ビジネス創出

教育現場を改革する授業AIアシスタント「Josyu」【前編】

記事内容の要約

  • GLOCOMの中西崇文氏と黒板メーカーのサカワが、AIを活用して授業を支援するシステム「Josyu(ジョシュ)」を共同開発
  • 開発のきっかけは、言葉や感性をAIで分析する研究を行う中西氏と、老舗の黒板メーカー「サカワ」の常務取締役 坂和寿忠氏の出会いだった
  • 授業に「Josyu」を使うと、教師が話した内容のうち重要だと思われる単語や関連用語を自動的に黒板に投影でき、教師の負担軽減や生徒の理解促進を図ることができる
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文科省によって小学校でのICT環境づくりが推進され、教育分野でAIの活用が期待されているなか、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の主任研究員である中西崇文氏と、黒板メーカーのサカワが共同開発した授業支援システム「Josyu(ジョシュ)」が注目を浴びている。

同システムは、授業中に教師が話した内容から、重要と思われる単語をAIによって自動抽出し、関連用語や画像とともにプロジェクターで黒板に映し出す機能をもつ。これにより教師の負担軽減や、より伝わりやすい授業の実践が望める。それだけでなく、授業内容をテキストでデータ化できることから、授業後のテスト作成に生かせるなど活用の可能性は広い。

Josyuを開発した経緯や狙い、具体的な機能について、中西崇文氏と株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠氏に話を聞いた。

AIによって変わっていく教育の現場

さまざまな産業でICT活用が進むなか、学校教育の分野においてもAIやデータ活用の可能性が模索されている。その現況において、AIを用いた新しい授業の形を示しているのが、授業支援システム「Josyu(ジョシュ)」(*1)だ。

Josyuは、授業中に教師が発した音声から、AIを活用して重要単語や関連するキーワードを抽出し、それらをプロジェクターで黒板に映し出す機能を持っている。これにより、教師は板書から解放されて効率的に授業を進められて、生徒の理解をより深められる。また、授業内容はテキストデータとしてPCに保存できるため、授業後の振り返りや小テスト作成などに活用することも可能だ。


国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員 中西崇文氏

同システムを共同開発したのは、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の主任研究員 中西崇文氏と、黒板など教育現場へ向けた製品を開発する株式会社サカワ。教育現場におけるICT活用の現況について、中西氏は次のように語る。

「現在、教育現場でのICTというと、電子黒板やプロジェクターなどの『どのように見せるか』という観点で開発された製品がほとんどです。裏を返せば、授業の内容や生徒の反応などを観察し、『どのように伝わっているか』をデータ化して分析できるような製品がなかったのです。もし、授業をコンテンツデータとして記録・分析し、活用できれば、教育の質はもっと上がるはずだと考えていました」(中西氏)

Josyu開発のきっかけ

中西氏が所属するGLOCOMは、国際大学付属として1991年に設立された研究所(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)だ。ここでは、情報社会の研究と実践を中心に、複数の分野にまたがった研究など、産官学民のハブのような立場での研究が行われている。他の大学の研究機関との違いは、企業からの受託によって研究が成り立っている点である。そのため、民間企業と連携した取り組みを得意としてきた。

また、GLOCOMには社会学や経済学関連の研究者が多いが、NICT(情報通信研究機構)出身の中西氏は、データサイエンティストとして理系関連の研究に取り組んでいる。これまでに同氏は、言葉や感性をAIで解析する研究や、言葉の構造化の研究を行ってきた。その成果として、単語のイメージから自動作曲する音楽ソフトの開発や、会議の音声を収集してデータ化するプロジェクトなどを展開してきた。これらの取り組みがJosyuの開発のバックボーンとなっている。

株式会社サカワは、江戸時代に塗装業、大正時代には黒板製作所として、今年で99周年を迎える老舗だ。現在は通常の黒板のほか、電子黒板やホワイトボード、プロジェクター製品などを製造・販売している。坂和氏は、中西氏とのプロジェクトに取り組んだきっかけについて次のように話す。


株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠氏

「弊社は黒板メーカーとしての歴史、シェアはありますが、少子化やICT化によって従来の市場が縮小していく中、新しい分野への進出が必要でした。近年、デジタル関連の製品開発を進め、データ活用の事業展開を模索していたところ、知人を介して中西先生と出会ったのです。先生からJosyuの原型となるアイデアを聞かされて『これだ』と思い、共同開発することを決めました」

Josyuと共に作る授業

Josyuによる授業支援は、まず教師が音声入力用のマイクを付け、パソコンでJosyuを起動、黒板にプロジェクターを投影するだけで始められる。だれでも簡単に、授業中にリアルタイムで音声の分析を行い、テキスト化することができるのだ(*2)。


音声認識により、先生の話をリアルタイムでテキスト化

例えば、社会の授業で歴史上の人物の名前が挙がると、その言葉の前後の意味やその出現した回数、前後の文章との関連性がAIによって解析され、重要な単語としてリアルタイムで自動抽出される(*3)。


音声認識されたテキストから、重要な単語が抽出される

抽出された単語は重要度により、ランキング化されるほか、関連する単語も表示してくれる(*4)。


関連する単語と画像を予測表示して表示する

従来は、教師が重要単語だけでなく、関連事項もすべて黒板に書き出していたが、Josyuによってその時間が短縮される。また、テキスト化された音声データから、授業中に出た重要単語の周辺の文章をAIが探索し、まとめプリントを自動生成することも可能だ。小テストづくりなどにも役立つ。

Josyu開発にあたり、授業をデータ化するという初めの一歩が非常に重要になったと坂和氏は言う。

「音声から言葉の意味を分析する音声認識のAPIはいくつかありますが、数十秒程度までの音声分析にしか対応していないものがほとんど。小学校の授業は40分あるため、長時間の音声をリアルタイムで分析できるAPIの選定に時間をかけました」(坂和氏)

認識した音声から重要単語をAIで分析するために活用している学習データベースの一つが、インターネット百科事典のウィキペディアだ。ウィキペディアは単語の意味だけでなく関連する単語とひもづけされているため、Josyuによる単語のピックアップにも適合している。そしてウィキペディアの更新内容に合わせて、Josyu側でもデータを常に更新している。

「ウィキペディアに加え、従来の教科書をデータベース化することも検討しており、今後さまざまな機能拡張をしていく予定です。学校の授業というのは、とても貴重なコンテンツです。しかし、先生が発した言葉や板書は、一度伝えたらそれきりの『使い捨て』になっています。そうではなく、授業内容の見直しや再利用を可能にする仕組みがあるべきなのです。Josyuは先生と共に授業を作っていく、授業の質を高めるための“助手”として、多くの学校に導入してほしいと思っています」(中西氏)

Josyuは、効率的に授業を進められるだけではなく、教師が生徒に目を向ける時間を多く生み出せるシステムだ。それは、人と人のコミュニケーションが重要視される教育現場において、AI活用のあるべき姿を示唆するものである。

後編では、Josyuを使った実証実験や見えてきた課題、その先の展望などに迫る。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)Josyu(外部サイト)
(*2)特別な知識は必要としない操作性(外部サイト)
(*3)授業で重要な単語を抽出、ランキング化(外部サイト)
(*4)関連する単語と画像を予測表示(外部サイト)

プロフィール

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員 中西 崇文氏

武蔵野大学 データサイエンス学部(2019年4月開講) 准教授、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員、デジタルハリウッド大学大学院客員教授、データサイエンティスト、博士(工学)。著書に「スマートデータ・イノベーション」(翔泳社)、「シンギュラリティは怖くない:ちょっと落ちついて人工知能について考えよう」(草思社)などがある。

株式会社サカワ 常務取締役 坂和 寿忠氏

1986年6月18日生まれ。愛媛県出身。大学を卒業後、サカワに入社し、学校のICT促進に携わる。2015年黒板アプリ「Kocri(コクリ)」、2016年ウルトラワイドプロジェクター「ワイード」を発売。2018年授業AIアシスタント「Josyu」α版を発表。

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