マーケティング戦略

未来を創る組織「イノラボ」とは――2種類のブロックチェーンの使い道

記事内容の要約

  • 日本にまだ上陸していないビジネスモデル、技術を活用する組織として、株式会社電通国際情報サービス内に通称「イノラボ」が発足
  • イノラボは、「10年先の未来を創る」という考えのもと、外部組織と組んで社会課題を解決できるような実証実験を行っている
  • ブロックチェーンには大きくわけて2種類あり、それぞれの特長を生かして「農産物の安全を保証」するために活用
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偽装や改ざんを防ぐことに優れ、仮想通貨の取引で活用されるイメージの強いブロックチェーン。実は、この技術は仮想通貨にとどまらず、広い領域で活用できる。

株式会社電通国際情報サービス内に「オープンイノベーションラボ」(以下、イノラボ)という組織がある。そしてイノラボは、「農産物の安全性を保証する」という目的で、“2種類”のブロックチェーンを活用した取り組みを2017年3月に実施した。

2種類のブロックチェーンとはどういうもので、どのように活用できるのか。そもそもイノラボとはどのような組織なのか。同社の担当者に話を聞いた。

最先端技術を使って社会課題に挑むイノラボ

2011年4月に発足したイノラボは、株式会社電通国際情報サービス内の研究開発組織だ。先進的な技術や、まだ日本に上陸していないマーケティングスキーム、ビジネスモデルなどを評価し、プロトタイピングや実証実験を行うことをミッションとしている。

日本の企業は、新しい技術の活用やビジネスモデルの導入に対して消極的な面がある。従来の業務構造を変えなければならないときもあるからだ。しかし、「まだ成功事例が十分に示されていないから」などと二の足を踏んでいると、ビジネスの機会を逸してしまう。特にインダストリー4.0の真っ只中においては、この保守的な姿勢が国際競争力の低下を招く一因にもなる。

イノラボは、先進的で実証実験するには時期尚早と評価した技術であっても、プロトタイプに起こして、世界各国で行われている展示会などに出展するようにしている。株式会社電通国際情報サービスオープンイノベーションラボ 鈴木淳一氏は次のように語る。

「イノラボのミッションは、先端技術を調査したり論文を書いたりすることではありません。実証実験やプロトタイピングを行ってきちんと形にすることがわれわれの役割です。その結果を電通グループ内に共有していくことで、将来的に実用化して社会課題の解決に役立てばと思っています。われわれは、技術ありきの発想ではなく、社会的課題の解決や理想的な未来のあり方を考えるために活動しています」(鈴木氏)


株式会社電通国際情報サービス オープンイノベーションラボ 鈴木淳一氏

10年後の未来を考えるための技術活用

具体的にイノラボは、どのような活動をしているのか。1つに、訪日外国人の体験価値向上への取り組みがある。

インバウンド市場の成長にともない、訪日外国人の観光をサポートするICTサービスの必要性が年々高まっている。そこでイノラボは、訪日外国人が快適に観光できる街のプラットフォーム開発を目的とし、欧州最大級のIR(*1)があるフランスのアンギャンレバン市でICカードを用いた実証実験を行った。ICカード1枚で各種施設への入場手続きや精算が行えて、さらに母国語でレストランの注文ができたり、観光案内が見られたりするサービスを提供した。観光客の利便性向上や言葉の違いによるストレス低減に寄与するICTサービスを検証することで、カジノ解禁が近い日本での応用を目指している。

またイノラボは、訪日外国人に向けた取り組みだけでなく日本から外国に渡航する旅行者に対して企業がどのようなアプローチができるかを考えるため、アウトバウンド領域にも取り組んでいる。たとえば、2014年には、ソーシャル世代である日本人高校生16名を被験者にして、海外旅行中のSNS上でのアクティビティーを記録し、GPSや加速度、気圧、心拍、皮膚温などの詳細なライフログを取得する実証実験を行った。これは、海外旅行時の行動や体調が平常時と比べてどのように変化するのか、さらにソーシャル上のコンテンツが彼らの行動にどのような影響を与えるのかを調査するために行われたものだ。その結果、旅行者の行動や意思決定に関するマーケティング手法の確立につながる気付きが得られたという。

イノラボでは、「今ある技術をきちんと使えば、10年後の未来を創れる」という考えのもと、外部の組織や人物と連携して上記のような事例作りに取り組んでいる。そして2017年3月、イノラボは新たな取り組みとして「ブロックチェーンを活用した、農産物のトレーサビリティー(*2)」に挑んだ。

特徴の異なる2種類のブロックチェーンとは

ブロックチェーンについては、以前Insight for Dの記事「最新テクノロジーで変わるメディアの在り方――『メディア×ブロックチェーン』」でジャーナリスト志村一隆氏が以下のように述べている。

ブロックチェーンは、不正や改ざんのできないデジタル記録台帳である。そして記録を利用者全員で認証するため、管理者を必要としない。コミュニティーの全員が直接参加する「直接民主制」であるがゆえに、不正ができない。この透明性と非中央集権型システムが、ブロックチェーンの特徴だ。

たとえば、仮想通貨の一種として話題のビットコインにも、ブロックチェーンが活用されている。もちろん、仮想通貨だけでなく、「透明性のある非中央集権型で低コスト」という特徴を生かし、エストニアでは住民台帳に活用するなど、企業だけでなく行政での導入も進んでいる。モノ、カネ、ヒトの移動を記録する手段として、ブロックチェーンは最適なのだ。

イメージ図
分散型であるブロックチェーンでは履歴を全員で共有する

実は、ブロックチェーンには大きく分けて「パブリックチェーン」、「プライベートチェーン」の2種類がある。

世間で話題になっているブロックチェーンは、ビットコインの根幹技術としても使われている「パブリックチェーン」を指すことが多い。これは対等な関係にある不特定多数の参加者によって取引が承認される仕組みだ。衆人環視の状況にあるため、恣意(しい)による操作や改ざんを行うことは非常に困難というメリットがある。ただし、取引の処理速度が遅いというデメリットもある。

一方の「プライベートチェーン」では、取引の承認は管理主体にあらかじめ設定された参加者に限られている。そのため、取引の処理速度が速いというメリットがある。しかし、そのぶん「非中央集権型」といえるのか不透明な部分もあり、中央管理者によるデータ改ざんの可能性が残るというデメリットがあるのだ。

このように2種類のブロックチェーンにはそれぞれメリットとデメリットがあるのだが、イノラボはそれぞれのブロックチェーンの特性を生かす形で「有機農産物の品質を保証」するための取り組みを、宮崎県の綾町とともに実施した。

日本では食の安全への意識が高まる一方で、産地偽装のニュースがあとを絶たない。これは消費者に不信感を抱かせるだけでなく、誠実に有機農産物を育てている団体にとってもどうにかしたい課題だ。そこでイノラボは、「情報の改ざん、不正が不可能なブロックチェーンであれば、農産物の産地を偽装できない仕組みが作れるのではないか」と、トレーサビリティーへの適用を考えたというわけだ。そして、有機農産物の生産においてある課題を抱えていた綾町とともに、実証実験を進めることになった。

具体的にどのように2種類のブロックチェーンを使い分けて、トレービリティーの実証実験を進めたのか。そして、綾町の抱えていた課題をどのように解決したのか。後編では、その模様を詳しくお伝えする。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)統合型リゾート。展示施設やホテル、商業・レジャー施設、カジノなどが一体となった複合観光施設
(*2)農産物の安全性を保証するために、栽培から加工、製造、流通などの生産履歴を明らかにすること

プロフィール

株式会社電通国際情報サービス オープンイノベーションラボ プロデューサー 鈴木 淳一氏

入社後、ロイヤルティ管理やM&A事案に従事し2011年イノラボへ。グランフロント大阪のICTコンセプトデザインを手掛け2013年Aegis Award最優秀賞を受賞。専門はPost City Science(未来都市)、Inbound Scape(訪日価値向上)など。ブロックチェーン推進協会トレーサビリティ部会長、放送大学客員講師を務める。

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