ビジネス創出

データ取引が当たり前の社会に――エブリセンスジャパンの挑戦(後編)

記事内容の要約

  • 取引の安全性を高めるため、ユーザーの与信やデータ品質を担保する責任はエブリセンスジャパンが担う
  • データ取引市場における詳細なルール作りは民間団体などが中心となり推進
  • 日本はデータ取引プラットフォームの先駆けとなることで、グローバルなIT既存勢力に対抗することが可能
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データコープ(Data Co-op)や情報銀行といったキーワードが話題になりつつあるが、個人と企業が入り交じってデータの売買が行われる状況は、まだ一般的とはいえない。今後、データの取引が活発になり、データ取引市場が広く認識されるためには、どのような課題があるのだろうか。さらに、日本が真のデータ立国となるためには、データ取引市場はどのような意義をもつのか。エブリセンスジャパン株式会社の代表 真野浩氏に聞く。

安全性は重要、だが取引は自由であるべき

人々に、「自身に関するデータを売ってみよう」という気持ちを持ってもらうためには、「対価」という明確なメリットを示され、かつ販売先から価格設定、どのようなデータを提供するかまで、自分で決められるようにすればいい――。

これが、真野氏の考える、データの取引市場が活性化するための条件だ。しかし、個人にデータを提供してもらうためにはまだ越えなければならない壁はある。それは、安全性や信頼性の確立、そしてマインドを変えることだ。


エブリセンスジャパン株式会社 代表取締役最高技術責任者 真野 浩氏

「個人が提供するデータを扱ううえで、市場として考えなければならないのが、安心安全な取引をどう担保していくかです。われわれは市場であるゆえ、中立かつ公平な存在でなければならず、取引に対して介入しません。あくまでも、データ提供はおのおのが自己判断で行う自由経済というのが原則としてあるべきなので、第三者が口を出すことではありません。その中でわれわれにできることとして、市場の参加者が信頼できる人または企業かどうかを確認しています」(真野氏)

市場参加者の信頼性を確認する方法として、具体的にはデータ購入者に対しては与信設定や存在確認を行ったり、虚偽や不正が認められたりした場合は、エブリセンスとして法的措置をとることなどを約款で定めている。また身元が怪しかったり、データの利用目的が不明瞭だったりするユーザーは、データの購入に制限がかかるようになっている。

「購入者はデータの使用目的を書く必要がありますが、詳細に書けば書くほど提供者に信頼してもらえます。つまり、希望どおりのデータ量を購入したいのであれば、しっかりと身元や使用目的を明らかにしなければならないのです」(真野氏)

企業が安心してデータを買える場に

一方、データを購入する企業側の信頼も得る必要がある。たとえば、「歩数データ」を購入したい企業に対して、スマートフォンを手で振ってカウントを稼いだ捏造データが売られるようなことがあってはいけない。そのため、もし提供されたデータが不正なものであるという疑いがある場合、取引を中止することができる。購入済みのデータで不正が発覚すれば当然返金対応も行う。企業側が安心してデータを購入できる環境をつくることも、市場の成長には不可欠だ。

「データを売ると対価が得られると話しましたが、お金ではなくポイントがたまるようになっており、それを現金やほかのポイントサービスに交換してもらう仕組みになっています。そして、ポイントはすぐに受け取れるのではなく、少しタイムラグがあります。それが、不正回避にもなっています。詐欺師は時間がかかることを嫌がりますからね。また、データが誰から誰に渡ったかを監視をしています。データの中身はのぞきませんが、トレーサビリティーは安心安全な取引のためには必要です」(真野氏)

市場のルールはみんなで作る

データ取引市場という、全く新しいサービスを広めるためには、単なる技術的な仕組みづくりだけでなく、業界や世間を交えてのルール作りやコンセンサスの形成も重要だ。

「先ほど説明した、安全性や信頼性を得るための仕組みは、あくまでも当社が考えたものです。しかし、開かれたデータ取引市場として普及させるには、社会全体に受け入れられるルールでなければならず、市場の公平性の観点からも、当社だけでルールを決めてしまってはいけません。そこで、『データ流通推進協議会』(*1)の活動のなかで、EverySenseでのルールが社会全般に受け入れられるものとなるべく、さまざまな視点で議論を重ねながらデータ流通の仕組みを社会に定着させることを目指します」(真野氏)

そのデータは誰のものなのか? という意識付けが重要

これまで述べたように、エブリセンスジャパンは、データの流通が活発になるために、データ提供者に「自身のデータを提供するか否か」の選択権を与えて、安心安全に取引が行える環境づくりにいそしんでおり、協議会と連携してルール作りに参加している。しかし、個人がデータを売る世界が一般的になるまでの道のりはまだまだ長い。根本的な課題として、「データを売る」という感覚がまだ人々になく、「データは価値があるもの」という認識が、世間に浸透していないことがあるという。データの価値を顕在化していくためには、EverySenseを老若男女に使ってもらえるようなサービスにして、「データを売る」という行為自体を世間に浸透させていくことが求められる。また、データの持つ価値を認識してもらうためには、「そもそも、そのデータは誰のものなのか」ということも意識させるべきだという。

「たとえば検索履歴のデータは、検索機能が利用されることによって生み出されます。これは、検索サービスが存在したからこそ生まれたデータともいえます。つまり、検索サービスを提供する側と利用する側の共有財産なのです。そして、検索サービスを提供する企業がデータを活用して、利用者にとって潜在的に興味あるコンテンツをレコメンドすれば、検索のデータを収集する側だけでなく、利用する側にもメリットをもたらすことになります。こういった相互作用に対する意識や気づきをもっと浸透させていきたいですね」(真野氏)

日本がプラットフォーマーとして勝つために

真野氏がデータビジネスに着目したのは、単にビジネスとしての可能性があったという理由だけではない。日本のインターネットやIT業界を黎明期から見てきた人間として、GoogleやAmazon、Facebookといった米国のハイパージャイアントたちと戦える土壌を作りたいという思いがあったからだ。

「データ保有量では、今からGoogleやAmazonに勝つことは不可能でしょう。じゃあ、日本に勝機がある分野が何かというと、データを流通させるプラットフォームの領域です。なぜなら、もしもGoogleがデータ取引市場を作ろうとしたら、『自社で大量のデータを持ちながら取引市場を運営するのは、正しいことではない』と、中立性の観点から非難できます。東証が、自ら株式の売買をすることが許されないのと同じ。世界的にもこれは共通の感覚でしょう。日本は、データを流通させる市場で勝てばいいのです。そのためにも、『データを売買する行為』をもっと盛り上げなければいけませんし、競合となる取引市場が出てきても歓迎します。東証もあれば、ナスダックもあるわけで、それと同じことです」(真野氏)

そもそも、真野氏が日本で市場を立ち上げたのは、「日本の取引市場に世界中からデータが集まるようにしていきたい」という思いからだ。そのためにも、プラットフォームの多言語対応も視野に入れている。

今後日本がデータ立国を目指すためには、データ利活用が促進するための法整備などを行うと同時に、データが流通するプラットフォームを構築し、盛り上げていくことが必要なのかもしれない。そして、データの取引を普及させようと奮闘するエブリセンスジャパンの取り組みは、日本におけるデータ活用の活性化に一役買っていくことだろう。

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注釈:
(*1)内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室、総務省、経済産業省におけるワーキンググループの検討を踏まえ、データ提供者が安心して、かつスムーズにデータを提供でき、またデータ利用者が欲するデータを容易に判断して収集・活用できる技術的・制度的環境を整備すること等を目的に設立された団体。

プロフィール

エブリセンスジャパン株式会社 代表取締役最高技術責任者 博士(工学) 真野 浩

電子機器メーカー勤務などを経て、1993年にルート株式会社を設立。デジタル無線通信機器や、高速インターネットを実現する無線IPルーターを開発し、地域情報化や学校ネットワーク等への導入を促進。無線LANを用いた高速移動体通信システムの開発、実用化の事業化、無線利用、地域情報化のための各種審議会、研究開発事業にも多数参画。2010年よりIEEE802.11 FIA-SG, TGai chairとして国際標準化活動を行っている。

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