マーケティング戦略

“できる営業トーク”は数値で評価【後編】――論証モデルと人のコラボレーション

記事内容の要約

  • コグニティ株式会社が開発したツール「UpSighter」は、情報の処理過程に専門的な訓練を積んだ人間の手を加えることで、複雑なトーク内容の解析を可能にした
  • UpSighterの基盤にあるフレームワーク「CogStructure」は、会話内の情報を従来型の論証モデルよりも多くの要素に分類することで、より精緻に解析できる
  • UpSighterが開発された背景には、「人間の思い込み」によるコミュニケーションロスをなくしたいという企業理念がある
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優秀な営業担当者のトーク内容を定量的に評価するツールが、コグニティ株式会社の「UpSighter」(アップ・サイター)だ。そしてUpSighterの基盤になっているのが、同社独自のフレームワーク「CogStructure」である。

CogStructureを使うと、トーク中に含まれる情報はどのような解析されるのか。またCogStructureを生み出したコグニティの真意はどこにあるのか、話を聞いた。

情報を完璧に分類するために

かつてイギリスの哲学者 スティーブン・トゥールミンは、「何かを主張する際には『論拠』『主張』など6つの要素によって論理を組み立てられる」という論証のモデルを生み出した。しかし、コグニティ株式会社(以下、コグニティ)は、「トゥールミン・モデル」と呼ばれるこのモデルでは、すべてのスピーチや会話は分析できないと考え、さらに詳細な研究と分析を進めた。その結果生み出されたのが、「UpSighter」の基盤である独自のフレームワーク「CogStructure」だ。

コグニティの代表取締役である河野理愛氏は、次のように語る。

「トゥールミン・モデルには、論証を組み立てる要素の数が6つあります。しかし、国内外のスピーチや論文などを分析してみると、どの要素にも当てはまらない情報が出てくることに気が付きました。そこで私たちは、情報をさらに精緻に分類できるように研究を重ね、要素を13に増やしました。これにより、トゥールミン・モデルでは84%だった分類率が、8,000を超えるサンプルを分析した結果、100%分類できるようになりました」(河野氏)


コグニティ株式会社 代表取締役 河野 理愛氏

なおCogStructureを基盤として開発されたUpSighterでトーク内容を評価する際には、13の要素のうち特に重要度の高い9つの要素がレポートで示される。

13要素のイメージ

人の手が加わるからこそ実現できること

UpSighterが複雑な情報でも解析できるのは、その一連の過程で「人の手」による作業を入れているからだと河野氏は語る。

「解析したい営業トークやスピーチは、まず音声データを文字に起こし、フレームワークであるCogStructureを用いて、情報を分類していきます。その際、システムで自動処理する部分もありますが、多くはトレーニングを積んだ専門スタッフによる人力での分類が行われています。『ここで主張が変わったな』、『反論を多く述べ始めたな』という細かな判断は、まだ人間にしかできません。複数人がリレーしながら、作業を行っています」(河野氏)


CogStructureの解析例

なお作業する専門スタッフはすべて日本人ということだが、UpSighterでは日本語以外の言語にも対応しており、10カ国近い言語の解析が可能なのだという。

「たとえば、スティーブ・ジョブズと日本の政治家のスピーチを比較することもできます。ジョブズのスピーチには『深掘り説明』『起点となる意見』『理由づけ』『事例』などがバランスよく入っているけれど、あの政治家はまったく事例を言わないし、あちこちに話が飛んでいる……、ということも客観的にわかります」(河野氏)

思考バイアスのない社会をつくりたい

ところで河野氏はなぜ、CogStructureの開発を志したのだろうか。

「開発の発端は、人間の『思考バイアス』、つまり思い込みをなくしたいという思いからです。人間の思い込みは、必ずしもいい結果をもたらすとは限りません。むしろ、その反対のほうが多いのではないでしょうか。では人間の思い込みをなくすためにどうすればよいか。それを考えた末、『自分自身が見えていない』ことを『見える状態にする』ことが必要ではないかと思ったのです。自分の意識を客観的に見ることができれば、それが可能になるのではないか。その想いが、CogStructureの開発につながりました」

技術の力で、思考バイアスなき社会を――。それがコグニティのミッションだ。

「人間は『重い物を運ぶのは大変だからショベルカーを使う』『遠くに行きたいから飛行機を使う』というように、生物としての限界をテクノロジーで克服してきました。それにもかかわらず、まだテクノロジーでも解決できていないのが『思考の限界』です。人はそれほど多くは覚えられないし、先に知ったことを正しいと認識しがちです。その結果、コミュニケーションが円滑に進まないこともしばしば起こります。UpSighterによって、思い込みによる損失を少しでも減らすことができればと思っています」(河野氏)

河野氏は、将来的には一般ユーザー向けのサービスも展開していきたいと語る。「おいしいものを食べたいと思い込んでいるが、本当は癒やしを求めているのだから温泉はどうか」などとレコメンドできるサービス、といったものだ。不要な思い込みを排し、コンテキストに即したコミュニケーションを日常生活でも可能にしていくために、コグニティの取り組みは、さらに幅を広げていくことだろう。

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プロフィール

コグニティ株式会社 代表取締役 河野 理愛氏

慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中にNPO法人を設立。2005年にソニー株式会社入社、カメラ事業を中心に、経営戦略・商品企画に従事。2011年に株式会社ディー・ エヌ・エー入社、ソーシャルゲームの海外展開を担当。2013年、コグニティ株式会社を設立。

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