ量に応じてインセンティブを受け取れるようにする
  • データを持つ個人が、自身のどのデータをどの粒度まで提供しても良いか決める権利を持ち、その決定に基づいて取引を行えるようにする
  • 市場はつくるが、実際の取引には介入しない
  • 取引を円滑に進めるため、ユーザビリティーの向上に努める

「個人が企業にデータを提供することに嫌悪する主な理由の1つは、『何に使われるか分からない』ことへの不安。そしてもう1つが『データを提供するメリットが見えない』ということです。個人情報保護法が許す範囲内だったにもかかわらず、JR東日本や日立がSuicaのデータを利用しようとして炎上したのは、事前説明が不足していたこともありますが、提供者側のメリットが見えなかったことも要因だと考えています。

EverySenseでは、個人が自分のデータを取引する条件を、自分の意思で選択できるようにしました。各々でメリットとデメリットを判断して、きちんと納得したうえで、個人が自身のデータを提供できるようにしているのです」(真野氏)

市場に流通させるのは、「情報」ではなく「データ」

さらに、個人のデータ提供を促すためのもう1つのポイントが、「市場には、情報ではなくデータを流通させる」ということだ。

「勘違いしていらっしゃる方も多いのですが、『データ』と『情報』は異なります。たとえば、11桁の数字の羅列があったとして、それはただのデータであり、意味を持ちません。しかしそこに、『電話番号』、『日本の企業』など属性を示すデータが組み合わさったら、ただの数字の羅列が『情報』となり、意味を持つのです。

一般的に、人は『情報は私有財産だ』という意識が働くので、提供したがらないものです。もし、畑の温度を日々データで管理している農家さんがいるとして、その人に『畑の温度データを私にも提供してください』と言うかわりに、『肥料が効く最適な温度も教えてください』と言うと、ノウハウの提供につながってしまうため、おそらく渋い顔をされてしまうでしょう。そのため、EverySenseでは、個人が提供するデータには匿名性を持たせて、『情報』ではなく『データ』が流通するような仕組みにしています。パーソナルデータの提供に対する不安を減らすことで、自分のデータを提供することへの心理的なハードルを低くします」(真野氏)

ただ当然ながら、単に「データ」を提供するだけでは、利便性は低くなる。たとえば、温度データの提供者がいたとして、一方は「摂氏」、もう一方は「華氏」の単位だとしたら、数字の意味がまったく違ってきてしまう。そこでEverySenseではこうした場合、これらのデータに「温度」というメタ情報を付与し、目的に応じて摂氏と華氏の両方のデータを取得できる仕組みを整え、利便性やユーザビリティーの強化に努めているそうだ。

2018年1月現在、EveryPostのダウンロードは順調に伸びている。歩数データで検索すると、データを提供してもいいというユーザーは1000人以上いるという。まだ実証実験という意味合いも強く、サービスの成長はこれから図っていく必要があるが、徐々に有償の取引実績も出始めている。後編では、今後データ取引市場を定着・成長させるために必要な取り組みと課題について聞く。

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プロフィール

エブリセンスジャパン株式会社 代表取締役最高技術責任者 博士(工学) 真野 浩

電子機器メーカー勤務などを経て、1993年にルート株式会社を設立。デジタル無線通信機器や、高速インターネットを実現する無線IPルーターを開発し、地域情報化や学校ネットワーク等への導入を促進。無線LANを用いた高速移動体通信システムの開発、実用化の事業化、無線利用、地域情報化のための各種審議会、研究開発事業にも多数参画。2010年よりIEEE802.11 FIA-SG, TGai chairとして国際標準化活動を行っている。

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