組織づくり・人材育成

玉塚元一氏はなぜIT業界に身を投じたか

記事内容の要約

  • ユニクロやローソンなど、著名企業の経営に携わってきた玉塚元一氏は、現在、セキュリティ分野に特化したIT企業のCEOを務めている
  • 今までの玉塚氏の経歴からすると異色にも感じられる転身には、企業の「ポテンシャル」と「社会貢献」を重視する玉塚氏の一貫したポリシーがある
  • 現在の目標は、企業のセキュリティを担保できるスキルを持つ「ホワイトハッカー」を育成することであり、今後予想されるセキュリティ人材不足への対応を進めていく
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ユニクロやローソンなど、名だたる企業の経営を手がけてきた玉塚元一氏は、2017年6月に、株式会社デジタルハーツホールディングスの代表取締役CEOに就任。グループ企業の株式会社デジタルハーツは、ゲームソフトのデバッグでは業界内で定評があり、近年はエンタープライズシステムのテストやセキュリティ分野にも事業を広げつつある。

ところでデジタルハーツの事業内容は、今まで玉塚氏が手がけてきた事業からすると、若干畑違いな印象があるのも事実だ。IT企業への転身にはどのような理由やきっかけがあったのか、玉塚氏に語ってもらった。

「ホワイトハッカー」はセキュリティの専門家

デジタルハーツグループは多岐にわたって事業を手がけていますが、大きな柱となっているのがゲームソフトのデバッグや検証サービスです。現在、この事業を拡大し、エンタープライズシステム(*1)のテストやセキュリティ領域へも進出していますが、私が注力していることの1つが「ホワイトハッカー」の育成です。

一般的に「ハッカー=悪人」というイメージを持つ人が多いと思いますが、実はハッカーという言葉そのものには「悪」という意味はなく、もともとはソフトウェアの専門技術に精通した高いスキルを持つ人を指しています。そして、その能力をセキュリティ業務などに生かし、世の中のために役立てる人のことを、当社では「ホワイトハッカー」と呼んでいます。

業務内容を反映した名称に言い換えるとしたら「企業のセキュリティ対策を支援する『脆弱(ぜいじゃく)性診断士』」と言えばわかりやすいかもしれません。ソフトウェアの脆弱性の特徴を数多く把握し、さらにそれらに対処できるスキルと高い倫理観を同時に備えているというのが、その人物像です。

日本のIT業界は人材不足だと言われますが、セキュリティの分野では特に顕著です。セキュリティの専門家として通用する人材を数多く育て、日本有数のホワイトハッカー集団を築くこと。それが現在の大きな目標の1つです。


株式会社 デジタルハーツ ホールディングス 代表取締役 CEO
株式会社 デジタルハーツ 代表取締役 玉塚元一氏

大きなポテンシャルを感じ参画を決意

これまで、ユニクロやローソンといった小売業界にいた私が、なぜ突然IT業界に身を投じたのか。それもECやメディアなどの領域ではなく、ゲームデバッグというやや特殊な分野というのは、不思議に思われる方も少なくないかもしれません。

実は、IT業界に興味があったというより「デジタルハーツ」という企業のポテンシャルに大きな魅力を感じたのが一番のきっかけです。

私は2005年にユニクロの社長を退いた後に、「リヴァンプ」という企業を再生・支援する会社を立ち上げました。「リヴァンプ」には「刷新する」「一気に変革する」という意味があります。「企業を芯から元気にする」というコンセプトで、ファンドなどの投資ではなく、現場に入り込んで変革していこうと考えていたのです。私がローソンに参画したのも、当時同社の社長だった新浪さんからの依頼を受け、ローソンを“リヴァンプする”という覚悟を持ってのことでした。デジタルハーツへの参画も同じことです。

ローソンの代表取締役を退任してからは、小売業界の経験を評価いただいて、ありがたいことにいろいろな方からお誘いをいただきました。しかし、ローソンをはじめとするコンビニ各社は、すでに非常に強く、業界として成熟しています。「もう自分が小売でやるべきことはやりつくした。今度は、まったく違う業界でやってみたい」と思ったのが正直なところです。

デジタルハーツを知ったのは、2017年初頭でした。現在はデジタルハーツホールディングスの取締役会長を務めている創業者の宮澤栄一氏を紹介されたことが、きっかけです。

どういうわけか気に入られて、「ゲンさんに経営をみてほしいんだ」と相談されたんですね。それで、最初は経営には直接タッチせずに顧問やアドバイザーという形を考えていましたが、実際にゲームのデバッグを行っている現場を視察して、考えが変わりました。ニッチですがユニークで、成長戦略を描けそうなポテンシャルを感じたのです。

ただ、次なる成長のためには会社の構造やオペレーション、人材戦略を根底から見直す必要があるとも感じました。これは前職までの経験で痛感したことでもあります。そこで宮澤氏に「本気で変えるなら、2人の役割を明確にしよう。代表取締役と経営は私がやる代わりに、栄ちゃんは創業者として、また大株主として、ガバナンスをしっかりとみてほしい」とお願いして、そのうえで引き受けることにしたのです。

社会に貢献できる企業をめざして

私は企業価値を評価するとき、成長ポテンシャルの有無と同じくらいに、社会的な意義も重視しています。

たとえばコンビニは、すでに地域に必要不可欠な社会インフラになりつつあります。利用者が少ない地域で24時間営業をするのは、ビジネス的なメリットを考えると厳しいと言わざるをえない。しかし、そこで暮らしている方々にとってコンビニはライフラインであり、なくてはならない存在です。そうであれば、私は営業時間を24時間ではなく18時間にしたり、扱う商品数を減らすなどして、営業を続ける工夫をします。「CSR(Corporate Social Responsibility)からCSV(Creating Shared Value)へ」と言われるように、これからの時代、ビジネス自体が社会問題の解決にもつながるということが非常に重要だと考えています。

デジタルハーツの現場を見て、成長のポテンシャルを感じたのと同時に私が考えたのが、ここは、若者の就職支援の場になるのではないかということです。

若者のニートや引きこもりが社会問題になって久しいですが、彼らもいつまでもその状態のままでいられるわけはなく、脱しなければならない時がきます。デジタルハーツならそのきっかけを提供できると考えたのです。

玉塚氏

実はデジタルハーツでゲームのデバッグやテストを担当している人のなかには、いわゆる引きこもりで、これまで社会にうまく溶け込めなかった若者も少なくありません。彼らはゲームのテスターという仕事を得て、まずはあいさつの仕方から教わります。そして実際の業務に携わることになるのですが、そこで周囲との関わり方を身につけていきます。たとえば、ゲームのバグを発見したら、周りのスタッフが拍手でたたえてくれる。それが喜びになり、自信にもなる。そのような体験を重ねて、世間で通用する社会人へ成長していくのです。彼らのなかには、部長職にまで出世した人材もいます。

そのような取り組みを進めているデジタルハーツが成長すれば、ゲームが好きで能力もあるけれど、社会と関わりを持つのが苦手な若者が社会的にステップアップできる。それは若者のニート問題の解決にもつながるし、社会的意義も大きいでしょう。それがこの仕事を引き受けた理由です。

セキュリティ人材の不足を解消する

デジタルハーツは現在、第二創業期にあると考えています。企業には、その成長過程において変わるべき節目があります。一般的なストーリーとして、企業の存続率は設立後5年で20%くらい、10年だと数パーセント、20年になるとコンマ数パーセントといわれています。

デジタルハーツは創業18年になります。これから市場も大きく変わり、それに対応していかなければ生き残れません。そのための変化が、ゲームのデバッグから、エンタープライズ領域でのテストやセキュリティ分野への事業拡大です。

特にセキュリティは、IoTの広がりによるデジタルデバイスの爆発的な増加などを背景に、ニーズは高まっています。しかし日本の場合、多くの事業会社が社内のITを社外のSIerに任せる構造になっていて、社内の人材は不足しています。そのため、システムの運用保守も外部に丸投げしている例がほとんどです。そしてそのシステムは付け焼刃的な改修を繰り返しているうちに肥大化、ブラックボックス化し、いわゆるレガシーシステムとなっています。

2018年に、経産省から『DXレポート』(*2)という報告書が発表されました。この中で「2025年の崖」という言葉が使われているのですが、それは現状のまま大規模システムのレガシー化が進むと、2025年以降、システム維持や保守のために毎年巨額の損失が発生するという意味です。

そのような状況に対処するためには、システムの変革を促し、セキュリティを担える人材が必要になります。そのとき、デジタルハーツが豊富な人材とサービスを一気通貫で提供できるよう、人材の育成を進めていきたいと思っています。

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注釈:
(*1)企業などにおける経営戦略や業務効率化のための大規模な情報システム
(*2)DXレポート(外部サイト)

プロフィール

株式会社 デジタルハーツ ホールディングス 代表取締役 CEO 株式会社 デジタルハーツ 代表取締役 玉塚 元一氏

大学卒業後、旭硝子株式会社(現:AGC株式会社)へ入社。日本アイ・ビー・エム株式会社を経て、1998年に株式会社ファーストリテイリングへ入社。2002年、同社の代表取締役社長に就任。2005年事業再生や経営支援を行う株式会社リヴァンプを設立し代表取締役に就任。2014年に株式会社ローソンの代表取締役社長に就任。2017年6月から現職。

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