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衛星の持つ特徴と産業分類から見渡す「宇宙ビジネス」のいま

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38兆円(*1) の市場規模を誇る「宇宙ビジネス」。中でも「人工衛星データを活用したサービス」は宇宙ビジネス市場の35%以上(約14兆円)を占め、今後も拡大する見込みだと言われている。そんな宇宙ビジネスについて、国内外の宇宙技術・研究・サービスに関する情報を発信するメディア「宙畑(ソラバタケ)」編集部に、その特徴や産業との関わりの状況や、どのようなデータ活用が行われているかについて解説してもらった。

拡大する人工衛星の需要

最近、ロケット打ち上げのニュースを目にする機会が増えている。アメリカのSpaceX社やBlue Origin社、そして日本では堀江貴文氏が支援するインターステラテクノロジズ社など、Insight for Dの読者であればこれらの企業はご存じかもしれない。

ロケット開発の進歩が著しいひとつの要因として、人工衛星を宇宙へ打ち上げることの需要拡大がある。人工衛星を利用することで得られる未来とは、どのように私たちの日常を変えていくのだろうか。

本稿では人工衛星から取得できるデータについて、その活用事例に触れながら宇宙ビジネスのいまについて紹介する。

衛星ならではの特長を生かす

近年、地上や海上を観測する方法としては、ドローンや地上センサーなどさまざまなものがある。多くの選択肢があるなかで衛星を使う理由は、「広域性」「越境性」「抗たん性」「同報性」という4つの特徴によるところが大きい(参照『宇宙開発と国際政治』鈴木一人 著、岩波書店、2011年)。この特徴についてまずは触れてみたい。

  • 広域性
  • 広域性とは、広い地域を一度に観測できる能力である。地上に設置しているセンサーの観測できる範囲は、センサーを中心にして数メートル、広くても数キロメートル程度。ドローンであれば飛行高度は数百メートル~数10キロメートルの範囲が一般的である。senseFly社(*2) のeBeeというドローンだと一回の飛行で12平方キロメートルを観測できる。一方、衛星の高度は低いもので500キロメートル程度、高いもので3万6,000キロメートルだ。地上センサーやドローンと比べて桁違いに高いところから地球を観測しているため、より広い範囲を観測できる。


    赤道上空約 36,000 キロメートルにある気象衛星ひまわりの観測範囲(写真左)。地球の約3分の1を一度に観測できる。右画像は高度700キロメートルにある地球観測衛星Landsat-8の観測範囲(写真右)。関東地方全体を一望できる。
    出展:気象庁

  • 越境性
  • 言葉が示すとおり、国境という制限を取り払うことができる。他国の管理下でドローンを飛ばしたり、地上センサーを設置して観測したりするのは難しいが、衛星であれば、合法的かつ簡単に観測できる。衛星からの観測は、国際法上も違法ではない。

    たとえば安全保障を目的として、北朝鮮の核開発の様子は、高解像度の地球観測衛星を用いて監視されている。その他、東日本大震災の際の福島第一原子力発電所も衛星を使って鮮明に撮影できた。

  • 抗たん性
  • 抗たん性とは、軍事的に敵の攻撃を受けても機能を維持できることに由来した言葉である。宇宙空間は、国際的に「宇宙条約」と呼ばれる条約により攻撃が禁止されているため、宇宙空間にある衛星が破壊されることはない。たとえ攻撃する側に悪意があったとしても地上のインフラに比べて攻撃することが難しい。

    また、広い意味で捉えるならば、地震・火災など地上の災害の影響を受けにくいため、緊急事態のインフラとして役に立つ。

  • 同報性
  • 衛星は高度に位置するため、同じ情報を広い地域に同時に送りたい時にもその力を発揮する。「衛星放送」などがその良い例である。

産業別にみるデータ活用法

上記4つの特徴を持つ衛星のデータは、さまざまな分野で使われ始めている。産業分類別に衛星との関わりを見れば、適用範囲の広さが理解できる。実例とともに紹介しよう。

【第一次産業】(農業、林業、漁業など)
第一次産業は屋外での作業が多く、広大な大地を相手にするため、「広域性」が発揮できる衛星との親和性が高い。

農業や林業であれば、日頃の天気を気象衛星データから得ているのはもちろんのこと、作物の状態も衛星から確認できる。また、農機の位置をGPSで把握すれば、自動運転も可能だ。

漁業では海水温を衛星から取得することで、広大な海のどこに魚が多くいるのかを探知できる。また、通信回線がつながっていない海で活躍する通信衛星も重要なインフラとして利用されている。

【第二次産業】(製造業、建設業など)
第二次産業では、衛星の「広域性」や「同報性」が力を発揮する。

たとえば多くの候補地の中から工場の建設予定地を探すとき、現地に足を運ぶ前に衛星を使って、候補地を絞った方が効率の良いケースもある。衛星なら足を運ぶだけでは見られないところまで撮影できるからだ。

また、建設を始める前に作成する現場の3D地図も、従来は人の手によってレーザーで計測して作成していたが、衛星を使うことで早く作成できるようになった。

【第三次産業】(小売り、運輸、金融、サービスなど)
第三次産業は「広域性」と「越境性」という衛星の強みが生かされる分野だ。運輸では、運送トラックの位置情報を常に把握し、効率的な運用に役立てている。金融業界では、山奥などのドローンが飛ばせない地域の様子を人工衛星で観測し、その地域の車の台数などの情報から企業の活動状況を捉えて、株価の予測に役立てている。

このように、衛星から提供されるデータは、今やどの産業でも使われる可能性を秘めている。衛星データは無意識にわれわれの生活と深く結びついているのだ。

ベンチャー企業による衛星データ活用

ビッグデータに代表されるように、さまざまなデータを組み合わせて知見を得ることが世界的な潮流であり、衛星データもそのひとつである。数多くのベンチャー企業が、衛星データと他の情報を組み合わせて、新しいサービスを作り出している。

データを用いた農業が進んでいるオランダでは、Dacom 社(*3)が衛星データから顧客の畑情報の「見える化」を行っている。衛星データに地上で取れるデータや気象データを組み合わせて、農業が効率的に行えるように支援しているのだ。

海外は農地が広く、ドローンではカバーしきれないケースが少なくない。また、ドローンは各農場に配備が必要であるが、衛星の場合は水田を増やしても、衛星の追加は基本的に不要である。


オランダでは農業に衛星データを用いることが一般的となっており、Dacomのサービスは広く認知されている。

国際海事機関(IMO)によれば、世界の貿易の約90%は海上輸送で行われているという(*4) 。しかし、海上では通信ネットワークが十分でなく、高額な衛星通信に依存し、把握できる情報は限られていた。

サンフランシスコに本部を置くSpire Global社(*5)は、すでに60機以上の超小型衛星を打ち上げ(*6) 、世界中の海で、船が発信する位置情報や速度情報をリアルタイムに収集する衛星群を構築中だ。船の位置を宇宙から網羅的に把握することで、海難事故の発生を早い段階で察知したり、危険物を運んでいる船の情報、違法漁船の検知などのトラッキングデータを提供したりしている。


衛星で船舶の情報を集めることによって、世界中の船舶の位置を網羅的に把握できる。

そして、宇宙ビジネスとベンチャー企業を語るうえで、外せないのがフィンランドに拠点を置くICEYE 社(*7)。

これまで不可能だと言われていた合成開口レーダー(SAR)の小型化を成功させた。SARとは、電波で地球を観測する手法の1つで、普通の光学カメラでは撮影できない夜や雲がかかっていても、地表の様子を撮像できるセンサーだ。

たとえばSAR画像の使い道のひとつとして保険サービスがある。台風や洪水による被害地域の把握や森林火災の広がり方の予測など、現地で直接確認しなければならなかった要件が、衛星によって行える。災害時の天候が悪く、光学カメラを持った衛星では撮影できないケースでもSARの強みを発揮できるというわけだ。そのような背景もありICEYE社は、災害発生後24~48時間以内に撮影を行うサービスを計画している(*8) 。


昨年打ち上げられたICEYE社の衛星「ICEYE-X1」で撮影されたSAR画像より。

日本は地上の通信インフラが十分に発達しているため、認識しづらいかもしれないが、海外では地上のインフラの不安定さから衛星回線を用いることがある。

この点に注目して、900機の通信衛星打ち上げを計画しているのがOneWeb 社(*9)だ。これまでインターネットがつながっていなかった地域の人々に、通信環境を提供する壮大な計画であり、ソフトバンクやコカ・コーラ、米半導体大手Qualcommなども出資している注目企業だ。

大量の衛星を製造するのは、衛星製造経験がないベンチャー企業には難しく、宇宙環境で確実に動く衛星を作るためには高い製造能力が求められる。OneWeb社の場合は、衛星製造大手であるAIRBUS社と組み、ベルトコンベヤーのような流れ作業で衛星を製造している(*10) 。かつての衛星製造は1機ずつオーダーメイドすることが一般的だったため、この取り組みは画期的である。


OneWeb衛星の製造ラインは自動車製造のような流れ作業で行われている。

さらに高まる宇宙ビジネスへの期待

人工衛星から取得できるデータは、ただの画像や位置情報、海水温度など、いま現在見えている事実でしかない。ただし、これらは人類が人工衛星を打ち上げるまでは取得できなかったデータである。用途がなければ単なる情報の集積だが、明確な用途が生まれ、そこにお金を払いたいと思えるサービスに昇華できる可能性を多分に秘めている。


宙畑がまとめる宇宙利用業界マップ。宇宙のデータがさまざまな場所で利用されている。

だからこそ、ロケット開発が急速に進歩し、人工衛星の小型化・高性能化が著しいいま、既存産業が長年抱えてきた課題を解決する糸口や、新たなサービスの誕生の可能性として、宇宙ビジネスに期待が寄せられている。

そのような背景に後押しされ、官民から5年間で1,000億円のリスクマネーを宇宙ビジネスに供給することが2018年3月21日の「宇宙ビジネスシンポジウム」で発表された(*11) 。日本国内においても宇宙ビジネスへの期待はまだまだ高まり続けるだろう。

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