ビジネス創出

「若者の未来」に融資する――AIで信用度を算出するJ.Scoreの試み

記事内容の要約

  • J.Score社は、AIによって借入れ希望者の「信用度」を算出する個人向け融資サービスを展開している
  • AIによる「信用度」のスコアは、借入希望者の将来性やライフスタイルまで考慮して算出されるため、若年層も融資を受けやすい
  • J.Score社は、他社のデータとの連携を強化することでスコアの精度を上げ、社会における「信用のプラットフォーム」を構築することを目指している
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中国のアリババグループが提供する「芝麻(ジーマ)信用」というサービスがある。これは、AIによって、資産状況や交友関係、社会的ステータスなど個人に関するさまざまなデータが分析され、個人の信用度が「信用スコア」として数値化されるサービスだ。

中国では、芝麻信用で高い信用スコアを獲得した人は、就職活動で有利になったり、病院の料金の後払いが可能になったりするなど、生活のさまざまなシーンで優遇される。一方で、スコアの低い人は、ネット通販の利用を制限されたり、婚活サイトで女性を紹介されにくくなったりするなどの影響を受けている。

そして日本でも、AIによって算出される独自の信用スコアが、株式会社J.Scoreによって開発された。同社は、「AIスコア」と呼ばれる数値に基づいて融資の可否や条件を決定する、個人向け融資サービスを展開している。AIスコアは、何を根拠にどのように算出されるのか。またそれを活用することでどのようなビジネスの展開を考えているのか。株式会社J.Score 代表取締役社長CEO大森隆一郎氏に話を聞いた。

金融とITを融合して貸金業の常識やイメージを覆す

株式会社J.Score(以下、J.Score)は、みずほ銀行とソフトバンクによるジョイントベンチャーとして2016年11月に設立された。金融分野のみずほ銀行と情報通信分野のソフトバンク双方の強みやノウハウを融合させ、新しい金融ビジネスを創出することが狙いだ。

2017年9月25日には、個人の信用力と可能性が数値化された「AIスコア」をもとに融資の可否や条件を決定する、個人向け融資サービス「AIスコア・レンディング」(*1)の提供が開始された。AIスコアは、約150項目の質問に対するユーザーの回答や連携先の情報をAIが解析し、1000点を上限として算出するものだ。ユーザーは高いAIスコアを獲得するほど、融資の条件面で優遇される仕組みになっている。

質問項目には、職業や年収などに加え、「服を買うときには何を最も重視するか」「これから体験したいライフイベントは何か」「ラジオをどのくらいの頻度で聴いているか」「TOEICは何点か」など、返済能力とは直接関わりがなさそうな項目も多く用意されている。

同社代表取締役社長CEOの大森隆一郎氏は、サービスの特徴を次のように説明する。

「AIスコア・レンディングの特徴は、借入希望者の『将来性』を推計してAIスコアを算出し、融資の可否や条件を提示している点にあります。たとえば、『若くて、年収が低くて、勤続年数の短い人』は、これまでの審査基準では融資の対象から外れやすかった。しかし、さまざまな情報や将来の可能性をも含めてAIスコアを算出すれば、融資が可能になるケースがあります。しかも、従来型の融資サービスとは異なり、若い人ほど将来への期待が大きいと考えて、AIスコアがアップし、レンディングの上限額や金利がよくなるようになっています。

この仕組みの根底には、若者に対して、夢や自己実現に必要な資金調達をサポートしたいというJ.Scoreの企業理念があります。たとえば留学したい、資格取得を目指して学校に通いたいと思っていたのに、お金が足りずに諦めたり、お金を貯めるのに時間をかけたりしている若者は大勢いるはずです。そういう方々に、融資を受けて時間を買う、未来に投資するという選択肢があることに気づいてもらいたいのです。またAIスコア・レンディングという全く新しいブランドを作ることで、借入はポジティブなものであるというイメージを持ってもらいたいと考えています」(大森氏)


株式会社J.Score 代表取締役社長CEO大森隆一郎氏

若者の潜在ニーズを発掘するAIスコア

サービス開始以来、AIスコアの診断者は約25万人にのぼる(2018年8月時点)。そのうち6割が20~30代の若者だ。この比率から、J.Scoreがサービスのターゲットである若年層の関心を集めていることがわかる。

しかし、ビジネスとしては、ユーザーにAIスコアの診断を受けてもらうだけでなく、実際にレンディング(借り入れ)を行ってもらう必要がある。ここでキーワードとなるのが、「利用ハードルの低さや透明性」、そして「潜在ニーズの喚起」だ。

従来のローン審査では、実際に融資の申し込みをしないと、融資の可否や条件がわからなかった。しかも融資の申し込みをすると信用情報機関に記録が残ってしまうため、それを嫌がる向きも多い。また審査結果が開示されないので、なぜ審査に落ちたのかもわからないブラックボックスになっている。

しかし、J.Scoreの場合、融資の申し込みをする前にAIスコア診断を受けるだけで、融資の条件を知ることができる。実際、純粋に自分の信用力を知りたくてAIスコア診断を受けるユーザーも多いという。そして興味本位でAIスコア診断を受けた結果、意外にも高い借入上限額や低い金利を目にするケースも多いという。このようにサービスの一部を気軽に試せるというハードルの低さやスコアによる透明性が好評となり、順調にユーザー数を拡大している。

「提示された好条件を見て、お金がなくて諦めていた夢を思い出すかもしれません。実は、『お金を借りられる層』と『お金を借りたくても借りられない層』の間には、現状は『借りる気はないが、もし借りられるなら、どれくらいの条件か知りたい層』が存在しているのです。彼らはAIスコア診断を受けた結果、『こんなによい条件なら、借りてみようかな』という気持ちを抱くようになります。このような潜在ニーズを掘り起こすことで、マーケットを広げることができています」(大森氏)


AIスコアのユーザー情報入力画面。プロフィールの回答はチャット式になっていてUI/UXにすぐれている

各社のビッグデータとの連携を加速

J.Scoreは、より正確にAIスコアを算出するために、他社とのデータ連携を積極的に進めている。サービス開始当初から、ユーザーの許諾に基づき、みずほ銀行の金融サービス利用データとソフトバンクの通信サービス利用データをAIスコアの算出に活用できるようにしている。みずほ銀行やソフトバンクでの利用履歴や支払い履歴のデータが加わることで、支払状況などに問題がない限りユーザーのAIスコアは上がり、上限額や金利が有利になる。

2018年6月からは、ヤフー株式会社が運営するYahoo!ショッピングとヤフオク!のデータとの連携もはじめた。この狙いについて、大森氏は次のように明かす。

「AIスコアの算出に購買データを活用することで、より精度の高い信用度の判定ができるのではないかと期待しています。ユーザーが何を買っているのか、何をオークションで出品しているのか。それらを把握できれば、健全な目的でお金を借りるつもりなのか、返済がしっかりできる人か否かがわかるかもしれません。J.Scoreの企業理念は、若者の自己実現を応援することです。お金の使い道の妥当性などの評価も今後AIスコアに加味されます」(大森氏)

正しくユーザーの信用力や将来性を判定できなければ、貸し倒れなどのリスクが発生しやすくなる。有効なビッグデータをもつ企業といかに連携していけるか、ユーザーからデータ提供の承諾をいかに多く得られるかが、J.Scoreのビジネスを成功に導く鍵となる。

2018年8月からはソフトバンクに加えてワイモバイルのユーザーも情報連携の対象に加えた。ワイモバイルは若者の利用が多く、若者へのさらなるサービス利用拡大が期待できる。

「現在、当社には各社から提携の誘いがたくさん来ています。今後も、ビッグデータをもつさまざまな企業と連携していく予定です。信頼できる企業と連携することで、精緻なAIスコアの算出を可能にしていきたいですね」(大森氏)

イメージ画面
7月にリリースしたスマホアプリには、行動を習慣化させるサポート機能「ハビットチェンジ」が備わっており、活用することでAIスコアを上げることができる

「信用のプラットフォーム」として

J.Scoreには、AIスコアを「信用のプラットフォーム」として発展・拡大していく狙いがある。現在提供している個人向け融資サービスは、あくまでAIスコア活用の一例にすぎない。すでにほかの金融サービスや非金融サービスでの活用も見据えていると大森氏は語る。

「今後さらにAIスコアを普及させるためには、個人向け融資以外のサービスやメリットを提供する必要があります。AIスコアに応じて、ユーザーが、外部のサービスを利用する際に特典を受けられるような取り組みも考えています。信用のプラットフォームとして、世の中のさまざまな場面でAIスコアが利用されて、個人のライフスタイルがより便利に変わっていくことを目指しています」(大森氏)

ただし、いくら「信用のプラットフォーム」を目指すといっても、現在の中国のような状況を生み出すことは避けたいと大森氏は話す。スコアの良し悪しで格付けされて、結婚や就職などにも影響を与える状況は行き過ぎているという考えなのだ。

「信用スコアは、あくまで自己実現や夢を叶えるために活用するものであり、他人と競い合うものではないと考えています。また、どんな人にもスコアアップの可能性が残されていなければなりません。どのような方向を目指してAIスコアの利用を広げていくのか、当社は日本におけるAIスコアのプラットフォーマーとして責任をもって取り組んでいきます」(大森氏)

奨学金が返済できない若者など、若年層の金銭事情に関するニュースには悲観的なものばかりが目立つ。そのようななかにあって、AIを活用して若者の秘められた未来の可能性に融資しようというJ.Scoreの試みは、個人はもちろん、この国の将来もよりよいものに変えていく可能性がある。

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