組織づくり・人材育成

データ活用のセンスは小学校で身につける――NTTドコモのプログラミング教育

記事内容の要約

  • 2020年度に必修化される小学校での「プログラミング教育」に向け、NTTドコモはIoTプラットフォームをベースにしたプログラミング教材を開発した
  • 単にプログラミング的思考を身につけるだけでなく、データ活用のセンスが磨かれることを目的とした授業を行う
  • 神奈川県相模原市による協力のもと、教材を用いた公開授業を実施したNTTドコモは、その効果の定量化とプログラミング教育の普及を目指す
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2020年4月から、日本の小学校ではプログラミング教育が必修となる。その動きに対応し、株式会社NTTドコモは、独自のプログラミング教材をつくりあげ、神奈川県相模原市の協力のもと小学校で試験的な授業を進めている。

同社が開発した教材は、ただのプログラミング教育にとどまらず、「データ活用人材」の育成を見据えたものになっているという。具体的にはどのようなプログラミング教育を目指しているのだろうか。担当者に話を聞いた。

第4次産業革命に対応できる人材を育てるために

昨今、耳にすることが増えた「プログラミング教育」。これは、単にプログラミングができる人材育成を目指すものではなく、「プログラミング的思考」を養うためのカリキュラムを意味する。

ここでいうプログラミング的思考とは、「試行錯誤を繰り返しながら、目的に対するアウトプット(結果)を得ていく思考」だ。現在、この新しい教育の啓発・普及促進に、文部科学省(以下、文科省)はもとよりICT業界を管轄する総務省・経済産業省などが一致協力して取り組んでいる。

プログラミング教育に力を注いでいるのは、日本だけではない。

文科省の『諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究』(*1)によると、たとえばロシアは2009 年から初等教育にプログラミング教育を導入している。また、米国や英国、韓国、インド、フィンランドなどでも初等教育にICTリテラシー教育やプログラミング教育を取り込んでいる。初等教育におけるICT教育・プログラミング教育の実施は世界的なトレンドであり、日本の文科省の方針も、その流れに沿ったものだ。

プログラミング教育の必修化の背景には、AI・ビッグデータ時代をけん引できる人材を育成するという日本政府の狙いもある(*2)。

かつて蒸気機関や電気の登場で旧来の産業構造が大きく変わったように、AIやIoTなどの技術革新によって、現在進行形で新たな産業革命が起きている。これは第4次産業革命とよばれ、AIやIoTに関する市場が今後世界中で大きく拡大することは確実であり、日本も例外ではない。

そのため、第4次産業革命時の社会に対応できる人材を育成することを、日本政府は明確な方針として打ち出した。そのひとつが、初等教育におけるプログラミング教育である。IT関連市場が成長していく一方で労働人口が減少し続ける日本では、ITの素地がある人材を増やさなければならないのだ。

データ活用のセンスを磨く教材を開発

プログラミング教育の実践には、当然、適切な教材が必要となる。

現在、諸外国の初等教育で用いられる主なプログラミング教材のひとつに、プログラミング学習キットとロボットをセットにしたものがある。「自分の望みどおりにロボットを動かすには、どのようにプログラムを組むべきか」を、試行錯誤を重ねて学ぶことで、“プログラミング的思考”が自然と身につけられるというわけだ。

一方、株式会社NTTドコモ(以下ドコモ)が提供するプログラミング教材は、同社が展開する「LinkingⓇ(リンキング)」(*3)というIoTプラットフォームを教材の土台として活用している。具体的には、LinkingⓇ対応のIoTデバイスでデータを収集し、プログラミング学習ツール「Scratch(スクラッチ)」(*4)を使ってデータを可視化するためのプログラムを組んでみようという内容だ。

リンキングの画像
LinkingⓇ対応デバイスのひとつ「Sizuku THA(温度センサー)」

「初等教育におけるプログラミング的思考の醸成は大切ですが、それと同様にデータ活用のセンスを育むことも重要です。われわれがプログラミング教材にIoTを取り入れた理由は、そこにあります」と、教材開発を主導した同社の移動開発部 システム企画担当 担当課長の石川博規氏は言う。

先に触れたとおり、プログラミング教育の必修化における文科省の狙いは、AI・ビッグデータ時代をけん引する人材の育成だ。そうした人材を育成するためには、小学生のうちにデータ活用のセンスを養っておくことが重要だと石川氏は付け加える。

「今の小学生が社会で活躍する頃には、現在よりさらに膨大な量のデータがインターネット上にあふれています。そのような時代に活躍する人材に必要なのは、データ活用の能力です。必要なアウトプットを得るために、何のデータをどのように集め、そしてどう活用するか──。その能力に長じている人材が、今後ますます必要になる。そうした人材になるためには、小学生のうちにデータ活用のセンスを磨いておくことが大切なのです」(石川氏)


株式会社NTTドコモ 移動開発部 システム企画担当 担当課長 石川博規氏

授業を通じて子供たちは何を得たか

ドコモでは、自社開発のプログラミング教材を使い、ICT教育に積極的な自治体として知られる神奈川県相模原市の協力を得て、市立青葉小学校の「理科」の授業で実証を行った。

「ICTを使った授業は、理科・国語・算数・社会の主要4科目ではなく、『統合的な学習の時間』のカリキュラムとして行われることが多いです。理科の正式な授業に、今回のようなプログラミングが取り入れられたのは革新的な試みではないでしょうか。プログラミング教育に対する相模原市の積極性が感じられました」(石川氏)

授業は、2018年2月に小学4年生を対象にした理科のカリキュラムとして実施された。その内容は、「温度センサーから収集したデータをグラフ化することで、空気中での熱の伝わり方を学習する」というもの。授業の流れは次のとおりだ。

まず、教室内のさまざまな場所の温度を計測できるよう、LinkingⓇデバイス(LinkingⓇ対応小型温度センサー)を、間隔をあけて床や天井に設置する。児童たちにはいくつかの班に分かれてもらい、班ごとに担当するLinkingⓇデバイスを割り当てた。


天井からつり下げられた温度センサー

次に、教室に置かれた石油ストーブで室内の空気を暖める。そして、LinkingⓇデバイスで温度データを収集し、班ごとに組んだプログラムで、温度の時系列的な変化を示すグラフを生成。そのあと各班の作ったグラフを大型ディスプレイに一覧表示し、ストーブの熱が教室内の空気中をどのように伝わっていったかを確かめるという流れだ。

この授業のポイントは、センサーから収集したデータをグラフ化するためのプログラムの作成を、児童たち自身に行わせたことだ。データ取得前に「何℃から何℃の範囲で温度データを取得するのか」、「温度の変化は何秒間隔で取得すべきか」を各自で考えてもらい、その意図通りにグラフが生成できるようにプログラムを組んでみるというものだ。


Scratchを使ったプログラミングの画面

「プログラムを組む行為自体も大事ですが、この授業の狙いは、データをどのように取得してグラフ化すれば、自分たちが必要なアウトプットが得られるかという気づきを得てもらうことにあります」(石川氏)

温度の変化を的確に表現するグラフを生成するためには、センサーからのデータを適切な間隔でプロットしていくようプログラミングしなければならない。児童たちは、自分たちのグラフを他の班のものと比較しながら、適切なデータ取得や処理の方法を学習していく。

「児童たちには、プログラミング的思考やデータ収集・可視化のノウハウを無意識のうちに学んでもらいました。このような体験を重ねることで、データ活用のセンスが磨かれていくのです」(石川氏)

将来的に活躍できる人材育成のために

今回の授業について、「教える側」の評価はどのようなものだったのだろうか。

「プログラミング教育としてだけでなく、理科の授業としても、教育委員会や学校の先生方からは高い評価をいただきました。空気の対流については講義形式で学ぶよりも、実際に体験したほうがより深い理解につなげられると実感してもらえたと思います。児童たちからも『よく理解できた』という声を多くいただきました」(石川氏)

とはいえ、このような新たな教育は始まったばかりだ。プログラミング教材を使った場合と、使わなかった場合の学習効果の差を示すには、サンプル数が十分とはいえない。また、「データ活用のセンスがどれだけ磨かれたか」を測る方法は、現時点では未定だ。ドコモとしては全国の学校へ教材を本格展開していくためにも学習効果を定量的に示したいところだが、具体的にはどのような方法を考えているのか。

「授業内容の理解度については、テストを行えばある程度測れます。ですが、データ活用センスの成長具合となると、まだ測定方法は定まっていません。ただ、物事への理解が進むと、人には『なぜ、そうなるのか』といった疑問が多くわき上がるはず。そうであれば、データの使い方に対してどれだけ質問が出たか、その疑問の数で成長具合を定量化できるかもしれません。今後はそのあたりの検証を進めていこうと思っています」(石川氏)

ドコモでは今後も相模原市と協力し、プログラミング教育の効果検証を続け、より多くの小学校への普及を進めていきたいという。

「われわれのプログラミング教材は、センサーからデータを取得し、さらにそのデータを適切に活用する体験を提供するものです。その点で、通常のプラグラミング教育とは異なり、データから付加価値を創造できる人材の育成につながるものだと考えています」(石川氏)

第4次産業革命によって大きく変化する産業構造に必要とされる人材は、単にプログラムが書ける技術者ではない。必要なデータを見極め、収集・加工し、その結果を適切な方法で提供できる、いわばクリエイティビティーに富んだ人材だ。ドコモのプログラミング教材は、将来の日本を担う人材育成の一助となるに違いない。

注釈:
(*1)文科省『諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究』(外部サイト)
(*2)文科省『第四次産業革命に向けた人生育成総合イニシアチブ』(外部サイト)
(*3)Bluetoothを介して、IoTデバイスと、スマートフォンやタブレットのアプリとを連携させるプラットフォーム。ドコモでは、LinkingⓇを土台にIoTのエコシステムを形成しており、「観光」「安心・安全(見守りシステム)」「働き方改革」などの各ビジネス領域で同施策を展開している。※「LinkingⓇ」は、株式会社NTTドコモの登録商標です。
(*4)米国マサチューセッツ工科大学メディアラボが開発した、教育向けのビジュアルプログラミングツール。さまざまな色・形のブロックを組み合わせてプログラムを作成する。※Scratchは MITメディアラボのライフロング・キンダーガーテン・グループによって開発されました。詳しくはこちらをご覧ください。「Scratch」(外部サイト)

プロフィール

株式会社NTTドコモ 移動開発部 システム企画担当 担当課長 博士(工学) 石川 博規氏

2003年に株式会社NTTドコモ入社。携帯電話やアプリケーションの開発業務を経て、2015年よりIoTの普及を目指し、国内の複数企業と立ち上げたProject Linkingに従事。IoTを用いて,学校教育や働き方改革に貢献するサービス開発を遂行している。

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