ビジネス創出

データが拓く飲食店の可能性【後編】――個客へのフォーカスが生み出すもの

記事内容の要約

  • 会員データを活用して、会員ごとの嗜好に沿ったサイドメニュー提案を行うことで顧客単価の向上を実現
  • 完全会員制にすることで、店舗のオペレーションを最適化して運営コストを抑制
  • 会員ごとの属性、来店頻度や利用額を分析することで、LTVが高い会員の特徴の把握が可能に
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この記事の前編を読む

日本初となるサブスクリプションモデルの飲食店を経営している株式会社favy。前編では、飲食業が、ビジネス構造にある根本的な課題によって顧客データを収集・活用できない状況と、その解決策となるサブスクリプションモデルの有用性を解説した。後半では、実際に同社が経営する会員制肉料理レストラン「29 ON」と、月額制のカフェ「coffee mafia」の成果を見ていく。

コーヒーショップでできるデータ活用

ドリップコーヒーが評判のカフェ「coffee mafia」は、現在、東京の西新宿と飯田橋に店舗を構えている。2種類の定額制サービスがあり、月額6500円のプランではすべてのソフトドリンク(スペシャルティコーヒーを除く)が1杯無料になり、夜は料理やアルコールメニューに割引が適用される。月額3000円のプランであれば、来店する度に300円のコーヒーが1杯無料になるため、1カ月に10回来店すれば元が取れる計算だ。なお会員にならなくても同店舗は利用可能だが、favy代表取締役 高梨巧氏によると、来店客の多くは月額会員だという(会員数は非公開)。

来店した会員は、「favy」の専用アプリ内に表示される会員券のQRコードを会計の代わりに提示する。店側がそれをスキャンすると、注文日・注文内容などが入った“レジID”と、“お客さまID”が紐付けられる。

お客さまIDには、会員登録の際に取得した属性データ以外にも、favyが運営しているグルメサイト内での行動履歴や、第三者配信で取得した趣味嗜好(しこう)のデータなども連携されており、これをベースに、来店時のおすすめメニューの案内や、商品開発に取り組んでいるそうだ。もちろん、来店頻度なども把握できる。

データが示す「coffee mafia」の会員の来店回数は、月平均19回だ。favy代表取締役 高梨巧氏によれば、「この数字は、オープン前の想定よりもだいぶ多く、これだけでみれば赤字」だそうだが、「19回も来店しているということは、サイドメニューの提案機会を19回もいただけていること」と捉え、データを活用して顧客ごとの嗜好を捉えたクロスセルやアップセルに取り組んでいる。事実、会員と非会員を比較すると、月会費を除いても、会員の客単価の方が非会員よりも高いという結果が出ているという。

また、データがあることで、何時にどれくらいの来客があるかも予測できるので、それに合わせてリソースを配分し、オペレーションの最適化を図れるというメリットもある。


株式会社favy 代表取締役 高梨巧氏

データの有用性は来店予測にとどまらない。

ある時から、同店では日替わりメニューのランチを提供開始。これは一人当たりの来店頻度を向上させるために、常に新しいメニューを展開して飽きられないようにするというアイデアだった。しかし、日替わりメニューの売り上げが落ち着き始めたころ、レシートデータと会員データを掛け合わせて分析してみると、LTVの高い会員ほど日替わりメニューは頼まずに、レギュラーメニューばかりを注文していることが分かったそうだ。

「日替わりメニューの展開が無駄だったとは言いませんが、あまりニーズのない商品に力を入れていたことになります。われわれはデータ分析することで、犯していたミスに気づけました。しかし、世の中の飲食店には、間違った策を気づかずに打ち続けて、何が原因か分からぬままつぶれてしまうことも結構多いのではないでしょうか」(高梨氏)

29ONが完全会員制である理由とは

一方、「29ON」は完全会員制かつ完全予約制を採っている。coffee maniaが月額会員を募りながらも非会員がいつでも利用できるのに対し、完全会員制の29ONは、店舗の場所も非公開にしている。ただし、会員と一緒に来店すれば非会員も利用可能だ。

「29ON」の門戸を狭める理由について、高梨氏は次のように語る。

「coffee maniaはテイクアウトができるため、たとえ座席が空いていなかったとしてもご利用いただけますが、29ONではコース料理を提供しているため、座席数が来客数の上限となるのです」

予約についても、座席に余裕を感じるくらいの方が顧客満足度は高くなるので、あえて全席を埋めることはしない。会員は年会費を支払うことで積極的に予約を入れるようになるため、プロモーションコストはほとんどかからないそうだ。

完全予約制ということで、常に何人が何時に来店するか事前に分かるため、過剰な仕入れを防ぐことができ、食材の廃棄率も低くなる。コースの時間も、18時と21時の2回転制で設定しているので、オペレーション効率も高く、人件費を抑えられる。これらはすべて食材の原価に反映されており、29ONの食材原価率は、通常の飲食店では考えられない50%超だ。その分、顧客の満足度も高くなる。何より、顧客である会員とさまざまな手段でコミュニケーションできるようになったという。

LTVが高い顧客を捉えるために

高梨氏は、前職で経験した単品通販のマーケティングノウハウが、29ONの経営に生きていると話す。化粧品や健康食品などの通販は、お試しから定期購入へと促す、サブスクリプションモデルの典型だ。

「単品通販に特定の商品を目的とするお客さまが集まるのと同様に、29ONには肉好きな人しか集まりません。だから、CRMの考え方も基本的には単品通販と同じです。リピート利用を促すため、来店頻度が下がってきた会員に特別なインビテーションを送ったり、データ分析して、会員の好みそうな料理を推定し、それをおすすめするキャンペーンをお知らせしたりしています。主なコミュニケーション手段は、電話・メール・ショートメール・ハガキです。これまでのネット通販で行っているふつうの手段で、ふつうにアプローチしています」(高梨氏)

29ONの立ち上げに際しては、クラウドファンディングで会員を募ると同時に、29ONを紹介するランディングページを制作してデジタル広告も活用した。その際、「ファッションが好きそうな層」、「年収が高い層」などのターゲティングする層の調整には、過去の広告出稿経験が役立ったという。

「会員ごとの属性、特徴をあらかじめ把握しておくことで、その後の来店頻度や利用額を分析すれば、コア層はどのような人なのか、LTVが高い人にはどのような特徴があるのかも見えてきます。デジタル広告の世界で、ランディングページ流入後の行動履歴を追っているのと同じ感覚です」(高梨氏)

データ活用スキルは、場数をふんで地道に伸ばす

データを活用できる飲食ビジネスの仕組みを作ったことで、29ON、coffee mafiaの経営はともに順調だ。会員制である両店舗は、全顧客の属性や趣味嗜好がデータから分かるため、どういったメニューをどの層が好むか把握できる。そのため、食品メーカーが特定のターゲットに向けた新商品を投入する際に、試食モニターを集めることが可能なのだ。副次的だが、このサンプルモニターは新たな収益源になりつつある。今では「29ONのやり方を導入したい」という飲食店からの相談も増えているそうだ(*1)。しかし、これまでデータに全く触れてこなかった飲食店が、favyの経営スタイルをまねるにはどのようにすればよいのか。

高梨氏は、「まずは、データ活用にチャレンジしてみようというマインドを持つことが大前提」だとしたうえで、「データの意味を正しく理解することが重要」だと語る。

「データの持つ意味を理解しないと、間違った改善策をとってしまいます。単純な例でいうと、顧客ニーズの高いメニューの特徴を洗い出したいとき、提供数が多いメニューをソートすると、『お通し』がトップになります。しかし『お通し』はそもそもチャージ目的のメニューなので、いくら提供数がトップでも有効なデータといえず、除外したほうがいいわけです。目的に沿ってデータを正しく解釈できるかどうかが、データドリブン経営には不可欠です。これは飲食に限ったことではないでしょう」(高梨氏)

データを正しく解釈するスキルを育てるには、地道にデータに触れ続けて、データをもとにした仮説立案と検証を繰り返し、場数をふむしかない。

「2018年度中に、レジデータと顧客データを連携させる分析ツールをメインに、飲食店向けのデータ活用ソリューションを提供する予定です。会員制にしなくても、ビーコン(*2)などを活用すれば顧客データはある程度取得できます。どの企業も、完璧なデータ活用環境が用意されているわけではありません。まずは挑戦し、その過程を検証することで、データに強く、客観的に適切な判断ができる経営スタイルが育っていくのだと思います」と高梨氏はアドバイスする。

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注釈:
(*1)2018年3月より定額会員制飲食店の出店サポートサービスを開始 (外部サイト)
(*2)ビーコン:BLE(Bluetooth Low Energy)の発信機のこと。施設内にビーコン端末を設置することで、特定範囲内にあって受信設定がされているスマートフォンへの情報発信などが可能になる

プロフィール

株式会社favy 代表取締役 高梨巧氏

19歳で起業し、上場企業からスタートアップまで、のべ1000社以上とビジネスを創造してきた「企画屋」。現在は株式会社favyの代表取締役として、「飲食店が簡単に潰れない世界」をつくるべく奔走している 。

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