データ分析

ビッグデータで変わる医療の現場【前編】――医師不足にどう立ち向かうか

記事内容の要約

  • 多くの病院が悩まされている医師不足を改善する手段として、AI画像解析技術に期待が寄せられている
  • 医療画像ビッグデータの蓄積とAIによる画像解析の研究を進める機関として「医療ビッグデータ研究センター」が創設された
  • 医療ビッグデータ研究センターは、日本の各大学や医療機関に散在していた多くの医療画像を、6つの医療系学会と連携して画像解析している
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高齢化とともに慢性的な医師不足にあえぐ日本。そこで医療現場が期待を寄せているのが「医療画像ビッグデータ」の活用だ。

2017年11月、情報学分野における国内唯一の学術総合研究所である国立情報学研究所内に、「医療ビッグデータ研究センター」が設置された。同センターは、6つの医療系学会と連携し、主に「医療画像ビッグデータのクラウド基盤の構築」と「AI技術による医療画像解析の研究開発」に取り組んでいる。同センター設立の経緯と、医療画像ビッグデータ研究の成果が社会に対してどのように還元されるのかについて、話を聞いた。

期待が高まる医療画像ビッグデータの活用

内閣府がまとめた『平成29年版高齢社会白書(全体版)』(*1)によれば、2016年10月1日現在、日本の65歳以上の高齢者人口は3,459万人、全人口に占める割合は27.3%だ。2036年にはこの割合は33.3%にまで上昇し、国民の3人に1人が高齢者になると予測されている。

現在の日本における医師不足問題は、大都市圏に医師が集中し、地方の医師が不足しているという「地域偏重型」といわれる。しかし、高齢化のさらなる進行につれ、地方のみならず国全体が医師不足に悩まされるようになることは間違いない。

2018年2月、厚生労働省が組織する「医師の働き方改革に関する検討会」において発表された「中間的な論点整理」(*2)では、医師が過酷な長時間労働の環境下にあることが指摘された。今後、医師不足が進めば、医師の労働環境はさらに悪化するだろう。そうなれば、患者が丁寧な治療を受けられなくなる可能性も出てくる。

そこで今、医療界が注目しているのが「医療画像ビッグデータ」の活用だ。膨大な医療画像がAI技術によって解析されることで、医師による診断や診察の効率化が可能になると期待されている。2017年末、そのための研究機関として国立情報学研究所(以下、NII)内に、「医療ビッグデータ研究センター」が発足した。

6つの医学会と連携して医療画像データを収集

現在、医療ビッグデータ研究センターは、6つの医療系学会(日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会、日本超音波医学会、日本皮膚科学会)と連携している。同センターは、各学会が保有している「内視鏡画像」、「病理の組織画像」、「放射線科で扱うCTやMRIなどの画像」、「眼底画像」、「超音波画像」「皮膚画像」などを研究者が解析できるよう、それらの医療画像を一元管理する「医療ビッグデータクラウド基盤」を構築している。

全国の大学の研究者による共同研究を推進するための機関であるNIIは、全国の大学や研究機関にデータ転送するための情報通信ネットワーク(SINET)をもともと構築していた。前述したクラウド基盤は、この技術を活用して構築されたものだ。


NIIの情報通信ネットワークは日本全国にはりめぐらされている
(出典:学術情報基盤オープンフォーラム2017「SINETの概要」)

「2017年、医療分野における研究開発に取り組む国立研究開発法人である『日本医療研究開発機構』(*3)は、医療関係の学会に向けて、画像解析によって解決するべき課題を募集しました。そして日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会の課題が採択されました。各学会が病院・医療機関から集めた医療画像は、当センターが構築したクラウド基盤で一元管理しています。そのクラウド上にITと医療、双方の研究者がアクセスし、機械学習や深層学習によるAI画像解析を行えるようにしていきます」(国立情報学研究所 医療ビッグデータ研究センター・特任准教授 村尾晃平氏)


国立情報学研究所 医療ビッグデータ研究センター・特任准教授 村尾 晃平氏

医療機器の増加、不足する診断医

長年にわたってヘルスケア領域の事業に携わってきた経験を持つ村尾氏は、医療現場の抱える切実な課題を肌で感じていたという。

「医療における課題は専門分野ごとにさまざまですが、共通しているのは、『医師不足』です。たとえば、日本の病院では病理医(*4)が慢性的に不足していて、中小規模の病院では病理診断を外部業者に委託せざるを得ない状況です」(村尾氏)

病理医の数は、全医師の0.8%ほどにすぎない(*5)。正確な病理診断を行うためには、2人以上の病理医によるダブルチェックが必要だが、そのような体制が敷かれている病院はほとんど存在しないのが現状だ

「日本の問題は、放射線科医(*6)が不足していることです。日本は、100万人当たりのCT装置やMRI装置の設置台数は世界でも最高水準ですが、100万人当たりの放射線科医の数は世界の平均を大きく下回っています(*7)。今後、高齢化社会が進むとともに患者さんは増え続けます。装置の性能向上によって、集められる医療データの種類や量も増えています。それなのに、診断できる医師が相対的に少ないというのが現状です」(村尾氏)

医療画像の解析技術が発展すれば、病理診断におけるダブルチェックをAIに任せることが可能になるかもしれない。医師の診断効率も向上することだろう。

データ共有を阻む壁を越え、研究を推進

医療ビッグデータ研究センターの設立以前にも、医療画像の機械学習・深層学習に関する研究に取り組む大学や医療機関はあった。しかし、一施設が収集、分析できるデータ量には限界がある。

ならば、施設間でデータを共有し合えば解決するはずと思われるかもしれない。しかし、施設間でのデータ共有にはクリアすべき問題があった。

「まず、各機関で画像データのフォーマットなどに違いがあると共有はうまくいきません。また、機械学習・深層学習のための正解データの作成ルールが施設ごとに違うと、『ある機関のAIでは解析可能なデータであっても、別の機関のAIでは解析できない』ということが起きるのです。ですから医療ビッグデータ研究センターが、医療画像を一元管理することで、そのような問題を解決しようというわけです」(村尾氏)

データ共有におけるもう1つのハードルは、個人情報保護の問題だった。医療データには、指紋や虹彩のような「個人」を特定できるものが多いためだ。しかし2018年5月、電子カルテや検査データなどの医療情報は、匿名化すれば研究開発に活用してもよいという「次世代医療基盤法」が施行された(*8)、これが追い風となっている。

「医療分野にはさまざまな学会が存在します。医療知識や医療画像を各学会から当センターに提供いただくことで、われわれのAI画像解析の研究は飛躍的に進みます。あらゆる学会と医療界の課題解決に取り組んでいけると考えています」(村尾氏)

では具体的に、AIの活用でどのような成果が期待できるのか。後編で見ていきたい。

前編を読む | 後編を読む

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