マーケティング戦略

あなたはデジタルマーケティングを定義できるか(牧田幸裕)

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マーケティングに、もっとビッグデータを活用せよ――。

デジタルマーケティングの必要性を訴えられるも、実のところ「何をすればいいか分からない」と頭を抱えるビジネスパーソンは多いはず。そんな彼らに、デジタルマーケティングの定義付けから実践法、未来予想までを丁寧に説いていることで人気なのが、2017年に上梓された『デジタルマーケティングの教科書 5つの進化とフレームワーク』(東洋経済新報社)だ。

著者は信州大学大学院准教授で、ベストセラー『ラーメン二郎にまなぶ経営学』(東洋経済新報社)でも知られる牧田幸裕氏。同氏に、『デジタルマーケティングの教科書』を執筆した狙いとデジタルマーケティングの潮流、さらにマーケターに足りない“ある視点”について語っていただいた。

「デジタルマーケティングとは?」の問いに誰も答えていなかった

「デジタルマーケティングとは、何か?」

2016年に私が抱いたこの疑問が、本書の起点です。

もちろん、従来型のマーケティングの知識はありますが、「デジタルマーケティング」となるとその定義があまり見えないままでした。そこで答えを求めて、デジタルマーケティングのあるカンファレンスに参加してみたのです。

ところが、セッションごとに登壇者が語る「デジタルマーケティングの定義」がバラバラだったんですね。広告会社はそれを「電子メディアを通じてブランドのプロモーションを行うこと」と説き、データマイニング業界は「戦略的なデータマネジメントを徹底することだ」と説く。どれも間違いではありません。しかし、デジタルマーケティングの一部を切り取り、自分に都合のいい解釈をしているにすぎないのです。

全体像が見えないまま一部分だけを見ても、デジタルマーケティングの潮流がどの方向に向かっていくのか分からず、混乱し、道を見誤ります。マーケティングにたずさわる人間であれば、定義を俯瞰してとらえなければならないのです。そこで現時点での定義を見いだすために執筆したのが『デジタルマーケティングの教科書』というわけです。

書籍画像

私が本書で記した定義は「デジタルマーケティングとは、データドリブンでターゲット消費者へ製品やサービスを認知させ、消費者の購買前行動データに基づいて興味・関心・欲求を醸成し、購買データを取得する。購買データと購買後の消費者の評価データをもとに製品開発、サービス開発への示唆を得る。これらのデータを、ECチャネルとリアル店舗から取得し、同時に、消費者に最適な購買体験を提供する、一連の活動を言う。これらの活動の目標は、消費者との関係性を深め、最終的に消費者のエージェント(代理店)になることである」です。

やや長いですね(笑)。

しかし、決してウェブプロモーションだけを指すのでも、データマイニングに偏った領域でもないということはよく理解していただけると思います。また、俯瞰で定義付けるのと同様に、本書の構成で私が最も意識したことがあります。

それは、今のデジタルマーケティングを理解するために、過去の出来事からひもといてみる、ということです。

牧田氏画像

「行動」のみならず、「心理」までデータで読める日

本書でも紹介しましたが、デジタルマーケティングによって、いま最も進化しているのが「チャネル」です。直近の例でいえば、米Amazonが今春オープンしたレジのないコンビニ「Amazon GO」のインパクトはすごいです。

入り口で、スマホアプリに表示したユーザーIDをかざして入店。そして、店内にはカメラが張り巡らされており、商品を画像認識。棚から商品を持ち上げただけで、スマホアプリ内のカートに商品が入り、棚に戻せばカートから削除される。商品を購入するなら、レジを通らずにそのまま外へ。すると、AmazonのIDにひもづいたクレジットカードからリアルタイムに決済される、というわけです。

私が子供の頃、レジは手打ちでした。スーパーで商品を買うと、レジ係が「732円」と手で打ち込んでいました。店側は、「732円の売り上げ」があったことは記録しますが、いつ、何が売れたかまではデータとして残せていなかったわけです。

しかしその後、セブン-イレブン・ジャパンが、「POSレジ」をマーケティング戦略に活用しはじめて、「何がどれだけ売れているか」が分かるようになった。つまり、売れ筋商品がデータとして見えるようになったんです。さらにID-POSが出てきます。個人の情報が入ったポイントカードなどとひもづけることで、「誰がいつ何を買ったか」というデータまで取れるようなりました。

もっとも、ここまではあくまで「決済」の瞬間をデータ化できるようになったというだけ。その壁を超えたのが、ECチャネルです。

ネットを介してモノを買えば、「いつ誰が何を買ったか」という決済時のデータのみならず、「それを買うまでにどのページに何分間滞在し、どんな商品と比較していたか」や「購入後、どのページにいってどんな感想をSNSで発信したか」といった、購買前と購買後のデータまでもが取れるようになりました。だからサイトを通じて、一人一人に適したレコメンデーションが行えるようになり、より精度の高いマーケティング活動ができるようになった。まさにデジタルマーケティングの領域です。

ただ、いくらビッグデータが集まっても、それらはすべて顧客の“行動”に関するデータに過ぎませんでした。しかし、「Amazon GO」で変わります。顔認証で、ユーザーの表情をデータとして蓄積、分析していく試みをしていくからです。

Amazon GO店内のいたるところにあるカメラは、商品だけでなく来店ユーザーの顔も画像認識します。たとえば、二つの商品を手にした来店ユーザーが、「どっちがいいかな」と悩む。そのときの表情と変化もカメラがとらえ、画像解析を行い、データとして蓄積します。これがユーザーIDにひもづいて「このユーザーは購入を決めるときこういう表情をする」という分析ができるようになります。いよいよ、マーケティングデータとして取ることが難しかった“心理”にまで踏み込めるようになるのです。

経済学の世界では、「人間は常に合理的な判断をする」というのを前提に、人の行動を分析してきました。一方、経営学には、「人間は非合理的な判断をすることもある」という真逆の考え方があり、マーケティングは後者に属します。

しかし、感情や心理といったものに裏打ちされた、非合理的な判断は測定できません。それが経営学やマーケティングの限界でもあったわけです。ところが、「Amazon GO」のような形でデータを集積、分析できるようになれば、その限界を超える可能性があるわけです。

このように、過去に起きてきた出来事とともに、マーケティングの今を見つめれば、自ずとこの先の方向性が見えてきます。だから本書に限らず私は、何かの事象を知りたい(説明したい)ときに、過去の事例を記すわけです。「今だけ」を見つめたら、全体を見誤る。デジタルマーケティングは従来型マーケティングを否定するものでもなければ、対立するものでもなく、進化させるものですから。

牧田氏画像

マーケティングの最新事情と原理原則をかけ合わせよ

過去と現在のデジタルマーケティングの姿を明確にしながら、この先も連綿と続くマーケティングの潮流をつかむ。そのために、本書を執筆するにあたって参考にした媒体が2つあります。

1つは「NewsPicks」。言わずとしれたニュースサイトですが、特にマーケティングやテクノロジーといったジャンルで、最新情報の記事がすぐ掲載されますし、有識者の意見がコメントとして閲覧できます。マーケティングの今をつかむ、という意味でとても重宝しました。

加えて、今回の本で書いたネタは、先に「NewsPicks」でさまざまなデジタルマーケティングに関連する記事コンテンツに対してコメントしてきました。私のコメント以外でもさまざまな意見がコメントとして寄せられるので、それらの意見を元に原稿をブラッシュアップできました。

もう1つは、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』(ピアソン・エデュケーション)で、何度も読み返しました。もうマーケターにとってバイブルのような一冊ですが、最新のマーケティング事情を追うだけではなく、マーケティングの原理原則を押さえることは非常に重要だからです。

最新情報と、原理原則。この両輪を持つことが、物事を俯瞰する際には最も大切です。最新情報だけを手にしても、それはただの「傍観者」です。しっかりと原理原則を頭の片隅におくことで、モノの見方が鍛えられ、自分の軸や考えができてくるのだと思います。

仮説を立て続ける勇気を持とう

「データは大量にあるのに、うまく使いこなせていない」

マーケターの中には、そうした悩みを持つ方が多いようです。しかし、その裏には「データさえたくさん集めれば、何か素晴らしい解が生まれるはずだ」という思惑が見え隠れしています。はっきりいって幻想です。いくら素晴らしく正確なデータを大量に集めても、ただそれだけでは何も見えてきません。

大切なのは、「仮説」を持つことです。

「自分はこういう仮説を持っている。それを検証したい」。具体的な問題意識と仮説があって初めて、数多のデータは意味をなすのです。答えは必ず1つに絞れます。仮設を検証した結果、「仮説と合っていたか」「合っていないか」のどちらかです。これを繰り返すと、仮説がシェイプされて、真実に近づいていけます。

牧田氏画像

しかし最近は、間違いや失敗を恐れて、仮説をあえて持たない人が増えているような印象があります。

勇気を持ちましょう。『デジタルマーケティングの教科書』だって仮説の塊を持って執筆しました。仮説ですから、私が書いた内容は時代の変化に応じてどんどん進化できるかもしれないし、あと半年や1年もしたら、私の中でのデジタルマーケティングの定義も別のものに変わっているかもしれません。そして2020年頃に「2017年に牧田はデジタルマーケティングをこう定義付けていたが、今は違う」という論が他の誰かから出てくるかもしれないし、私自身が出すかもしれない。仮に出てくれば、それがデジタルマーケティングの進化になるわけです。

この本では、世のマーケターやデータサイエンティストに向けて「君たちは何をやっているんだ」「そんな狭い視野でデジタルマーケティングをとらえてくれるな」とやや挑発的に論じています。それは「いくらでも修正できるものなのだから、もっと仮説を持ってデジタルマーケティングを推進していこうよ」というエールでもあるんです。

最新データだけを見ていても意味がない。それはマーケターではなく、ただの傍観者なんです。

プロフィール

牧田幸裕

京都大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修了。アクセンチュア戦略グループなど外資系企業のディレクター、ヴァイスプレジデントを歴任。2003年、日本IBM(旧IBMビジネスコンサルティングサービス)へ移籍。2006年、信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科助教授。07年より現職。著書に『フレームワークを使いこなすための50問』(2009)、『ラーメン二郎にまなぶ経営学』(2010)、『ポーターの『競争の戦略』を使いこなすための23問』(2012,すべて東洋経済新報社) など多数。

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