マーケティング戦略

顧客が求める価値とは――戦略はバリュープロポジションから考える

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『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA/中経出版)――。2011年、刺激的なタイトルの著作を発表して以降、マーケティング関連書籍を数多く上梓し、累計83万部を誇るベストセラー著者が永井孝尚氏だ。

日本アイ・ビー・エム株式会社在籍時にマーケティングマネジャーとして腕をふるいながら、執筆活動をスタート。独立後はマーケティング思考を日本に根付かせることを目的に、マーケターはもちろん、一般のビジネスパーソンに向けても講演やワークショップを精力的に手がけている。

永井氏は「今の時代こそ、企業は『お客さまが買う理由』を真剣に考えなければならない」と指摘する。果たしてその真意はどういうところにあるのだろうか。

企業が見透かされる時代

デジタル化はマーケティングの何を変えたのか──。

そう問われたら、私は真っ先に「お客さまを変えた」と答えます。あえていうなら、お客さまが“超ワガママ”になったのです。理由は3つあります。

まずあらゆる「情報の透明性」が一気に上がったこと。インターネットやGPSなどを介して、人々の行動はデータとして可視化されるようになり、企業は顧客の気持ちを洞察しやすくなりました。裏を返せば、企業の気持ちも顧客に完全に見透かされています。「あのサイトを訪れたから、この商材を推してくるんだな」というように、すでに大勢の人が広告を通して企業の思惑を理解しています。

2つめは「リアルタイム」になったことです。モノも情報も瞬時に流通するようになった結果、時間に対する顧客の忍耐力は大きく低下しました。もはや顧客が「いま気になる」モノが、「10分後も気になる」とは限りません。ほしいという気持ちはあっという間に蒸発します。

そして3つめは「コミュニケーションのコストがゼロになった」ことです。スマホとSNSで誰でも自由にモノやサービスの良し悪しを語れるようになりました。気に入れば熱狂し周囲にも勧めてくれてバズるかもしれませんが、気に入らなければ酷評を流布され炎上してしまうかもしれません。

つまり「お客さまがワガママになった」とは、お客さまが「本当に自分の価値観にあったものしかほしいと思わない」状況が生まれたということ。でも企業側があらゆるワガママを抱えきれるはずはありません。言い方を変えると、「お客さまは神様」と考えて、なんでも言うことを聞く時代は終わったということです。

今は「お客さまはとても大切な人」と考えるべきなのです。すべてのお客さまに対応はできないけれど、親しい間柄となれたお客さまには、その人が本当に必要とする価値を提供する。そうならざるを得ない世の中になっています。こんな時代にこそ求められるのが、「バリュープロポジション」の思考なのです。

永井氏写真

超ワガママな顧客にどんな価値を示すべきか

バリュープロポジションとは、「お客さまが買う理由」のことです。

多くの人は、「(A)自社が提供できる価値」を考えて、お客さまに提供しようとします。しかしこれではお客さまは買ってくれません。「(B)お客さまが求める価値」がないと、価値を見いださないからです。

でも、これだけではまだ足りません。競合他社がいるからです。「競合他社が提供できない価値」を提供して、初めてお客さまは買ってくれます。

バリュープロポジションイメージ

図にすると、(A)と(B)の円が重なり、(C)と重ならない部分。これが、「お客さまが買う理由=バリュープロポジション」です。

今の時代、「安い」「多機能」などといった理由で「買いたい!」と思うお客さまはとても少なくなりました。超ワガママになったお客さまに買っていただくには、この「お客さまが買う理由=バリュープロポジション」を作ることが必要です。

私は前職時代に、この考え方の大切さについて身をもって実感しました。2002年頃、私は日本IBM(以下、IBM)のコールセンターソリューションを企業向けに開発・販売する事業部でマーケティングマネジャーをしていました。当時、多くの企業が「お客さま対応を充実させよう」と考えていたので、コールセンターのニーズは年20~30%増の右肩上がりで伸びていましたが、競合も多くいました。そこでバリュープロポジションを探ることにしたのです。

実はこの時期、大企業のコールセンターはバラバラでした。「お客さまに対応できる体制をすぐに作ろう」と考えた部門ごとに、コールセンターをバラバラに設置していたからです。結果、電話してきたお客さまはたらい回しにされ、逆に顧客満足度が大きく下がるという深刻なお悩みを抱えていました。

ではどのようにしたらIBMは、このお悩みを解決できるか? この頃、IBMのコールセンターへの見学を希望する企業が、大企業を中心に年間100社もありました。当時のIBMでは、お客さまのお問い合わせを一元管理できる統合コールセンターを持っていたからです。「ウチも同じことをやりたい」というお客さまも多くいました。

つまりお客さまの深刻なお悩みは、「バラバラなお客さま対応を改善すること」。そしてIBMが提供できる価値は「お客さま対応を一元管理できる、統合コールセンターの構築経験」だったのです。当時、同業他社はどこもIBMのような経験を持っていませんでした。

ひと言で言えば、この「コールセンター統合のノウハウ」こそ、IBMのバリュープロポジションだったのです。

ただこのバリュープロポジションは、あくまでもマーケティング戦略の出発点です。このバリュープロポジションを中心として、具体的な施策に展開することが必要です。

まずIBMコンサルティング部門と協業してIBMのコールセンター統合ノウハウを体系化してお客さまに提供できるようにしました。また大企業のコールセンター長をお招きして「コールセンター長会議」という半日のイベントを隔月開催し、IBMや先進企業のコールセンター統合経験の責任者に生の声で語っていただく場を作る一方、お客さまをコミュニティー化したり、コールセンターの大型案件を持つIBM直販セールスと情報共有する仕組みも作ったりしました。

バリュープロポジションに基づき、さまざまな施策がお互いに相乗効果をあげるように展開することで、IBMは各種調査でもコールセンターソリューションのリーダーとして認知されるようになりました。

永井氏写真

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プロフィール

マーケティング戦略コンサルタント 永井孝尚氏

マーケティング戦略のプロとして、多くの企業・団体に新規事業開発支援、講演・研修を提供。主な著書に、シリーズ60万部となる『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)のほか、『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)、『売れる仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証』(幻冬舎)など多数。

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