マーケティング戦略

未来の売り上げを奪う「アプリクラッシュ」という穴

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スマートフォンアプリが突然異常終了してしまう「クラッシュ」は、アプリユーザーにとっても、アプリ提供者にとっても、できるだけ避けたい現象だろう。

2018年7月、アプリのクラッシュ解析ツール「SmartBeat 」(*1)を提供するFROSK株式会社が、「クラッシュを理由にそのアプリを使わなくなったことがある人は7割以上」とする調査レポートを発表した。

アプリと自社のビジネスが密接に関係している企業にとっては、クラッシュがビジネスに及ぼす影響は想像以上に大きくなっている。では、企業の取るべき対策とはどのようなものなのか。同社代表取締役の吉井文学氏に聞いた。

成熟期を迎えたアプリ市場

FROSK株式会社(以下、FROSK)は、アプリのクラッシュ検知・解析ツール「SmartBeat」の提供を通して、アプリ開発者の支援を行う企業だ。Insight for Dの過去記事『アプリの不具合は即検知! 開発者を支えるFROSKの「B to D」の取り組み』では、SmartBeatの概要と、クラッシュがアプリの利用継続率に大きな影響を与えることや、アプリの品質向上の重要性を紹介した。

今年7月、そのFROSKが全国の10歳〜69歳の男女533名を対象に実施したアンケートの調査結果を「アプリクラッシュ調査レポート2018年上半期」(*2) として発表。次のような興味深い結果が報告された。

  • クラッシュを経験したために、そのアプリを使わなくなったという体験が1回でもある: 71.5%
  • クラッシュを週1回以上経験している: 42.4%
  • クラッシュして使わなくなったアプリは、もう二度と使わない: 49.6%
  • クラッシュ経験で使わなくなるアプリのジャンル1位: ファイナンス系

「クラッシュが原因で、アプリの利用をやめたことが1回でもある人が7割以上」という結果から、クラッシュがアプリを通したビジネスに与える影響が非常に大きいことがわかる。同社代表取締役社長 CEOをつとめる吉井文学氏は、この調査結果から、アプリ市場が成熟期を迎えたことが読み取れると説明する。

「スマートフォンが普及してアプリを利用することが当たり前になり、アプリの種類や数が充実したことで、クラッシュしたアプリの代わりとなる選択肢が増えました。『どうしてもそのアプリでなければならない』という特別な理由がなければ、ちゃんと動く別の類似アプリを利用すればいいわけです。それに伴い、アプリの品質に対して、ユーザーの見る目は厳しくなっています」(吉井氏)

グラフ
クラッシュを経験して、そのアプリを使わなくなったことがある人は7割以上

アプリは「新規性」よりも「品質」が重視される時代

さらに、吉井氏はアプリ市場が成熟したといえるポイントとして、次の3つを挙げた。

  1. 個人によるアプリ開発の割合が減り、企業が潤沢な予算とリソースをかけて開発した、質の高いアプリが増加した
  2. デジタルリテラシーが高い層から、それほどでもない層まで、より幅広いユーザーがスマートフォンアプリを利用するようになった
  3. アプリの数や種類が増え、新規性や先進性だけではなく、ユーザビリティーや品質の高さが問われるようになった

かつてアプリの開発は、個人の趣味の延長で行われるのが主流だったが、いまや企業がビジネスの一環としてアプリを開発するようになった。そして、アプリの利用が広く浸透してユーザー数は増すが、同時にクラッシュ経験者の数も増加することになる。ただし、クラッシュに対する許容度は、スマートフォン登場初期からアプリを利用しているアーリーアダプター層と、普及が進んでから利用するようになったマジョリティー層ではずいぶん異なるようだ。

「スマートフォン黎明(れいめい)期のアプリユーザーは、アプリ開発者やデジタル業界の関係者が中心でした。つまり身内のような感覚をもったユーザーなので、アプリに対する理解も深く、『クラッシュが起きてしまうのは仕方がない』と寛容だったのです。また、品質よりも、新規性や先進性があれば評価されました。そういうアーリーアダプター層は、今もクラッシュに対して比較的寛容な傾向があると思われます」(吉井氏)

しかし、現在は状況が変わり、多くのユーザーは「アプリは正常に動作して当然」と考えている。実際、アプリ全体の品質は向上しているので、以前に比べてクラッシュの割合も減少している。そのような状況下でのクラッシュは、ユーザーになおさらネガティブな印象を与えてしまう。

それだけではない。企業は低品質なアプリを提供してしまうと、ユーザーにアプリを使ってもらえないだけでなく、本来提供したいサービスからも離脱される可能性がある。たとえば、あるユーザーが、銀行口座を開設しようと、A銀行のアプリをダウンロードしたとしよう。そして、何かの拍子にそのアプリがクラッシュしたら、もうA銀行のアプリは使われない。そのユーザーは、新たにB銀行のアプリをダウンロードし、B銀行で口座を開設することだろう。つまり、ユーザーのアプリ利用の離脱にとどまらず、A銀行は「口座開設」してもらう機会さえも失ってしまったことになる。乗り換え先の選択肢が豊富にあるようなケースでは、アプリのクラッシュは、企業にとって切実な問題になりかねないのだ。


FROSK株式会社 代表取締役社長 CEO 吉井 文学氏

クラッシュが競合サービスへの乗り換えを誘発

「クラッシュしたら使わなくなるアプリ」のジャンルでは、ファイナンス系をトップに、ライフスタイル、エンターテインメント、ゲームと続く。この順位から読み取れるのは、「代わりの選択肢があるアプリほど乗り換えられやすい」ということだ。少しでも不満や不具合があると「ほかのアプリでいいや」となり、すぐに見捨てられてしまう。この事実に、マーケターは真摯(しんし)に向き合うべきだと吉井氏は話す。


クラッシュ経験で使わなくなるアプリのジャンル

「アプリは、人々にとって密接で重要な存在となったことから、それを提供する企業の評価が、アプリの印象によって左右されることも少なくありません。特に生活者の実生活との距離が近い小売業界は、この傾向が強いです。もし、『アプリは、数あるマーケティングチャネルの1つ』としてしか認識されていない場合は、今すぐ考えを改めるべきです。『こんな使いづらいアプリを作る企業のサービスは使いたくない』と、リアルビジネスのイメージダウンにつながりかねません」(吉井氏)

アプリのクラッシュをマーケターも把握するべき理由

マーケターにとって、アプリのクラッシュはどのような意味を持つのか。一見すると関係は薄そうに思えるが、「製品の品質」として捉えると実はとても重要なのだ。

アプリのユーザーインターフェースの改善施策や、ユーザー獲得のためのマーケティング施策などは、アプリの品質が担保されていることが前提で行われるのが理想だ。品質に問題がある状態でマーケティング施策を実施しても、正しく効果を測ることはできない。マーケティング施策を適切かつ効果的に行うには、品質の向上、特にクラッシュの検知と発生後の対策は必須になる。こういった意識は、徐々にマーケターの間でも広がりつつあると吉井氏は語る。

「当社のクラッシュ解析ツール『SmartBeat』は、もともとはエンジニアがアプリ改善を効率的に進めるためのツールとして、多くの企業に導入されています。しかし、アプリ市場が成熟し、ビジネスとしても重要な位置づけになるにつれて、『クラッシュ率』をマーケティング部門のKPI(Key Performance Indicator)に設定したり、経営指標に加えたりする企業も増えてきました」(吉井氏)

アプリマーケティングのKPIといえば、以前はインストール数とCPI(*3) が定番だった。しかし現在では、LTV(*4) なども指標も重要視されてきている。

「アプリ利用の継続率を上げるには、品質も大きな要因になっているということに気づき始めているマーケターの方は少なくありません。UIやデザインの改善は、一回の施策で大きな成果につながるとは限りません。しかし、クラッシュ率は、一度改善するだけで必ずよい効果を生みます。もし品質が悪いのに、それなりにユーザーに利用してもらえているならば、品質を改善すればユーザーの利用頻度の向上や、ユーザー数の増加がさらに見込めるはずです」(吉井氏)

いまやアプリのクラッシュ率は、経営者やプロダクトオーナーにとって、重要な意思決定の指標のひとつといえるのだ。

よりよいアプリ開発と市場の発展のために

季節ごとに新機種のスマートフォンが発売され、OSアップデートも頻繁に行われる状況では、クラッシュを未然に100%防ぐことは不可能である。アプリ提供者にできることは、迅速にクラッシュの発生を検知し、ユーザーへの周知を徹底することだ。

「一人でも多くのユーザーに、アプリを継続的に利用してもらうためには、『面白さ』や『便利さ』にこだわることは大切です。しかし、それらは定性的な評価であり、指標として設定することが難しい。しかし『品質』であれば、たとえば『クラッシュ率』を指標にすることで定量的に評価できます。仮に、アプリ利用の継続率が『面白さ×便利さ×品質』で決まるとするなら、その中の品質は、『SmartBeat』のようなツールを活用することで把握・改善できます」(吉井氏)

しかし、「当社のアプリはそんなにクラッシュを起こさない」「もっとユーザー数が増えてから、クラッシュ対策を考えることにする」と、まだクラッシュに対する認識が甘い企業も多いのだと吉井氏は話す。

「アプリの評価レビュー等に書き込まれる『すぐ落ちる』といった不満の声は、ユーザー全体のほんの一部に過ぎません。アプリのダウンロード数にもよりますが、クラッシュ報告の書き込みが1件あったとしたら、実際はその数百~千倍のクラッシュが起きていると考えたほうがよいでしょう。そして、『ユーザー数が増えてから、クラッシュ対策に取り組む』ことも意味がありません。クラッシュ対策をしないようなアプリでは、いくらマーケティング施策に注力してもユーザー数は増えませんし、すぐ離脱されてしまいます。穴の開いたバケツでは、成果は出せないのです」(吉井氏)

現在、国内2100以上のアプリに導入されているSmartBeatだが、実はFROSKは営業活動をさほど積極的にしておらず、今後もその予定はないという。FROSKとしてはあくまで「クラッシュ対策の重要性」を啓発していくことに重点をおいており、それがなによりの営業活動だと吉井氏は語る。今後アプリの開発者だけでなく、アプリの関わるマーケターにまでクラッシュ対策の重要性が認識されることで、アプリ市場は真に成熟したといえるのかもしれない。

注釈:
(*1)SmartBeat(外部サイト)
(*2)アプリクラッシュ調査レポート2018年上半期(外部サイト)
(*3)コスト・パー・インストールの略。アプリマーケティングにおいて、1件のインストールをあげるためにいくらの広告費がかかっているのかを示す数値。
(*4)ライフタイムバリューの略。1人の顧客が生涯の間に、サービスや商品を購入することで企業にもたらす利益。

プロフィール

FROSK株式会社 代表取締役社長 CEO 吉井 文学氏

株式会社サイバーエージェントに入社し、子会社にてモバイルマーケティングの営業に従事した後、プロデューサーとしてアプリや広告商品の新規開発に携わる。その後、株式会社リヴァンプにて主にマーケティング支援や営業改善のプロジェクトに関わる。 2015年4月よりFROSK株式会社に入社しマーケティングおよび人事の責任者を務めた後、2018年7月より代表取締役就任。

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