ビジネス創出

アパレル産業を仕立て直す――縫製工場のデータが生み出す新市場

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

「衣服生産のプラットフォーム」と銘打ち、洋服を作りたいショップやメーカーと、実際に服作りを担う生産現場をITで紡ぐサービスがある。それが、「sitateru(シタテル)」だ。sitateruを運営するシタテル株式会社は、全国400以上の縫製工場・生地資材メーカーと連携。各工場が「何が得意か」「どのくらいのペース、量で生産できるか」をデータ化し、服を作りたいユーザーの要望に応じてマッチングすることで、新しいアパレル生産のスキームを作り上げている。

技術はあれど新たな生産機会を失っていた中小の工場のリソースと、「服を作りたい」というニーズをうまくマッチングさせ、新たなビジネスを作り上げたシタテルの戦略について、話を聞いた。

「創りたい」と「作れる」を結ぶ

世の中の満たされないニーズと、埋もれたリソースをつなげることで、新しい事業を創り出す――。アパレル業界を舞台に、そんな理想的なビジネスモデルを生み出したのが、熊本市に本社を置くシタテルだ。

同社が見いだした“埋もれたリソース”とは、国内の縫製工場である。

90年代中頃からデフレによって衣料製品の価格が下落。アパレルブランド各社が、工賃の安い海外へ加速度的に生産体制をシフトさせたのは、周知の通りだ。あおりをうけた国内の中小の縫製工場はジリ貧の状態となっていた。

「構造的な問題もありました」と同社のマーケティングを担当する三澤幸太氏は言う。

アパレルブランドやアパレルチェーンの多くは、商社を通じて大規模な縫製工場に生産を依頼し、そこから地方に点在する中小零細の工場が下請け生産する。この構造は古くから変わらない。

「中小の工場は、大手メーカーや商社経由の仕事に依存している状態で、それ以外の取引先とつながる機会がありませんでした。いくら優れた技術を持っていても、既存のサプライチェーンが途切れた途端、にっちもさっちもいかなくなるわけです」(三澤氏)

工場のイメージ

2010年代に入ると中国などの人件費の高騰により、「製造の国内回帰」を考えるアパレルブランドが現れはじめる。さらに「他店と差別化を図るため、オリジナル商品を置きたい」と考えるセレクトショップなども増えた。ところが、いざ国内の縫製工場を探そうとしてもつながる術がない。旧来のサプライチェーンが強く、間口はさほど広くは開かれないアパレル業界では“満たされないニーズ”が放り出されたままになっていたわけだ。

「その課題をITによって解決するプラットフォームが『sitateru』です。弊社は、縫製工場だけでなく、パタンナー、デザイナー、生地メーカーなど400社以上をネットワーク化しています。洋服を作りたい方が『sitateru』に依頼すると、私たちがネットワークの中から最適な組み合わせをマッチングするので、ワンストップで服作りをしていただけます。最も…」と三澤氏は話をつなげる。

「そう言うと、単なるクラウドソーシングのように聞こえますが、旧態依然としたこの業界で、生産現場をネットワーク化するのは簡単ではありません。私たちの提携している生産現場は、1件ずつ足で回って地道に集めたものです」(三澤氏)


シタテル株式会社 経営管理部 マーケティング 三澤幸太氏

検索しても出てこない、縫製工場を丁寧に紡いだ

シタテルの立ち上げは2014年。外資系金融機関を経て、地元 熊本県で経営コンサルタントをしていた河野秀和代表が、知人のセレクトショップのオーナーから相談を持ちかけられたことがきっかけだった。

『オリジナルのデニムを作りたいが、小ロットだから、どこにお願いしたらいいかわからない』

熊本は小さな縫製工場がいくつもあると同時に、じわじわとその数は減少していた。それでも河野氏が直接工場に声をかけてみると、「今は閑散期だから」と、請け負ってもらえ、製品化されたという。

小ロットで衣服を作りたいショップや個人は多い。縫製工場も、そういったニーズにこたえる必要性を感じており、小ロット生産対応の効率化に迫られている。両者をつなぎ合わせ、タイミングよく受発注できるしくみがあれば、従来の凝り固まったアパレル業界のサプライチェーンのあり方を変えられる。そう踏んだわけだ。

最も、繊維を扱う工場は全国に7,000ほどあるといわれている(※シタテル調べ)が、自社のホームページを持っているところも少なく、ネット検索でも名前が出てこない。人里離れた山奥にあったり、PCすら置いてなかったりという工場も少なくなかった。

「そうした工場に何度も出向いて、サービスの仕組みを説明しました。わずかな数の工場とパートナーシップを結んで、小さくスタートさせたのです。ユーザー側のニーズはありましたが、生産側は極めてアナログな世界でしたからね」(三澤氏)

多くの縫製工場が「このままでは立ち行かなくなる」という危機意識を持っていたのは確かだった。商社や大手メーカー経由の仕事も従来どおりこなしながら、多品種少量生産という今のアパレル業界の商流に参入できるというのは、渡りに船だった。

積極的に広報活動を行いテレビ番組や全国紙などで取り上げてもらったことで、生産工場から直接問い合わせが入ることも増えたという。そして2018年3月現在、シタテルがパートナーシップを結ぶ生産工場は前出のとおり400社を超えた。

とはいえ、仕事のやり方も異なるばらばらの工場をつなぎ合わせると、生産管理上の難しさがありそうだ。ユーザーの要望に対して、工場にはどのように仕事を割り振っているのだろうか。

職人のイメージ

工場の質と量と時間を「見える化」

工場と提携するのは、まず「設備の概要」「取引ブランドの状況」「繁閑期のスケジュール」などを自己申告してもらうことから始まる。

夏物、冬物を生産する工場は、季節によって繁閑の差が激しい。つまり、季節性のアイテムを作る工場同士は似たような時期に忙しくなる。シタテルの狙いである「繁忙期を避けることで、小ロット生産にすばやく対応してもらう」ことを実現できないようにも思えるが……。

「実際は小さな縫製工場などの繁閑状況は、“工場長の頭の中”だけにしかなかったりする場合も多いんです。だから、申告を元に、直接弊社のスタッフが工場に足を運んで、細かくヒアリングする。すると、製品の品質レベルを目で見て確認できるだけでなく、『この時期は余裕があってスポットの仕事も対応できる』『レディースの生産にも対応できる』といった実情が見えてくるんです」(三澤氏)

こうして、各工場の品質レベルやリードタイムを真に見える化。「質×量×スピード」という複合的な尺度を元に、各工場を5段階で評価し、データベースに蓄積しているという。

その結果、「レディースのコートなら、今の時期はA工場が空いている」「この難しい縫製ができて、急ぎの案件に今対応できるのはB工場だ」といった具合に、全国の工場をネットワーク化したうえで生産管理ができるようになっている。また縫製工場や二次加工の工場のみならず、パタンナーやデザイナーなどもネットワーク化しているため、「縫製のみ」「デザインから」といった、あらゆる工程からのオーダーにも対応できる。

「各工場へのヒアリングは定期的に続けており、データをブラッシュアップさせています。また縫製工場にセンサーをとりつけて、リアルタイムに稼働状況を把握する実証実験も進めており、さらに繁閑データを精緻なものにしているところです」(三澤氏)

工場長の工程管理

「ダウン素材のTシャツ」が生まれる日

アパレル業界の閉じたサプライチェーンに風穴をあけたシタテル。実は、ユーザー側のニーズを掘り起こすことにも成功している。

現在、同社は6500社以上の登録ユーザーを抱えている。そこにはセレクトショップやインディーズの小さなブランド、さらには大手ブランドや百貨店などがクライアントとして名を連ねている。最近では既存のアパレル業界以外のユーザーも目立つようになった。

「製造業の会社が、おしゃれな作業着を発注したり、飲食店が店のイメージに合う制服を発注したりする案件が増えており、これらは売り上げ全体の半数ほどを締めています。アパレル業界以外のところに『オリジナルの服を作りたかったけれど、どこに頼めばいいかわからなかった』というニーズがあったのです。sitateruで仕立てたこだわりの制服を採用してから、『就職希望者が増えた』といううれしい声もありました」(三澤氏)

三澤氏

また三澤氏は、「生産現場側から『こんな商品がイケるかもしれない』と商品企画が出てきたらおもしろい」と考えている。

「繁閑状況や生産内容は、各工場にフィードバックしています。すると、工場側も『冬なのにTシャツ製作の依頼が多いな』など、今まで気付かなかったニーズが見えてきますよね。工場それぞれに自らの強みがありますし、現場ならではの視点もあるはず。そうすると、今までにはない斬新な商品アイデアが生まれる可能性が大いにあります。例えば『ダウン素材のTシャツを作ったらどうか?』というダウンの縫製工場が出てきて、商品化するような(笑)」

シタテルの取り組みは、想像以上に幅広い人々のクリエイティビティを刺激し、日本のアパレル業界の活性化を促しそうだ。

プロフィール

シタテル株式会社 経営管理部 マーケティング 三澤幸太氏

2017年7月よりシタテル株式会社にマーケターとして入社。デジタルとリアルの両軸を掛け合わせた戦略的マーケティングを手がける。前職では、広告・マーケティング系大手Webメディアのディレクターとして、サイトの運用・コンテンツ企画・コンサルティング・開発ディレクションを実施。

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

Insight for Dの
ページにいいねしよう!

「いいね!」してInsight for Dの最新情報をチェック

Q. Yahoo! JAPANのデータソリューションは何がスゴイんですか? 答えはこちら

Q. Yahoo! JAPANのデータソリューションは何がスゴイんですか? 答えはこちら