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さばえITサミットから探る、メガネを超えるメガネとは

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2019年2月、ヤフー株式会社本社にて「電脳メガネサミット2019-さばえIT推進フォーラム」が開催され、福井県鯖江市より気鋭のスタートアップ企業の経営者などが集まって「メガネの未来」について熱い議論が交わされた。

本記事では、本サミットの一セッションである『メガネ型ウェアラブルと未来』にフォーカスして、メガネ型デバイスが今後、どのような機能拡張や変貌の可能性を秘めているのか、そしてどのような方向で普及していくのかについて迫る。

市場が変化しつつあるメガネ型デバイス

本セッションに登壇したパネリスト3人と、モデレーターについて紹介しよう。

まず1人目が、大阪に本社を構えるウエストユニティス株式会社 代表取締役社長 福田登仁氏だ。同社は、カメラ一体型の小型ディスプレイをメガネに装着できるデバイス「InfoLinker(インフォリンカー)」の開発、販売を手がけている。InfoLinkerは、主にビジネスの現場で広く活用されている。ある病院では、手術時、執刀医の目線による映像をInfoLinkerで撮影し、リアルタイムに手術関係者に配信している。手術動画を共有することで、医師の技術向上に役立てられるというわけだ。また工場の現場では、作業員にInfoLinkerを装着してもらい、小型ディスプレイに作業マニュアルなどを表示させるという使われ方もされている。紙のマニュアルを開くことなく作業できるという利点があるため、作業効率の向上につながる。


画像提供:ウエストユニティス株式会社

そして2人目は、株式会社リトルソフトウェア 代表取締役 川原伊織里氏だ。同社は、脳波や生体データを活用した「リトルAI」(感情推定人工知能)のアルゴリズム開発、ソリューション提供を行っている。リトルAIアルゴリズムとは、同社がこれまでに取得した50万人以上の脳波データをもとに、人間の感情・状態の可視化と病気の予兆検知をするためのアルゴリズムだ。同社はこのアルゴリズムを武器にさまざまな企業と共同研究を進めている。たとえば自動車メーカーと組んだ研究開発では、運転手の眠気やリラックス度、退屈具合を脳波から捉えることで、適切なタイミングで休憩を促すといった実験や、ある国立の体育大学と共同で選手のモチベーション向上やスポーツ観戦者の満足度評価等を評価する「スポーツKANSEI(仮名)」というソリューション開発も行っている。そして、脳波を計測するための装置として、メガネと一体になったデバイスの共同開発も行っている。


画像提供:株式会社リトルソフトウェア

3人目は、株式会社オトングラス 代表取締役 島影 圭佑氏だ。同社は島影氏の父親が病によって文字が読めなくなる病気を患ったことがきっかけで設立されたスタートアップで、テキストの読み上げを行うメガネ型デバイスの「OTON GLASS」の開発、販売を行っている。読みたい文字のほうを向いてボタンを押すと、カメラが文字を撮影して音声として読み上げることで、目の不自由な方の「読む」という行為の助けになるというものだ。


画像提供:株式会社オトングラス

モデレーターを務めたのは、株式会社jig.jp 代表取締役社長 福野泰介氏。同氏はオープンデータ活用の第一人者として広く知られ、鯖江市をはじめとする行政のオープンデータ活用を普及させるための活動に日夜取り組んでいる。

今回のセッションで特徴的なのが、参加した3社のうち2社が法人向けのビジネスを手がけているという点だ。オトングラスの場合も、コンシューマー向けにメガネ型デバイスを開発しているが、障がい者用の補助器具として販売しているため、行政とのかかわりが深い。

少し前にメガネ型デバイスが話題になったときは、エンターテインメント領域での活用が話にあがることが多かったが、その状況は少しずつ変化しているのかもしれない。

メガネのイノベーションは起きるのか

セッションのはじめに福野氏はパネリストに向けて、「メガネのイノベーション」をどう起こすかについて投げかけた。

福野氏: 2011年ごろから、メガネ型デバイスは登場してきたわけですが、まだ社会変革という意味でのイノベーションが起きているとはいえません。どうすればイノベーションは起きるのでしょうか。

島影氏(OTON GLASS): このデバイスを求めているのは誰かをきちんと考えれば、小さなイノベーションはすぐに起こせると思います。たとえば弊社は、視覚障がい者にフォーカスした開発を行っています。なので、ユーザー層も明確ですし、研究開発に際して、タッグを組む相手も眼科や専門的な研究室などはっきりしています。

川原氏(リトルAI): 私は以前、大学の研究室と共同で「てんかん」の研究をしていました。そして、てんかんの患者さんが最も困っていることは「車の運転」なんです。運転中に発作が出たら、重大な事故につながってしまいますから。そこで、脳波データを活用して、運転中に発作が出そうだと予測されたタイミングで自動運転モードに切り替える、などの研究をしていました。このように解決したい課題が明確だと、普及しやすいと思います。

今視力が良くても、老眼になればメガネをかけますよね。メガネというデバイス自体は誰しもが利用する可能性を持っているので、少し工夫すればイノベーションを起こせる可能性は高いと感じています。

福田氏(InfoLinker): 弊社は、もともとマニュアル制作会社です。InfoLinkerは、現場の作業員の方がいちいち紙のマニュアルを広げなくても、ヘッドマウントディプレイでマニュアルを読める、という使われ方がされています。そして、一般的に普及していくためには、コンシューマー向けの展開が重要ではないでしょうか。マニュアルの軸でお話しすると、IKEAの家具組み立てや料理レシピなどをメガネ型デバイスのディスプレイに動画で表示させられると、かゆいところに手が届くので普及するような気もしますね。

音声技術との組み合わせが可能性を広げる

メガネ型デバイスのイノベーションを起こすうえで、福野氏は「音声認識技術との組み合わせ」が鍵になるのではないかと話した。

福野氏: 音声認識と組み合わせると、使い勝手が飛躍的に向上すると思うのですがいかがでしょう。

川原氏: たしかにそうですね。弊社の研究は、脳波データを用いるものが主なのでその軸からお話しますと、「その瞬間に困っていることを助けてくれる」機能が加わればもっと可能性は広がると思っています。たとえば、久々に会った人の名前が思い出せなくて困ることってあるじゃないですか。そこで、脳波の動きから「名前を忘れた」ことを捉えるようにするんです。そして、メガネにカメラをつけるなどして、過去に会った人物のデータと目の前にいる人物をひもづけて、イヤホンを通じて「○○さんです」と言ってくれるような形が理想的です。

島影氏: 面白いアイデアです。僕は、もっと会話を楽しむために音声認識が使えると思っています。「Her/世界でひとつの彼女」 (*1)という主人公がAIに恋をする映画があるのですが、胸ポケットに入れたスマホ内のAIとデートをするシーンがあります。デートなわけですから、同じものを見聞きしたほうが会話も盛り上がります。そして、メガネから見える世界って常に一人称視点ですよね。つまり、メガネにAIが搭載されたら、自分とAIがメガネを通じて、同じ世界を共有しておしゃべりできるわけです。AIとのコミュニケーションの可能性が、「メガネ×音声認識」で広がるかもしれません。

福田氏: 法人向けビジネスの視点で話しますと、音声認識技術との組み合わせは重要だと思っています。弊社のデバイスの利用者には、工場の作業員の方も多いのですが、デジタルデバイスの操作に手間取ることもあります。少しでも面倒な機能は使われません。そう考えると、やはり音声でスムーズに操作できることは、かなり利便性の面で重要な機能だといえますね。

未来を形づくるメガネの拡張機能

今後、メガネ型デバイスが普及していく上で、どのようなトリガーが必要なのか。たとえば「未来予知」という切り口はメガネの機能として成立し、浸透していくのだろうか……?

福野氏: 「未来予知」って、メガネ型デバイスの理想像の1つだと思うんです。実はこれは、あまり非現実的な話ではない。というのも、たとえばプロ野球選手の試合中の運動データを膨大にためて解析したら、「次投げてくる球」をデータから予想して、メガネ越しに球の軌道を表示してくれる可能性はあるわけです。

川原氏: 私が研究してきた「運転中に眠気が出てきたら、アラートを出す」というのも未来予知の一種ですね。たとえば子どもって、高熱を出す数日前から様子がどこかしら変わる、といわれています。この話には医学的な根拠はありません。でも、弊社が研究したところ、数日前から脳波の動きが乱れることは分かったのです。そうなると、「そろそろ熱を出しそうです」とアラートを出すことはできます。

福田氏: 予兆を察知する、というのは可能かもしれませんね。ただ、普及のためには「規制」の問題があります。たとえばメガネにカメラが搭載されていると、盗撮犯扱いされてしまう可能性があって、規制の対象になってしまうわけです。最近は政府も柔軟な対応ができていると感じますが、イノベーションを起こすためには、まだまだ打ち破らなければならない規制の壁があると感じます。

島影氏: メガネ越しに常に様子を見ているわけですから。僕が考えるメガネ型デバイスが普及するためのトリガーは、「能力を拡張させること」だと思っています。弊社は、障がい者が健常者と同じ暮らしができるように、製品を開発し、販売しています。障がい者に限らず、目が悪くなった年配者にも使っていただきたいですし、視力や視認性を高めることへの貢献が普及の第一歩かなと思いますね。

まだまだ一般的に浸透しているとはいえないメガネ型デバイスだが、法人向けの市場や利用対象者を絞った市場で徐々に活用が広がり始めている。メガネという器具の利用目的は、10世紀以上にわたって「視力を矯正する」ことから変わっていないが、加速度的に進化するテクノロジーと複合しながら、その活用のされ方も変化していくだろう。そして私たちの日常生活において新たな価値を提供する存在となっていくに違いない。

注釈:
(*1)近未来のロサンゼルスを舞台に、主人公の男性セオドアが人格を持つ人工知能型OSサマンサの人間らしさに惹かれていく模様を描いたSF恋愛映画。2013年公開、スパイク・ジョーンズ監督作。

プロフィール

ウエストユニティス株式会社 代表取締役社長 福田登仁氏

1984年マニュアル制作会社を創業、後にウエストユニティス株式会社を設立。 2014年にハードウェア事業を開始し、スマートグラス開発を行い「InfoLinker」をリリース。2018年には小型軽量ヘッドマウントディスプレイ「picoLinker」の販売を開始、現在に至る。

株式会社リトルソフトウェア 代表取締役 川原伊織里氏

外資系ソフトウェアメーカー R&D勤務後、2009年からEEG簡易脳波計を活用した研究を開始。2014年1月株式会社リトルソフトウェアを設立。現在はEEG脳波計データから人の感情、状態推定や病気の予知をするリトルAI(感情推定人工知能)のアルゴリズム開発を行っている。

株式会社オトングラス 代表取締役 島影 圭佑氏

起業家, 研究者, デザイナー。オトングラス代表取締役。筑波大学 落合陽一研究室 助教。JST CREST xDiversity。慶應義塾大学博士課程。専門はデザインリサーチ、インクルーシブデザイン、 スペキュラティヴデザイン,、ファブ、 HCI。

株式会社jig.jp 代表取締役社長 福野泰介氏

株式会社jig.jp 創業者、取締役会長。8歳でプログラミングを始め、福井高専在学中にバイト先で地図情報システムを開発、世界中で使われるツールづくりを夢に見る。jig.jp(本店、福井県鯖江市)にて「jigブラウザ」を始め、モバイルを中心としたサービスを企画、開発、提供。 2013年、内閣官房オープンデータ伝道師に就任。

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