マーケティング戦略

デザインエンジニアリングが変えるデータ活用のありかた

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

デザイン・イノベーション・ファーム「Takram」が誕生したのは2006年。同社を率いる田川欣哉氏は、設立当初から「デザインエンジニアリング」というアプローチを掲げ、ハードウェアの開発からソフトウェアサービスの立ち上げまで、さまざまなプロジェクトを成功に導いてきた。デザインエンジニアリングとはどのようなアプローチか。そしてデザインエンジニアリングが、ビジネスに与える影響とは。田川氏に話を聞いた。

デザインエンジニアリングとは何か

2015年4月、内閣府は、地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」の提供を開始した。これは地方自治体における人口減少や地方創生をめぐる課題に対して、情報面から支援しようという試みであり、各地域の産業構造や人口動態、人の流れなどに関する官民のビッグデータを集約して、可視化するシステムだ。そしてこのシステムのプロトタイプを開発したのがTakramのデザインエンジニアたちだ。

洗練された3D表現が軽快に動作する地域経済分析システム「RESAS Prototype」(2015)

かつてデザイナーとエンジニアは分業化されていた。実際、いまでもそうした区分は当然だと考えられることが多い。たとえば自動車メーカーでは、カーデザインとエンジン設計は別々の職能として認識され、それゆえ所属する部署も異なっている。しかし情報技術の進展によって生じたデジタルシフトで状況は変化した。デザインとエンジニアリング、このふたつの職能を併せ持ったハイブリッド型の人材が出てきたのだ。

「RESAS Prototypeは、『直感的に、データを読み取る』ことを目的として開発されました。エンジニアとしては高度なソフトウェアの実装を、デザイナーとしては洗練されたグラフィックデザインを追求する。ぱっと見た瞬間に感じる心地よさや美しさなどを考えながら、操作性や機能性など、UI/UXも並行して考えなければなりません。両方を同時に行うのが、デザインエンジニアリングであり、われわれデザインエンジニアなのです」

迅速な設計開発はデザインエンジニアリングの強み

RESASの開発でTakramが担当したのは、プロトタイピング(プロトタイプの製作)の領域だ。これは製品やサービスを高い精度で練り上げるために、プロジェクトと同時進行で試作をおこなう手法を指す。

「RESASのような取り組みは日本政府にとっても初めてでした。担当部局の方々も『データは大量に保有している。しかし、一般向けにどう公開するのが正解かわからない』という状況だったのですが、正式リリースまでの時間は限られていました。そこでセキュリティ面やユーザー管理などの商用ベースの実装は他社にお願いしていただき、われわれは『どういうデータの見せ方をするのが正解か』を考えるべく、プロトタイピングに専念させてもらったのです」

プロトタイピングは、試行錯誤の連続だ。あえて不完全な状態でアイデアを形にし、その都度改善点を洗い出し、また形にする。このサイクルを何度もくりかえすことで、UI/UX、デザイン、設計、計算処理などで生じるさまざまな課題を解決できるようになる。

この試行錯誤のサイクルを素早く回すためには、デザインエンジニアの存在が不可欠だ。デザインセンスとプログラミング技術、1人の人間が両方のスキルを併せ持つからこそ迅速な設計開発が可能になる。なぜ、速さが重要なのかという問いかけに対し、田川氏は即答した。

「イノベーションの時代だからです」

ちなみにRESASのプロジェクト立ち上げからシステムの正式リリースまでに要した期間は、わずか9カ月だった。「デザイナーとエンジニアが分業して開発していたら、9カ月で完成するなんてあり得ない」という田川氏の言葉こそが、デザインエンジニアリングの価値を示している。

田川氏の写真
Takram代表 田川欣哉氏

デザインエンジニアリングが可能にした表現

Takramは、RESAS Prototypeの開発をきっかけに「地理に紐付けされたビッグデータの可視化」というテーマに取り組んでいる。最新の成果が自社プロジェクトで独自開発したPlanckだ。

地理情報とビッグデータを結びつけ可視化するシステム「Planck」(2017)

「Planckは、地理情報に関するさまざまなデータを可視化するためのデータビジュアライゼーション用プラットフォームです。地理情報に関するデータであれば、物流や交通、通信や移動など、どんなデータにも対応してビジュアライズできます。たとえば、『Media Ambition Tokyo 2017』に展示した際には、ツイッターの投稿データ、人口集計・推計データ、航空機の飛行経路データの3つを、オープンデータを使って可視化しました」

Planckの開発にも、デザインエンジニリングのアプローチが生きている。たとえば下図は、関東エリアの人口分布をビジュアライズしたものだが、縦に伸びるグラフそれぞれに影がついていることがわかる。


人口分布のグラフを立体化して地図と合体。デザインエンジニアの手によって、影の視覚効果と計算処理を両立した。

実は、物体を立体的に見せるための計算処理というのは非常に負荷がかかり実装しづらいのだが、Planckを開発したデザインエンジニアたちは、影処理を施すことでグラフが立体に見えるようにしたのだ。通常のエンジニアであれば、「いかに機能を実装するか」に終始してしまうが、デザイナーとしての「視覚効果でどんな工夫ができるか」という視点も併せ持っているデザインエンジニアだからこそ生まれた発想といえる。

視覚情報から意味をつかみとることがトレンドに

ところで、なぜTakramはデータビジュアライゼーションに、積極的に取り組んでいるのだろうか。ビッグデータを可視化する意義を田川氏はこう語る。

「ビッグデータ分析では、今後はAIが活躍するでしょう。しかしAIでは、『なぜその分析結果を出したのか』という道筋がブラックボックスです。結果だけ知りたい素人ならともかく、シビアな判断をくだすプロフェッショナルならば、『そうなった』ことの蓋然性を自分で調べたいはず。AIの活用が進むと同時に、『その道のプロが自らの目でデータを見て、気付きを得る』というアプローチが急速に進むと予想しています」

ただ、「自らの目でデータを見る」だけなら、ビジュアライズする必要はないように思える。この点を踏まえて田川氏は次のように続けた。

「大前提としてあるのが、人間は『視覚認識』が得意だということです。物事を理解するとき、テキストで説明されるよりも、グラフといった視覚表現に置き換えたものを眺めるほうが、全体像を把握しやすいですよね。おそらく進化の過程で、人間は視覚情報から意味をつかみとる能力を発達させてきたのでしょう。Excelデータを分析して見つからなかった事実が、ビジュアライズされたデータを見れば一発で分かることもあります。そのための手法がデータビジュアライゼーションであり、視覚表現を担うのがわれわれデザインエンジニアの役目です」

RESASもPlanckも、目的にあわせて操作することで、自分の見たいデータをビジュアルで確認できる。操作にあわせたグラフィックの動きにもこだわっており、鳥の目(全体を俯瞰)と虫の目(細部を注視)をなめらかに切り替えながらデータを確認することで、利用者も意識することなく複眼的な思考ができるよう設計されている。RESASもPlanckも、地理に関連する仕事に携わる行政やサプライチェーンのプロフェッショナルが扱うと、意外な発見につながることが多いそうだ。

「医療の現場ではCTスキャンが用いられていますが、あれもデータビジュアライゼーションの一種。いわば数値化された体内の状態を画像として再構成したものです。数値だけだとわからなかったものが、画像として可視化されることで、病変を察知できるようになった。医師という専門家にとっては強力なツールです」

田川氏は、笑いながらこう尋ねてきた。「CTスキャンを活用して短期間で診断してくれる医師と、開腹してみないとわからないから検査手術をしましょうという医師、どちらに診てもらいますか」。そう問われたら、誰もが迷うことなく前者を選ぶだろう。

ビジネスの現場に浸透しつつあるデータビジュアライゼーション。医師がCTスキャンを使いこなすように、可視化されたデータから新しいインサイトを掘り出すことができれば、データはより多角的な成果につながっていくだろう。デザインエンジニアリングの現場から、新たなデータ活用の可能性が生まれている。

田川氏の写真

プロフィール

Takram代表 田川欣哉氏

デザインエンジニア。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授。1999年東京大学工学部機械情報工学科卒業。2001年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2001年帰国。プロダクトデザイナーの山中俊治氏が代表を務める「リーディング・エッジ・デザイン」を経て、2006年「Takram」を共同設立。ソフトウェアからハードウェアまで、プロダクトからインタラクションまで、領域横断的なデザインにより、国内外から多くの注目を集める。

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

Insight for Dの
ページにいいねしよう!

「いいね!」してInsight for Dの最新情報をチェック

Q. Yahoo! JAPANのデータソリューションは何がスゴイんですか? 答えはこちら

Q. Yahoo! JAPANのデータソリューションは何がスゴイんですか? 答えはこちら

Insight for Dの公式Facebookページ、Twitterでも最新情報や取材の様子を発信中。