デジタル広告

AIで変わるクリエイティブ制作[前編]――消費者インサイトを客観的に捉える

記事内容の要約

  • 2018年9月に設立されたAiCON TOKYO株式会社は、消費者の心に深く響く動画広告を制作するためにAIを活用している
  • AIによって消費者インサイトを分析することで、従来よりも短期間かつ客観的にクリエイティブの方向性を立案できる
  • 制作に関わるメンバー全員が「AIで分析した結果は、消費者の本音」という意識を持つことで、クライアントの主観やクリエイターのセンスに左右されない広告作りが可能になる
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消費者の心に刺さる動画広告を企画・制作する――。そんな目標を掲げて2018年9月に設立されたのがAiCON TOKYO(アイコントーキョー)株式会社だ。

昨今のデジタル広告において、AIを活用した「広告配信の最適化」は珍しいものではない。しかし、同社は消費者の心に響く広告クリエイティブを制作するために、AIを活用するという。それによって生み出されるクリエイティブや制作プロセスは、これまでの動画広告とどのような違いがあるのか。同社の代表取締役でクリエイティブディレクターでもある石渡晃一氏に聞いた。

消費者の心に刺さるクリエイティブを制作するために

――AiCON TOKYOとはどのような会社なのでしょうか。まず事業内容について教えてください。

石渡晃一氏(以下、石渡): AiCON TOKYOは、広告を中心とした動画コンテンツの企画から制作までを行う制作会社です。われわれが他の制作会社と大きく違うのは、「作るべきクリエイティブの方向性を決めるうえで、AIを活用する」ということです。

クリエイティブの制作過程で、動画広告の受け手である消費者の考えていることや望んでいることを、AIを使って分析します。そこで導き出されるインサイトをもとに、クリエイティブを制作するのです。


AiCON TOKYO株式会社 代表取締役 クリエイティブディレクター 石渡晃一氏

――なぜ、消費者を理解するためにAIを活用しようと思われたのでしょうか。

石渡: 私たちのような広告制作に携わる者は、常に市場を捉えて消費者を理解しようと努力しています。それをクリエイティブに込めて、クライアントに提案するわけです。

しかし実際は、消費者の視点に立った提案よりもクライアントの主観的な意見が優先されることが少なくありません。マス向け広告は、特にその傾向があります。その結果、思いを届けたいターゲットにとって魅力的でない広告が出来上がってしまうのです。私自身、コピーライターとしてキャリアをスタートし、これまで外資系広告代理店でテレビCMなどを手がけてきましたが、そのような現場に何度も直面してきました。

そこで、AIが導き出したインサイトに基づいて制作するという前提にしたら、クライアントも納得しやすいのではないかと考えました。

――AIによって消費者インサイトを捉えるという客観性は、提案するクリエイティブに説得力を持たせますね。

石渡: そうです。SNSなどのソーシャルメディアが台頭しつつある今、「マスを使って、伝えたいメッセージを一方的に伝えれば良い」という消費者を無視したコミュニケーションは、通用しません。

海外では、ソーシャルメディアに特化して、マーケティングコミュニケーションやプロモーションを行うエージェンシーが数多く登場していますし、それに伴って「ユーザーファースト」の考えが広がっています。しかし、日本にはそのような考えを持ったクリエイティブエージェンシーはあまり見当たりません。もっと消費者と向き合ってクリエイティブを制作したい、と思って設立した会社がAiCON TOKYOなのです。

同じ志を持つ者が集まるAiCON TOKYO

――AiCON TOKYOは、石渡さんとアライドアーキテクツ株式会社による共同出資で設立され、AIベンチャーのArithmer(アリスマー)株式会社とは業務提携を結んでいますよね。どのような経緯でこの2社と組むことになったのでしょうか。

石渡: アライドアーキテクツ社(*1) は、マーケティングにおけるソーシャルメディアの重要性を理解し、その可能性を追求している企業です。そして、代表である中村壮秀さんと偶然お会いしたときに、これからのクリエイティブエージェンシーのあり方やソーシャルメディアの捉え方、AIを活用した動画広告のアイデアを話したところ共感・賛同してもらえて、一緒にAiCON TOKYOを設立するに至りました。

Arithmer社(*2) は、東京大学大学院数理化学研究科発のベンチャーで、高度数学を用いてAI開発を行う最先端の企業です。そして同社の代表である大田佳宏さんとお会いしたときに構想をお伝えしたら「それ面白そうですね」とトントン拍子で業務提携の話が進みました。大田さんは、日本のAI研究ではトップクラスの方ですから、まさかこんな簡単に協業できるとは想像しておらず、本当に幸運でした。

――この3社の役割について教えてください。

石渡: まず、ユーザーアンケートや市場調査によるデータ収集の部分はアライドアーキテクツ社が担います。そして、集めたデータをAIで分析して消費者インサイトを抽出するのが、Arithmer社です。消費者インサイトにもとづいて動画広告の企画・制作を行うのは、AiCON TOKYOが中心になります。当面は、この3社体制で進めていく予定です。

ちなみに社名は、アライドアーキテクツ社とArithmer社の「A」、AiCON TOKYOの「A」と3社の頭文字と「AI」をもじっています。また、東京発のクリエイティブエージェンシーとして、アジアや世界での活躍を目指しています。

ユーザーインサイトの発見にAIを活用

――AiCON TOKYOの動画制作プロセスにおいて、AIは具体的にどのように使われているのでしょうか?

石渡: AIは、広告におけるクリエイティブのコンセプトやキーワードを決めるための土台作りのために使います。具体的な動画制作プロセスとしては、次のようになります。

動画作成プロセス

消費者インサイトを導き出した後は、従来の制作プロセスとほぼ同じです。泥臭くアイデアを考え、コンテを描き、撮影や編集をしていきます。AIの活用は、あくまでもクリエイティブの方向性を決めるためのものであって、クリエイティブ自体をAIが作るわけではありません。

――インサイトを得る分析にAIを使うとのことですが、それはこれまで誰の役割だったのでしょうか?

石渡: これまで、市場を捉えて消費者インサイトを導き出すという役割は、広告代理店などのストラテジックプランナーが担っていました。

ストラテジックプランナーとは、文字どおり戦略計画を作る人間です。大別すると、さまざまな市場調査やデータの分析結果、プランナー自身の経験やセンスを使って消費者インサイトを導き出す役割、そして戦略(広告のコンセプトやテーマ)へと落とし込む役割があります。AiCON TOKYOでは、このストラテジックプランナーが担っていた前者の役割をAIが代替します。

プランナーをAIに置き換えることで生まれる変化

――AIに置き換えることで、どのようなメリットが得られるのでしょうか?

石渡: 戦略作りにかかる時間が短縮できるようになります。通常の戦略は、ストラテジックプランナーをはじめとする多くの人間が調査や分析に関わって、議論を重ねて設計されています。それが、AIを使うことで消費者インサイトを導き出すための作業や分析にかける時間が短くて済むようになります。

広告制作が短期間で済むと、クライアントとしては、めまぐるしい市場トレンドの変化に乗り遅れることが少なくなるメリットがあります。制作会社であるわれわれとしても、クライアントの気持ちが時間経過によって変わってしまう可能性をおさえられます。制作プロセスでのやり直しが少なくなれば、その分の時間や人件費の節約にもつながります。

――確かに時間と人件費には大きな効果がありそうですね。

石渡: あと、ストラテジックプランナーが導き出した消費者インサイトを無視して、クリエイターがやりたいように制作するケースが従来はよくありました。これは、クライアントの意向を優先してしまうことと同様に、消費者の存在をないがしろにする行為です。

AiCON TOKYOでは、AIが示した消費者インサイトは「AIが考えたもの」ではなく「人間(消費者)の本音」であって、これを無視した広告はあってはならないという考えがあります。クライアントにも、この考え方に賛同していただけるか、制作依頼を受ける際に確認をとります。当然クリエイティブディレクターである私も、AIの導き出した結果に逆らうクリエイティブを作る気はありません。

――単にストラテジックプランナーをAIに置き換えるだけでなく、それを最大限に生かすためには意識の統一も必要だということですね。

石渡: そのとおりです。AIを前提にしようという意識が関係者全員で共有できれば、クライアントの意向やクリエイターのセンスに任せた広告は作らなくなります。

ただし、決してストラテジックプランナーの存在価値がなくなったわけではありません。従来のやり方で、成果や実績を出しているプロジェクトも数多く存在します。しかし、大きな予算をかけられない企業にはそれが難しい。AIは、限られた予算や期間で、良い商品を良い形で伝えるための一つのアプローチなのです。


前編では、AiCON TOKYO設立の背景とAIの具体的な活用法などを伺いました。後編では、AIによるインサイト分析の詳細とポイント、今後の展望について紹介します。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)アライドアーキテクツ(外部サイト)
(*2)Arithmer(外部サイト)

プロフィール

AiCON TOKYO株式会社 代表取締役 クリエイティブディレクター 石渡 晃一氏

コピーライターとしてキャリアをスタートさせ、クリエイティブディレクター、CMディレクターとして国内外200社超のブランド・キャンペーンを手がける。カンヌ国際広告祭(現カンヌライオンズ)など国際的な広告賞を受賞。2008年には日本クリエイター・オブ・ザ・イヤー ファイナリストに選出。著書に「今日からセンスを君の武器にしよう」(クロスメディアパブリッシング刊)など。

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