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どうすれば衛星データの民間利用が広まるのか――JAXAが挑む官民連携

記事内容の要約

  • 衛星データは、その解析によりインフラの老朽化や建造物の沈下などの予測が可能だが、新たな検査手法として活用するには高い規制の壁が存在する
  • JAXAは官民連携の取り組みの一環として、NTTデータとともに世界最高の解像度を誇る全世界規模の3D地図を作成した
  • JAXAは民間企業による衛星データ活用を活発化させるために、レベニューシェアなどの新たな官民の枠組みで衛星データを利用した民間によるビジネス展開を模索している
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この記事の前編を読む

国立研究開発法人である「JAXA(宇宙航空研究開発機構)」は、農業での収穫量の見通しや自然災害の状況把握などを行うために、幅広く衛星データを提供している。

しかし、民間企業による衛星データの活用を推進するには、いくつものハードルがある。たとえば法規制上の課題や、国際競争における優位性の維持といった問題などだ。JAXAで衛星データの利活用を研究している祖父江真一氏に話を聞いた。

ルール整備が追いつかない日本

前編では、JAXAの衛星データが火山の噴火の状況把握などに役立てられると説明した。

地表面の変動を観測できる技術「干渉SAR」を利用し、悪天候や夜間でも地表を観測できるマイクロ波センサ「Lバンド合成開口レーダ(PALSAR/PALSAR2)」(*1)を搭載した人工衛星から取得したデータが解析されることで、JAXAはほんのわずかな地殻の変動を計測できている。火山の噴火の状況把握だけでなく、ダムや堤防、空港の滑走路など、大きな建造物の地殻状況を調べることも可能なので、老朽化したインフラの点検や、建造物沈下の予測にも役立つ。

しかし、技術的には実現可能でありながら、「規制」の問題で思うように実証実験が進まないとJAXA第一宇宙技術部門宇宙利用統括付 ミッションマネージャ 祖父江真一氏は話す。


JAXA第一宇宙技術部門宇宙利用統括付 ミッションマネージャ 祖父江真一氏

大型建造物やダムの検査手法は、法律や各団体のガイドラインによって事細かに決められている。そしてそれらのルールは、衛星データを用いて検査することを想定したものではない。日本は地上のインフラ整備がしっかりしている国ゆえに、新しい技術に対応したルールの整備が追いついていないのだという。

「いまの日本は、インフラの老朽化が進むと同時に労働人口が減っています。そのような状況で、すべてのインフラを人力で検査していくのは、現実的にベストなやり方とはいえません。たとえばダム、堤防や大型建造物の沈降などは地上での計測で行われていますが、数が多くかつ広範囲に及ぶため、衛星データを用いて沈降の激しい場所を洗い出してから進める方が、効率的なはずです」(祖父江氏)

日本では規制の壁が立ちはだかり、インフラ点検における衛星データの活用は、実証実験さえも十分に進められない。では、海外に目を向け、規制が少ないアジアの新興国とともに取り組みを進めるという選択肢はないのか。祖父江氏は、日本国内での活用実績が乏しいために、まだ他国政府と話を進められる段階にはないと話す。

「JAXAの保有している地球観測用の人工衛星だいち2号は、マイクロ波センサ『L バンド合成開口レーダ』が搭載されていることで、昼夜、天候を問わずに、また森林などを透過して直接地表を観測できるという強みがあります。このような人工衛星を保有している国は、世界を見渡しても今は日本だけです(*2)。なので、今はまだ技術的な優位性はあります。しかし、同じような人工衛星はいずれ諸外国も打ち上げるので、悠長に構えてなどいられません」(祖父江氏)

官民連携で衛星データの活用法を広げる

JAXAは衛星データの民間利用を広げるために、官民連携の取り組みを進めている。その一例としては、JAXAとNTTデータが共同で開発した全世界デジタル3D地図(ALOS World 3D、AW3D)(*3)がある。

陸地の起伏を正確に可視化できる3D地図は、防災シミュレーションや水資源や交通分野における調査などに役立つ。前々からJAXAは、陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」(*4)が撮影した画像データを加工処理して3D地図を作成していたが、マンパワーを含めリソースが不足していたこともあり月100枚の作成が限界だった。

そこで、民間企業であるNTTデータとタッグを組んだのだ。JAXAは衛星データとその加工処理に関するノウハウを提供し、NTTデータはデータ加工処理技術と、加工処理を実行するリソースを提供。お互いの得意分野を持ち寄った結果、月15万枚の3D地図の作成が可能になり、地球のほぼ全域を3D地図化できたという。

現在、解像度が低いものはJAXAのサイトから入手可能で、より高解像な3D地図はNTTデータが商業配布を行っている。

「もともと地球の地形画像データには、スペースシャトルから撮られたものがありました。しかし、これは現在の基準からすると分解能が低いのです。また、スペースシャトルの軌道は決まっていたため、飛んだコース以外のデータはありませんでした。今回、われわれとNTTデータが作った3D地図は地球のほぼ全域を地図化できています。また、3D地図としては世界最高の解像度を誇ります。かなり正確な地図となっているため、さまざまな場面で活用されることを期待しています」(祖父江氏)

比較写真
米国サンディエゴ付近の3D地図。左が従来のもの、右が全世界デジタル3D地図

こうした官民のパートナーシップをより強化していくことが、衛星データの活用を活発化する第一歩だと祖父江氏は話す。

民間企業による衛星データ活用を進めるために

JAXAの衛星データは、無償で公開、利用できるものもあるが、高分解能のデータは民間から有償で配布されている。また時系列で画像を分析するには膨大な枚数が必要であるため、コストもかかる。このことは宇宙ビジネスにベンチャー企業が参入する際のボトルネックともなっている。そこで祖父江氏は、「レベニューシェア方式でビジネス展開ができないだろうか」と考えている。

「処理した高分解能の衛星データを無料で政府が進めるITプラットフォームなどの上ですべて使えるようにするのです。そして、そのデータをビジネスに用いた民間企業が収益を上げれば、その収益がさらなるデータの処理やITプラットフォームの運用に必要な経費に回っていくという形を考えています。こうした方法でのデータ公開、利用が可能になれば、民間の衛星データ活用の機運が高まると思います」(祖父江氏)

さらに祖父江氏は、民間企業の衛星データ活用を活発化させるために、データサイエンティストとの関係構築を重要視している。データの扱いに長けて、かつビジネスもわかっているデータサイエンティストとともにデータ活用の可能性を探ることで、JAXAだけでは思いつかない新たなデータ活用の方向性を探ることができるのではと期待している。

勝負は2020年代まで

日本政府は、2018年度から5年間、宇宙開発のベンチャー企業向けに1000億円の支援枠をつくると発表した(*5)。これにより今後の宇宙ビジネスが活発化すると期待されている。

だが、祖父江氏は「1000億円の具体的な用途はまだ不透明です。期待はしていますが、今後の状況を見守りたいと思います」と冷静だ。日本の宇宙開発予算は諸外国に比べて低く、たとえば米国航空宇宙局(NASA)と比べると、JAXAの予算は10分の1程度(*6)にすぎない。祖父江氏は、「限られた宇宙開発予算のなかでどの分野の研究を推し進めるのか、『選択と集中』を行う必要があります。そのためにも、民間企業と連携して注力すべき分野を探りたいのです」と話す。

日本は、鮮明な画像を撮影できるLバンドの合成開口レーダを搭載した人工衛星を世界で唯一保有していると前述した。これにより、海外を中心に、日本の衛星データに注目している企業は存在している。しかし、その優位性を維持できる時間は残りわずかだ。2020年代にはアメリカなど各国でも日本のレーダ衛星と同じタイプの人工衛星の打ち上げが予定されている(*7)。

日本が培ってきた優れた技術を、今後どのように国内外で活用・発展させていくのか。いまこそ官民連携で取り組む姿勢が望まれる。

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