ビジネス創出

データで育てた野菜は何が違うのか――農業ビジネスの新たな可能性

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ノーリツ鋼機の社内ベンチャーとして2009年に設立され、データにもとづいて育成した野菜を生産しているNKアグリ株式会社。農業経験者ゼロからスタートした同社の野菜栽培は、データの分析・活用を糧に軌道に乗り、市場における存在感を見せ始めた。

そんな同社が新たに目をつけたのが、形は悪いが栄養価の高い人参の品種「こいくれない」であった。データを活用した「こいくれない」の生産から見えるNKアグリの農業、そして、その先に見据える農業の新たな在り方を、NKアグリ株式会社 代表取締役社長 三原洋一氏に聞いた。

工場生産の野菜から、露地野菜への拡大

NKアグリ株式会社(以下、NKアグリ)では、レタスの生産が軌道に乗ったことで他の野菜作りにも改めて取り組むことになった。

「弊社が保有する工場で野菜を生産するだけでは、いくら良い野菜を作ってもビジネスとしての規模には限界があります。もっと多くの地域で、長い時期にわたって行える野菜作りをしようと、野外で栽培する露地野菜に注目しました」(三原氏)


NKアグリ株式会社 代表取締役社長 三原洋一氏

そして、露地野菜を研究するなかで出合ったのが「こいくれない」という品種の人参だ。

「こいくれない」は、金時人参と西洋人参の交配種で、普通の人参にはほとんどないリコピンを含みやすいという特徴がある。甘味も強く、野菜としての魅力はあるが、成分のばらつきを抑えることが難しい品種だ。

「レタス生産の時に行っていた、データに基づいた生育管理のノウハウが生かせるのではないかと考えました。約2年をかけて、複数の条件の畑で『こいくれない』を作り、収集したデータから、サイズやリコピン、β-カロテンなどの栄養素を多く含むための生育環境を追求したのです」(三原氏)

そして、その環境で生産ができる農家も探し続けた。流通関係者に「人参作りが上手い農家さん、いませんか?」と尋ねるなどの地道な努力も実を結び、「こいくれない」の生産は、北は北海道から南は鹿児島県まで、7道府県50農家と提携するまでになった。地域を限定せず複数の地域で生産するのには、収穫量の確保だけでなく、季節が変わっても市場に長い期間、商品を提供する狙いがある。

「通常、ひとつの地域で収穫できる期間が1カ月程度しかない「こいくれない」を、11月から4月にかけて全国規模で流通できています。生育データを分析し、環境に反映させることで、ひとつのブランド野菜を異なる複数の土地で作ることが可能になりました。この手法は他の露地野菜にも転用できる可能性があります」(三原氏)

こいくれない

「こいくれない」は、流通している多くの人参に比べて形があまりよくないとされるが、消費者からの反応は良好だ。そこには、NKアグリが「見た目のキレイさ」ではなく「味や栄養成分」を品質基準の中心に据えたことが大きく影響している。

「一般的な農家は、流通に乗せやすいという理由などから、野菜の重さや形の良さを重視して生産を行う傾向があります。一方で消費者は、形よりも味や栄養価の方を重視しているという現状があります。そういった消費者の需要を、農家も把握していなくはないですが、流通や小売りの利便性などから今まで軽視してきたのです。しかし、われわれは味や栄養価が高ければ評価されると考えました」(三原氏)

そのことを裏付けるように、NKアグリが生産するレタスや人参には、味を表現する主観的なフレーズは表記されず、「栄養価」が記載されている。2016年からは、露地野菜として初めて栄養機能表示(ビタミンA)が認められた。

こいくれない

さらに、パッケージデザインにもこだわり、ブランドとしての価値向上を図ってきたことで、消費者発のブランドコミュニティーも生まれている。「こいくれない」の味に惚れ込んだ野菜ソムリエが自主的に立ち上げたSNSのアカウントでは、消費者だけでなく、各地で生産を行う農家も参加して情報交換が行われているそうだ。

データを活用した野菜作りの可能性

「農業業界はデータ活用が遅れています。弊社の工場野菜や『こいくれない』の取り組みによって、農業におけるデータ活用がさらに進んでほしいと思っています。野菜の生育状況から生産量を予測したり、データをもとに安定した品質の野菜を栽培したりすることは、さまざまな野菜作りに有効なはずです。ちなみに現在は、発芽した段階で収穫量が予測できるレベルにまで技術が向上しています」(三原氏)

農業におけるデータ活用が浸透すれば、農家間で生育データを共有して、安定した品質の野菜作りが広く行われるようになり、激しい価格変動も抑えられるようになるかもしれない。また、生育環境をデータで管理することで、異なる地域でも同等な品質の野菜を作れる事実は、「農業は一つの土地で行うもの」という既成概念を取り払い、大きな土地を持たない企業が、農業にビジネスとして新規参入できる可能性をも示している。

「将来的には、地域ごとに異なる消費者側の需要をデータ化し、生産から流通、販売までをトータルにデザインできるようになりたいですね。国内にとどまる必要もないと考えています」と目標を語る三原氏。国内だけでなく、海外の農業サプライチェーンのデータまでも活用することで、従来の農業の枠を飛び越え、新たな「ジャパンブランド」の野菜が誕生する未来が訪れるかもしれない。

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プロフィール

NKアグリ株式会社 代表取締役社長 三原 洋一氏

前職はLED照明開発のベンチャー企業で、企画業務。2009年にノーリツ鋼機グループの新規事業開発を担当する会社に転職し、まったくの農業未経験ながらNKアグリの創立から担当。2012年より代表。

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