マーケティング戦略

DMで集客効果が60倍に? 富士フイルムに学ぶ顧客アプローチ法

記事内容の要約

  • 富士フイルムは、ネットショップビジネスにおいて膨大な数の会員を抱えているが、デジタル施策でリーチできる会員の割合が非常に低いことが課題だった
  • 会員へのアプローチ手段として郵送によるDMを活用した結果、eメール単体でアプローチするよりも、サイトへのアクセス数や注文数が劇的に増加した
  • eメールに比べて、その内容が人間の記憶や印象に残りやすいなど、紙のDMが持つ特長を生かすことで顧客アプローチの裾野は広がる
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効率的にマーケティング施策を進めるためにデジタルを活用する企業が増える昨今、ネットショップの売り上げを伸ばしたいと考えた富士フイルム株式会社は、アナログマーケティングの代表的手法ともいうべきDM(ダイレクトメール)を活用した施策に取り組んだ。

2017年中頃に最初のDM活用施策に取り組み、同年年末には早稲田大学との産学協同の実証実験も実施した。いったいなぜ、紙であるDMを活用する必要があったのか。そしてその結果はどのようなものだったのか。同社のe戦略推進室マネージャーの一色昭典氏に話を聞いた。

富士フイルムはなぜアナログなDMに注目したのか

――御社がDM(ダイレクトメール、以下DM)を活用した施策に取り組まれた背景について教えてください。

一色昭典氏(以下、一色): 弊社は、写真年賀状作成サービスなどを提供する公式ネットショップを運営しており、総会員数は二百数十万人にのぼります。ただ、かなりの数の会員さまがいる一方で、どのようにアプローチすればいいのかが数年来の課題でした。

会員さまへの主なアプローチ手法はeメールですが、配信許諾を設定いただいている割合や開封率を改めてデータ分析してみると、全体の8%にしかアプローチできていなかったのです。つまり、いくらデジタル施策をがんばっても92%の会員さまには声が届かないままだったのです。これは、弊社だけでなく、ECビジネスを展開されている会社の共通課題だと思います。

主力商品のひとつである「写真年賀状」には、毎年多くの注文が入ります。他社の同様サービスも多々ありますが、多くの方が富士フイルムの品質を信頼して申し込んでくださいます。弊社としては、このようにロイヤルティーが高い方々に会員登録していただき、継続的にコミュニケーションをとることでLTV(顧客生涯価値)の高い顧客になっていただくことがKPIなのですが、オプトアウトされるとこちらからアプローチする手段がなく、eメールも届かないというのではどうしようもない。そこで、「デジタルだけでは限界があるというのであれば、実験的に、結果を分析できる手法で紙のDMを併用する」という決断をしました。


富士フイルム株式会社 e戦略推進室 マネージャー 一色昭典氏

――具体的にはどのように行われたのでしょうか?

一色氏: 効果測定を明確にするため、2グループ4クラスタに対して実証実験を実施しました。過去に1回だけ写真年賀状をお作りいただいた会員さまと、何度もリピートしてくださっている会員さまの2グループに向けて、「思い出の写真をアルバムにできるサービス『フォトブック』を無料で制作できます」という内容を、各内でeメールとDMに分けて送りました。このときは、コストを考慮し、各4000人を無作為に抽出して行いました。

DMにはあて先ごとに異なるクーポンIDを印刷し、ランディングページに入力してもらうことで効果を測定しました。すると、DM経由のサイトアクセス率が、eメール経由と比べて、約3倍になったのです。

――DMを使うことで、「より多くの会員にアプローチ」でき、「より多くのサイトへの訪問が期待」できることがわかったのですね。その後、早稲田大学と連携して、本格的にDMの実証実験を実施されたと聞きました。

一色氏: はい。日本郵便さんの紹介で、「日本DM大賞」の審査委員長をされている早稲田大学教授の恩藏直人先生が、私たちのDM施策に興味をもってくださり、産学協同プロジェクトが立ち上がりました。

恩藏先生は、触覚・視覚・聴覚など、人間の五感をマーケティングに生かす「センサリーマーケティング」の研究を進めておられます。紙のDMの手触りや匂い、視覚に対して紙とモニターの差などが、消費者の行動にどのような影響を与えるのかなど、研究に有用なデータが日本には乏しく、データ収集や仮説検証の場として、弊社との協業に注目されたわけです。われわれ事業会社側にとっては、アカデミックな視点からの研究結果・エビデンスが、今後のマーケティング活動に有益だと考えました。


今は、印刷技術の進歩によって、顧客それぞれに応じてパーソナライズされた、最適なコミュニケーションを取ることがDMでも可能になっています。デジタルコミュニケーションでは、顧客ごとにコンテンツを出し分けたり、購入客へのサンキューメールをタイミングよく送ったりすることは当然のように行われていますよね。同様のアプローチを紙のDMでも実現できるようになっています。

――「紙のDMをパーソナライズ」するとは、具体的にどのようなことを行うのでしょうか。

一色氏: 施策のKPIに基づいて膨大な顧客データを分析、そしてクラスタリングし、各クラスタの属性・趣味嗜好や購買履歴に合わせたクリエイティブやコンテンツのDMを短時間で印刷し、最適なタイミングで発送します。つまり、アナログのマーケティングの課題であった「コストやスピード、ROI」などを、データドリブンなマーケティング手法とテクノロジーで解決し、展開するということです。

デジタル施策よりも大きな成果を生んだDM

――DMの効果に対する実証実験はどのような形で行われたのでしょうか?

一色氏: 早稲田大学との実証実験は2回行いました。まず1回目は、「DM単体での効果」を見るというもので、通常eメールを送っていない会員さまに「フォトブックを特別価格で作成できます」というDMを送付しました。DMには、顧客ごとに個別のクーポンIDとウェブサイトのURLが記載されているので、それでアクセス状況を把握しました。

結果として、DM送付先の45%からウェブサイトにアクセスがありました。通常、eメールからのアクセスは0.7%程度なので、60倍近くも集客できたことになります。

――60倍の成果というのは大きいですね。その要因はどこにあったのでしょうか?

一色氏: eメールの場合、配信初日はサイトにアクセスしてくれるのですが、そのあと、スーッと収束してしまうんですね。一方でDMの場合は、eメールのような初速の勢いはないものの、申し込みが締め切られる日まで常に一定のアクセス数があったのです。

eメールは、過去に届いたものはどんどん埋もれていき、たとえ興味がある内容でも時間の経過とともに目につかなくなり、忘れられてしまいがちです。しかしDMは、紙として物理的に存在しているので、たとえば冷蔵庫に貼っておけば自然と目に入り、気がついたときなどにサイトにアクセスできる。それが60倍という差につながったのではないかと考えます。

――第2回の実証実験は、どのような目的で実施されたのでしょうか?

一色氏: 2回目は、「eメールとDMを送る順番や組み合わせによって効果に差があるか」を検証するというものでした。

内容は、フォトブック1冊分の無料クーポンとフォトブック関連の全商品が半額になるクーポンで、送付対象となる会員さまを3つのグループに分けて実施しました。

  1. DM→eメールの順にクーポンを送る
  2. eメール→DMの順にクーポンを送る
  3. eメールのみでクーポンを送る

その結果、もっとも注文数が多かったのは「① DM→eメールの順」のグループで、もっとも少なかった「③ eメールのみグループ」の4.7倍という成果がありました。これは、先にDMを送ることで、会員さまにクーポンの情報を認知いただけて、そこにリマインドの役割を果たすeメールが届くことで、現実にアクションが起きたのだと考えています。

――DMについては、やはり紙に慣れている年配層の反応がよいのでしょうか?

一色氏: いえ、意外にも若い世代でした。実は、2016年に日本DM協会が行った調査結果にも、それを裏づける数字があります。

全体で見ると、DMを受け取ってもよいという「受取意向率」は77%、「開封率」は81%なのですが、20代男性になると「受取意向率」は78%、「開封率」は92%にまで上がります。20代といえばデジタルネイティブ世代であり、紙メディアには関心がないと思われがちですが、紙のDMが自分宛てに送られてくるということは、かえって珍しく興味深い体験なのかもしれません。年齢層が高くなると、紙のDMは慣れっこになっているのか「ああ、また来た」という感じで、あまり見られなくなるようですね(笑)。

科学で証明された印刷物の力


――DMは紙として物理的に残るので目に付きやすいということは、説得力があると思います。それ以外に、紙ならではの強みはあるのでしょうか?

一色氏: スマホやPCのディスプレイを通して透過光で写真を見た場合と、プリントした紙で反射光として写真を見た場合での、脳に与える影響の違いを脳科学の観点から研究しているのですが、明らかな差があります。反射光の方が、ノルアドレナリンやドーパミン、セロトニン等のホルモンの分泌量が多く、前頭葉の働きが活発になるといわれています。

たとえば、どんなに自宅のテレビが大画面であっても、映画館で見たほうが感動できるし、記憶にも残りやすいですよね。これは雰囲気の違いだけではなく、TVモニターが透過光で、映画館のスクリーンが反射光だからだと、脳科学の観点からも実証されています。

同じように、ディスプレイの透過光で読むデジタルなeメールと、紙の反射光で読むアナログなDMでは、読んだときの印象も記憶への残り方、しいてはその後の行動への影響にも差があるのだと考えられます。

――非常に興味深い考察ですね。

一色氏: ここで気付かされるのは、われわれは24時間デジタル漬けの生活を送っているわけではないということです。普通の人はデジタルとアナログを行き来して生活しています。

デジタル施策に行き詰まりを感じているマーケターは、デジタル一辺倒になるのではなく、一度立ち止まって視点を変えてみてはどうかと思います。

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プロフィール

富士フイルム株式会社 e戦略推進室 マネージャー 一色 昭典氏

富士写真フイルム株式会社入社後、写真事業部門でマーケティングとコンサルタント業務に従事後、ライフサイエンス事業部にて「アスタリフト」等のEC事業を再構築。2013年よりe戦略推進室マーケティンググループを統括し、全社ウェブ活用における戦略構築と企画運営等、デジタルマーケティング推進業務を統括。また、イメージング製品のECサイト構築・運営や海外(欧州・中国)EC事業を業務支援し、FFのグローバルなデジタルマーケティング推進に注力中。

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