組織づくり・人材育成

なぜKPIマネジメントにストーリーが必要なのか――あるべき状態から考えよ

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日常の業務に欠かせないKPI。あなたが目指すその数値は、プロジェクトの成功にどのように作用しているだろうか。それは、いつどのように見直されているだろうか。そもそもその指標は、本当にプロジェクトの成果を正しく示すように設定されているだろうか。

このような問いかけに対し、ふと考えてしまう人は少なくないだろう。株式会社博報堂コンサルティング 執行役員の楠本和矢氏は、「KPIは単なる管理指標ではなく、『目的に対して最も貢献するアクション』を促すものであるべきだ」と強調する。今回の記事では、Yahoo! JAPANで開催した楠本氏の講演、および著書『人と組織を効果的に動かすKPIマネジメント』の内容をもとに、実効性を持つKPIの設計ポイントを紹介する。

KPIとは「ムダなく行動」するための指標

KPIは、多くの事業活動において用いられているが、その解釈はさまざまだ。単に「成果を管理するための指標」としている場合もあれば、「目標となる数値」自体を指すこともある。

楠本氏にとってのKPIは「事業目標の達成に向けて、ムダなく行動するために集中する点を明確にするためのもの」だという。この「ムダなく行動するため」というところがポイントだ。

マイケル・ポーターが「戦略の本質とはトレードオフだ」(*1)と説いているように、KPIの設定においても「何を捨てるか」を明確にすることは重要だ。目標とする指標をいたずらに増やせば、生産性が低下するばかりか、有限のリソースではすべて追いきれず形骸化を招いてしまう。つまりKPIは、目標に対する主要な活動を定め、その達成度合いを示すものでなくてはならない。

目標達成のカギを握るのはKRI

一口にKPIといっても実はいくつかの種類がある。しかし、それらを正しく認識せず、混同されているケースは実に多いという。

KPIは3つのレベルに分けられる。

3つのKPI。下記本文詳細のとおり

図中一番上にあるKFI(Key Financial Indicator)は、売り上げや利益などの事業活動の大目標ともいえる「財務的な成果」を示す指標だ。これはKGI(Key Goal Indicator)と呼ぶこともできる。

真ん中に位置するKRI(Key Result Indicator)は、ターゲットやステークホルダーの心境・状況がどのような状態であれば大目標(=KFI)を達成できるのかを推量し、その「状態」がどこまで成立したかを把握するための中間指標だ。別の言い方をすれば、「KFIを達成するために、押さえておくべき攻略点」である。

たとえば、「総売上高を伸ばすためには、『顧客が商品の熱烈なファンである状態』をつくるべきだ」としたのなら、NPS(Net Promoter Score)(*2)や顧客満足度がKRIになるだろう。

KRI自体は数値目標にすぎない。肝心なのは「『どのような状態』になれば上位に掲げた目標の達成につながるか」について考えることだ。実効性を持つKPIであるための生命線は、KRIの設定にかかっているといってもよい。

一番下のKAI(Key Action Indicator)は、KRIを高めるための具体的アクションがどれだけ実施できたかを把握するための指標だ。KRIが顧客側のアクションや状態を表す指標なのに対し、KAIは企業側が起こすアクションに関する指標となる。なお、KAIは個人やチームレベルでコントロールできることが前提となる。

KPIをここまで分解し、それぞれを設定している企業は少ないのではないだろうか。「KFIに対してKAIだけを一足飛びで設定する企業は多い」と楠本氏は語る。

「会社の大目標にもとづいて個人(組織)目標を設定したが、いまひとつ貢献している実感がない」という場合は、「大目標達成のために、どういう状態をつくるべきなのか」というKRIの視点が抜け落ちているのかもしれない。

KRIの核となるカスタマーインサイトとは

ターゲットやステークホルダーが「どのような心境や状況」であれば大目標を達成できるのか――。それを考えるためには、人の心の内にあるホンネの部分(=カスタマーインサイト)に着目する。

たとえば、「商品を購入する」という行為ひとつとっても、さまざまなケースが考えられる。人間は本来、非合理的な生き物であるため、見栄や虚栄心、衝動などによって商品を購入することもよくある。そのため、合理的なアプローチだけでは、非合理な人間の心の内に気付くことができない。論理的に正しい手段によって論理的に正しい指標を追っているだけでは、成果が出ない状況に陥ってしまうのだ。まず、カスタマーインサイトを捉え、「ターゲットがどのような状態であれば商品を買いたくなるのか」を考えなくてはならない。

「売り上げ=客単価×客数」のようにKFIから要素を分解していくトップダウン型のやり方だと、設定自体は容易だが、網羅的な指標になり、人のインサイトを見逃してしまいやすい。こうしたトップダウンの手法では、KRIの設定および「目指すべき状態」の視点が抜け落ちてしまう危険性がある。

「目指すべき状態」を中心としたストーリーを描く

そこで楠本氏は、「ボトムアップ型」アプローチによるKPI設定を提案する。

これはKFIから順にブレークダウンしていくのではなく、KRIを考えることから始める。つまり、「KFI達成のためには、どのような状態を作り上げるべきだろうか」という発想だ。そして、その状態をつくるためにはどのようなアクションを起こすべきかというベクトルでKAIを考える。

ここで必要となるのは、設定したKRIがKFI達成にどう作用するのか、またKRI達成にアクション(各施策)がどう作用するのかをストーリーとして構築することだ。「なぜ風が吹けば桶屋がもうかるのか」というように、目標達成に至るまでの各施策の波及効果全体をストーリーとして描くことで、要素や効果のつながりが明確になり、それぞれの要素の貢献度がわかるようになる。また、一連の施策において、次のステップをどうするかという場合のスケジュールも組みやすくなり、コアとなる戦略の見極めも容易になる。


某自転車販売チェーンのKFI達成までのストーリー例

上図は、「売上高の向上」をKFIとする某自転車販売チェーンの例だ。まず「どういう状態になれば各店舗の売り上げが向上するか」から考えて、「目指すべき状態」を「既存顧客が定期的に来店している状態」とした。そこで、390円で気軽に受けられる自転車のメンテナンス(サンキュー点検)を提供することで顧客の来店モチベーションを上げ、その波及効果を売上高向上にまでつなげている。この場合、KRIは定期的にメンテナンスで来店する顧客数となる。

このようにゴール達成のための施策をストーリーとして紡いでいく際には、手がかりがなく苦戦する場合もあるだろう。データや情報がそろっていない場合は、自身の経験と知識、想像力を生かして「推論」を重ねるほかない。自分の考えを過信せずに、他部署と議論するのもよいだろう。

ただ、「目指すべき状態」やKFI達成に至るまでの「ストーリー」において「正解」というものは存在しない。だからこそ、楠本氏は「正しいストーリー」を追求しようとするのではなく、それぞれの要素の連鎖に無理がなく、納得できるような「筋のいいストーリー」を作ることが肝要だと話す。

KPIは途中で修正してもよいのか?

カスタマーインサイトをもとに筋のいいストーリーを作ろうと述べたが、当然ながら後になってストーリーの過不足に気付くこともある。重要なのは、間違いだと気付いた時点で当初描いたストーリーや目指している「状態」を改善し、それらにひもづくKRIやKAIといった指標を躊躇(ちゅうちょ)なく修正することだ。

楠本氏によれば、一度定めたKPIの妥当性を確かめることなく、そのまま運用し続ける企業があまりにも多いという。長年運用してきたKPIを変更することへの抵抗感があったり、妥当性よりも数値目標達成のほうが重視される風潮があったりと、理由はさまざまだ。

「必要であれば期中であっても変更修正すべき」だと楠本氏は主張する。競争環境が変化した場合や、明らかに制御不能な要素によってネガティブな影響が出た場合は、設定を見直さなくてはならない。実行と検証を繰り返して、錬度を高めていくことこそが、KPIマネジメントの本質なのだ。

KPIの設定のみならず、戦略立案の手法にはさまざまなものがある。しかし、マーケティング理論に沿って事実をフレームワークに当てはめていきさえすれば、有効な戦略が完成するというわけではない。カスタマーインサイトを基点としたKRI発想によって最終ゴールを目指すストーリーを創ることこそ、戦略の立案といえるのではないか。そこに必要なのは、経験と知識、イマジネーションを駆使した深い考察だ。

この記事では、実効性のあるKPIマネジメントを行うために必要な考え方のエッセンスをお伝えしたにすぎない。カスタマーインサイトを探索する具体的な手法、探索したインサイトをもとにした「状態」の決め方、ストーリーの描き方のポイントなどは、楠本氏の著書に詳しく書かれている。興味ある方は手にとってみてはいかがだろうか。

注釈:
(*1)“What is Strategy?” by Michael E. Porter (1996)(外部サイト)
(*2)顧客からの、企業やブランドに対する愛着・信頼の度合いを数値化する指標

プロフィール

株式会社博報堂コンサルティング 執行役員 楠本和矢氏

神戸大学経営学部卒。丸紅株式会社で、新規事業開発業務を担当。外資系ブランドコンサルティング会社を経て現職。これまでコンサルティングプロジェクトの統括役として、クライアント企業に深くコミットするアプローチのもと、多岐にわたるプロジェクトを担当。現在は執行役員として、人材育成事業の統括、重点企業のプロジェクト統括、及び外部企業とのアライアンス構築業務に携わる。

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