データ分析

バスキュールの掲げる「データテインメント」とは

記事内容の要約

  • マーケティングや営業支援などの領域でデータの活用が進む現在、クリエイティブカンパニーを標榜する株式会社バスキュールは、あらゆるデータを入力ソースに、新たな体験価値へと昇華するクリエイティブ「データテインメント」を掲げている
  • 流星の検知データを使って「流れ星が落ちた瞬間にだけ輝くイルミネーション」のようなアウトプットを生み出すことで、ただのデータが、インタラクティブなエンターテインメントに変わる
  • 人以外のアクションや事象も含めたさまざまなインプットを組み合わせて、リアリティーのあるデータをひとつのストーリーにまとめて提示するところに新しい価値があり、データの背後にある「ストーリー」を汲くみ取ることが、データテインメントの基点となる
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株式会社バスキュールは、データを活用したクリエイティブによって、インタラクティブな体験を生み出す「データテインメント」を提唱している。これまでも同社はデータを活用して数々のクリエイティブ制作を行ってきたが、それと「データテインメント」は何が違うのだろうか。同社でクリエイティブディレクターを務める馬場鑑平氏とコミュニケーションプランナーの佐々木大輔氏に話を聞いた。

データから生まれるインタラクティブ性

―まず、「データテインメント」とはどのようなものなのか、簡単に教えてください

佐々木大輔(以下、佐々木): 身の回りにあるあらゆるデータを入力ソースに、新しい体験価値を生み出す、IoT時代ならではの新たなクリエイティブコンセプトとして提唱しているのが「データテインメント」です。

弊社は2000年に設立して以来、ウェブやアプリでのコンテンツ制作やプロダクト、サービス、テレビ番組、インスタレーション、ライブ演出など、幅広く新しいエンターテインメント体験をつくりだす分野に携わってきました。そして、当初から一貫して大切にしているのが「インタラクティブな体験づくり」という軸です。デバイスやメディアの変化、時代の流れによって表現手法は変わりますが、この軸はずっと変わっていません。

そして、ここ数年で起きた大きな変化のひとつが、入力側の技術革新によって身の回りのあらゆるデータが取得できるようになったことです。人の行動や感情をはじめ、社会で起きている事象の一つひとつをデータ化し、可視化できる時代が来たわけです。バスキュールはそのようなデータを、今の時代ならではのインタラクティブなクリエイティブの源泉として捉え、デザインとテクノロジーを掛け合わせることで、これまでにない新しい体験を生み出そうとしています。


株式会社バスキュール コミュニケーションプランナー 佐々木 大輔氏

――これまでも御社は、データを活用したクリエイティブ制作を行ってきたと思います。それらとは何が違うのでしょうか

馬場: これまでもバスキュールは一貫してデータを使ったインタラクティブなクリエイティブをつくってきました。でも、それは「こういうモノを作りたい」という前提のもと、クリエイティブのためにデータを取り、体験をアウトプットする形でデータを扱ってきたのです。しかし、現代はあらゆる事象がデータ化されるようになっています。だからこそ、データもインタラクティブなクリエイティブのトリガーとして使うこと、データを機軸として「このデータを使えば、どんなアウトプットが出せるか」のように発想を膨らませていくことがデータテインメントの醍醐味だと考えています。


データテインメントの概念図

ユーザーの共感を得る「データテインメント」

――具体的に、どんなデータを使ってどんなアウトプットを生み出したのか、「データテインメント」の実例を教えてください

佐々木: バスキュールは、日本上空を通過する流星をリアルタイムで観測できる「MeteorBroadcaster」(*1) というシステムを保有していて、そこから得られるデータを活用したプロジェクトがいくつかあります。


MeteorBroadcasterの画面キャプチャ

「NIHONBASHI-願いの森」(*2) というプロジェクトでは、流星が日本上空を通過した瞬間にダイナミックに演出が変化するイルミネーションを東京の日本橋に設置しました。流星を検知した瞬間にイルミネーションが変化すると同時に、ユーザーからTwitterや特設サイトを通じて託された願いごとが「願いディスプレイ」に表示され、天に届けられるというイルミネーション・アート・プロジェクトです。


東京・日本橋で実施された「NIHONBASHI-願いの森」

この取り組みでは、「流れ星に願う」という古くからある行為をデジタルでアップデートしたのです。「流星の検出データ」と「ユーザーの願いごと」という2つのデータをデジタルで連動させることで、都会の空では観察が難しい流星や願いを、イルミネーションでビジュアライズする新しい試みを実現しました。


「NIHONBASHI-願いの森」の概念図

――流星の出現データだけ見ても一般の人にはピンとこないですが、自分の願いごとが絡むとなると、データが別の意味を持つようになりますね

佐々木: ネスレさまの「キットカット」とコラボレーションした取り組みもあります。受験生を対象としたプロジェクトで、流星を検知すると、合格への想いを書いた絵馬を流星に届ける「ホシガケ」(*3) というウェブコンテンツを制作しました。


「ホシガケ」の画面キャプチャ。流星と、そこに届けられた絵馬が表示される

意外だったのが、受験生本人だけでなく、その親御さんが「子どもが受かりますように」と願うケースが多かったこと。受験以外にも、運動部のマネージャーがチームの勝利を願ったり、家族の健康を願ったりするケースも見られました。

――想定よりも多様な願いごとがされていたんですね

佐々木: 「キットカット」は「きっと勝つ」という言葉にかけて、合格祈願などで購入される機会が多い商品です。しかし、具体的に「どんな想いをこめて商品が購入されているのか」まではネスレさまも把握できていませんでした。

それが今回のプロジェクトを通して、実際にどんな想いがこめられているのかが把握できたわけです。また、願いをかけるだけでなく「大学に受かりました。ありがとうございました!」と、お礼を書いて発信するユーザーも多くいたそうです。企業が消費者からお礼をいわれるという嬉しい機会ともなりました。流星観測という自然現象のデータを、人々がインプットする願掛けというデータと組み合わせてエンターテインメント化することで、ユーザーと企業のつながりを強くすることができたのではないでしょうか。

データにはストーリーが内包されている

――データテインメントを企画・制作するためのデータを収集する際に、留意していることはありますか

佐々木: 扱うデータの種類によっても変わってきますが、たとえば「願いごと」のような、ユーザーの気持ちを「データテインメント」の入力ソースとして扱おうとする場合は、ユーザーがありのままの気持ちを表現したくなるようなモーメントの発見と、参加モチベーションのデザインが鍵になります。そこにはクリエイティブな発想が不可欠ですが、「データテインメント」では、ユーザーが最終的に触れる「アウトプット側」に加え、データを収集する「インプット側」もクリエイティブ対象として捉え、トータルに体験をデザインしようとしています。

――収集されたデータをもとにエンターテインメントを作りあげていく際、もっとも必要とされるのはどんなことなのでしょうか

馬場: データ自体は、数字や文字の並びに過ぎません。しかし、われわれは「データには、ストーリーが内包されている」という仮説を持っています。ユーザーの行動データを読み解けば、ユーザーがその行動をした動機や思いなど、ユーザーの持つストーリーを感じ取ることができると考えているんです。

たとえば、2014年に制作したYahoo! JAPAN「Search for 3.11」ビジュアライザ(*4) は、データに内包されたストーリーがうまく表現されています。地震発生前の画面には、日常的な言葉が並んでいるのに対して、地震発生後は「地震情報」が圧倒的に増えて、その後「液状化現象」や、しばらくすると「原発」「計画停電」といった言葉が増えてくる。

「地震情報」「原発」といったワードそのものは文字データでしかありませんが、検索をはじめとするビッグデータを活用して「Search for 3.11」ビジュアライザのような演出をすることによって、ユーザーがどんな気持ちでその言葉を調べようとしたのか、検索という行動を通して、震災当時の人々の関心、多くの人の思いを感じ取れます。さらに、その後の3年間でどれだけ人々の震災に対する関心が徐々に薄れていくかという推移を視覚的に表示することで、あのときの思いや行動、関心などの記憶を蘇らせて、風化防止につなぐという思いがこめられています。

どんなデータにもストーリーが含まれていると思うので、リアルなデータをきちんとひとつのストーリーにまとめて表現しようという意識があれば、うまく受け止めてもらえるものを作り出すことができるのではないでしょうか。


株式会社バスキュール 取締役/クリエイティブディレクター 馬場 鑑平氏

ユーザーの共感を得る「データテインメント」実現のために

――それでは、データが内包するストーリーを読み解くうえでのコツはどこにあるのでしょうか

佐々木: 「言われてみれば、そんなことあったなあ」とか、「そう、それわかる!」といった、もともと私たちが持っている経験や感覚を大切にしたほうがいいかもしれません。たとえば今回事例でご紹介した「願いごとを流れ星に3回唱えると叶う」という言い伝えは、多くの人が知っていますし、どんな行為か想像がつきます。言葉に結びついているイメージが共有されやすかったからこそ、広く受け入れられる心動かすストーリーが導き出せたのだと思います。

馬場: ログデータはただの数字ですが、そこに行動があり、感情があります。キットカットの例も、基本的には「願掛け」というなじみのある行為がベースにあったからこそ多くの方が参加しました。ただ「願いごとを送ってください」というだけではなく、データを活用して「流星×願いごと」という組み合わせにしたことで、より消費者の持つ「願掛け」というストーリーに近づけたのではないかと思います。それは既存の体験や価値観をアップデートしたり新しい見方にしたりする体験で、体験することに価値があるというよりも、価値を体験してほしい、との思いが伝わるという。企業としても、今までわからなかった顧客の生の声を把握できたのは、データテインメントに取り組むうえでよい事例だと思います。

――今後「データテインメント」で、どのような取り組みを進めていきたいですか

佐々木: 来年は五輪が控えていますし、私自身、学生時代に長くスポーツに取り組んでいたこともあって、スポーツ分野におけるデータ活用に大変興味があります。すでに多くのスポーツ競技で選手育成やチーム強化を目的としてすでにデータ活用が進んでいますが、私としては「スポーツ中継」におけるデータ活用のあり方にも着目しています。メディア技術の発展とともにスポーツ中継は進化してきましたが、従来の音声や映像といった情報ソースに加えて、競技会場で起きているあらゆる事象がデータとして配信されるようになれば、スポーツ中継は「聞くもの」、「観るもの」から「体験できるもの」に進化していくと考えています。バスキュールはすでにリアルな投球データを活用してさまざまなプロ投手の投げた球を再現し、実際に体験することができるというVRコンテンツ「VR REALDATA BASEBALL」(*5) を制作していますが、いずれは、試合中に投手が投げた球をリアルタイムに体験することができる、次世代の野球観戦のスタイルを作り出したいと思っています。

馬場: クライアントのためになることが前提ですが、われわれエンジニアやクリエイターが面白いと思ったことを追求することも大切にしていきたいですね。実は「MeteorBroadcaster」を開発したエンジニアも、もともと自分が趣味でやっていた天体観測の延長線上にプロジェクトが生まれたのです。直近取り組んでいる音声AR(*6) など、既存のものや、枠組みそのものをデザインやテクノロジーでアップデートさせて、体験の性質自体を変えてしまうようなこと。エンジニアやクリエイターが自分のやりたいことや、わくわくするテクノロジーやデザインと、企業に眠っている活用されていないデータや、求めたいデータを楽しく提供してもらう手段をうまく組み合わせることによって、新しい価値に変換する体験を作り出す。「データテインメント」がIoT時代のエンターテインメントであることを発信していきたいですね。

注釈:
(*1)MeteorBroadcaster(外部サイト)
(*2)NIHONBASHI-願いの森(外部サイト)
(*3)ホシガケ(外部サイト)
(*4)Yahoo! JAPAN「Search for 3.11」ビジュアライザ(外部サイト)は、東日本大震災が起きた日から、Yahoo! JAPANにおける震災に関連する言葉の検索に関する3年間の推移を視覚的に表示するワードクラウド。検索数の多い言葉ほど表示される文字は大きくなり、時間の経過とともに検索される言葉が変わっていく様子が視覚的にわかる仕組みになっている。
(*5)VR REALDATA BASEBALL(外部サイト)
(*6)音声AR(外部サイト)

プロフィール

株式会社バスキュール 取締役/クリエイティブディレクター 馬場 鑑平氏

慶應大学総合政策学部卒業後、2002年バスキュールにプログラマーとして入社し、2010年クリエイティブディレクターに転身。広告、アトラクションイベント、教育、アートなど、さまざまな領域のインタラクティブコンテンツの企画制作、クリエイティブディレクションに携わる。

株式会社バスキュール コミュニケーションプランナー 佐々木 大輔氏

広告キャンペーン、IoTサービス開発から街づくりまで、幅広いクリエイティブ領域におけるコミュニケーションプランニングを担当。リアルデータを新たな体験価値へと昇華するクリエイティブ「データテインメント」を適用したバスキュールオリジナルのプロジェクトに多く携わる。

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