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「宇宙ビジネス」を支えるデータプラットフォームの進化

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世界規模で急成長中の宇宙ビジネス市場。特に人工衛星のデータを活用したビジネスは、今後も拡大するといわれている。今回、国内外の宇宙技術・研究・サービスに関する情報を発信するメディア「宙畑(ソラバタケ)」編集部に、衛星データの利活用には欠かすことのできない「データプラットフォーム」について解説してもらった。

なぜ世界が宇宙ビジネスに注目するのか

衛星データの利用が盛んになってきた背景は、前回の「衛星の持つ特徴と産業分類から見渡す『宇宙ビジネス』のいま」で解説した。ただ、世界初の人工衛星「スプートニク1号」が打ち上げられたのは1957年10月4日のことで、すでに60年以上も昔の話だ。なぜ、今になって世界中が宇宙ビジネスに注目しているのか。

その理由として、小型衛星の登場がある。衛星が小型化したことでコストが下がり、打ち上げ回数が増えたために、衛星データが大量に手に入るようになったのだ。さらに、観測頻度が高まることで、利用できる画像の枚数も多くなった。

もうひとつの大きな理由は、データプラットフォームが進化したことだ。機械学習などの技術発達によってデータ活用の利便性が急速に高まり、衛星データをビジネスに利用できる環境が急速に整ってきている。

本記事では、衛星データに求められるものとは何かを解説し、今後の宇宙ビジネスを支えるデータプラットフォームへの各国政府の対応について紹介する。

データプラットフォームに求められる2つのポイント

衛星データのビジネス利用を進めるためには、衛星データを供給するデータプラットフォームの高度化が欠かせない。データプラットフォームとは、データの横断的な連携や利活用を可能にする場のことだ。

衛星データを利用したい人がデータプラットフォームに求めるものは大きく2つある。「利便性」と「継続性」だ。

  1. データの利便性
  2. データは欲しい時に欲しい部分だけ、迅速に入手できることが望ましい。しかし、衛星の生データの容量は1枚につき数ギガバイトもある。数年前までは、データをCD-ROMに焼いて授受していたほどだ。現在でも1枚の衛星写真をダウンロードするには、早い回線でも数分、途上国等の環境では30分以上かかることもよくある。そのため、ローデータから余計な情報を取り除いてすばやく送ることが求められる。

  3. データの継続性
  4. 衛星データの継続的なビジネス利用には、当然のことながらデータの安定的な供給が求められる。データがいつ使えなくなるかわからないという状況では、企業は安心してデータを使うことができず、利用しようという気もうせてしまう。

地上での技術発展が与えた影響

衛星データの利便性が高まった背景には、「機械学習」「クラウドコンピューティング」「ビッグデータ」という技術の進化があった。

今後も指数関数的に増えることが予測される衛星画像を、一枚ずつ人間が確認するのは労力がかかり過ぎる。そこで解決策になり得るのが「機械学習」だ。画像に何が写っているかを判断させ、通知すべき結果だけを知らせる。こうすることで人が判断する手間が劇的に減少する。

くわえて、「クラウドコンピューティング」が盛んになってきたことも衛星データの活用においては追い風になっている。大本のデータサーバー(衛星画像の受信局)から地理的に近い場所にクラウドサーバーを持つことで、速い処理速度を実現できる。地理的に遠い場所には、機械学習を挟んで軽くなった情報だけを持ってくることも可能だ。またクラウドはディスク容量の物理的な制限がないため、どんどん増えていく衛星データにも柔軟に対応できる。

また、機械学習は単に衛星画像だけを見ているわけではない。衛星画像上で変化している場所を見つけ、その場所にひもづいた情報をインターネット上で探し、なぜそう見えているかの理由まで見つけ出すことができる。たとえば、衛星写真上で新たな建物を認識すれば、その位置情報から「メーカーが新しいラインアップのため生産工場を建設した」などの事実を突き止められるのだ。その際処理される関連情報にはSNS上での発信、企業のプレスリリースなども含まれる。つまり、衛星データもビックデータの一部として扱われているのだ。

このように、宇宙側の技術として超小型衛星が発達するのと同時に、地上で「機械学習」「クラウドコンピューティング」「ビックデータ」が盛んに活用されるようになったことで、衛星データ利活用の利便性が高まったのである。

データプラットフォームの各種サービス

では、衛星データの「継続性」とはどういうことを指しているのか。それを説明するために、まずは衛星画像を提供しているデータプラットフォームの現況に触れておこう。

現状では、衛星画像のデータプラットフォームはどれか1つが圧倒的に利用されているというわけではなく、以下のようなものがある。

    【政府系】
  • Corpernicus (欧州連合)(*1)
  • ヨーロッパのSentinelシリーズの衛星データを無償で公開。観測計画を事前に公開するなど、ユーザーインターフェースに配慮している。


    Sentinelシリーズの画像が検索できるプラットフォーム

  • LandsatLook Viewer(アメリカ合衆国)(*2)
  • 米国のLandsatシリーズの衛星データを無償公開。公開されている衛星データの中では最も古く、1972年からのデータがある。

  • 地球観測衛星データ提供システム G-Portal(日本)(*3)
  • JAXAの衛星画像を無償で公開。降水や海面水温など画像情報以外の物理量からも選べるようになっている。

  • 衛星データ利用促進プラットフォーム(日本)(*4)
  • JAXAのALOS 衛星(PRISM)、米国のLandasat-8、Terra衛星(ASTER)データの無償公開に加え、ALOS-2衛星(PALSAR-2)の画像を有償で公開。分野別に衛星画像の活用事例が紹介されている。

  • データ統合・解析システムDIAS(Data Integration and Analysis System)(日本)(*5)
  • 衛星画像だけでなく、さまざまな地理空間情報を取り扱う。

    【民間系】
  • Digital Globe (アメリカ合衆国)(*6)
  • 商用利用としては最も解像度の高い衛星WorldViewシリーズの画像を有償販売。国防関係の衛星データを供給する企業で、衛星データ供給の世界最大手。

  • Planet(アメリカ合衆国)(*7)
  • 100機以上の超小型衛星DoveやSkysatの衛星画像を有償公開。米国発の宇宙ベンチャー企業であり、最も多くの衛星を所有しているデータプロバイダー。

    【その他の関連サービス】
  • AWSから眺める地球(*8)
  • LandsatやSentinelのデータ無償公開。Planetの衛星データも有償公開。多くの衛星データをAmazonのクラウド上に蓄積することで、ユーザーがAmazonのクラウド上で作業してくれることを期待している。

  • Google Earth Engine(*9)
  • クラウド上にLandsatやSentinelのデータを蓄積・無償公開。Googleの機械学習ツールTensorFlowも使える。

データの継続性に対する、政府への期待と民間の戦略

ご覧いただいた通り、衛星データのプラットフォームは、公共機関と民間企業が乱立している。公共機関である政府と利益追求する民間では、衛星データの継続性を担保するためのあり方に違いがある。

衛星は、特に高度500km付近を周回する衛星は寿命が5~10年と短く、せっかく衛星データを使ったビジネスを始めても10年後には使えなくなる可能性がある。そのため民間企業は衛星データの活用にはなかなか乗り出せない。そこで政府がコストを負担して衛星を打ち上げ、必要最低限の衛星データを継続的に供給できるようにし、データプラットフォームが維持されることが望ましい。

一方、民間ではAWSもGoogleもペタバイト級の衛星データを自社クラウド上で無償公開している。これには民間企業としてのクラウド戦略が垣間見える。

一般的に衛星画像は容量が大きく、画像一枚をダウンロードするのに時間がかかる。しかし地理的に近いクラウド上にある衛星データを、自身のクラウドサーバーにダウンロードできれば時間は短くなる。ここに、AWSやGoogleが衛星データをクラウド上で無償公開している狙いがある。つまり、クラウドを多くのユーザー企業に使ってもらい、その使用料を収益にするために衛星データを提供しているのだ。

さらにAWSやGoogleは、自社の機械学習も画像解析ツールとして提供している。これによりユーザー企業は、効率的に衛星画像を解析できるようになっている。

欧米の戦略と日本の試み

では、衛星データプラットフォームに対する欧米や日本の対応はどうかというと、それぞれ異なっている。


各国のプラットフォームとその上流・下流におけるプレーヤーの違い。ヨーロッパでは政府が衛星データ提供の立場から強力に支援。アメリカ合衆国は民間のプラットフォームを政府が下流から支援する。日本がどのようなプラットフォームを構築するのか、政府が何を支援するのか、今後に注目が集まる。

  • ヨーロッパ
  • 民間企業が衛星データを用いたビジネスを促進できる(*10)ように 、衛星データを少なくとも2030年までは提供し続けることを、欧州宇宙機関と100以上の欧州企業との間で取り決めている(*11)。

  • アメリカ合衆国
  • 米国国家地球空間情報局は、民間の衛星データを積極的に活用していくことを表明している(*12) 。政府が顧客になれば必ずリターンがあるため、投資家が民間の衛星ベンチャー企業にこぞって投資するという循環が生んでいる。これは間接的に「データの継続性」を保証する動きともいえる。

  • 日本
  • 2018年3月に安倍首相が、今後5年間、宇宙ビジネスに対して1,000億円規模のリスクマネーを供給すること発表した(*13)。 各国の政策を参考に、政府の支援すべきこと、民間が自ら投資して行うべきことをきちんと整理し、宇宙への投資熱をバブルで終わらせないよう後押ししている。

なお、日本は今年、経済産業省が主導となり、「オープン&フリー」なデータプラットフォームの用意が検討され始めた。データプラットフォーム構築を受注したのは、今まで宇宙とは関係のなかったさくらインターネット株式会社だ。データセンター事業者としての手腕が問われるところだが、日本政府としても、いかにデータの継続性を担保していくのかが問われている。

ロケット開発の技術革新に、データプラットフォームの整備、そして衛星データの供給と需要の拡大――。まさに今、宇宙ビジネスの波が押し寄せている。

実際にビジネスとして成立するかどうかが明らかになるのはこれからである。ただ一つ言えることがある。これまで遠い世界の話であった衛星データが身近になるにつれて、私たちの生活が豊かになるということだ。

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