ビジネス創出

AIと人間が織りなす未来型ジャーナリズム――報道ビジネスの行く先とは

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ミッションは、ビジネスとジャーナリズムの両立をオンラインで実現すること——。法人向けの緊急情報サービス「FASTALERT」(ファストアラート)を提供する株式会社JX通信社は、報道の一部の業務を機械化することで、 “労働集約型”と呼べる高コストな報道ビジネスのあり方を変革しようとしている。

では、それによって導かれる「未来のジャーナリズム」とはどのようなものなのか。また、人間の果たす役割はどこにあるのか。同社の代表取締役である米重克洋氏に話を聞いた。

B to BとB to Cの両輪でビジネスを成立させる

法人向けサービスであるFASTALERTは、一般的にはあまり知られていない。しかし、FASTALERTを導入した報道機関とそれ以外では、「視聴者にいち早くニュースを届ける」という本質的な価値提供において顕著な差が現れているという。

また、最近では報道機関以外にもFASTALERTを利用する企業や組織が広がっている。緊急時の人命救助に役立てたい警察や消防機関、交通や電気、ガスといったインフラ事業者、さらに一瞬の情報の遅れが大損害につながりかねない金融・投資関連の事業者などにまで利用が拡大。情報サービスとして、FASTALERTは確固たる地位を築いているといえるだろう。

現在、株式会社JX通信社(以下、JX通信社)は、FASTALERTの「速報(ニュース速報・リスク情報の配信)」のほか、「データジャーナリズム(世論調査・選挙情勢調査)」、「ニューステクノロジー(ニュースエンジンの提供・研究開発)」を事業の柱に据えている。さらに同社は総ダウンロード数150万に達する一般向けニュース速報アプリ「News Digest」(ニュースダイジェスト)も展開している。


News Digest

FASTALERTが「B to B」に特化した従量課金型ビジネスである一方、News Digestは「B to C」の広告収益型ビジネスだ。同社の代表取締役である米重克洋氏は、2つのビジネスモデルについてこう話す。

「ニュースメディアがマネタイズする方法は、現実的には課金モデルか広告モデルしかないと思っています。ニュースにお金を払う文化が必ずしも世界標準ではないことを考えると『無料でニュースを見られる』という一般消費者の体験・行動をマネタイズするには、必然的に広告モデルを選択せざるを得ません。ただ、FASTALERTは対象が法人なので、広告モデルよりも課金モデルの方が適切だと考えています。当社の場合は、課金モデルのB to Bビジネスと広告モデルのB to Cビジネスのバランスを取りながら、ビジネスとジャーナリズムの両立を実現したいと考えています」


株式会社JX通信社 代表取締役 米重 克洋氏

FASTALERTが生み出す市民記者の可能性

米重氏が「ビジネスとジャーナリズムの両立」をJX通信社のミッションに掲げるきっかけには、どのような体験があったのだろうか。

米重氏は子どものころから新聞を定期購読するくらいのニュース好きで、自らを「ニュースジャンキー」と称するほどだ。また、中学生のころから航空業界に興味を持ち、中学3年生だった2004年から4年ほどの間、航空専門ニュースサイトを運営していたという。

「その航空専門のニュースサイトは、ピーク時には月間30万PVもありました。でも正直なところ、かけた労力やコストがまったくペイしませんでした。そのときから、サイトを見てくれている人はたくさんいるのにいったいどこに問題があるのか、とオンラインニュースメディアのコスト構造について関心を持つようになりました。そして、大学在学中の2008年にビジネスとしてのジャーナリズムを成立させようと、JX通信社の設立にいたったわけです」(米重氏)

米重氏が航空界専門のニュースサイトを運営していた当時は、『オーマイニュース』などのいわゆる市民参加型メディアも複数誕生し、流行の兆しを見せていたが、幾年もたたないうちに姿を消した。このことについて米重氏は次のように語る。

「メディアは、記事を書いてくれた人に対して原稿料を支払わなければなりません。でも、“市民記者”と呼ばれる一般の方が、プロのジャーナリストと同じ質の記事を書くことは容易ではないのです。当然ながら、記事の質が低いと読者は離れていき、広告収益も減っていきます。市民記者という試みが不成功に終わったのは、コストと質のバランスが見合わなかったことが原因だったのでしょう」(米重氏)

C to Cで一次情報が流通する世界の出現

日本国内では2000年代の半ばくらいからSNSが台頭し、2010年頃からはスマホの世帯保有率も拡大(*1) した。さらに高速通信も可能になったことで、誰しもが気軽に情報を発信できる時代が到来した。

「SNSで企業の不祥事がツイートされ、その拡散が取材の起点になったというニュースは数多くあります。もちろん悪意を持った情報やフェイク情報は確実にブロックしなければいけませんが、ニュースが社会に発信されるときの起点や、その後のプロセスは確実に変わってきていると思います。10年ほど前にはやった市民参加型メディアのときとは少し違ったかたちで、市民記者という存在があらためて注目されているように感じます」(米重氏)

では、プロフェッショナルな記者の役割はどのようになっていくのだろうか。

記事の作成は、「一次情報や関連するデータの収集」と「集めた情報を分析し、考察を加える」という両輪で行われる。迅速かつ正確な情報収集を実現するFASTALERTは、人間の記者が行っている“単純作業”の一部分を機械化することで、結果的にコスト構造を改善できるソリューションだといえるだろう。しかし米重氏は、もっと先にある「未来のジャーナリズム」にも照準を合わせている。

「少し強引ですが、ジャーナリズムの役割は2つに分類できます。1つが『事実を報道する役割』で、そしてもう1つが『言論機関としての役割』です。前者については、そのほとんどが機械化できると私は考えています。究極的な姿として思い描いているのは、『国道○○号で、玉突き事故が発生』のような情報が、市民記者から読者へと直接届けられる構造、つまり『C to C』で情報が流通する世界です。

しかし当然ながら、それだけでジャーナリズムは成立しません。もう1つの『言論機関としての役割』は、AIによって機械化することが難しいのです。社会的に重要な文脈を持つ事象について深く掘り下げて考察したり調査報道を行ったりするなど、報道各社が言論機関としての機能を発揮し、人間主導でしかできないことに集中投資する。それこそが今後求められるジャーナリズムの役割ではないでしょうか」(米重氏)

新聞やテレビなど、既存メディアの没落が叫ばれているが、それは、インターネットが主役になりつつあるメディアの変化に対して、情報を提供する人間がうまく対応できていないことが理由のひとつかもしれない。JX通信社が提唱する新しいジャーナリズムの考えは、フェイクニュースの蔓延(まんえん)やマスコミの質の低下など、現在のメディアが抱える問題を乗り越え、よりよい情報が流通する社会を創出する可能性を秘めている。

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注釈:
(*1)総務省-情報通信機器の保有状況(外部サイト)

プロフィール

株式会社JX通信社 代表取締役 米重 克洋氏

1988年生まれ。幼少より新聞を愛読。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションにテレビ局・新聞社・通信社に向けAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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