マーケティング戦略

商材の価値には賞味期限がある――仮説検証を回し続ける意義

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マーケティング関連書籍を数多く上梓し、累計83万部を誇るベストセラー著者である永井孝尚氏。

モノも情報も瞬時に流通するようになったことでワガママになったお客さまに対して企業はどうするべきか――。前編では、永井氏の経験をもとに企業が提示すべき「お客さまが買う理由(バリュープロポジション)」の考え方について紹介した。しかし、このバリュープロポジションには“賞味期限”があるため、仮説検証を続けて、常にアップデートしていく必要があると永井氏は指摘する。

トルネードのように仮説検証をし続ける意味

バリュープロポジションを考える上で必要なのは、次の4つです。

  • 自社の強みは何か?
  • その強みを必要とするお客さまは、誰か?
  • そのお客さまは、どんなお悩みを持っているか?
  • お客さまが自社を選ぶようにするためには、何をすればよいか?

しかしこれらはいくら考えても、正解にはなりません。考えるだけでは「机上の空論」ですよね。そこで大切なのは、これらを一つずつ検証することです。

  • 本当にそのお客さまがいるのか?
  • 本当にお客さまはその悩みを持っているのか?
  • 本当に、その解決策で、お客さまは自社を選んでくださるのか?

これらを一つずつ検証していくことが必要です。

仮説をもって実行し、その結果を検証して、ブラッシュアップして次につなげる──。こうした仮説検証のサイクルは、「PDCA」とも言われますね。「ああ、PDCAね。よく知っているよ」という人も多いと思います。

しかし現実には、PDCAが出来ていない人は、実に多いのです。たとえば、こんなやりとりが、意外と多いのです。

「仮説検証、やってみましたけど成果出ませんね」
「仮説検証サイクルを何回、回しましたか?」
「1〜2回ほど、回しましたけど」

これでは成果を出せるはずがありません。本来の仮説検証サイクルは、1度回した後、2度め、3度めと回し続ける。仮説→検証→仮説→検証→仮説……と繰り返し回し続けていくことで、学びをトルネード(竜巻)のように上昇気流にのせて成長させていくものなのです。

また、何を解決したいのかわからないまま、仮説検証を行っているケースもあります。しかし「改善しましたけど、何も変わっていません」では困りますよね。

本来の仮説検証は、「解決すべき問題」を解決するために行うものです。この「解決すべき問題」とは、「現状」と「あるべき姿」のギャップです。このギャップを埋めるために、仮説検証を継続して、「現状」を「あるべき姿」に近づけていくのが、本来の仮説検証です。私はこれを「トルネード式仮説検証」と名付けています。

仮説検証サイクルのイメージ

この「トルネード式仮説検証」の成功例として、米国iRobotの「ルンバ」があります。ルンバは発売から15 年経った今も圧倒的なシェアを誇っています。

ちなみに日本の某家電メーカーも「ルンバ」登場の頃にロボット掃除機の試作機を作っていました。しかし役員稟議で役員から「仏壇にぶつかってロウソクが倒れて火事になったらどうするんだ」と反対され、お蔵入りになったそうです。13年後、さまざまな問題を社内でクリアしてお掃除ロボットを発売しましたが、既にこの市場では「ルンバ」が圧倒的リーダー。リスクを恐れるあまりに計画に時間をかけすぎて、貴重な市場に参入するタイミングを逸してしまったのです。

一方、iRobotの仮説検証サイクルは、実にダイナミックでした。そもそも家電メーカーではなく、ロボットメーカーである同社は「ロボットで世の中をよくしたい」という理念の元に、ロボット掃除機以外にも数多くのビジネスモデルを考えていました。

「惑星探査機」「血管内で血小板をきれいにする極小ロボット」「地雷除去ロボット」などロボット技術を生かしたビジネスモデルを14も考え、開発し、場合によっては実際にお客様に検証するなど、仮説検証をしつこく繰り返したのです。失敗しては改善、あるいはあらたな仮説を立て直し……と、さまざまな仮説検証をスピーディに続けてきた結果、「ロボット掃除機」という新市場を切りひらけたのです。ルンバ発売後も、仮説検証のサイクルを止めることなく回し続け、技術に磨きをかけて機能を強化しています。

仮説検証サイクルに時間をかけすぎて、やっと商品を投入できたけれども、タイミングを失ってしまった日本企業との違いは、明らかです。

永井氏イメージ

仮説検証は現場から回し始めろ

バリュープロポジションを考えたら、仮説検証を通して磨き続けなければならない――。なぜかというと、「バリュープロポジション」はすぐに陳腐化するからです。たとえば、前編で説明した2002年に大きな価値があった「IBMのコールセンターの統合ノウハウ」は、今やバリューポジションでもなんでもない。多くの企業はすでに統合型のコールセンターを有しています。

先行者優位が働くのは、業界にもよりますが、2、3年といったところでしょうか。デジタル化が進むことで今後はさらに短くなります。「バリュー」には賞味期限があるのです。

大切なのは、仮説検証をし続けること。その意味で私が、いま注目しているのがファミリーマート(以下、ファミマ)です。2016年、ファーストリテイリング副社長などをされていた澤田貴司さんが代表に就任して、ファミマは変わりました。

コンビニ業界の中食シェアを分析し、総菜アイテムが薄いことを察知して、一般総菜を拡充。加盟店オーナーや従業員へのメッセージとして、スタッフを主役においたテレビCMを展開。さらには、「24時間営業を見直すために、実験をしなければならない」とも発言しておられます。

異業種からトップに就任した澤田さんは、社長就任後、実際にファミマの制服を着てレジに立ち、数週間現場を体験したといいます。トップ自らが、しかも現場目線でファミマのバリュープロポジションを考え抜き、さらに仮説検証を実践しているのです。

お総菜同様、ビジネスモデルも必ず賞味期限が切れます。その前に、次の策を打つのです。マーケティング活動も同じだと思います。

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プロフィール

マーケティング戦略コンサルタント 永井孝尚氏

マーケティング戦略のプロとして、多くの企業・団体に新規事業開発支援、講演・研修を提供。主な著書に、シリーズ60万部となる『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)のほか、『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)、『売れる仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証』(幻冬舎)など多数。

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