マーケティング戦略

なぜLOHACOは売れるモノが作れるのか[前編]――競合の壁をこえて

記事内容の要約

  • アスクル株式会社は、2012年から、主に日常生活用品を扱う個人向けECサイト「LOHACO」を運営。30~40代の働く女性に高く支持されている
  • さらに、LOHACOの保有するビッグデータを分析し、新商品開発などに生かす「ECマーケティングラボ」を2014年からスタート
  • 当初12社だったECマーケティングラボの参加社は、現在は129社を数えるほどになり、競合か否かを問わず、参加する全社でLOHACOのデータを共有している
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LOHACOは、主に日用品を取り扱うショッピングサイトとして30~40代の女性から高い支持を集めている。LOHACOを運営するアスクル株式会社は、EC時代における新たなマーケティング手法を研究し実践する場として、「LOHACO ECマーケティングラボ」を2014年2月に立ち上げた。5期目となる現在、参加企業は129社、参加メンバーは約400名となり、その成果に多くの企業が注目している。絶え間なく進化を続けるLOHACOは、どのようなECを目指しているのか。

消費者の生活インフラを目指す「LOHACO」

アスクル株式会社(以下、アスクル)が運営する個人向けショッピングサイト「LOHACO」(*1)は、日用品を取り扱うECとして、2012年に開業した。

当時、日用品をインターネットで購入する習慣は世間に定着しておらず、BtoC市場のEC化率は約3%(*2)と言われていた。そのような状況にありながら、LOHACOはトイレットペーパーや水、洗剤などの重くてかさばる日用品のまとめ買いの需要に応え、都市部に住む30~40代の働く女性の間で反響を呼んだ。

女性の支持を得ることに成功したLOHACOの特徴的なサービスのひとつに、「Happy On Time」がある。これは、商品を3,000円以上購入すると1時間単位の配達時間指定ができ、さらに早朝6時から深夜24時まで荷物を受け取れるサービスだ(アスクルが自社グループ配送を行う東京と大阪の一部エリアが対象)。このサービスでは1時間指定のほか、商品が届く10分前になるとアプリで通知されるほか、宅配ボックスでの受け取りや置き場所の指定が可能で、ダンボールや紙袋の回収を頼むこともできる。

ECマーケティングディレクターの成松岳志氏は次のように語る。

「通常の通販では、時間帯の指定は『午前中』、あるいは『午後3時~6時』のように区切りが長いですよね。結局いつ来るかわからないという不満を持たれる方が多くいらっしゃいました。『Happy On Time』であれば、荷物がいつごろ届くのかが正確にわかります」(成松氏)


アスクル株式会社 BtoCカンパニー 事業企画本部 ビジネスマネジメント&アナリティクス 統括部長 ECマーケティングディレクター 成松 岳志氏

このようなきめ細かな配送サービスの裏にあるのは、ECマーケティングラボに第4期からフレンドシップパートナーとして参画している日立製作所の人工知能だ。事前に配送計画システムで生成された配送計画による到着時刻と、実際の到着時刻のデータを、この人工知能を活用して分析し、計画と実績の差を小さくする取り組みを進め、配送計画の精度をあげている。配送計画の精度があがることで、ドライバーの熟練度に依存しない配送がさらに実現されるのだ。

データから見えた顧客の要望に応えたい

LOHACOでは、購入額の合計が1,900円以上になると送料が無料になるため、小額の単品購入は少なく、「まとめ買い」される傾向がある。たとえば、LOHACOで米を購入する場合、米だけでは1,900円以上にならないので、掃除用洗剤もあわせて購入される。だが米の消費サイクルが2カ月で、掃除用洗剤は使いきるまでに6カ月かかるとすると、次に米を購入するタイミングでは、掃除用洗剤はまだ買う必要がない。そのため、次回米を購入するときには、コーヒー豆や歯ブラシなど別の商品と併せて購入されるようになる。LOHACOは、このような購買傾向のビッグデータを保有しているのだ。

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開放的なアスクル社内

LOHACOには、顧客データや購買データ、商品ページへのアクセスログ、問い合わせやレビューのデータ、配送データなどが顧客IDにひもづいて蓄積される。これらのデータを組み合わせて分析することで、顧客のリアルな生活と、まだ顕在化していないニーズを捉えられる。しかしデータをもとにさらに顧客ニーズに応えようとしたところ、新たな課題が浮上してきた。

「データから見えてくるお客さまのご要望は、さまざまです。そのなかには、われわれだけで解決できない課題もあります。たとえばウェブサイトのUXとUI、配送スキームの改善などはLOHACOの課題ですが、『買ってみたらイメージが違った』、『この商品は、もっとここがこうなっていたらいいのに』などは、商品メーカー各社に対する要望であり、われわれだけでは解決できません」(成松氏)

LOHACOには膨大な量のデータがあり、日用品をECで購入する消費者も増えた。それならば、これらのデータを使ってメーカーと協働して、商品そのものも改善していくことができれば、より顧客の要望に応えられて、ECの普及がさらに広がるのではないか。そんな考えから生まれたのが『LOHACO ECマーケティングラボ』(以下、ラボ)というわけだ。

「ECマーケティングラボ」は、自由でオープン

2014年2月、ラボの活動がスタートした。LOHACOは自社のビッグデータを活用して、参画するメーカーとともに仮説を立て、ラボでテストマーケティングを行い実証する。

当初は味の素、味の素ゼネラルフーヅ(現・味の素AGF)、花王カスタマーマーケティング(現・花王グループカスタマーマーケティング)、カルビー、コカ・コーラ カスタマー マーケティングなど12社でスタートしたが、5期目となる現在では124社のメーカーと、LOHACOにマーケティングツールなどを提供する5社のフレンドシップパートナーが参画する規模にまで拡大している。

ラボの精神は「自由・オープン・共創」だ。アスクルのオフィスの一角にはデータの分析環境が用意されており、参画企業であれば誰でもデータを利活用できるようにしている。特徴的なのが、競合他社の購買データなどにも触れられる点である。

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実際のラボの様子

「ラボでは、弊社が用意したデータマート(*3)で分析できるようになっており、誰でも自由にデータを分析して、その結果を持ち帰ることもできます。そして、参画企業は、競合に見せたくないからといって、自社のデータを隠すことはできません。商品単位ですべてのデータを公開しているので、自社の商品が他社のどの商品と一緒に購入されているかといったアソシエーション分析も可能です。自社に関するデータだけを見ても、気づきはあまりないのです」(成松氏)

ラボでの活動は、各企業の一部門が個別で行うものではない。EC部門だけでなく、商品開発部門やプロモーション部門、流通部門など多岐にわたる。そこでラボに参画するには、企業の各部門の責任者が、ラボの活動内容について前もって説明を受け、合意することが前提となっている。そのうえで、ラボでの活動を経て行われた施策の成果については、分科会、勉強会、ディスカッションの機会が設けられ、成功、失敗事例ともにすべての参画企業に共有される。成松氏は、このことについて「競合というよりも、同じ釜の飯を食う者同士といった意識を、皆さん持たれています」と話す。

仮説設計から協働する理由

各メーカーとラボとの関わり方はケースバイケースだが、ラボが「データ分析の場を提供するだけ」というケースは多くない。商品開発に向けた仮説設計から協働することがほとんどだという。

「商品の開発そのものは当然メーカーが行いますが、その前提となるLOHACOの購買データをもとにした顧客ニーズの掘り起こしなどには、われわれの知見を生かすことができます。商品レベルでの分析であれば調査会社でもできますが、われわれはECという立場で、商品とお客さまの購買行動をひもづけたLTV(*4)を分析できるという優位性があります」(成松氏)

メーカーが個別で収集できるデータの量、種類には限界がある。商品が売れればPOSデータは取得可能だが、販売店やエリアごとでしかわからず、どのような顧客に購入されたのかはわからない。個客にひもづいたID-POSなら購買層の把握はできるが、IDは自社で保有していないため、各顧客に直接アプローチすることはできない。また自社ECでは、自社以外の情報がわからない。その点、他社の情報までも含めた包括的な分析からアクションまで一気通貫で行えるのが、ラボならではの価値といえる。

メーカーが目指すのは新たな市場の開拓だ。それを実現するため、ラボは、テストマーケティングに必要なデータとそれを活用できる環境を提供するという、重要な役割を果たしている。

後編では、ラボの活動の成果である、具体的な企業間コラボレーションの事例を紹介していく。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)LOHACO(外部サイト)
(*2)経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました~国内BtoC-EC市場規模が16.5兆円に成長。国内CtoC-EC市場も拡大~」(外部サイト)
(*3)データウェアハウスの中から特定の目的に合わせてデータを切り出したデータベースのこと
(*4)「Life Time Value(顧客生涯価値)」のこと。1人の顧客が、その生涯にわたって、企業に対してもたらす利益

プロフィール

アスクル株式会社 BtoCカンパニー 事業企画本部 ビジネスマネジメント&アナリティクス 統括部長 ECマーケティングディレクター 成松 岳志氏

2007年アスクル入社。オフィス通販事業のECサイト運営を経てLOHACO事業立上げに参画。デジタルマーケティング、ビッグデータの解析部門などを担当し現在はビジネスマネジメント&アナリティクス部門の統括部長とマーケティングディレクターを兼務。さらなる事業発展を目指す。

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