マーケティング戦略

なぜLOHACOは売れるモノが作れるのか[後編]――ECならではの商品開発

記事内容の要約

  • 2017年、LOHACOが開催した「暮らしになじむLOHACO展2017」では、家庭での利用シーンに配慮した商品が高い評価を得た
  • ECマーケティングラボでの活動を通じて異業種間のコラボレーションが進むことで、LOHACOのオリジナル商品も新たに開発された
  • ECマーケティングラボでは今後、売り上げ予測モデルの構築や、流通プロセスの見直しなども進め、ECのさらなる普及を加速させていく
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この記事の前編を読む

アスクル株式会社が運営する個人向けショッピングサイト「LOHACO」。前編ではLOHACOのデータを129社が活用する「LOHACO ECマーケティングラボ」の取り組みの全体像を紹介した。多くのメーカーから重要なテストマーケティングの場として注目されているLOHACO ECマーケティングラボの活動からは、どのような商品が開発され、どのような成果をおさめてきたのか。また、その際に活用されたデータはどのようなものなのか。後編では、LOHACO ECマーケティングラボから生まれた具体的な事例を見ていく。

ECだから実現できた暮らしになじむデザイン

2017年10月に、東京・代官山T-SITEで「暮らしになじむLOHACO展2017」が開催された。これは、“暮らしになじむデザイン”をコンセプトに、LOHACO(*1)と、LOHACO ECマーケティングラボ(以下、ラボ)に参画する48社のメーカーがコラボレーションして、既存の商品を新たにデザインしたものを展示するイベントだ。合計61点のオリジナルデザインの商品が出展され、来場者数は17,000人を数えた。

発表された商品の一つが、花王株式会社の「リセッシュ 除菌EX デザインボトル」だ。中身は市販品と同じだが、パッケージデザインは大きく異なる。


新しくデザインされたリセッシュ

通常、商品パッケージは、店頭で類似商品と並んだ際に、「どうしたら消費者の関心を引き、手に取ってもらえるか」という観点でデザインされている。そのため、消費者に訴求しやすい「商品の効果・効能・機能」が前面に押し出され、目立つことが最優先になっている。しかし、ラボが行ったデータ分析によれば、そういったデザインは家にある家具やインテリアとなじまず、棚の奥に片付けられたままになってしまう傾向があった。

販売の場がECであれば、店頭で目立つためのパッケージデザインは必要ない。商品情報は商品ページで説明できるため、「99.9%除菌」「菌・ニオイを元から撃退」といった効果・効能・機能をパッケージで大々的に伝えなくてもよいからだ。目立つことを目的とした従来のデザインではなく、「家のなかで、どこにどのように置かれる商品になるのか」という観点で、日々の生活になじむデザインを追求できるようになった。

この事例について、ECマーケティングディレクターの成松岳志氏はこう語る。

「2017年に発売したリセッシュのデザインボトルの『LOHACO』と『ASKUL』の販売結果は、通常商品より価格を20円上げたにもかかわらず、従来型デザインに比べて、1年間で約11倍の売れ行きでした。しかも、家のなかで目に見えるところに置かれるようになると使用頻度があがることから、商品のLTVが向上することもわかったのです。日用品が陥りがちな負のスパイラルを、デザインの力が救った一例ではないでしょうか」(成松氏)


アスクル株式会社  BtoCカンパニー 事業企画本部 ビジネスマネジメント&アナリティクス 統括部長 ECマーケティングディレクター 成松 岳志氏

データが証明するコラボレーションの意義

とはいえ、何でもデザインを変更すればいい、という単純な話ではない。1つの空間にあまりにも多様なデザインがあふれかえっていたのでは統一感がなくなり、「生活になじみ、目に見えるところに置いてもらえるデザイン」ではなくなってしまう。

では、異なるメーカーの異なる商品でデザインを統一してみたらどうなるのか。それを実践した企業間コラボレーションの事例がある。

ラボでデータを分析した結果、ある日用品メーカーが販売する消臭剤と、ある製紙メーカーが販売するトイレクリーナーの併買率が非常に高いことがわかった。顧客はシーンや場所によって商品を想起し、購買するからだ。「だったら同じデザインでやりましょう」と2社間で話がまとまり、メーカー同士の自発的なコラボレーションに結びついた。

成松氏は、企業間のコラボレーションについて次のように語った。

「最初は、自社のデータをすべて共有することに抵抗感を抱くメーカーも多く、またコラボレーションは不要なので自社のデータだけ見られればいいという声もありました。しかし、1社だけで取り組みを進めても、うまくいかないんですね。実際に『××社の商品をまとめ買いすると◯%OFF』という企画を実施したこともありますが、お客さまは、別のその企業の商品だけを求めているわけではないので、価格を下げただけではいい結果は出ませんでした」

そして、こう続ける。

「競合も含めたすべてのデータが公開されているからこそ、各社ともに意思決定がしやすく、そして他社とコラボレーションするからこそ売上が伸びるのです。今ではメーカーの担当者同士も顔見知りになっているので、われわれが間に入らなくてもコラボレーションの話が自然発生するようになってきました」(成松氏)

リアル店舗では販売されないECならではの商品

ここまで、「パッケージデザインを変える」取り組みについて紹介したが、ECで販売することを前提とした「中身から変える」商品開発の事例もある。

LOHACOの売れ筋商品のひとつに、「3倍長持ち」をうたったトイレットペーパーがある。通常、市販されているトイレットペーパーは「25m巻き×12ロール」が一般的だが、このトイレットペーパーは「75m巻き×6ロール」という商品だ。

1ロール当たりの長さが通常の3倍ということで割安というメリットがあるのと同時に、収納スペースが少なくて済む点や、交換頻度が下がるところが顧客に喜ばれている。メーカーにとっても、販売単価が上がる、物流効率が改善する、さらに既存の商品との差別化ができるといったメリットがある。

だが、顧客とメーカー双方にメリットがあるこの商品は、実店舗ではほとんど販売されていない。それというのも、1ロール当たりの長さが3倍ということは重量も3倍近くあり、店頭から持って帰るには相当重い。だからこそ、家まで運んでくれるECならではの商品といえる。

また、この「75m巻き×6ロール」の購入者レビューを分析して、年間購入額を比較してみると、「交換頻度が減った」と述べている顧客が約5,500円分を購入しているのに対し、「収納スペースが節約できる」点を評価している顧客は約4,700円分を購入していることがわかった。つまり、より売上を伸ばすためには、「交換の手間が省ける」ことを訴求するべきというマーケティング方針が顧客のコメントから見えてくる。ただし、成松氏は「あくまでもLOHACOユーザーに限った話」だと話す。

「データが豊富にあると、顧客アプローチを精緻にやろうとしすぎてしまい、成果がでないことは往々にしてあります。デプスインタビュー(*2)のような定性分析と組み合わせることもありますし、分析するデータをどう扱うかには注意を払っています」(成松氏)

次なる課題は売上予測

メーカーと協働でデータ分析を行い、いくつものオリジナル商品を生み出すことに成功したラボだが、まだ課題もある。

「LOHACOオリジナル商品を開発する際、初期ロットをどの程度生産するかは、悩ましい問題です。何しろ今までにない商品なので、どのくらいのニーズがあるのか予測モデルを作りにくい。生産量が少なすぎて欠品を起こしてしまったら販売機会のロスになるし、逆に作りすぎて在庫を抱えても困ります。

そもそもメーカーは、工場での大量生産によって、低コストを実現しています。LOHACOでテストマーケティングを行うためには、一時的とはいえ通常の生産ラインを組み替えるわけですから、当然メーカーとしてはおいそれと進められるものではありません。本当は工場の生産能力をフル活用できるほどの販売力がLOHACOにあればいいのですが、さすがにそこまでは難しいのが現状です。そのため、最適な量を生産するための売上予測モデルを作り上げなくてはなりません」(成松氏)

また一方で、LOHACOだけでなく、EC全体における課題もあるという。

「今の物流の構造は、ECにとって最適とはいえません。たとえばメーカーが商品を出荷する際に使用する梱包用のダンボールは、店頭に運ぶことを考えて大きく頑丈に作られており、無機質かつシンプルにデザインされていますよね。しかし、工場から家庭に直送するECが一般的になれば、家の中で邪魔にならないように、コンパクトなダンボールを使用するべきですし、デザインもこだわったほうがいいはず。ダンボールはあくまでも一例ですが、消費者と製造業の間にある物流までも含めて、ECに適した仕組み作りを考えていければと思っています」(成松氏)

データの力で消費者を引きつける商品を生み出し、さらに今後は物流の最適化までも視野に入れているLOHACO ECマーケティングラボ。さまざまな企業とともにデータとテクノロジーを活用するラボの取り組みは、今後も新たな商品を生み出し、ECのさらなる普及の一翼を担うだろう。

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注釈:
(*1)LOHACO(外部サイト)
(*2)インタビュアーと被調査者が面談方式で実践するインタビュー

プロフィール

アスクル株式会社 BtoCカンパニー 事業企画本部 ビジネスマネジメント&アナリティクス 統括部長 ECマーケティングディレクター 成松 岳志氏

2007年アスクル入社。オフィス通販事業のECサイト運営を経てLOHACO事業立上げに参画。デジタルマーケティング、ビッグデータの解析部門などを担当し現在はビジネスマネジメント&アナリティクス部門の統括部長とマーケティングディレクターを兼務。さらなる事業発展を目指す。

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