Dの視点

【注目のひと】緒方恵氏(中川政七商店 取締役)

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Insight for Dが注目する人物のパーソナリティーに迫る本企画。影響を受けた人物や書籍、過去の失敗、人生哲学などに10の質問から掘り下げます。

今回登場する「注目のひと」は、かつて東急ハンズでECサイトの運営からスマホアプリの開発に至るまで、デジタルマーケティング全般を担当してきた緒方恵氏。2016年8月に中川政七商店に転職し、現在はデジタル領域のみならず、店舗・卸事業までをも含めたコミュニケーション戦略を描いています。ひとつの領域にとらわれない緒方氏の柔軟な思考力は、どのような背景から生まれてきたのでしょうか。

Q1: 学生(子ども)の頃に打ち込んだことはなんですか?

小学生の頃は野球です。ピッチャーだったので、野茂英雄選手に憧れていました。ちょうどトルネード投法で日本中を席巻していた頃です。野茂選手は、日本で一時代を築いたと思ったら、いきなりメジャーリーグに行ってしまった。当時はメジャーリーグ挑戦のパイオニアということもあっていろいろとバッシングを受けていましたが、すぐにスターダムを駆けのぼっていって。わが道を行き、かつ結果も出して周りを黙らせるその姿にただただ憧れましたね。

でも中学に入って肘と肩を壊してしまい、野球を続けられなくなってしまって。その後は、イギリスに留学したことがキッカケで洋楽にハマり、徐々に野球へのエネルギーが音楽へとスライドしていきました。音楽って、ファッションや本、映画など他の文化にもつながっているので、興味を広げてくれるのも良いところですね。いまも変わらず音楽好きです。

Q2: ご自身の考え方や生き方に影響を与えた人や書物はありますか?

僕は小学生のころから日本史オタクで、もっとも影響を受けたのが源義経です。彼は矢合わせ(戦う両軍が開戦の合図をし合うこと)など従来の戦の形式を排除して、山を迂回(うかい)して後ろから大将を襲撃したりと、目的を達成するために最短のルートを発見する着眼点に優れた人なんです。しかも、ロクに書物もなかった時代にですよ。完全に自分でゼロから思考してやり切っているってことで、義経のことを思うとビジネス本を読むのはやめようかなとか思います。

仕事面で影響を受けたのは、前職のボスである長谷川秀樹さん(元東急ハンズCIO、現メルカリCIO)と、今の会社に入るきっかけとなった現ボスの中川淳(中川政七商店十三代代表取締役社長)です。

長谷川さんも本質的な目的を最短ルートで実現しようとする人で、それまでのやり方をどんどん変えていったんです。あるとき彼が言った、「狂っていることをやれ、狂っていることを許すな」という言葉は僕の座右の銘にもなっています。これは、「誰もやっていないイノベーティブなことをやれ、ムダなことや慣習で続いていることを許すな」という意味です。

一方で中川は、「ブランディング」という切り口の戦略を推進し、中川政七商店を工芸業界・小売業界で唯一無二の存在に育て上げました。彼の、ブランドにおけるすべての立ち振る舞いに通底させる美意識の高さは尋常ではありません。企業戦略という大きな視点だけでなく、キャッチコピーを漢字で書くか、ひらがなで書くかというディテールにまで、誰よりもこだわる人なんです。それゆえ、ビジョンから店の作りの細部に至るまで、一気通貫した“中川政七商店らしさ”があります。そのこだわり方にはとても大きな影響を受けました。

こう考えると、野茂、義経、長谷川さん、淳さんと共通しているのは、「既存の慣習やルールにとらわれずに己で本質を見極め、突き進む人」ということなのかもしれないですね。逆に言うと、自分にそれが足りてないから彼らに憧れているんだと思います。

Q3: 大きな失敗の経験はありますか? それをどのように乗り越え、なにを学びましたか?

東急ハンズ時代に、オムニチャネルのスマホアプリを制作しました。当時としては、最先端の機能を持ったアプリだったと思います。でも最先端の機能を目指しすぎて、お客さまが見えなくなっていた時期がありました。あるときそのことに気付いて、これではいけないと1年半かけてつくったものをいったんゼロに戻して作り直しました。リリースが8カ月後ろ倒しになってしまいましたが、あのままだったら誰にも使われない、単なる高機能アプリでしかなかったと思います。その反省があり、とにかくユーザー視点を重視するようになりましたね。

Q4: 毎日の仕事のなかで、いちばん大事にしていることはなんですか?

笑いながら働くことです。

会社に属してエキサイティングに仕事を楽しむためには、数字を上げないといけない。結果を出すことによって予算がつき、新しいチャレンジへとつながるので仕事が楽しくなってきます。チームのメンバーにも、数字を上げて好きなことをやろうぜっていつも言っています。そうしたら笑いながら楽しく働けると思います。

Q5: もし、いま20歳だとしたら、どんな仕事をしようと思いますか?

僕は“なに”をするかではなく、“誰”とするかが行動原理になっていて、それ自体が働く上での哲学にもなっているんです。だからそのとき周りにどんな魅力的な人がいるのか、その人がなにをしているのかによりますね。さっきの話にもつながりますが、僕は笑っていたいだけなんです。であれば、ひとりではむなしいですよね。つまり、僕にとっては「誰と」が「何を」よりも、大事なんです。

Q6: 気持ちが沈んだ時、どのように気持ちを切り替えますか?

とにかくマンガを読みます。そんなに気持ちが沈むこともないんですが、弱ったときは、『ベルセルク』(三浦建太郎 著/白泉社)を読んで「もう来世は剣士にしかならない!」って思いながら布団をかぶります(笑)。

最近だと『ヴィンランド・サガ』(幸村誠 著/講談社)や『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(絵本奈央 著/岡田麿里 原著/講談社)、『マイホームヒーロー』(朝基まさし 著/山川直輝 原著/講談社)、絶対に外せない『波よ聞いてくれ』(沙村広明 著/講談社)とか…あと50冊くらい挙げたいですが(笑)。

あと『IPPO』(えすとえむ 著/集英社)という手作り靴の職人のマンガに出てくるセリフが本当によくて、僕らも手仕事の商品を扱う会社なので、共感するところが多いです。社内プレゼン資料でセリフを引用したことすらあります。

Q7: これまで観たなかでお気に入りの映画はなんですか?

これを語ると5時間は必要ですが(笑)、究極は突き詰めると『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(ロバート・ゼメキス監督/1985年~)と『スター・ウォーズ』シリーズ(ジョージ・ルーカス監督他/1977年~)になりますかね。エンターテインメントの完成形です。

僕は映画を学びたいと思って日大の芸術学部に進学したんです。そのきっかけをつくってくれたのは、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968年)です。子どもの頃に見たときは意味がわかりませんでした。でもアートに対する感受性が育ってきた高校生の頃に見直したときのこと。どのコマを切り取っても美術館に飾れるようなフレームとシーンの美しさ、そこに音楽や演技、ストーリーが積み重なることで「総合芸術作品ってこういうことだ!」と感銘を受けたのを鮮明に覚えています。

Q8: いま注目していることはなんですか?

中川政七商店はブランディング命の会社なので、日常生活でも、ブランディングやブランドについてよく考えています。

最近気になっているのが「NO COFFEE」というブランド。SNSで「NO COFFEE」と書かれたスマホケースを買ったという投稿を見たとき、シンプルな書体のボールド(太字)のロゴが強く印象に残ったんです。しかも“コーヒー(COFFEE)”を“ノー(NO)”と否定しているのが、すごくインパクトあって。たぶんコーヒー屋さんなんだろうけど、それを超えたサービスを提供しようというブランドの思いが込められているのかなと勝手に想像しました。

その後、たまたま立ち寄ったセレクトショップでNO COFFEEグッズが特集されていたんです。そこで出合ったことで、さらに関心を持ちました。こういう展開もできるってことはファッション業界では有名なブランドなのかもしれないな、そうなると自分が想像したブランドイメージは間違いではないかもしれないのかな、どうなのかな、と思って。

福岡にあるお店らしいんですけど、情報はあえて調べないようにして、偶然接触することを期待しながら想像を楽しんでいます。

Q9: 10年後はどんな時代になっていると思いますか?

テクノロジーの進化で変わることも多いでしょうし、考えても仕方ないですよ。わからないことで悩むよりも、どんな状況でも受け入れられるように、アタマを柔らかくしておくことが大事だと思います。そうやって楽しく生きられるように準備しているので、10年後も、きっと僕は楽しくやっています(笑)。

Q10: 人生において成し遂げたいことはなんですか?

中川淳(中川政七商店十三代代表取締役社長)と出会い、中川政七商店に入り、そのビジョンである「日本の工芸を元気にする!」に心底共鳴しているので、目下これに命をささげています。そして、個人としての根っこの部分で大事にしているのは、僕の周りにいる人たちと笑って過ごしていくということ。『仁義の墓場』(深作欣二監督/1975年)という映画で、主人公が死ぬ直前に「大笑い 三十年の 馬鹿騒ぎ」という辞世の句を詠むんですね。私も、死ぬその瞬間まで笑っていられるように生きたいと思います。

プロフィール

緒方 恵氏 株式会社中川政七商店 取締役

東急ハンズにてバイヤー、VMDを経てWEBチームに異動。さまざまなWEB/デジタル施策の開発及び運用を担当。2016年8月から中川政七商店にてWEB/デジタル領域全てを担当する、執行役員/CDOに就任。2018年3月より、取締役就任。上記に加え、店舗事業・卸売事業など含めた全顧客接点を統括する。

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