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ビジネスにどう活用できる? 量子アニーリングが解決する企業の課題

記事内容の要約

  • 用途が限定された量子アニーリングという技術を採用した量子アニーリングマシンは、ECのレコメンデーションや無人搬送車の稼働最適化などに活用できる
  • 量子コンピューターは既存のコンピューターに置き換わるものではないため、それぞれを相補的に活用していくことが望ましい
  • 量子コンピューターによる課題解決は幅広い業界・分野において可能であるため、企業は早期に取り組むことで先行者利益を得られる
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この記事の前編を読む

「夢のコンピューター」とも称される量子コンピューターが、にわかに注目されている。それは、研究が始まった1980年代当時に思い描かれていた汎用(はんよう)的な量子コンピューターとは少し異なる。用途を限定した、量子アニーリング技術を動作原理とする量子力学を利用したデバイス「量子アニーリングマシン」が、ビジネスに応用できるのではないかと期待されているのだ。実際にどのような取り組みが行われているのか。東北大学 量子アニーリング研究開発センター・センター長を務める大関真之氏に聞いた。

ネットサービスや物流における応用の可能性

――実社会やビジネスにおける、量子アニーリングを採用した量子アニーリングマシンの応用としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。

大関真之氏(以下、大関): ビジネスでの応用としては、「マッチングの高度化」があります。たとえば、「AとBの嗜好(しこう)を持つと判断されたユーザーには、Cの商品を提示する」などのパーソナライゼーションは、すでにECやデジタル広告の世界で実現しています。しかし、多様な嗜好をもつユーザーが大勢入り乱れているなかで、的確にマッチングすることは簡単ではありません。大量のデータを取得して処理し、(商品や広告などを)ユーザーへ瞬時にフィードバックする必要があるからです。

そうした瞬時に結果を出力するような要求に、量子アニーリングマシンが有効で、高速にある程度の精度の結果を得られます。前編で述べたとおり量子アニーリングは、多くの組み合わせのパターンを考慮して、最適解に近い回答を導き出すことに優れています(これを「組合せ最適化」という)。高度なマッチングを実現できれば、ECや広告の分野において「クリック率やコンバージョン率の向上」といった成果を生み出せます。


参考サイト: 「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ株式会社)

――他にどのような分野で役立つのでしょうか?

大関: 物流やモビリティ分野で、面白い成果が次々と出てくることでしょう。東北大学と株式会社デンソーとの共同研究で最近発表したもので、工場内の無人搬送車の制御に量子アニーリングマシンを利用した成果があります(*1) 。

現在、多くの工場や倉庫で無人搬送車が稼働しています。そして、1カ所の工場で稼働している無人搬送車は、当然一台ではありません。何十、何百台もの無人搬送車が同時に稼働している状態において、それらの制御はかなり複雑になります。

各無人搬送車が最速のルートで稼働し、無人搬送車同士が接触することなく、荷物の運び出しをしなければならない。これはまさに「組合せ最適化問題」として落とし込むことができます。実際の工場で動作している無人搬送車を量子アニーリングマシンでリアルタイムに処理をしながら制御することで、従来の方式よりもスムーズに動き、稼働率を引き上げることに成功しました。


東北大学 量子アニーリング研究開発センター・センター長 大関真之氏

――無人搬送車の制御に使えるということは、車の自動運転にも応用できるのでしょうか。

大関: インフラの作り方にもよりますが、応用できると思います。一般道で走らせる自動運転車で考えると、各自動車が個別に判断して自動運転するよりは、サーバー側でコントロールしたほうがいいと思います。その際に、裏で量子アニーリングが利用できるはずです。

量子アニーリングマシンは非常に多数の解を瞬時に出力できますが、「絶対にぶつかってはいけない。事故を起こしてはいけない」といった条件をクリアし、かつ組合せ最適化問題の最適解にはなかなか到達しない。ですが、瞬時に出力される多数のとりあえずの解から、条件に合わない解を排除して最善のものを選択するという方法をとることができるのです。先の無人搬送車の例でも、絶対にぶつからず、スムーズな動きを持つ解を得ています。

――では、少し前に話題になったコンピューターによる将棋や囲碁での可能性はいかがでしょうか。最善の一手を瞬時に計算するなど、応用の可能性は高いように思えます。

大関: 将来的にはあり得ると思います。量子力学の原理を利用すると、「現在の盤面では、もっとも良い手はここに指すことだが、こちらに指すと、後々の勝ち筋はこちらが優勢だ」という、他の可能性を含むことによる結果を導き出すような一手を作ることができます。そのため、今後技術の発達が進めば、将棋や囲碁の世界でも活用されるかもしれません。現時点では既存のコンピューターのほうが圧勝するでしょうが(笑)。

いずれにしても、既存のコンピューターのほうが得意な処理や、向いているシーンというものはまだまだたくさんあります。実際、われわれの取り組みの中でも「組合せ最適化問題」をうまく解くには量子アニーリングマシンだけではなく、既存のコンピューターの得意な計算を利用したり、瞬時に出力された解から利用できる解のみを抽出したりする方法をとるなど、うまく融合させて世の中の問題を解決していくというアプローチをとっています。量子コンピューターが既存のコンピューターに置き換わるのではなく、互いに得意なことを役割分担しながら共存するというイメージですね。

あらゆる産業で「問題解決」の可能性を秘めている

――今後、量子コンピューターがビジネスでも身近な存在になっていくと、企業にはどんな利益があるのでしょうか。

大関: 量子コンピューターは、「0か1か」だけではない「重ね合わせの状態」を扱えるので、特殊な計算においてはスーパーコンピューターの能力を上回ることとなるでしょう。その特殊な計算とは、ニーズがありつつも「時間や手間がかかるから」という理由でこれまで避けられてきたものです。

――具体的にいうと…

大関: 例えば、量子シミュレーションと呼ばれる創薬や材料開発において、実際に組み立てた原子や分子が実際にはどのような性質を持つのか、作る前に調べてみようという計算です。これまでにも、スーパーコンピューターを駆使して賢い計算方法を開発して、なんとかやってきました。でも量子力学の性質そのものを利用できる量子コンピューターであれば、今まで以上に課題に対して正面から向き合うことができます。

また、無人搬送車の例でいうと、この問題を「組合せ最適化問題」にしようと思わなかった、という課題だったんですね。量子アニーリングは、『「組合せ最適化問題」の新しい解法として期待されているらしい。うちもこんな問題を解決できたりしないかな?』という期待も相まって、ちょっと踏み込んだ課題設定をしがちです。その踏み出す一歩が大きすぎて、最初はうまくいかなかったりもするのですが、だんだん現実と擦り合わせると、うまい使い方が見えてきます。

量子アニーリングに限らず新しい技術全般にもいえることですが、企画会議で以前却下された案を再検討できるのではないか、あるいは諦めていた課題の解決に再挑戦できるのではないかといった意味では、業界や分野に限らずあらゆる企業が量子コンピューターの恩恵を享受できる可能性を秘めているといえます。

――そのような状況で、企業はどのような心構えでいるべきでしょうか。

大関: 量子アニーリングは、量子力学を知らなくても、解かせたい問題があれば利用できます。つまり、企業が「こんな問題に困っている」というパズルさえあれば、それを解くのに活用できるのです。

量子アニーリングによって利益に直結する形で恩恵を受けた業界が一つあれば、他の業界に波及もしていきます。先行者利益という意味では、他社より一歩でも先に使い始める状況を作り出せれば、有利になるといえますね。


――大関先生をはじめ、日本でも徐々に量子コンピューターの実装研究が始まっていますが、これからどのように発展していくのでしょうか?

大関: 今の日本は、研究者同士が互いの知見を持ちよりながら盛り上げていこうとしている段階です。とはいえ、すでに量子コンピューターだけの研究には収まらないほど、広がりつつあるのも事実です。米国では、国家プロジェクトとして、さらに高度な量子コンピューターを開発しようとする動きもあり、競争が激しくなっています。そして、その新しい技術を生かす段階に移ってきていますから、世界的に多様な分野との協業が盛んになっていくはずです。

私が所属する東北大学量子アニーリング研究開発センター(T-QARD)では、量子アニーリングの活用ノウハウを蓄積しています。コンピューター自体を作るわけではありませんが、企業が量子アニーリングを活用する際の橋渡しになれればと考えています。

2019年には、量子アニーリングの研究開発コンソーシアムを立ち上げ、さまざまな産業や企業に参加・協力してもらいながら、可能性や活用方法を研究していく予定です。ぜひ、ご注目ください。

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注釈:
(*1)量子コンピューティングによる工場の配送最適化(外部サイト)

プロフィール

東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻 量子アニーリング研究開発センター・センター長 准教授
東京工業大学科学技術創成研究院 量子コンピューティングユニット・准教授
大関 真之氏


主な著書に、「機械学習入門 ボルツマン機械学習から深層学習まで」「ベイズ推定入門 モデル選択からベイズ的最適化まで」「量子コンピュータが人工知能を加速する」「先生、それって量子の仕業ですか?」がある。ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書大賞2018技術書部門大賞受賞、特別賞受賞、平成28年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞、第6回日本物理学会若手奨励賞受賞。

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