ビジネス創出

アートとビジネスの融合で新しい日本をつくる――ARTLOGUEの挑戦

記事内容の要約

  • 株式会社ARTLOGUEは、保守的なアート業界を変えるために、専門家から一般人までが楽しめるアート系メディア「ARTLOGUE」を運営している
  • ARTLOGUEは、普段アートに接する機会が少ない人々とアート関係者をつなぐことにより、文化芸術資源を活用した経済圏「ARTS ECONOMICS(アーツエコノミクス)」を確立することを提唱している
  • アーティストの枠にとらわれない考え方は、ビジネスにおけるイノベーティブな発想に通じるため、ARTLOGUEは「アートシンキング」というアプローチを広めようとしている
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近年、デジタル技術を活用したインタラクティブアートが話題になるなど、アート関連のビジネスが活況を見せている。しかし、アート業界全体において、ビジネスとして成立している事例は一握りだ。多くのアート関係者は、アートだけでは満足な収益をあげられない状況にある。

そのようななか、アートをビジネスと結びつけて、より大きな収益化を実現しようとしているのが株式会社ARTLOGUE(アートローグ)だ。同社は、どのようにアートから収益をあげていこうとしているのか。株式会社ARTLOGUE代表取締役CEOの鈴木大輔氏に話を聞いた。

アートをビジネスに結びつけるという発想の原点

「ARTLOGUE(アートローグ)」(*1) (以下、ARTLOGUE)は、「文化芸術を守るためにも、活かし、誰もが、いつでも、どこからでもアートを楽しめる世界へ」というビジョンを掲げる株式会社ARTLOGUE(以下、ARTLOGUE社)が運営するウェブメディアだ。アート関連のレポート記事、展覧会やイベント情報などが主なコンテンツだが、政治家のインタビューや美術館周辺のグルメ情報など、その内容は幅広い。


ARTLOGUEの画面

ARTLOGUE社の代表取締役CEOである鈴木大輔氏は、同社設立の狙いについてこう話す。

「国の調査では平成26年で、美術館やギャラリーへの訪問者は年間5,000万人以上といわれています(*2) 。入場料などを考えれば決して小さい数字ではないと思うのですが、問題は、一部のアート好きな人たちの間だけでお金が回っているということ。国内の人口が減少していくなか、既存の市場に頼っているだけでは、アーティストや美術館といったアート業界全体が衰退してしまう。実際に、地方の美術館はかなり疲弊しています。そのような状況を変えるには、アート業界の人間はもっと裾野を広げ、業界を活性化させていくべきなのです。このような問題意識から、アートをビジネスに結びつける活動を始めました」(鈴木氏)



株式会社ARTLOGUE 代表取締役CEO 鈴木 大輔氏

ARTLOGUE社の前身には、鈴木氏が2010年に取り組み始めた『CURATORS TV(キュレーターズ TV)』というプロジェクトがある。このプロジェクトは、鈴木氏が所属していた大阪市立大学の研究施設で実施された、グローバルCOEプログラム(*3) 「文化創造と社会的包摂に向けた都市の再構築」(*4) という研究活動の一環として行われた。「アートが社会に受け入れられるためには何が必要か」という視点から、美術館の学芸員やインディペンデントのキュレーターなどによるアートの解説動画をアーカイブして配信するというものだ。

「一度聞けば実感できるのですが、学芸員やキュレーター(*5) の話は本当に面白い。アートを身近に感じられるよい機会です。ただ、私がアートに接してほしいと考えている一般の人々は、日中は仕事をしていて、なかなか美術館に行けません。アート作品の解説を聞く機会がないのです。この問題を解決するために立ち上げたのが『CURATORS TV』で、現在、100本近くの動画を公開しています」(鈴木氏)

鈴木氏が『CURATORS TV』の制作過程で感じたのが、美術館の保守的な体質だったという。

「前例がないからという理由で協力を得られないケースや、『動画で流されたら、美術館に人が来なくなる』という懸念の声は多くありました。大半が新しい取組みに対しては消極的なのです。一方で、アート業界の先行きに不安を覚えている美術館が多かったのも事実。腰が重いアート業界の人々を動かすためには、アートを収益化できる仕組みが必要なんだと再確認しました」(鈴木氏)

鈴木氏はその後、2013年4月に一般社団法人WORLD ART DIALOGUEを設立。2017年7月には株式会社ARTLOGUEを立ち上げた。同社の株主にはアート界の重鎮だけでなく、著名なエグゼクティブも名を連ねている。

「アート界の重鎮を据えることで、かたくなな美術館に対して影響力を持てるだろうと考えました。つまりこちらのお願いごとに対して、『あの先生が言うんだったら仕方ないか』と首を縦に振らせてしまうわけです。もちろんそんなに簡単ではないですが(笑)。また、ビジネスパーソンのなかにもアート好きな人は多くいます。アート業界に投資しようという意識をお持ちの方をパートナーとして迎えました」(鈴木氏)

アートに関連するNPO法人は数多くあるが、鈴木氏は「寄付や助成金に頼らずに運営できるようにならなければ、アート関連の活動を続けていくことは難しい」と考えている。

「私たちは『アーツスタートアップ』として、自立した活動ができる仕組みをつくりたいのです。アートをビジネスとして成立させていくために、パートナーの方々に力をお借りしています」(鈴木氏)

アートを社会に届けるための取り組み

ARTLOGUE社の事業は「メディア」「EC」「シンクタンク」の3本柱で構成されている。そのなかで、鈴木氏が現在最も注力しているのがメディア事業だという。

ARTLOGUEのサイトを開くと、鈴木氏をはじめ、多くのライターやアーティストによる記事が並ぶ。記事の内容は、アート作品の考察や、アート界のビッグネームへのインタビューもあれば、「マンホールの蓋の楽しみ方」や「花火を美しく撮る方法」といった、アートに詳しくなくても思わず目を留めるハウツーものまでさまざまだ。

「ARTLOGUEが情報を届けたい相手は、美術館の職員やギャラリー関係者、コレクターのような人々だけではありません。アートとは関係のないビジネスパーソンや主婦、学生のような人たちにも、アートを広げていきたいと考えてコンテンツを展開しています」(鈴木氏)

ただし、直接的にアートに関連していないようなコンテンツも、掲載の基準は、まず「アート業界の人々に受け入れてもらえるかどうか」だという。やみくもに裾野を広げては、本来の味方であるアート関係者にそっぽを向かれかねないからだ。

「有名なミュージシャンがアートの展覧会を開いたというニュースは、一般的には注目されます。しかし、アートに慣れ親しんだ人からするとただの芸能ニュースで、アートとは無関係だと思われる可能性が高い。そのような情報は、ARTLOGUEが掲載する際には気を使います。あくまでもARTLOGUEは、アートで社会と対話するためのメディアです。軸足はアート業界に置いています」(鈴木氏)

メディアはビジネスの機会を生み出すためのハブ

現在、ARTLOGUEには広告の掲載がない。これには、「メディアは、アートの外にいる人々とつながるためのハブ」だという鈴木氏の考えがある。

「いずれは広告によるメディア単体での収益化も考えます。しかしそれよりも重要なのは、『どれだけアートに関心を持つ人々を増やせるか』、そしてARTLOGUEの名を広められるかということです。メディアを機軸にしてビジネス界隈(かいわい)の人々とのつながりを創出していくことが、結果的にECやシンクタンクといった他事業への還元にもなると考えています。コンテンツマーケティングにおけるオウンドメディアの発想に近いですね」(鈴木氏)

企業としてもアートをビジネスに生かすことで、新たな顧客の開拓やブランドイメージの醸成を図れる。実際にARTLOGUE社が外部の企業とタッグを組んだプロジェクトとして「NIIZAWA Prize by ARTLOGUE」がある。

同プロジェクトは、140年以上の歴史を誇る蔵元、株式会社 新澤醸造店との協働で行われた。「NIIZAWA Prize by ARTLOGUE」というアワードを開催し、世界トップレベルのアーティストと、新進気鋭のアーティストをそれぞれ表彰。そして、そのアーティストたちがデザインしたラベルを、その年の2種類の日本酒の瓶に使用するというものだ。

「アーティスト、日本酒、蔵元を同時に世界へ発信しようという試みで、2015年から毎年行っています。ARTLOGUE社がハブになることで、アーティストも企業もコラボレーションする相手を見つけやすくなる。また日本酒好きな人が、『この作品、あの日本酒のデザインと同じだな』とアーティストやアート作品に興味を持つきっかけづくりにもなる。多くの人にとってアートが身近なものになる機会を生めているのではないかと思います」(鈴木氏)



CIMAM(国際美術館会議)2015年次総会レセプションでのNIIZAWA Prize by ARTLOGUEのお披露目

この取り組みでは、日本酒を販売するECサイトの構築、運営を新澤醸造店から任されることで、ARTLOGUE社としても収益化することに成功している。そのほかにも、アート業界とビジネスパーソンをつなぐイベントの開催や、メーカー企業がアート作品とコラボレーションした商品を開発するための企画提案などを行っているそうだ。

アートによって実現する新しい社会

鈴木氏がARTLOGUEを運営する目的には、アートとビジネスを結びつけることのほか、人々に「アートシンキング」を発信していきたいというものがある。鈴木氏はこう語る。

「今の日本には、どこか停滞感があると感じています。それは、将来に対する明確な方向性を持った企業や人物が少なく、長らくイノベーションを起こせていないことに起因していると思うのです。今の日本には、これまでの常識を打ち破るような新しいビジョンが必要なのです」(鈴木氏)

そこで、既存の枠組みを超えるために必要な考え方こそが「アートシンキング」というわけだ。

「アートシンキングとは、一言でいうとビジョン形成や『0を1にする』ための方法論です。既存の枠を取っ払い、思考を飛躍させるためには、アーティストのマインドや思考を学ぶことは有効だと思います。『アーティストは炭坑のカナリア』(*6) という言葉もある通り、アートが持つ問題提起の力は、きっとビジネスにも生かせるはずです」(鈴木氏)

アートをただ見るだけではなく、作品の裏にある背景や思想に踏み込むような人々が増やすことが、アートシンキングな人材を生み出すきっかけとなるかもしれないと鈴木氏は期待している。

「2020年の東京五輪は、世界に向けて日本のビジョンや文化を発信する最大のチャンスです。そこへ向けて、まだアートに触れていない人の興味を高めて、そして企業のアートに対するニーズをくみ取り、それらが集まるハブになれればと考えています。また、アートや文化芸術を核とした持続可能な国つくりのためにも文化芸術資源を活用した経済圏『ARTS ECONOMICS(アーツエコノミクス)』を創出し、盛り上げることもARTLOGUEの使命です」(鈴木氏)

アートや芸術には、金もうけの気持ちで踏み込んではいけないという、ある種の“聖域”にも似た意識が、アートとビジネスを縁遠くしている要因のひとつかもしれない。ARTLOGUE社が進める「アート」と「ビジネス」の融合によって、どのようなアート市場が創出されるのか注目したい。

注釈:
(*1)ARTLOGUE (外部サイト)
(*2)文部科学省 -調査結果の概要(外部サイト)
(*3)グローバルCOEプログラム(外部サイト)
(*4)文化創造と社会的包摂に向けた都市の再構築(外部サイト)
(*5)美術館や博物館のような文化施設で、展示会の企画・運営や作品の収集などの業務にあたる職員
(*6)カナリアが毒ガスに敏感で炭鉱内の毒ガス検知に用いられていたことから転じて、一般的には気づきにくい危機の前兆、あるいはそれを示す存在のことをいう

プロフィール

株式会社 ARTLOGUE 代表取締役CEO  鈴木 大輔氏

大阪市立大学都市研究プラザのグローバルCOEプロジェクトを経て起業。2014年グッドデザイン賞受賞、2016年ミライノピッチにおいてOIH賞受賞。文化経済学会、デジタルアーカイブ学会所属。アートを利活用し、よりよい社会の実現を目指すアートイノベーター。

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