デジタル広告

動画広告をAIで変える[後編]――真のユーザー理解が結果を生み出す

記事内容の要約

  • AIを活用して得られる客観的な消費者インサイトは、先入観や固定観念にとらわれないクリエイティブの制作を可能にする
  • AiCON TOKYOでは、クリエイティブの洗練度や話題性よりも、クライアントの実利に貢献するために広告制作を行うことを第一としている
  • AIは消費者の本音を探るための手段として、クリエイターをサポートする存在である
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動画広告制作会社のAiCON TOKYO(アイコントーキョー)は、消費者インサイトを抽出するストラテジックプランナーの役割をAIに担当させ、クリエイティブを制作している。

これによって、従来よりも短い期間でクリエイティブ制作を行うことができるようになるというが、具体的にはどういうことなのか。AIによって変わった制作プロセスや具体的なメリットや将来の展望について、同社の代表取締役でクリエイティブディレクターでもある石渡晃一氏に聞いた。

AIによる分析のメリットはスピードと客観性

――ストラテジックプランナーの役割をAIが担っているということですが、インサイトを発見するという点において、AIならではのメリットや特徴はあるのでしょうか?

石渡晃一氏(以下、石渡): メリットとして大きいのは、アンケートの実施から分析結果が出るまでの期間が短いこと、そして消費者の複雑な本音の部分も拾えることです。

消費者の本音を集めるためのアンケートは、選択式よりも記述式のほうが適しています。しかし、従来の記述式アンケートは、何十、何百枚もの回答用紙を人が読んで確認し、そこからインサイトを発見する必要があります。言うまでもなく、かなりの時間と人手がかかる作業です。

弊社では、アライドアーキテクツが実施する記述式のユーザーアンケートの回答をAIに分析させています。たとえば、アパレル企業による冬の商品ニーズを探るアンケートで、あるユーザーが「冬のおしゃれには気合いを入れたい」という思いを回答したとします。しかし、最後のほうに「でも寒いのは嫌」とも回答していたとしたら、どうでしょうか。どちらも本心でしょうが、人がこの回答を見ると「やっぱり冬のおしゃれは気合いが入るんだ」とポジティブな部分にのみ注目して、「寒いのは嫌」という声をスルーしてしまうかもしれません。せっかく人手と時間をかけて記述式のアンケートを実施したにも関わらず、です。また、選択式アンケートでは「寒いのは嫌」という声を拾うことすらできないと思います。

AIであれば、自然言語処理で内容を解析して、微細な消費者の本音を漏らすことなく、時間をかけずに捉えられるのです。

――変化の早いトレンドに対して、スピードは重要な要素ですね。

石渡: もうひとつ、AIの大きなメリットは主観が入らないことです。これまでの市場調査では、分析者の主観が入り込むことも多くありました。最初から自分の中に答えがあり、そこに導くために調査結果を都合良く解釈してしまう――。もちろん、ストラテジックプランナーはプロとしてそうならないように意識していますが、無意識のうちに「たぶんこういう結果になるだろう」と、消費者インサイトを想定してしまっていることもあります。商品に対する先入観もあるでしょう。

AIは、そんなことはありません。与えられたデータに基づいて、客観的にインサイトを導き出す。「意外な結果」や「つい見落とされがちな言葉」も拾い上げられた内容には、まさに消費者の本音が出ていると感じます。

――AIが抽出したインサイトは、具体的にどのような形で示されるのでしょうか?

石渡: 形式はキーワードであったり、センテンス(文脈)であったり、千差万別です。こちらのリクエストに沿った形でArithmerが分析・処理してくれます。ただし、最終的に「何を」インサイトと判断・決定するかは人間の役割です。それでも、AIは消費者の本音を捉えるための大きなヒントや見逃してはいけない気づきを与えてくれます。


AiCON TOKYO株式会社 代表取締役 クリエイティブディレクター 石渡晃一氏

成果指標はクライアントの商品が「どれだけ売れたか」

――AIを活用した動画制作に対し、クライアントの反応はいかがでしょうか?

石渡: クライアントの反応は悪くありません。期待していただいていますし、実際に引き合いも多くなっています。ただ一方で、「AIで動画制作のすべてを行えるのか?」のような誤解が多いのも事実です。そこは丁寧に説明したうえで、一緒にやっていただけるかどうかを判断してもらっています。私たちのやり方は、アンケート制作の段階から一緒に取り組むという部分に賛同していただかないと難しいですから。

――効果測定や成果指標はどのように考えているのでしょうか?

石渡: 広告クリエイティブは、いかに目立ったか、話題を作ったか、賞を獲ったかなど、実質的な成果とは別の部分で評価されることが多々あります。しかしAiCON TOKYOでは、クライアントにとっての実利を重視しています。ですから、成果指標は「売れたか、コンバージョンに至ったか」などを第一に考えています。

――具体的な導入事例などを教えてください。

石渡: 公開前のため詳細は伏せさせていただきたいのですが、たとえば大手保険会社の動画広告では、以下のようにAIを活用しています。

大手保険会社の例

この取り組みでは、従来のマス広告とはまったく異なる、新たな視点での広告メッセージやストーリーを練ることができました。AIによってデータを機械的に分析し、分析者の思い込みなどを排除することで、きわめてニュートラルな“本音”を可視化することできたと考えています。

AIは「消費者を理解する」ための手段

――今後、AIの活用領域を広げていく予定でしょうか?

石渡: 遠い将来には、ボタンを押すとAIが構想からクリエイティブまですべて仕上げてくれるような世界がやってくるかもしれません。実際にAIに作らせたテレビCMもすでに登場しています。でも、それは「AIが作ったCM」とバズらせることが目的でしょう。私にとってのAIは、ユーザーを理解するための手段です。クリエイティブ制作そのものにAIが使えるようになるのは、まだ先の話です。

AiCON TOKYOは、消費者の心に刺さる広告を作るという思いのもと設立した会社なので、消費者を理解することが一番大切だと考えていますし、AI活用もまずはそこに注力したいですね。

石渡氏

AIの発展によって人間への理解が深まる

――AIの活用がクリエイティブの領域に及ぶことについて、ご自身もクリエイティブディレクターであるという立場からどのようにお考えでしょうか?

石渡: AIは、決して人間と対立する存在ではありません。人間のできないことを補ってくれる、人間味のある優しい存在だと考えています。AiCON TOKYOでの取り組みについても、AIで驚かそうとか、デジタルでとがったことをしようとは考えていません。

テクノロジーが進化することで、より深く人間を理解できて、その結果人間らしいエモーショナルなものを作ることができるのではないでしょうか。とはいえ、私は映画監督ではありません。あくまでもクライアントや商品のために作るので、どうやったら企業のメッセージが消費者のもとへ届くか、ということは忘れないようにしています。

かっこいいだけの動画なら、AIでも素人でも作ることができます。私たちの仕事は、まず商品があり、それが売れるためのメッセージを考えて伝え、消費者の心を動かすことです。単に絵が動くだけではなく、視聴者の心が動いて初めて動画広告といえるのです。

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プロフィール

AiCON TOKYO株式会社 代表取締役 クリエイティブディレクター 石渡 晃一氏

コピーライターとしてキャリアをスタートさせ、クリエイティブディレクター、CMディレクターとして国内外200社超のブランド・キャンペーンを手がける。カンヌ国際広告祭(現カンヌライオンズ)など国際的な広告賞を受賞。2008年には日本クリエイター・オブ・ザ・イヤー ファイナリストに選出。著書に「今日からセンスを君の武器にしよう」(クロスメディアパブリッシング刊)など。

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