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データと宇宙産業――宇宙におけるビジネスの現実、そして未来

記事内容の要約

  • 宇宙業界と非宇宙業界をつなぐハブ的存在のデータサイエンティストが積極的に宇宙開発に関わると、衛星データの活用が進むと考えられる
  • 宇宙ゴミの回収や衛星ネットワーク管理といったインフラ領域の事業は、企業にとって既存技術を転用しやすいため、成長の早いビジネスになり得る
  • 日本が宇宙産業で諸外国に競り勝つためには、他国のロケットに頼ることなく、独自のロケット開発を進める必要がある
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2018年3月、日本政府が官民合わせて1000億円もの資金を向こう5年にわたって宇宙産業に投入すると発表した。 しかし、宇宙産業への期待が高まる一方で、衛星データをどのようにビジネスに生かせるかについては、まだ方向性を模索する段階にある。

宇宙産業がこのままブームで終わるのか、それともビジネスとして発展するのか――野村総合研究所 コンサルティング事業本部 佐藤将史氏に話を聞いた。

ブレークスルーの鍵は「データサイエンティスト」

宇宙ビジネスを一時のブームで終わらせないためには、宇宙開発の業界内だけでなく、非宇宙系企業を巻き込んでいかなくてはならない。そして、非宇宙系企業に宇宙ビジネスの可能性を感じてもらうには、協同、協調しながら、魅力的な衛星データの活用事例を新規に生み出さなければならない。

そこで佐藤氏が注目しているのがデータサイエンティストの存在だ。

「これまで宇宙開発に関わってきたのは、技術分野の人がほとんどです。宇宙業界は専門的な世界であり、一般的なビジネスを行っている人たちとは隔たりがあります。そのため、ビジネスをわかっていて、経済学に長けていて、かつサイエンスに強い『データサイエンティスト』のような存在がハブとして重要なのです。彼らが宇宙開発に関わってくれれば、経済や社会の課題解決につながる新たな衛星データ活用のアイデアが生まれると期待しています」(佐藤氏)

衛星データ活用の可能性をひろげるための鍵はもう1つある。それは技術の発達だ。

衛星データと一口にいってもその種類はさまざまで、Google Earthでみるような画像データだけに限らない。たとえば、ドップラー・ライダー(*1)搭載の人工衛星を打ち上げれば、空気の流速データを取得できるようになり、ジェット気流などを捉えられる。つまり、飛行機の航空経路の効率化に生かせるのだ。

「宇宙ビジネスコンテストS-BOOSTER2017で、全日空社員の方がこのアイデアを発表して大賞を受賞しました。もし実現すればフライトプランが最適化されて、運行コストが安くなり、燃料節約により二酸化炭素排出量の削減が可能になります。技術発達が進むと、このように取得できる衛星データの種類も増えていくので、データ活用の新たな方向性が見つかるのではと期待しています」(佐藤氏)

ビジネスとして成立する宇宙開発事業とは

衛星データ活用の可能性をひろげることも重要だが、新たな事例が生まれるにはある程度の時間を要する。そのためビジネスとしては、「どのようにデータを活用するか」の前段階にあたる「どうやってデータを取得するか」の領域がまずは発展していくだろうと佐藤氏は話す。

「データをどう活用してビジネスに生かすかというのは、アイデア勝負でもあるので、そこに期待して待ち続けるわけにはいきません。スペースXが1万機以上の衛星打ち上げを計画しているように、人工衛星の数は今後も増え続けます。それをふまえると、ビジネスとして成長が早いのは衛星稼働をサポートするインフラ事業だと思います」(佐藤氏)


野村総合研究所 コンサルティング事業本部 ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 上級コンサルタント 佐藤将史氏

たとえば、衛星データを地上のアンテナに送信する技術は古くからあるが、まだ発展の余地がある。また、宇宙ゴミ(スペースデブリ)となった人工衛星を速やかに回収する技術も必要だ。耐用年数を超えた人工衛星放置していると、稼働中の人工衛星に衝突する危険性があるため、デブリ回収技術も高度化しなければならないのだ。

このような衛星の通信ネットワーク管理やスペースデブリ処理などは、大量の衛星が打ち上げられ、目前となっている「大衛星時代」において不可欠な「モノ」のマネジメントゆえに、事業目的がはっきりとしており、地上での既存技術も応用しやすいため、今後ビジネスとして発展していくだろうと佐藤氏は見ている。

宇宙開発の国際競争力を高めるために

今後、日本が宇宙開発を進めるにあたって重要なことがある。それは「商用輸送」における技術開発力の強化だ。宇宙開発における諸外国との競争において、ここで後れをとるわけにはいかないと佐藤氏は指摘する。

「人工衛星は、ロケットに積んで、予定した軌道で切り離して宇宙に投入します。その際、ロケットに積む人工衛星は1機ではなく、いくつもの企業や国が『相乗り』している状態です。ロケットは、メインとなる主衛星に合わせたルートで飛ぶので、このとき熾烈(しれつ)なポジション争いが起こるわけです」(佐藤氏)

メインポジションを取れる衛星の所有者はその国の政府であることが多い。つまり、他国のロケットに頼りきりだと、その国の事情に左右されてしまい、希望通りの軌道に衛星を飛ばせなくなったり、予定した打ち上げスケジュールを変更されたりする危険性があるのだ。

「最近は日本でも小型ロケットの開発が進んでいますが、先行する欧米に比べて未発達です。ポジション取りを請け負う代理店業も世界中で増えてくると思います。宇宙開発全体の国際競争力を高めるためにも、日本は日本独自の商用ロケットの開発と打ち上げ技術を培うべきです」(佐藤氏)

商用技術が進み、いずれは衛星だけでなく、一般のビジネスパーソンまで月面や宇宙ステーションに行けるようになるかもしれない。そのときを見据えて、もっと民間企業に「月面開発」に携わってほしいと佐藤氏は語る。

「『人類がどこまで生活圏を広げられるか』という希望に溢(あふ)れた未来像を描けるのが宇宙の魅力だと私は思っています。そして、ある大手ゼネコンが検討を進めているように、月面開発ですら夢物語ではなくなっているのです。月の重力は地球の1/6であり、月面基地から衛星を打ち上げたほうがコストもかからない。いずれは想像にすぎなかった世界が現実的なビジネスへと変わる時が来るでしょう」(佐藤氏)

佐藤氏は、日本政府と一緒に宇宙産業を盛り上げていく活動にいそしむと同時に、野村総合研究所のコンサルタントとして宇宙に夢とロマンを感じる企業のビジネスをサポートしていくつもりだという。宇宙産業はまだはじまったばかりで、どのようなビジネスチャンスが存在するのかは未知数だ。一時のブームで終わらせないためには、非宇宙系企業との協業をいかにうまく進めるかにかかっている。

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注釈:
(*1)ドップラー効果を利用して、目標物の移動速度を測定する技術のひとつ。雨雲や大気の動きを観測するのに用いられる。

プロフィール

野村総合研究所 コンサルティング事業本部 ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 上級コンサルタント 佐藤将史氏

学生時代に地球惑星科学を専攻。社会の問題解決を科学で行いたいという願いから野村総合研究所に入社。2011年アメリカUCLAに留学し、現地のアントレプレナーシップに影響を受ける。またアメリカにおける航空宇宙産業のベンチャー企業の存在を知り、日本に帰国後は日本の宇宙ベンチャーとの接点を持つ。現在は経営コンサルタントの立場で宇宙産業・商業の価値創造に注力している。

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