マーケティング戦略

「ややこしい時代」を生き抜け――PRパーソンが知っておくべき6つの法則

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企業広告、テレビ番組から映画や歌にいたるまで、ユーザーの価値観に合わない表現があれば、SNSなどを通してすぐ「炎上」する世の中になった。また、モノも情報も大量にあふれているせいで、多くの人にとって商品やサービスを「買う理由」が見えにくくなっている。

「こうした時代だからこそ、PR(パブリック・リレーションズ)の力が求められている」と話すのは、『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』の著者で、戦略PR会社 ブルーカレント・ジャパン株式会社の代表でもある本田哲也氏だ。

マーケティング活動やコーポレート・コミュニケーションにおいて、その価値を高めてきたPRの世界。その現状と未来、そしてPRパーソンが身につけておくべき発想法や価値観について話を聞いた。

人々の関心はミルフィーユ化した

─著書では「今後、ますますPRの重要性が高まる」と訴えられています。その理由を教えてください。

本田哲也さん(以下、本田。敬称略):ひとことで言うならば「ややこしい時代」になったからです。

─ややこしい時代とは?

本田:2010年代に入って、人々の関心は「多層化」しました。背景にあるのは、SNSとスマホの普及。まずSNSでは誰もが気軽に情報発信できるようになりましたよね。趣味でも仕事でも思想でも、「同じ関心や価値観」を持つ人たちが互いに情報を受発信しながら、結びつきを強くしていきました。

一方でスマホというデバイスによりインプットされる情報は劇的にパーソナライズされるようになりました。巨大な「マス」の情報は影を潜め、現代の生活者が関心を持ち、消費している情報は個々に多様化し、多層化しました。「気になるものはみな同じ」ではなく「気になるものは人それぞれ」になった。情報環境が複雑になり、人々の関心はミルフィーユのように重層的になったのです。

─情報環境が複雑になると、なぜPRの重要性が高まるのでしょう?

本田:PRとはパブリック・リレーションズの略語です。企業と消費者、企業と社会、企業とメディアなどの「関係性(リレーション)」を良好にし、それを維持するための戦略やノウハウのことを指します。

かつては企業とマスメディアをつなげることこそが、PRパーソンの仕事でした。企業の新商品やサービスに関してプレスリリースをつくり、新聞社やテレビ局にコンテンツとして使ってもらう。あるいは不祥事が起きたとき、迅速に効果的な謝罪会見を開き、マスコミ各社に取り上げてもらう、といったメディア対応ですね。

─ところが、SNSの発展などの理由で相対的にマスコミの力が弱まっている、と。

本田:そのとおりです。マスコミに発信してもらっても、かつてほど消費者とのリレーションは築けなくなりました。また、不祥事に対してただ謝罪をしてもむしろネット上でたたかれたりする。下手な謝罪によって、さらに炎上してしまうことがあります。

だからこそPRの役割の幅が広がり、PRパーソンが手がける仕事の重要度は、これまでよりも増したと考えられます。

─そんな「ややこしい時代のPR」に不可欠なPRの法則として、本田さんは著書で6つ挙げていますね。興味深いのは、以前から提唱していた3法則に加えて、新たに3つを追加されたことです。

本田:2009年の頃と比べて、戦略的なPRを実践するためには、アップデートせざるをえなくなったんですよ。

本田さんお写真

SNSの使い方がうまい企業が支持される、本当の理由

─あらためて戦略PRに不可欠な6つの法則を教えていただけますか?

本田:はい。6つのうちもともと提唱していた3つから言うと、『おおやけ』『ばったり』『おすみつき』があります。

『おおやけ』とは、社会性を担保すること。戦略PRの仕事は、簡単にいえば「あの企業はいいね」「この商品いいね」という“空気をつくる”ことです。そのためにはまず、「世の中の空気」を知っておく必要があります。たとえば「LGBTなどの個性に寛容な社会を」という理想や、「夫婦ともに家事や育児をしよう」という生活スタイル。これらは今の日本の『おおやけ』としてはずせないところでしょう。自社、あるいは自社製品のイメージがこれらと反するようならば、早急に対応したほうがいいわけです。

『ばったり』とは、偶発性の演出です。消費者は、たとえ自分の好みに合う商品であったとしても、企業が「買え買え!」と押し付けてきたら嫌がります。一方で、偶然にそんなモノと出会うと、その出会いは運命的な輝きを放ちます。戦略PRが狙うべきはセレンディピティ(偶然の出会い)です。

『おすみつき』は、インフルエンサーなどから得られる信頼性のこと。言うまでもなく、第三者の発信する情報は、企業からの発信よりも信頼されやすい。SNS全盛の現代では、インフルエンサーを経由したリレーションはより重要度を増していますよね。


著書の『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

─この3つを押さえて企業や製品なりをPRされたら、確かに「よさそうだな」と感じそうですね。

本田:はい。これらはいつの時代にも変わらない原理原則だと思います。ただ、今回新たに加えた3つは、ソーシャルメディアが隆盛した今だからこそ不可欠な法則です。具体的には『そもそも』『しみじみ』『かけてとく』です。

『そもそも』とは、普遍的なテーマを扱うこと。斬新なアプローチをとるばかりがPRではありません。「よくぞ言ってくれた!」というような、潜在的な普遍性に訴えかけるようなPRコンテンツは、先に述べたように、人々の関心がミルフィーユ化した世の中にも広く通用します。

次の『しみじみ』は、情緒的な要素のこと。「身にしみる」が「しみじみ」の語源であるように、感情に訴えることで、情報を受け取る側に当事者意識を持ってもらうのです。これも極めてソーシャルとの親和性が高い。テキストでも動画でも、ストーリー性が強く、感情に訴えるコンテンツはシェアされやすい傾向がありますから。

そして最後は『かけてとく』。これは「◯◯とかけて、××ととく…」といった大喜利のように、リアルタイムかつ機知(ウイット)に富んだコミュニケーションのことです。実はこの最後の「かけてとく」こそ、最近のデジタル化、ソーシャル化の潮流を色濃く表して、不可欠になっている要素だと感じています。

─確かにTwitterでは、企業や広報のアカウント、場合によっては企業の代表のアカウントで、ウイットに富んだ「うまい」引用ツイートが、バズったりしますね。

本田:まさにそれです。自虐的なネタながらも、ブランドらしい生真面目さをうまいタイミングで出すシャープのアカウントや、ユーザーの声や質問に対して、時に真摯(しんし)に、時にあっけらかんと答えるZOZOの前澤友作さん(創業社長)などはその代表ですよね。

─そうした方々は機知に富んだツイートをするだけじゃなく、間をあけずに返信するなど、瞬発力もありますね。それも支持される理由でしょうか。

本田:「本気」が透けて見えるから支持されるのだと思います。思わずうなる発言が瞬時に出せるのは「普段からそう考えている」という証拠ですからね。「このブランドは本気だ」「信頼できる」と共感される。「ウソ」や「志の低さ」はにじみ出る、バレるというのが、SNS時代の戦略PRにとって最も大切な勘どころなんだと思います。

─SNSによって、企業の姿勢や本質が良くも悪くも伝わりやすくなった。そうなると、消費者に対して正直であることがこれまで以上に求められそうです。

本田:広告がフィクションのように作り込むものだとしたら、PRはノンフィクションなんです。ドキュメント作品のように、ファクトを元にしてどう伝えるかという手法をとるんですね。

ただ、ありのままを伝えるだけでは、消費者の心に刺さりづらい。ファクトをどのようなアプローチで効果的に伝えるかを考えなくてはいけません。その点においてビッグデータが大きな意義を持ちはじめています。真実を正確かつ効果的に伝える役割を、膨大なデータが担い始めているんです。

たとえば、次の画像を見てください。

データを“グロテスク”に使ったから、成功した

MEETGRAHAMイメージ
出典:TAC「MEET GRAHAM」(*1)

MEETGRAHAMイメージ
出典:TAC「MEET GRAHAM」(*1)



出典:TAC「MEET GRAHAM」(*1)

─独特の外形で、少し怖くもありますね。

本田:グロテスクですよね。ただ、それだけに目を引く。SNSのタイムラインに流れてきたら、思わず手が止まります。

実はこれはオーストラリアのビクトリア州の交通安全支援団体が手がけた「MEET GRAHAM」というPR施策です。ビクトリア州が交通安全キャンペーンの一環として、「交通事故にあっても死なない人間」として生みだしたのが、この造形物です。

造形のベースにあるのは、ビクトリア州の交通局が持っている「交通事故にあったときに重傷を負う肉体カ所」の膨大なデータです。このビッグデータを元に大学教授や医師が「では、肉体のどの部分を強化すれば、交通事故にあっても重傷を負わないか」と考えた結果、衝撃を吸収する大きく硬い頭蓋骨や、肥大化した組織と分厚い皮膚などをもった人間が出来上がりました。ただの想像ではなく、ファクトに基づいた造形物だからこそ不思議な説得力があります。

─交通事故の危険性をビッグデータに基づいて「可視化」したわけですね。ひと目みたら忘れられないほどのインパクトによって強烈に記憶に残りますし、誰かに伝えたくもなります。

本田:そう。「耐えられる体をつくる」という発想で、本気で具現化させた結果、ものすごく興味を引くアウトプットになった。「違和感」や「不気味さ」の演出が多くの人の心に刺さったわけです。

実際に、SNSを通じて世界中でシェアされて、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルのPR部門ゴールドや、「ライオンズヘルス」のグランプリも受賞しました。

昔からPRの世界では、「1万人の方が愛用しています」などのように、データに基づくアプローチはよくありました。しかし、ただ事実を伝えるだけではだめ。もしこの作品が、「重傷を負いやすいカ所」をインフォグラフィックなどで表現したものだったら、「へえ」という程度で、スルーされていたと思います。

今の複雑化した世の中では、ビッグデータを「どう生かすか」が重要ですし、そこを考え抜くと十分にPRの力は発揮できる。その可能性を感じる一例だと思いますね。

─こうした優れたPRを実践していくうえで、いま企業の担当者、あるいはPRパーソンが心がけるべきことは、やはり6要素ということになりますか?

本田:その前に大事なことが一つあって、「Brave」なんですよ。

本田さんお写真

大切なのは大局をとらえること、そして「勇気」

─Brave、つまり「勇気を持て」、ということですか?

本田:はい。批判や炎上を恐れる空気がまん延している中では、PR活動は自ずと保守的になるのが必然です。しかしそれでは情報を本当に届けたい人に、届けることはできません。炎上は抑えられても、効果は出づらくなる。

先の『MEET GRAHAM』も、「気持ち悪い」「悪趣味だ」と批判を受ける可能性も高かった。しかし勇気をもって独創的な表現を貫いた結果、多くの人々に届き、社会にインパクトを与えました。

とはいえ、ただ「炎上上等!」とやみくもにリスクを追うのは失策です。大切にしてほしいのが、大きな世の中の空気の流れ、いわば“文脈”をつかむことですね。

─今、世論はこちら側を向いている、ここに興味があるぞ…といった大局のようなものでしょうか。

本田:そうですね。たとえば昨今は「ジェンダーイコール」の考え方がある。社会的な性差が不合理になることは確かに是正しなければならないし、その機運も盛り上がっています。しかし、これを5年前、10年前といったスパンで、反対派、賛成派の声を俯瞰(ふかん)すると、見解がバラバラで一直線ではないとわかる。

「ジェンダーイコールだ!」と声高にPRをするには、過去から現在までを長い目で見て文脈をつかみ、5年後、10年後の世の中まで見据えて施策を練るような慎重さも併せ持つ必要があるでしょうね。

─とても高度で難しそうにも思えます。

本田:ですね(笑)。ただそれこそAI技術が発達して、PRの世界に実装されたら、世の中の複雑な文脈を見いだすことも可能かもしれません。活用できるデータもさらに多様になっていくので、アウトプットするアイデアも広がるはず。となると、やはり最後に必要なのは勇気なのかもしれませんね。

注釈:
(*1)TAC「MEET GRAHAM」(外部サイト)

プロフィール

ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長 本田哲也氏

『PRWEEK』誌によって「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に選出された、日本を代表するPR専門家。2006年ブルーカレント・ジャパン株式会社設立。2009年に『戦略PR』(アスキー・メディアワークス)を上梓、広告業界にPRブームを巻き起こす。カンヌライオンズ2015、2018公式スピーカー、カンヌライオンズ2017 PR部門審査員を担当。

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