ビジネス創出

ニュース速報はAIにお任せ! 全キー局も頼る「FASTALERT」とは

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SNSやスマートフォンの普及によって、誰もが目の前で起きている出来事や緊急情報を発信できるようになった。メディアもまた、ニュース番組などで事件や事故を報道する際、「視聴者提供」といったクレジットつきの映像を流すなど、SNSユーザーが発信した情報を利用するようになっている。

株式会社JX通信社が提供する情報サービス「FASTALERT」(ファストアラート)は、AIを活用してSNS上に流れる事件・事故・災害などの緊急情報をいち早く収集し、リアルタイムに配信するものだ。JX通信社がこのサービスを開発した狙いはどこにあるのか、同社の代表取締役である米重克洋氏に話を聞いた。

報道機関向けの緊急情報サービス「FASTALERT」とは

「会社の隣で火事、なう」「うちの近くにパトカーが集まってきた」――。

このようなつぶやきや現場の状況を撮影した画像は、Twitter上で日々ツイートされている。そして、ユーザー間で拡散されるよりも速く、その情報は「信ぴょう性が高いか否か」を判断し、一次情報として利用者に届ける――それが、株式会社JX通信社(以下、JX通信社)が提供するSNS緊急情報サービス「FASTALERT」(ファストアラート)だ。

利用者の多くは報道機関で、テレビ局の場合はNHKとすべての在京キー局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ)のほか、大半の地方局でも採用されているという。

FASTALERT の役割について、JX通信社 代表取締役の米重克洋氏は次のように話す。

「FASTALERTは、メディアで報道される前の段階にある『どこで、何が起きているか』といった情報を収集・解析するアプリケーションです。法人向けのサービスなので、FASTALERTで収集した情報が一般消費者へそのまま届くということはありません。事件・事故・災害などの緊急情報のなかから不確かな情報を除き、より確実とされる情報だけを提供していますが、それらの情報を一般向けのニュースとして配信するかどうかは、報道各社が判断します。機械が情報を収集しますが、最終的には人間がその信ぴょう性を判断するという流れによって、ニュースの信頼性を担保しているのです」(米重氏)


株式会社JX通信社 代表取締役 米重 克洋氏

2018年6月9日に発生した東海道新幹線での車内殺傷事件では、事件発生の5分後にFASTALERTが緊急情報として報道各社へ配信した。これは、警察などの公的機関を経由して情報が報道機関のもとに届くプロセスと比較しても、格段に早かった。このようなスピードと正確さにより、報道各社からのFASTALERTに対する信頼度は高まっているという。

FASTALERTが「速く、正確に」を実現できる理由

SNS上の膨大な投稿から緊急情報を収集・解析する——。そのプロセスでやっかいなのは、情報の精度の見極めだろう。JX通信社では、FASTALERTリリース以前からTwitter上の膨大なデータの収集・蓄積を重ねていた。FASTALERTではそうして構築した学習データをもとにAIに情報の精度を判断させている。

「一例として、火事に関する情報の場合、単に『火事』というキーワードを拾うのではなく、火事として “確からしい情報か否か”をAIが判定しています。事件や事故、災害という1つの事象に対する投稿について、投稿者のプロフィールや過去の投稿からおおよその位置情報を解析し、同じ事象に対して複数の投稿があれば、より『確からしい情報』だと判定する、という仕組みです」(米重氏)

さらに、特に確実と判定された緊急情報については、UI上で「ハイライト」として配信する機能も実装している。


FASTALERTの画面

また世界的な問題になっている「フェイクニュース」の判定について、米重氏はこう解説する。

「フェイクニュースと言われるものには、過去の画像を使い回しているケースが多いんです。たとえば、海外で起きた地震災害の画像を使って、それがあたかも日本で起きたことのように投稿するというようなパターンです。FASTALERTならば、AIがすでにそうした使い回し画像を学習済みなので、フェイク情報も事前にブロックすることが可能です」(米重氏)

JX通信社には記者が在籍しておらず、社員の6割は機械学習や画像解析、自然言語処理に長けたエンジニアだ。同社は通信社でありながらテックカンパニーでもあるのだ。

新規ビジネスの頓挫から生まれた「報道の機械化」という発想

ところで、米重氏が「AIを活用してSNSから情報を抽出する、テクノロジーを駆使したジャーナリズム」という着想を得たのは、何がきっかけだったのだろうか。米重氏はこう語る。

「近年、コンテンツ制作にかかるメディアのコスト——とりわけ記者・編集者の人件費が高止まりしています。一方で日本の少子高齢化や若者の新聞離れ・テレビ離れを背景に、コンテンツの収益性は右肩下がり……。その結果、赤字のままでメディアを運営せざるを得ない状況が長らく続いています。私はそうしたコストと収益性が見合わないメディアの構造に、かねがね疑問を感じていました。その状況を打破するため、2008年の創業当時は、オンラインメディア同士でコンテンツを売買できるマーケットプレイスのような事業を構想していました」(米重氏)

しかし当時は『R25』のような紙媒体のフリーペーパーが大きな勢力を有しており、オンラインメディアのマーケットプレイスというビジネスは時期尚早だった。そこで米重氏は、メディアのコスト構造に関する本質的な課題を改めて見直し、「テクノロジーによる報道の機械化」という発想にいたったのだ。

「実際の記者は、当然ながらいつも記事を書いているわけではなく、下準備としての調べ物や情報収集に相当な時間を使っています。すべてのワークフローを見直すと、極めて“労働集約型”と呼べるような高コストな構造になっているんです。記者は、必ずしも人間がやる必要のない仕事に日々追われているわけで、その代表例がSNSからの情報収集です」(米重氏)

2011年の東日本大震災をきっかけに、報道機関が、情報源の1つとしてSNSに期待を寄せ始めたのは明らかだった。米重氏らは、インターネット上のニュースやブログの解析に取り組むようになり、2011年にはニュース自動収集アプリ「Vingow」をリリース。AIや自然言語処理技術の精度向上にも努めてきた。その後、2015年ごろからTwitter上の膨大なデータの収集・蓄積を開始。こうして2016年9月、満を持して「FASTALERT」β版を、翌17年4月に正規版をリリースした。

「私たちの創業当時からのビジョンは、ビジネスとジャーナリズムの両立をオンラインで実現すること。それを報道の機械化、つまりFASTALERTという手段で達成しようとしているのです」(米重氏)

それでは、ビジネスとジャーナリズムはどのようにしたら両立できるのか。そして、それが実現した世界では、ジャーナリズムとはどのようなものになっているのか。後編で、米重氏の考えを聞いていく。

前編を読む | 後編を読む

プロフィール

株式会社JX通信社 代表取締役 米重 克洋氏

1988年生まれ。幼少より新聞を愛読。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションにテレビ局・新聞社・通信社に向けAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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