コンテンツマーケティング

日本HPが実践する、顧客の心に響くマーケティングとは

記事内容の要約

  • Twitterや動画の活用はBtoCマーケティング向けだと思われるが、顧客の潜在的な欲求を刺激するコンテンツを発信できればBtoBにも活用できる
  • データ分析に加え、想像力を駆使し、顧客と対話することで顧客インサイトを発掘できる
  • デジタルだけでなく、リアルでも顧客とコミュニケーションを図ることで、客単価の向上につながる
  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

さまざまなマーケティング手法の中でも、インターネットメディアやSNSの活用事例は、どちらかというと個人顧客を対象とした「BtoC向け」のものが目立つ。そんな中、株式会社日本HP(以下、日本HP)は、法人向けPC販売事業、つまりBtoBの領域で、Twitterをうまく活用した事例を残している。その成功要因を「顧客インサイトをもとに心を刺激するコンテンツを発信できたこと」だと話すのは、同社 パーソナルシステムズ・マーケティング部で部長を務める甲斐博一氏だ。コンテンツマーケティングにおける重要なポイントである「顧客インサイトの捉え方」について聞いた。

営業方法をマーケティングで変えていく

日本HPでマーケティング全体を統括している甲斐氏によると、同社のBtoBのビジネスモデルを考慮した際、「マーケティング施策は営業のやり方の変革とともに行う」という考えがあるという。顧客企業を訪問し、製品の特徴や価値を説明して購買検討してもらうという営業担当者が従来行ってきた領域を、できる限りマーケティング施策で担おうというものだ。

「顧客にリーチして関係性をつくっていくという部分の多くを、マーケティング施策で行うことにチャレンジしています。この狙いは、生産性の向上にあります。少子高齢化が進み就業労働人口が減っていく日本においては、重要なマーケティング戦略のあり方と考えています」(甲斐氏)


日本HPパーソナルシステムズ事業本部 パーソナルシステムズ・マーケティング部 部長 甲斐博一氏

クラウドサービスなどのテクノロジーの発達にともない、さまざまなツールも整ってきたことから、こうしたマーケティング活動が実現できるようになったと語る甲斐氏。世界有数のテクノロジーベンダーであり、「Keep Reinventing(改革し続ける)」というビジョンを掲げる同社は、テクノロジーを活用したマーケティングに積極的にチャレンジしている。

BtoCのマーケティング手法はBtoBでも通用するのか?

スマートフォンが一般に浸透したことで、インターネットメディアやSNSを用いた動画マーケティングが急増した。それらは主にBtoCの領域で効果があるものと思われているが、「BtoCもBtoBも根本は同じ」と甲斐氏は語る。

たとえば2017年10月、日本HPは法人向けPCのプロモーションの一環として、インテリア・雑貨販売のFrancfrancとコラボし、「#1時間勤務」という動画コンテンツを制作、TwitterとFacebook上で展開した。この動画は、Francfrancでマネジャーを務める女性が、仕事の能率を落とさずに子供や家族との時間を大事にするというストーリーになっており、子供のいる家族であれば誰しも自分事として捉えられる内容だ。

「この動画をつくった背景には、働き方改革の本質を訴えたいという思いがありました。政府が働き方改革推進室をつくり、働き方改革という言葉が市民権を得たのはいいのですが、『残業削減』や『時短』だけにとらわれ過ぎている風潮に、違和感がありました。本来働き方改革の本質は、働く時間と場所を自分で選んで、かつ生産性を上げようというもの。世の中の経営者にはその環境をしっかりつくってほしいという気持ちがあり、『#1時間勤務』というキャッチーな言葉と、具体的な未来をイメージしやすいストーリーで訴求しました」(甲斐氏)

実はこの動画には、「外出先から社内の人と打ち合わせをしたり、業務を進めたりするには、高いセキュリティー技術が必要になる」というメッセージが裏側にある。しかし、動画中には“日本HPだからできる”といった説明的なシーンはなく、これこそがコンテンツマーケティングにおける重要なポイントだと甲斐氏は語る。BtoCでもBtoBであっても、顧客が共感できるコンテンツを発信して、ターゲットの心を揺り動かすことができれば、その次からのメッセージ伝達は圧倒的に楽になるのだという。

このコンテンツはTwitterで239件のリツイート、949件のいいねを記録。Facebookでもシェア465件、再生321万回というスコアとなっており、「#1時間勤務」のリツイートを見ると、多くの人が「こんな働き方をしたい」というポジティブなコメントを寄せられており、日本HPとFrancfrancに対しても良好な印象のコメントが並んでいる。

「この施策により、従来BtoCマーケティング向けといわれていたTwitterは、BtoBメッセージの発信でも手ごたえがあると実感しました」(甲斐氏)

「日本HPのセキュリティーが強化されたデバイスを使えば、こんな働き方が実現できるんだ」という憧れを抱かせるとともに、日本HPに好意的なファンを増やすことで、将来的な売り上げ増につなげていく構えだ。

真の顧客インサイトを捉えるには対話で

購入モチベーションを高めるためのコンテンツを制作するには、顧客の琴線に触れるような要素、つまりインサイトを捉えることがなによりも重要となる。そのためには、データを眺めているだけでは足りないと甲斐氏は話す。

「顧客インサイトを捉える場合、アンケートデータが使われます。しかし、心の中をストレートに言語化できる人はほとんどいません。さらに言えば、思っていることと違うことをアンケートに書く方もいます。行動データも同様で、行動と心が一致していないケースも往々にしてあります。だからこそ、データを鵜呑みにはできません」(甲斐氏)

甲斐博一氏
「データだけを鵜呑みにするわけではない」と語る甲斐氏

では、どうするのか。甲斐氏によると、データを分析したあとに、想像力を働かせて顧客インサイトを発掘していく作業があってこそ、人の心を刺激するコンテンツが作れるのだという。

「最初はデータを見るところから始めますが、ポイントとなるのは『必ずしもデータが全てではない』という視点で分析することです。データは取り方によって信頼性が変わります。100%ではなく、80%ぐらい信頼しようという前提で、データを見ることが必要です」(甲斐氏)

甲斐氏は、深い顧客インサイトを捉えたい際には、ターゲット層から直接ヒアリングしたり、密着取材を行ったりしている。顧客インサイトの発掘は、決してデータだけでは完結しないのだ。

「現在、日本HPでは、NASAやJAXAと共に『Project MARS - Education League JP 』(*1)と いう、人類が住める火星都市をVR空間内でデザインするプロジェクトを進行中です。学生のみなさんに、熱狂的に日本HPを好きになってもらうのが目的ですが、ここでも彼らとの対話を大事にしました。対話により、どういう家庭環境で育ち、ふだんどういう生活をしているかを理解しながら声を拾うのです。どれだけ対話に労力を費やせたかで、顧客インサイトが発掘できるかが決まり、それができれば上手なカスタマージャーニーマップが描けると思っています」(甲斐氏)

対面コミュニケーションが重要な理由

現在、動画やSNSなどのデジタル施策が担うのは、購買ファネルでいうところの「興味・関心」、「比較・検討」を促す部分だ。このフェーズでコンテンツを届けるうえで重要なのは、「製品の機能説明」ではなく、「製品の機能がなぜ必要なのか」をメッセージとして伝えることだ。まさに前述した「#1時間勤務」では、興味・関心、比較・検討フェーズにある多くのビジネスパーソンに対して、セキュリティーの機能説明はしていない。「従業員のより多様な働く環境を受け入れるためには、セキュリティーの整備、しかもデバイスまわりのセキュリティー強化は大切です」というメッセージをストーリーに乗せて伝えている。

とはいえ、デジタル施策だけですべてを伝えられるわけではない。甲斐氏も「デジタル上でコンテンツを届けるだけではなく、顧客と直接対面して価値を伝えることも大切です」という。

「BtoCの場合は量販店の店頭で、BtoBは営業訪問やセミナー、ショールームなどで、顧客と直接コミュニケーションが図れます。実は、このようフィジカルなコミュニケーションを行ったほうが、BtoCでもBtoBでも購買単価が上がることがわかっています。デジタルで広く網をかけながら、フィジカルで関係を深め、購買単価をあげる。デジタルとフィジカル、この両方が掛け合わせることが重要なのです」(甲斐氏)

インサイト発掘の効率化、マーケティングオートメーションの実現でさらに高みへ

甲斐氏がこれまでの取り組みを踏まえ、今後実現したいマーケティングとはどのようなものか。

甲斐博一氏
「今後は自動化とマニュアルのバランス確立を目指す」と語る甲斐氏

まず考えているのは、デジタル上で拡散したコンテンツによって「興味・関心」、「比較・検討」のフェーズに進んだ見込み顧客を、ナーチャリングして売り上げ増にまでつなげる有機的な結合の実現だ。「#1時間勤務」キャンペーンでは、動画を見て態度変容を起こした見込み顧客を、最後の購買や契約にまでナーチャリングしていく過程をデータで追う仕組みがまだ構築できていなかった。ここを強化することが、今後の課題だという。

また、顧客インサイトをさらに精緻に捉えるために、将来的には、「ニューロマーケティングの仕組みを導入して、脳波の動きからインサイトを発掘してみたい」と話し、AIの活用にも前向きだ。

顧客インサイトを刺激することで、企業として伝えたいメッセージを間接的に上手に伝えることに成功した日本HP。その裏には、顧客に直接向き合うコミュニケーションやターゲット層への地道な対話を行うなど、データだけに頼らない顧客との向きあい方があった。BtoCであってもBtoBであっても、顧客インサイトをいかに発掘できるかが、コンテンツマーケティングの成否の鍵を握る。

注釈:
(*1)Project MARS - Education League JP(外部サイト)

プロフィール

株式会社日本HP パーソナルシステムズ事業本部 パーソナルシステムズ・マーケティング部 部長 甲斐博一氏

ITシステムの営業からキャリアをスタート。販売促進業務を経て、BtoB製品のマーケティングに携わる。Eコマース事業の立ち上げも経験した後にBtoCマーケティングを専任担当し、現在は日本HPのマーケティングを統括する立場として活躍している。

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

Insight for Dの
ページにいいねしよう!

「いいね!」してInsight for Dの最新情報をチェック

Yahoo! JAPANのデータソリューションについて

Yahoo! JAPANのデータソリューションについて

Insight for Dの公式Facebookページ、Twitterでも最新情報や取材の様子を発信中。