データ分析

ビッグデータで変わる医療の現場【後編】――AIと医師の関係性とは

記事内容の要約

  • 医療ビッグデータ研究センターによるAI画像解析技術の研究は、珍しい症例やわずかな病変の察知などにAIを活用することを目的としている
  • 医療におけるAI活用は、「どれだけ医師の業務を効率化できたか」という視点で評価すべきだと考えられている
  • 医療ビッグデータの研究においては、「患者と医療従事者双方の健康や生活の質を向上させる」ことが意義とされている
  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

この記事の前編を読む

情報学分野における学術総合研究所である国立情報学研究所が設立した「医療ビッグデータ研究センター」は、内視鏡・病理・放射線・眼科・超音波・皮膚に関連するそれぞれの医療系学会と連携して、AIを活用した医療画像の解析に取り組んでいる。AIの登場によって、医師が行う診断や治療はどのように変わるのか。また、医師が果たす役割に影響はあるのか。今後の見通しについて話を聞いた。

AIを活用した画像解析とは

現在、医療ビッグデータ研究センターは、日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会、日本超音波医学会、日本皮膚科学会と連携して、AIを活用した医療画像の解析に取り組んでいる。

国立情報学研究所 医療ビッグデータ研究センター・特任准教授の村尾晃平氏はこう語る。

「当センターでは、6つの学会から集めた医療画像を、AI技術を使って解析しています。連携する学会の数は昨年度よりも増えていますので、画像解析研究者側も増やしていく予定です」(村尾氏)

AI画像解析技術が実用化すれば、人間の目では見逃してしまうかもしれない珍しい症例やわずかな病変を、AIが人間に代わって指摘できるようになるかもしれないと村尾氏は話す。

「ただし、AIは、そもそも学習していない症例を発見することはできません。AIの画像解析能力を向上させるためには、質の高い学習用データを集め、AIに学習させる必要があります」(村尾氏)

「AIによる医療画像解析」と聞くと、「癌(がん)の早期発見が可能になるのでは」など、今までできなかったこと、あるいは難しかったことが実現すると期待する人も多いだろう。しかし、「AIの画像解析能力がいくら向上しても、決して100%正確な診断ができるようになるわけではない」と村尾氏は強調する。

「実際には、10人の医師が集まって10人の診断結果が一致する――いわば満場一致する症例ばかりではありません。従って、AIを活用しても、誰も異論のない100%正確な診断は保証できないと考えたほうがよいでしょう。あくまでAIは、医師をサポートする存在です。『画像診断の時間が大幅に削減できた』、『短時間でより正確な診断が可能になった』といった視点でAIを評価する必要があると考えています」(村尾氏)


国立情報学研究所 医療ビッグデータ研究センター・特任准教授 村尾 晃平氏

医師の「診断」をサポートするためのAI活用

医師とAIの関係性について、村尾氏はこう付け加える。

「医療におけるAIの活用領域には、診断・治療・予防の3つがあります。なかでも患者さんの病変を察知して見落としを防止したり、良性・悪性の種類を見分けたりするなどの『診断』は、AIの医療画像解析が貢献できる領域だと期待しています。

医師も人間です。疲労による病変の見落としや、経験不足・思い込みによる診断ミスを起こす可能性はどんな医師にでもあります。

AIの場合はそのような人間に特有の問題が発生する可能性は低いはずです。しかし、現時点でのAI画像解析の技術では、答えにいたるまでの過程が提示できません。そのため、なぜAIがその腫瘍を悪性だと判断したのか、などの理由は、医師自身で考えなければなりません。AIの役割はあくまで、医師の診断を補助することだと思います」(村尾氏)

患者と医療従事者、双方のためになる研究とは

村尾氏は「当センターの活動はまだ始まったばかり」と前置きしたうえで、医療ビッグデータ研究センターが、2、3年以内に成果を出すことを目指している研究領域について次のように述べた。

「昨年度の日本病理学会とのプロジェクトで、当センターは約11万の医療画像を収集しました。そのうち、およそ40%は『消化管(食道・胃~大腸まで)』の画像でした。これだけ多くの画像があるので、消化管の病に関する研究はほかの部位の病に比べてインパクトが大きいはずです。AIによる画像解析が、まずは胃がんの早期発見・治療などに役立てられればと考えています」(村尾氏)


2017年度に収集した病理画像データの内訳
データ提供:JP-AID(Japan Pathology AI Diagnostics Project)

医療ビッグデータ研究センターは今後、AI画像解析の精度を向上させることに注力していくという。そのために、各学会の持つ知見、画像を横串で情報連携させて、より多くのデータをAIに学習させるつもりだと村尾氏は語る。

「当センターの研究の意義は、疾病の早期発見や、患者さんが適切な治療を受けられるようにすることにあります。同時に、医療従事者の業務負担を軽減させるための研究でもあります。当センターの研究が、患者さんと医療従事者、両方の健康とQOL(クオリティー・オブ・ライフ)(*1)向上に寄与できればうれしいですね」(村尾氏)

超高齢社会を迎えた日本にとって、この取り組みは医療現場の抱える課題を解決しつつ、患者や医療従事者の未来を照らしてくれるに違いない。医療におけるAIの活用はまだ始まったばかりだ。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)物理的な豊かさや個々の身辺自立だけでなく、精神面を含めた生活全体の豊かさと自己実現を含めた概念

プロフィール

国立情報学研究所 医療ビッグデータ研究センター・特任准教授 村尾 晃平氏

富士通株式会社にてヘルスケアの画像検査・診断支援システムの開発マネージャーを経て、2018年3月に国立情報学研究所に入所。AMEDの「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤・AI 画像解析に関する研究」の事業を解析研究者側のプロジェクト・マネージャーとして遂行。

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

Insight for Dの
ページにいいねしよう!

「いいね!」してInsight for Dの最新情報をチェック

Yahoo! JAPANのデータソリューションについて

Yahoo! JAPANのデータソリューションについて

Insight for Dの公式Facebookページ、Twitterでも最新情報や取材の様子を発信中。