組織づくり・人材育成

「社会変革型データサイエンティスト」を育成せよ【前編】――医療業界の課題とは

記事内容の要約

  • 日本の医療・創薬分野は、培ってきた経験や知識を重視する風土があるため、データ活用がなかなか進まない
  • 同領域でのデータ活用を促進するため、プロフェッショナルファームのデロイト トーマツは、京都大学との共同研究で医療・ヘルスケア専門のデータサイエンティスト育成プログラムをスタートさせた
  • このプログラムでは、医療・ヘルスケアを通じて社会変革に取り組むデータサイエンティストの育成を目指している
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2018年6月、総合プロフェッショナルファームのデロイト トーマツ グループと京都大学が共同研究を開始し、医療・ヘルスケア分野に特化した「データサイエンティスト育成プログラム」を開発すると発表された。デロイト トーマツによると、このプログラムの狙いは「自ら課題を発見・解決し、社会を変革していける人材の育成」にあるという。

なぜデロイト トーマツは、このプログラムを開発するに至ったのか。その経緯と目的、さらに今後の展望など医療変革の可能性を探っていく。

医療・ヘルスケアデータサイエンティストを育成する理由

ビジネスにおけるデータサイエンスの重要性が増している。その流れは医療・創薬の分野においても同様だ。

厚生労働省所管の研究機関が発表した調査によれば、ビッグデータやAI、IoTの導入を進めることで、医薬品の研究開発費は導入前に比べて69%も削減できるという。さらには、開発期間は56%も短縮し、新たに発売される市販薬の品目数は年間あたりで40%も増えるとされている(下図)。


AI、IoT、ビッグデータ導入によって期待される創薬への効果

このようなデータサイエンスの導入がもたらす効果への期待を受け、文部科学省でも「超スマート社会の実現に向けたデータサイエンティスト育成事業」(*1)など、データサイエンティストを育成する教育機関を支援する公的プログラムを積極的に展開し始めた。しかし、デロイトの戦略コンサルティング部隊である「モニターデロイト」でライフサイエンス&ヘルスケア業界を担当するシニアマネジャー 柳本岳史氏は、医療・ヘルスケア領域におけるデータ活用はいまだ不十分であると指摘する。

「医療・ヘルスケアや創薬における『データサイエンティストの不足』は、大きな課題になっています。日本の医療・製薬業界におけるIT全般に対するリテラシーは諸外国と比べて低く、データ活用による医療・創薬のイノベーションが非常に遅れています。この背景には、『培ってきた経験と勘を重視する』という業界の風土や、マネジメント層の危機感やリテラシーが十分でないことなどが挙げられます。『良質のデータが不足している』『利活用に向けたルールが整備されていない』『データサイエンティストが不足している』などを、取り組みが進まない原因として嘆く方もいるのですが、これは勘違いで、本気度不足こそが一番の問題なのです」(柳本氏)

このような状況に鑑みて、デロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)が着手したのが、「医療・ヘルスケア分野に特化したデータサイエンティストの人材育成プログラム」だ。


モニターデロイト | ストラテジー ライフサイエンス&ヘルスケア シニアマネジャー 柳本岳史氏

目指すは「社会変革型データサイエンティスト」の輩出

デロイト トーマツが育成しようとする「医療・ヘルスケア分野に特化したデータサイエンティスト」の人材像は、一般的なデータサイエンティストとはどう違うのか。

「現在、世間一般で活躍しているデータサイエンティストの多くは、データ分析をミッションとして、それだけを請け負う存在になっています。一方でわれわれが育成したい人材は、ライフサイエンス・ヘルスケア領域に深い造詣があることはもちろん、データ分析の役割にとどまらず、その成果によって社会変革を実現しうるデータサイエンティストです」(柳本氏)


データサイエンティストの分類と人材に必要な条件

「『社会変革』というくらいですから、われわれが輩出したい人材像の幅は非常に広い。医学の研究者や医師、製薬会社の研究者はもちろん、医療・ヘルスケア全般に関連する製品・事業の開発担当者、さらには地方自治体の職員としても活躍できる人材を育てたいと考えています。それぞれが自らの専門領域で新しい課題を設定し、必要な技術を選択して、課題を解決していく――そのような『社会変革型人材』の輩出をミッションとしているのです」(柳本氏)

デロイト トーマツでデータサイエンスを専門とし、柳本氏とともに、この育成プログラムの開発プロジェクトに参画しているシニアマネジャーの泉晃氏は次のように話す。

「データサイエンティストには、学者肌といいますか、専門性に特化しすぎてしまって、せっかくの成果を社会的に有用な施策に結びつけられないというタイプが多くいます。今回のプログラムでは、社会を変える存在としてのマインド・スキルを身につけてもらい、誰かに輝かせてもらう『月(のような)人材』ではなく、自ら輝ける『太陽(のような)人材』を育成していきたいと考えています。

医療やヘルスケアに関するデータを正しく活用するには、倫理の問題や医療制度などに精通していなければいけません。そのためにこのプログラムでは、データ分析などの基礎学習からライフサイエンス・ヘルスケア領域の学習まで、体系だったカリキュラムを提供していきます。このプログラムで習得した知識やスキルによって、データ分析の結果を現実のビジネスや社会貢献に役立てられるよう、力をつけてほしいと思っています」(泉氏)


デロイトアナリティクス シニアマネジャー 泉晃氏

「卒業後に何をしたいか」に沿ったカリキュラム

柳本氏と泉氏は、京都大学の奥野恭史教授とともに、今回の育成プログラム開発に向けたポリシーやカリキュラムを定めていった。

「一言でいえば、このプログラムは目的指向です。たとえば、『医療データを分析し、新たな診断アプローチを提案する』『ライフログを分析し、予防・早期発見につながる兆候を発見する』というように、卒業後に実現可能な目標を、受講者にいくつか設定させます。その目標達成に向けて学べるように、基礎・必修・選択・実習といったカテゴリごとに、必要なカリキュラムを組んでいます」(泉氏)

さらに、柳本氏は続ける。

「大切なのは『データサイエンティストになってから何をしたいのか』ということです。データサイエンティストになるべく研鑽(けんさん)に励み、大学は卒業するものの、その先に何があるのかははっきりしない、というのではもったいない。受講者には『卒業したら、こういうことがしたい』という目的を持ってもらい、それを実現するために逆算して用意されたカリキュラムによって、実践的に学んでもらう。ここがほかのデータサイエンティスト育成プログラムとの大きな違いだと考えています」(柳本氏)

後編では「医療・ヘルスケア分野に特化したデータサイエンティスト人材育成プログラム」の具体的な施策について聞いていく。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)超スマート社会の実現に向けたデータサイエンティスト育成事業(外部サイト)

プロフィール

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 モニタ- デロイト | ストラテジー ライフサイエンス&ヘルスケア シニアマネジャー 柳本 岳史氏

ヘルスケア業界全般において、全社戦略、ビジネスモデルイノベーション/創薬イノベーションなど、企業の変革を幅広く支援している。近年は、政府やAMEDなどの公的機関、業界団体などの産官学連携活動や業界全体への支援・働きかけを通じ医療・社会変革の実現に努めている。

有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス シニアマネジャー 泉 晃氏

アナリティクス関連技術のR&Dとコンサルティングを担当。主に医療、製薬、介護分野などで、人工知能やIoTといった先端技術の導入を実務的に支援。全社的なデータ活用戦略、組織立ち上げの支援なども行う。またデータプラットフォーム化の実現による新たな価値創出にも取り組む。

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