マーケティング戦略

東京五輪で終わらせない! 真の観光立国を目指すインバウンドマーケティング

記事内容の要約

  • 政府が掲げたインバウンドにおける目標を達成するため、2017年10月に、観光庁所管の独立行政法人「JNTO」内にデジタルマーケティングを推進するチームが開設された
  • 訪日外国人旅行者数と旅行消費額は堅調に伸びているが、その多くはアジア圏の旅行者によるもので、長期滞在が見込める欧米豪からの旅行者を取り込んでいきたいという課題がある
  • 2020年の東京五輪が終了したあとも訪日外国人旅行者を獲得していけるように、JNTOはDMPを核にして、地方創生までも見据えたデータ活用に取り組んでいく
  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

都市圏や観光地など、日本各地で訪日外国人旅行者が増加している。しかし、その約85%はアジア圏からの旅行者だ。訪日無関心層も含め、欧米豪からの旅行者をいかに取り込めるかが、日本のインバウンドの大きな課題となっている。

そうしたなか、「外国人の訪日旅行の促進」をミッションに置く観光庁所管の独立行政法人「日本政府観光局」(JNTO:Japan National Tourism Organization、正式名称:独立行政法人国際観光振興機構。以下、JNTO)が、デジタルマーケティングを活用したインバウンド戦略を本格始動させた。

観光庁が総合的な観光立国に向けた取り組みに注力する一方で、JNTOは主に、海外現地メディアを通じた情報発信(訪日旅行のプロモーション)や、国際会議など国際的なイベントの誘致、受入環境整備、インバウンドに関する分析・コンサルティングなど実効的な施策を行う。その拠点として、東京の本部を中心に世界21都市に海外事務所を配備している。

JNTOは、どのような戦略、ビジョンのもとにデジタルマーケティングへの取り組みを進めているのか。JNTO企画総室 デジタルマーケティング室長の吉田憲司氏に話を聞いた。

85%はアジア圏……訪日外国人旅行者増加にひそむ課題

観光庁とJNTOの調査によれば、2017年の訪日外国人旅行者は2,869万人、消費額は4.4兆円(*1 )に達した。2010年以降は特に堅調な伸びを示しており、その伸びを踏まえて日本政府は2016年に「2020年までに訪日外国人旅行者4,000万人、消費額8兆円」「2030年までに同6,000万人、同15兆円」(*2 )との大きな目標を掲げた。この目標を念頭に、JNTO 企画総室 デジタルマーケティング室長の吉田憲司氏は、現在JNTOが意識している課題について次のように話す。

「近年の訪日外国人旅行者のうち、実に85%がアジア圏の方々です。これらの旅行者にリピートして訪日いただくことも重要な責務ですが、日本のインバウンドにおける大きな課題は、欧米豪からの外国人旅行者を獲得すること。彼らは頻繁に海外旅行へ行きますが、日本を旅行先としてあまり認知・意識していません。彼らのようなロングホール(長距離航行)の旅行者は長期滞在が期待でき、おのずと消費額も上がります。長期滞在となれば都市圏以外にも足を運んでくれるため、地方創生の鍵にもなります」(吉田氏)


JNTO 企画総室 デジタルマーケティング室長 吉田憲司氏

欧州豪の旅行者獲得を狙ったコンテンツ施策

そんななか政府は2017年5月、首相官邸で開かれた関係閣僚をメンバーとする「観光戦略実行推進タスクフォース」の会合のなかで、デジタルマーケティングの本格導入を提言した。同年10月12日には、JNTO内にデジタルマーケティング室を開設。今まさに当該施策を強化している最中だ。

「まずは、JNTOが保有する各オウンドメディア(ウェブサイト、SNS、スマホアプリなど)の情報発信基盤を総合的に整備し、旅行者に関連するビッグデータの収集・分析を進めます。あわせて潜在顧客を分析したり、旅行先を比較・検討しているユーザーの属性を踏まえて訪日に導くための情報発信をしたり、あるいはプロモーション効果を測定したり……。一般的な企業では当たり前のことかもしれませんが、政府主導のインバウンド戦略においてはまだそれが十分できていませんでした」(吉田氏)

かねてJNTOでは14言語・21市場に対応した外国語ウェブサイトのほか、公式アカウントのFacebook、Instagramを展開している。スマホアプリ「Japan Official Travel App」も4言語で提供中。デジタルマーケティングの本格導入にあたり、吉田氏らはこれらコンテンツの抜本的なリニューアルを進め、より外国人目線に適したコンテンツ群に整備していくという。

並行して、新たなコンテンツ開発も進めている。


出典: 「Enjoy my Japan」サイト

JNTOでは、2018年2月6日に『Enjoy my Japan』と銘打ったグローバルキャンペーンを開始。「日本と言えばフジヤマ、ゲイシャ……」といった旧来型のイメージから脱却を図るべく、サイト内では日本観光の魅力を、「Cuisine(食事やお酒)」「Nature(豊かな自然)」「Relaxation(リゾートや宿泊施設)」「Tradition(伝統文化や歴史的遺跡・建築等)」「Cities(大都市の刺激、エンターテインメント)」「Art(アートやデザイン)」「Outdoors(アウトドア・アクティビティ)」の7カテゴリに分類。それぞれフォトジェニックを意識した写真とコンセプトムービーを使って、旧来型の日本の印象をシフトチェンジすべく情報発信している。

「日本が、誰もが楽しむことができる旅行先」であることの認知啓発を進め、欧米豪の訪日無関心層に訴求し、呼び込みを狙いたいと吉田氏はいう。

JNTO版DMPを活用したデジタルマーケティング

オウンドメディアを中心としたデジタルコンテンツの拡充と両輪で進められているのが、2018年3月から開始したデータ収集・分析・活用である。具体的には、DMP(Data Management Platform)を核とするデジタルマーケティング戦略の展開だ。先に挙げたJNTOが持つ各コンテンツから一元的にDMPへ収集・蓄積されたデータは、外部事業者の持つビッグデータとの突合や掛け合わせによって、深い顧客分析が行えるようになる。そのうえ、類似性のあるユーザーを外部データから抽出できるようになれば、新たな顧客のターゲットリストも明確化するだろう。

今後、データの質・量ともに拡充していくことを想定し、吉田氏は「将来的には、国の政策決定に資するデータにもしていきたい」と期待を寄せている。

DMP活用のイメージ

JNTOが目指すデジタルマーケティング

「現在は、まだ実行フェーズの半分くらいの段階」と吉田氏はいうが、こうしたデジタルマーケティング戦略の成果は、JNTO内の組織を横断した広告施策(分析結果に基づく最適な広告配信、ターゲットメディアの選定やキャンペーンクリエイティブの決定)、マーケティング施策(オウンドメディアの分析、スマホアプリにおけるプッシュ通知の実行、ウェブサイト掲載情報のパーソナライズ化)、CRM施策(海外事務所のニュースレター配信、メディアデータベースに基づくメールマガジン配信)等に活用できるものになると確信しているという。

「GDPR(EU一般データ保護規則)の問題もあるのでまだ構想段階ですが、JNTO内でデータ分析した結果を、各種自治体やインバウンド関連事業者にも還元したいと考えています。たとえば、訪日外国人旅行者を地方自治体の観光ウェブサイトに誘導させるようなリマーケティングにつながるデータ活用は行っていきたいです」(吉田氏)

吉田氏写真

日本における目下のインバウンド戦略といえば、2020年の「東京五輪」に向けた取り組みだ。ただ吉田氏は、日本のインバウンド戦略を五輪までの単発的なものとして終わらせることなく、より社会的な資産を残すための戦略として捉えている。

「2020年の東京五輪はもちろん国民的な関心事です。しかし、われわれはその先にある『2030年に、訪日外国人旅行者6,000万人、消費額15兆円の達成』を目指しています。また地方創生の文脈から考えると、必ずしも東京五輪が地域を活性させるとはかぎりません。そうした意味では、2019年に開催される第9回ラグビーW杯日本大会への期待も大きいです」(吉田氏)

多くの欧米豪の旅行者が訪れるラグビーW杯は、全国各地の競技場で試合が行われるので、地方の誘客が期待できる。さらに、会期が長く、試合間のインターバルもあるので長期滞在も見込める。まさに、訪日外国人旅行者へ日本の魅力を発信し、「JAPAN」という言葉を世界に広げていくチャンスなのだ。「訪日外国人旅行者にどのように周遊して楽しんでもらうか、デジタルマーケティングを駆使しながらJNTO全体で検討していく」と吉田氏は語る。

「日本の魅力を、日本のチカラに。」――。JNTOが掲げるキャッチフレーズだ。2019、2020年と世界中から注目されるこの2年間が、観光先進国に近づく最大の機会であることは間違いない。この機を生かし、2030年の目標達成に向けてどのような策を講じるのか、JNTOの次なる一手が楽しみだ。

注釈:
(*1)トラベルボイス 観光産業ニュース(外部サイト)
(*2)総務省 情報通信白書「平成30年版・インバウンドの状況」(外部サイト)

プロフィール

日本政府観光局(JNTO)企画総室 デジタルマーケティング室長 吉田 憲司氏

1976年生まれ、東京都出身。旅行会社、インターネットメディアレップを経て、2016年8月入構。2017年10月デジタルマーケティング室発足とともに現職。日本のインバウンド環境が追い風の中、JNTOとしてのこれまでの実績や信頼と自身の前職での経験や人脈を活かしながらインバウンド戦略を進める。

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

Insight for Dの
ページにいいねしよう!

「いいね!」してInsight for Dの最新情報をチェック

Yahoo! JAPANのデータソリューションについて

Yahoo! JAPANのデータソリューションについて

Insight for Dの公式Facebookページ、Twitterでも最新情報や取材の様子を発信中。