ビジネス創出

教育現場を改革する授業AIアシスタント「Josyu」【後編】

記事内容の要約

  • AIによる授業支援システム「Josyu(ジョシュ)」の実証実験に参加した教師からは、「教師の話す言葉だけでなく、生徒の反応もデータ化したい」という要望が挙がった
  • 著作権の問題をクリアして教科書を学習データとして利用できるようにするなど、製品化に向けてJosyuの機能を向上させる余地はまだ残っている
  • Josyuによって教師の負担を軽減するのはもちろんのこと、子どもたちのデジタルリテラシーも育みたいという思いが開発者にある
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教師の話した内容をAIでリアルタイムに解析し、黒板に投影する授業支援システム「Josyu(ジョシュ)」には、学校の授業を一つのコンテンツとしてデータ化し、教育の質を向上させる可能性がある。その一方で、実証実験を通して、よりブラッシュアップしていくべき課題、今の教育現場に求められるICT活用のポイントも明らかになった。Josyuの実証実験を経て、AIが属人的で業務負荷の高い教育現場をいかに改善していくつもりなのか、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の主任研究員 中西崇文氏と、黒板メーカーの株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠氏に聞いた。

AIが教育の可能性を拡張する

現在、Josyuの開発は最終段階にあり、すでにアルファ版の実証実験が一部の学校で開始されている。東京の日野市立平山小学校では、2018年5月に 高学年向けの授業がJosyuを使って行われた。同小学校は、文部科学省が推進する学校教育のICT事業の対象校に選ばれており、デジタル教科書を用いた授業を実践するなどICT環境の適応力もある現場だ。


国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員 中西崇文氏

「学校にはさまざまな先生がいて、教える内容は同じでも授業のスタイルはそれぞれ異なります。そのパターンに対応できるか、また先生がJosyuを使って授業をスムーズに進められるかといったことを検証しました。Josyuはソフトを起動するだけで簡単に使えるので、使い勝手についての注文はほぼありませんでしたね」(中西氏)

実際にJosyuを使ってみた教師から要望があったのは、「生徒の反応もデータ化してほしい」ということだ。生徒が能動的に学ぶように授業を行うアクティブラーニングが注目される昨今、生徒の授業に対する反応は、教師にとって重要な要素となっている。

「授業中に生徒から挙がる意見や、どの程度理解できているかということを先生はとても気にしています。しかし、授業を進めながら、リアルタイムに生徒一人ひとりへ気を配ることはとても大変です。Josyuによって生徒の音声データを取得、解析できるようになれば、授業後に生徒個々の反応を振り返ることができるようになります」(中西氏)

授業の盛り上がりは、瞬間的に生まれるものではなく、授業全体を通して形成されるものであり、前後の話題や言葉の意味にも大きく関係する。たとえば、数十分の授業の中でいつどのような内容に生徒が反応したかを、タイムスタンプをつけることで可視化できるようにすれば、より授業の質を向上させられる。今後検討を重ねて、いずれ生徒の反応を解析する機能も加える予定だと中西氏と坂和氏は語る。


株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠氏

日野市立平山小学校での実証実験や、教育関連の見本市への出展を経て、教育現場からのJosyuに対する期待の高さを伺えたと坂和氏は話す。サカワではまだ営業活動を行っていないが、すでに口コミで500を超えるアルファ版の利用希望者が集まっているという。

「授業内容をデータとして蓄積することで、良い授業を他の教育現場に横展開していける可能性がある。また、データは先生自身が自分の授業を振り返る材料にもなります。先生自身が授業中に話している言葉を見直すことで、スキルアップにもつながるはずです」(坂和氏)

Josyuの進化と展望

Josyuが音声から重要単語をピックアップするための学習データは、現在ウィキペディアを利用している。しかし、教科書をデータ化すれば、より授業内容に沿った精度の高い授業支援が可能になる。

「教科書は著作権の問題があるため、現状では引用データとして取り込めていません。デジタル教科書を作る際も、著作権によってさまざまなステップを踏む必要があるのです。今後、出版社がどれくらい協力してくれるかが鍵ですね。Josyuを使えば、実際の授業でどのような単語がどのように説明されているのかが可視化できる。それらのデータを出版社に提供することで、教科書の改訂にも役立ててもらえればお互いのメリットになると考えています」(坂和氏)

そのほか、音声認識のAPIの進化や、音声を拾うマイク機器などの性能が向上していけば、よりJosyuのクオリティーも高められる。「来年の製品化にむけて、マネタイズの方法についても、検討中しているところです」と坂和氏は加える。

中西氏は、今後のJosyuの機能拡張について次のように話す。

「私の専門分野である『言葉から感性を読み取る研究』を機能改善に生かすことで、生徒の反応や盛り上がりをより認識できるようにしていきたいと思います。また、単語のイメージから音楽を自動生成するソフトを用いて授業の要点を歌にして覚えやすくまとめるなど、さまざまな可能性が考えられます」

最後にJosyuをはじめ、AIやデータを教育現場に活用する可能性について聞いた。

「AIやデータの活用は、確実に学校の教育現場にも浸透していきます。しかし、まだ十分には進んでいません。まずはJosyuによって、スモールスタートで授業を変えていければと思います。AIによって先生の負担を減らすことはもちろんですが、子どもたちが小学生のうちからデジタル環境に慣れ親しめる環境づくりにも貢献していきたいです」(坂和氏)

最近、生徒の成績や生活態度などを管理するアプリなど、教育現場でのICT技術の導入事例は増えつつあるが、まだ他の分野と比較するとその遅れは否めない。しかし、Josyuのように教師の負担を減らし、さらにこれまで把握できていなかった情報を拾い上げるようなAIによる支援は、属人的な教育現場でこそ必要とされるだろう。研究者と老舗メーカーの情熱から生まれたJosyuが、日本の教育の在り方を変えていく未来に期待したい。

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プロフィール

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員 中西 崇文氏

武蔵野大学 データサイエンス学部(2019年4月開講) 准教授、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員、デジタルハリウッド大学大学院客員教授、データサイエンティスト、博士(工学)。著書に「スマートデータ・イノベーション」(翔泳社)、「シンギュラリティは怖くない:ちょっと落ちついて人工知能について考えよう」(草思社)などがある。

株式会社サカワ 常務取締役 坂和 寿忠氏

1986年6月18日生まれ。愛媛県出身。大学を卒業後、サカワに入社し、学校のICT促進に携わる。2015年黒板アプリ「Kocri(コクリ)」、2016年ウルトラワイドプロジェクター「ワイード」を発売。2018年授業AIアシスタント「Josyu」α版を発表。

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