マーケティング戦略

気象データが生む経済効果とは[後編]――人々の「体感気温」を捉える

記事内容の要約

  • 日本気象協会は、実際の気温に「体感気温」を加味したデータを解析することで、気候によって売れ行きが左右される商品の需要予測に取り組んでいる
  • 気象データを活用することで廃棄ロスや供給不足を防げる商材は数多くあり、その経済効果は1800億円ともいわれる
  • 日本気象協会は、製造会社や卸売業者、小売店が一丸となって商品供給の最適化に取り組めるよう、日本電気株式会社とともに新たなプラットフォームを構築して社会全体の生産性を向上させようとしている
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全業種の1/3に相当するビジネスに影響を及ぼすといわれる「気象」。その気象データを活用した商品需要予測によって、新しい生産と小売りの仕組みを創出しようとしているのが、日本気象協会だ。その取り組みはどのように実施され、どれだけの経済効果を生む可能性があるのか。話を聞いた。

見込み生産による「廃棄ロス」を防ぎたい

2017年4月から日本気象協会は、気象情報をもとに商品の需要を予測し、生産量や販売計画、出荷量などの最適化を提案する「商品需要予測コンサルティングサービス」を展開している(*1)。

このビジネスを生み出す契機となったのが、経済産業省の補助事業として採択され、2014年から2016年にわたって同協会が推進した「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト」(*2)だ。

このプロジェクトにおける事例の一つとして、豆腐を中心に製造・販売する加工食品メーカーである相模屋食料株式会社(以下、相模屋食料)との取り組みがある。日本気象協会 商品需要予測プロジェクトのプロジェクトリーダー、中野俊夫氏はこう語る。

「豆腐は仕込みなどに時間がかかるため、小売店からの受注量がわかる前に生産工程に入らなければなりません。しかも食用可能な期間も短いため、生産量を見誤って過剰に生産してしまうと、商品は廃棄せざるをえないのです。相模屋食料にとって、廃棄ロスの削減は大きな課題でした。

そこで、気象データを活用して豆腐の需要を予測することにしました。それまでにも豆腐の売れ行きと気象には関連性があるということは、相模屋食料も感覚的には知っていたようです。しかし、その関係性を実証するデータはなく、ほとんど現場の経験則によって生産量が調整されていました。気象データをもとに、明確でわかりやすい商品需要の予測が求められました」(中野氏)


一般財団法人 日本気象協会 事業本部 防災ソリューション事業部 先進事業課
<商品需要予測プロジェクト>プロジェクトリーダー 中野 俊夫氏

Twitterのつぶやきで人々の「体感気温」を捉える

商品の需要を予測するために気象データを活用するといっても、ただ気温の変動を追うだけではない。人間は、気温の高低だけで暑さや寒さを感じているわけではないからだ。そこでポイントとなるのが「体感気温」である。

「一口に『25度』といっても、5月と8月では感じ方が違います。5月の25度であれば暑いと感じるかもしれませんが、8月だと涼しいと感じるかもしれません。さらに気温以外の湿度などの要素も、体感気温に関係しています。そこで、Twitterの『暑い』『寒い』というつぶやきのデータを解析し、 実際に人々がどのように感じているかを割り出して、『体感気温指数』として需要予測に取り込みました」(中野氏)


ツイッターの「暑い」「寒い」のつぶやき数。必ずしも気温と体感気温は一致していない。
※グラフは一部期間を抜粋して作成
※「ツイートの割合」とは全ツイートのうち「暑い」「寒い」が含まれたツイートの割合。マイナスは「暑い」「寒い」の対比を表すためのもので、実際にマイナスを意味するものではない。

相模屋食料の場合、豆腐は出荷の2日前に仕込みが開始され、実際に店頭に並ぶのは出荷の後になる。つまり、製造の開始段階でおよそ4日先までの天気を予測しておく必要がある。そこで日本気象協会は、4日先までの天気、気温、体感気温指数を予測するとともに、誰が見てもデータが理解できるよう、“豆腐指数”というものでわかりやすく豆腐のニーズを示すようにした。また、前週の実測値と当該週の予測値の気温を折れ線グラフによって表示し、前週の豆腐の売れ行きをもとに生産量を検討できるようにもした。


実際に相模屋食料へ提供した気象予測資料(抜粋)

このような需要予測情報をもとに生産量を調整した結果、相模屋食料は需要予測の誤差を約30%も削減できたという。この実績が評価され、同協会は省エネ大賞・経済産業大臣賞(ビジネスモデル分野)(*3)を受賞した。

さらに2016年、本プロジェクトでは、サプライチェーン全体で廃棄ロスを削減する実験に取り組んだ。これは、小売店側に豆腐の需要予測を提供し、その提供された予測に基づいて小売店側が発注量を1日早く決めるというものだ。このことにより、相模屋食料は、従来の見込み生産から、注文を受けた分だけの豆腐を生産する受注生産へと転換することができた。結果として、相模屋食料側での実際に生産した量と受注した量の誤差は、8%から0.4%にまで激減したという。

バリューチェーン全体の生産性向上を目指す

「全業種の1/3が、気象の変化によって売り上げに影響を受ける」と日本気象協会が語るように、気象が需要に関わっている商品は、当然のことながら数多くある。そこで同協会は、ある調査会社と組み、市場にある商品カテゴリーの203品目で気象データとの関連性を調査した。

「暑いとき、あるいは寒いときに売れ行きが伸びる商品を『気象感応度が高い商品』としてピックアップしました。その結果、たとえば、暑い日には家庭用のコーヒー飲料の売れ行きが伸び、寒い日にはお茶の葉が伸びるなどということがわかりました」(中野氏)

「気象感応度」は、気温の変化に対して、消費がどれだけ反応するかを示すものだ。そのため、暑いと売れ行きが伸びそうなビールは、1年を通じて気温に関係なく消費されるので、意外にも気象感応度は高くないという。

「『気象感応度』の観点でデータを見ていくと、アイスやチョコレート、ヨーグルト、パンなど、気象データをもとに需要予測することで、廃棄ロスや在庫切れによる販売ロスを減らせる可能性がある商品が多くあることがわかりました。その経済効果は1800億円規模になると試算しています」(中野氏)

中野氏は、食品のほかにもデオドラントをはじめとした化粧品といった分野でも、気象データを活用した商品の需要予測が可能だと語る。

「当協会の天気予報専門メディア『tenki.jp』(*4)では、体感温度や紫外線などに加え、ビール指数、アイス指数、のど飴指数、除菌指数、蚊ケア指数といったユニークな指数も紹介しています。たとえば蚊ケア指数は、蚊対策が必要であることを示す目安です。この指数は、アース製薬株式会社の過去の売り上げデータと気象データを解析して、『商品需要予測コンサルティングサービス』の一環で指数化したものです」(中野氏)

また日本気象協会は、日本電気株式会社とビジネスパートナーとして協業を開始(*5)。2018年7月から、製造、小売り、卸の連携によって、全体で需給を最適化するためのデータ流通基盤「需給最適化プラットフォーム」のサービス提供を開始した。これは需要予測結果、在庫情報、販売実績をユーザー企業間で共有できるのが特徴であり、バリューチェーン全体で需要の最適化を図ることによる効率的な廃棄ロス削減が期待されている。

「一企業では実現できなくても、複数の企業の技術や知見を合わせれば実現可能になることは数多くあります。われわれはこれからも、『気象』という共通言語によってパートナーを増やしていきます。気象データの活用によって、商品需給の最適化と生産性の向上を実現し、社会に貢献していきたいと思っています」(中野氏)

人々の消費と密接に結びついた気象。そのデータの活用はさらに広がっていきそうだ。今後も日本気象協会の気象予測は日本の経済活動を支えていくことになるだろう。

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